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2017
02.20

エンドロールはあなたと 65

本人たちは公になっていないと思っている二人の結婚。
社員には全く気付かれてないと思っているようだが、実はなんとなく周りは気づいていた。
所謂大人の対応というもので、周りが逆に気を遣っていると言った方がいい。それに以前司自らが担当となり、つくしと一緒にテレビ広告を作成したことを知っている一部の社員にしてみれば、何を今さら隠す必要があると思っていた。

それより、つくしの仕事に対する姿勢に広報課の人間は一目置いていた。
広告代理店出身と言えば、一見すると、華やかなイメージを持たれがちだが、まったく違っていた。派手なところはなく、逆に地味ではないかと思えるほどだ。仕事が出来る営業というのは案外地味で、細かい気遣いの出来る人間が多いということだ。

実は広報の仕事も細かい気遣いが必要になる仕事だ。広報の人間の態度がぞんざいでは困る。社内と世の中を繋ぐ仕事であると考えれば、誠実で努力家の人間でないと出来ないからだ。
それは、まさに紺野がつくしのことを評した言葉だ。

司が結婚した相手はそんな仕事の出来る女。
でもどこか可愛げがある女。そんなアンバランスさが魅力ではあるが、最近の妻は仕事に気を取られることが多い。仕事が好きなのは十分理解している。司も妻が仕事をすることに対し、異論はない。だがこんなバカなことはない。どうして自分とあいつが結婚していることを秘密にしなくてはならない?司の唯一不満な点はそれだ。


昨夜、司は深夜のマンションに帰宅した。
すでに眠っていてもおかしくない時間帯だというのに、廊下からリビングまで続く明かりがあった。そっと扉を開けばソファで寝入っていた妻を見つけた。ソファで寝るくらいならベッドに行けばいいものを。そんなことを思い近寄ったとき、リビングの明かりの下、黒い髪が頬にかかり、少しだけ開いた唇にかかった髪をそっと払おうとしたとき、気配を感じた妻が目を覚ました。

「・・おかえり、司」

と言って甘い微笑みが浮かんだその瞬間、司は気持ちが抑えられなくなりそうだった。
妻は華奢でどちらかと言えば線の細い外見だが、内側には女らしい一面と仕事に対しての判断力と決断力を秘めた女性だ。それはまさに司の母親に似た一面かもしれなかった。

「疲れてるんだろ?先に休んでいてもいいんだぞ?」

「・・でも、司が疲れて帰って来るのに先に寝ちゃうってのもね?やっぱりお帰りの挨拶はしたいじゃない?」

毎日忙しくしていても、家事を疎かにすることなく俺が帰るまで起きているが、こいつも仕事がある身だ。

「おまえも仕事してんだから、俺を待たずに先に休め。そんなんじゃ身体が持たねぇぞ?」

前職である広告代理店の営業の仕事は確かに大変だ。クライアント第一主義ならクライアントからの呼び出しは絶対だ。断ることは出来ない。今までのそんな仕事と広報の仕事を比べれば、どちらが大変かと言えば、代理店の仕事の方だ。

「大丈夫よ。・・・それに今の仕事は以前に比べれば随分楽だから」

とは言え、働き過ぎる傾向にある。まさに司と同等な働きぶりかもしれない。
司はつくしと一緒に仕事をしたことがあると言っても、つくしの他の仕事については知らなかった。紺野に聞けば、働き蜂気質と言ってもいいほど仕事熱心だったと知った。

広報室の担当は支社長である司だ。支社長直轄の部署だから顔を出したい気持ちがある。
だがやはり止めて欲しいと言われた夫。
司はそんな妻に説得を試みた。

「目立たないように会えばいい」

「最初から目立たないようにしてるつもりなんだけど、司が用もないのに広報室へ顔を出すのはどうかと思うの」

それは確かにそうだろう。
いくら広報室が支社長管轄の部署だからと言って、今まで支社長が頻繁に顔を出すことはなかった。それなのに牧野つくしという女性が入社した途端、ここまで頻繁に立ち寄ることになれば、誰がどう考えても支社長の目当てはその女性だということになる。そうなると、つくしとしては非情にまずいと思っていた。
だが司は妻に会いたいと思っているのだから、会いたい時に会いに行って何が悪い?
それを止める権利が誰にある?

そんな思いとは裏腹に、実は司とつくし以外、二人が結婚した夫婦であることは周知の事実。
なんとなくそうではないかと思っていたところに、秘書室の西田室長から正式な連絡があった。 

「広報室の皆様にお願いがあります。今後支社長がこちらへ頻繁にお顔をお出しになると思いますが、お気遣いは無用です。支社長の目的は奥様となられたつくし様にお会いになりたいだけですので」

と、あっさりと言われ、納得していた。


だが司はそんなことは知らなかった。
彼は自分のデスクで無意識にペンを弄びながら考えていた。
どうすれば自分とつくしの関係をさり気なく社内に伝えることが出来るかを。





***





桜子は、新婚夫婦のことを気にかけていた。夫婦と言っても心配しているのは、仕事をするつくしが妻としての役割をきちんとこなしているのかだ。

「先輩、相変らず仕事熱心ですね?」
「えっ?」
つくしはいつもと変わらないと感じていた。
「ちゃんと道明寺さんのこと面倒みてますか?」
桜子の面倒みると言った意味がわからなかった。
「桜子。なに言ってるのよ?いい年した大人の男なのに面倒みるなんて言葉は司に失礼よ」

二人は道明寺ビルの向かいにある建物の1階にあるカフェでランチを取っていた。
夫である司はNY出張中だ。弁当のおかずがどうのと呼び出されることは絶対ない。

「なに言ってるんです?道明寺さんはああ見えてロマンチストなんですよ?」
桜子が諭すように言う。
「まあ、道明寺さんに限らず男性はどこかロマンチックなところがありますからね?それに道明寺さんみたいに男臭い男こそ、ロマンチストなんですよ?逆に女性の方がリアリストですからね?それに先輩のことですからロマンチックにはほど遠いような気がするんですが、違いますか?」

何を持ってロマンチストと言うのか?
そんなことはないと否定したいが、桜子の話に口を挟むと話しがどんどん大きくなる。
つくしは反論せず黙って聞いていた。

「いいですか?先輩は自分の置かれた状況の有り難みが分かってないんです。女がひとりの男と生きるってことは、ある意味博打みたいなものなんですよ?それなのに、先輩は博打どころか、大金星を掴んでいるんですから、勿体ないことしないで下さいね?」

「な、なによ?勿体ないことって?」

つくしの夫となった司が、妻にメロメロだというのは仲間内では周知の事実だ。
世界中の女性の憧れ、並外れた美貌を持つ道明寺司と結婚したことが、どれだけ凄いことか分かってない女には、何を言っても無駄なのかもしれない。だが桜子は話し続けた。

「勿体ないって、決まってるじゃないですか。宝の持ち腐れになんかなったら世の中の女性が怒りますからね?」
桜子は顔をつくしに近づけ、声を落としていった。
「まさか、ベッドでの相性が悪いなんてそんなこと、無いですよね?あの道明寺さんが相手なんですからまさかとは思いますが、閨房術(けいぼうじゅつ)か房中術(ぼうちゅうじゅつ)でもお教えしましょうか?」

「な、なによその閨房術とか房中術って?」

つくしには全くピンとこない言葉だ。
だが桜子が声を落としたというところが気になる。

「先輩、性行為の技ですよ?それとも古代インドの愛の教科書と言われているカーマ・スートラでもお貸ししましょうか?あれなら挿絵も綺麗ですし、勉強になると思いますよ。よかったら道明寺さんと一緒にご覧になってはいかがです?夜の営みも夫婦の大切なコミュニケーション手段ですからね?」

閨房術も房中術もどちらもセックスの指南書だ。
ベッドの中で相手の男性を虜にするために学ぶ術だと言われている。女性が積極的に男性を喜ばせるための技の数々が挿絵と共に描かれているという本を貸すだけではなく、司と一緒に見ろというのだ。つくしは頬が赤くなるのを感じていた。

「いいですか?先輩。先輩はもう結婚したんですから、いちいちそんなことで顔を赤らめないで下さい。恥ずかしいことなんて、何もないんですからね。それに道明寺さんの最高の精子を頂けるのは先輩だけなんですからね?いつまでも子供みたいに顔を赤らめないで下さいね」

つくしは黙っていた。
桜子が興奮すると、何を言ったところで、聞き入れてもらえないからだ。
それに何と言えばいいのか言葉を探したが、見つけられずにいた。

「先輩?まさかとは思いますが仕事し過ぎて疲れてるから今夜はダメなんてこと言ってないですよね?道明寺さんからの求めを断るなんてこと、断じて許される行為じゃないですよ?」

その口調があまりにも真面目過ぎ、つくしはランチで頼んだパスタを口の中に押し込んだ状態のまま、トマトソースの酸味にむせそうになっていた。そんな状態のつくしに桜子は、今度は冷静に聞いてきた。

「先輩。もしかして、セックス・ノイローゼだとかじゃないですよね?求められ過ぎて困ってるなんてこと・・。先輩羨まし過ぎます!」

桜子に好奇心に満ちた眼差しを向けられたまま、つくしはひたすら胸を叩いていた。





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コメント
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dot 2017.02.20 12:18 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
結婚したことを隠しているつもりは当人たちだけ。
本当によくありますよね。社内恋愛でも絶対バレるんですから(笑)
それに新婚ホヤホヤの空気を纏った幸せそうな男はすぐわかります。
西田さんの通達はいつの間に?(笑)もちろんつくしが居ない間に行われたはずです。
桜子(笑)超奥手のつくしに夜の生活の指南書を読めとアドバイス(笑)
司とそんなもの読んだら大変です(笑)御曹司どころではありませんねぇ(笑)
次の日がお休みの時に読む。それがいいと思います(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.20 22:11 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.02.20 23:23 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
二人の関係を隠しているつもりが実はバレバレ・・(笑)
ポーカーフェイスを気取っても司の顔はどこか甘いところがあったことでしょう(笑)
そんな二人の行く末を案じた西田さんは手回しをしていたようです。
桜子の提案!!何を考えているのでしょう(笑)
めくるめく夜につくしは失神!(≧▽≦)司は果てることのない野獣(笑)
想像するだけなら御曹司なんですが、この司は実践しますのでつくしは大変ですね(笑)
月曜なのに、どうして!!の昨日(笑) 更新マイペースでいいですか?ありがとうございます。
はい。体調管理には気を付けたいと思っています。マ**チ様もお気を付けて下さいね。
コメント有難うございました^^
紺野く~ん、濃いコーヒーお願い!
アカシアdot 2017.02.21 21:49 | 編集
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