2017
02.16

エンドロールはあなたと 64

司とつくしの暮らしには、いつしか一定のパターンが出来上がっていた。
ふたりは早起きし、つくしが作った朝食を食べ、仕事へと出かけて行く。
出勤するときは、ひとりは迎えのリムジン。もうひとりは地下鉄・・と言い張っていたが、そんなことが許されるはずがない。つくしは司の妻だ。いくら会社で結婚していることは秘密だからと言っても、通勤を別々にするなんて許されるはずがない。

「絶対ダメだ!どこに別々に出勤する必要がある?俺とおまえは同じ会社に勤務してるってのに俺の車で出社することに何をそんなに躊躇う必要がある?」

どう考えても大ありだ。
広報課の牧野さんが支社長と一緒にリムジンで通勤していたらどう考えてもおかしい。黒い大きな車がビルの正面玄関に横付けされ、磨き抜かれたイタリア製の革靴を履いた男が颯爽と降り立つ。それに続いて降りて来た女は誰?なんて目で見られること間違いないからだ。そしていつも決まって口にするのはこの言葉。

「ほら。だってあたしは司とは違って、ただの社員だし・・」

「アホなこと言うな!おまえは俺の妻だろ?地下鉄に乗って通勤なんて考える方がおかしいだろうが!それに俺はおまえが心配だ。いいか?物事は1分であらゆることが起こり得る。おまえも経験したんだからわかるよな?例え短い時間でも問題が起きる時は起きる。俺はおまえが傷つくのは見たくない」


例え警護を付けていたとしても、起こるときは起こるものだ。
以前ライバル会社の男に襲われそうになったのは、ほんの短い時間だ。
司は妻に甘い夫であると同時に心配性になっていた。

司はつくしの髪に触れ、真剣な表情で言った。

「いいか?俺は心配してるんだぞ!世の中には気づかないうちに事件に巻き込まれてるってこともある。・・ちくしょう。だいたいなんで俺とおまえの結婚を社内で公にしたらダメなんだ?」

司は息を吸って苛立ちを呑み込んだ。
これ以上、言ってもどうにもならない。とはいえ、どうしても妻のこととなると取り乱してしまう。

二人の結婚はスキャンダルでも何でもないというのに秘密にしろという妻。
自分の妻が同じ社内で働いていて何が悪い?それを社員に知らしめて何が悪いと言っても、仕事がやりにくいと言うばかり。仕事をするのが好きだという妻と母親の意見もあり、道明寺で働き始めた妻だが、司の心配をよそに、新しい職場でもバリバリと仕事をこなしていた。


結婚した相手が、財閥の御曹司であっても全く関係ないといった態度で仕事をこなす妻。
それは別に司は気にしていない。相手を地位や名誉で見ていないことは知っていた。
だが、パソコンを睨み、眉間に皺がより、ぶつぶつ呟く女。 
おまえは俺と結婚した自覚はあんのか?思わずそう言いたくなるほど仕事熱心な妻がいた。




***




「支社長、コーヒーのお代わりをお持ちしました」
紺野はデスクの上にコーヒーを置いた。
「おい、紺野」
「はい、支社長」
「あいつは、前の会社にいた時もああだったのか?」

司は自分と出会う前のつくしの仕事ぶりについて知りたいと紺野に聞いた。
察することは出来るが、それでもいつも一緒に仕事をこなしてきた男なら知っているはずだ。

「まきの・・いえ。奥様でいらっしゃいますか?」
「そうだ」

司がコーヒーに口をつけることなく質問すると、紺野は真面目な顔で話し始めた。

「はい。仕事について、それはもう熱心でいらっしゃいました。ですから営業成績もよかったですし、クライアント様からの信頼も厚く、奥様に仕事を任せておけば、責任を持って間違いなく終らせてくれると言われていました。何しろクライアント様第一主義でしたから」

司もそれは十分承知していた。自分とつくしの始まりもまさにそれだったのだから。
だが仕事に熱心なあまり、自分のことが蔑ろにされているのではないかと感じていた。
いや。そんなことはないと分かっていても、惚れた弱みというのか、互いの気持ちが50:50でない場合、思いが強い方が何某か心配になるものだ。

紺野はかすかに眉をひそめ、思案顔になっていた。
話すか話さないか迷っているようだが、思い切って口を開いた。

「・・あの、支社長。今さらですが、牧野、いえ奥様は一度取り組んだことは、最後までやり抜く真面目な方です。こうして新しい仕事につかれた今、仕事を覚えることもですが、周りの皆さんに迷惑を掛けまいと頑張っているんだと思います。奥様は人に迷惑をかけることを嫌がる方です。ですから、人一倍努力の方でもあるんです」

紺野は、支社長の妻となった元上司について、ぺらぺらと喋っていいものか迷った。
だが、自分が仕えている支社長は元上司の夫でもあり、尊敬できる人物だ。
紺野にとっては、司もつくしもどちらも尊敬できる存在であることに変わりはない。
迷ったが話しを継いだ。

「今はまだ入社して間がなく、色々と覚えることも多いです。そんなとき、支社長の奥様だなんてことが知られたら、周りの人間は遠慮します。恐らく教えるなんてことは出来なくなるはずです。それに聞いてもそんなことはしなくてもいいと言われると思います。でも、それじゃあ奥様は嫌だと思います。自分に遠慮なんかせず対等に扱って欲しいと思われるはずです。それに奥様は何事も一度吸収すれば、そこから先は上手にこなしていくはずです。何しろまきの・・いえ、奥様は優秀ですから。僕もいい勉強をさせてもらいました」



司も紺野が言いたいことはよくわかっている。
仕事の定評というものは、一日やそこらでは貰えない。
何年もかけて実績と信頼を勝ち取ってこそ、定評といったものを作り上げるからだ。

今、彼の妻はその礎を自ら築く努力をしているということだ。
有能で知性があると言われる女性も努力なくしてはないということだ。司の母親である楓は、つくしのそんなところを見抜いたのだろう。だからこそ、司の伴侶として相応しいと思ったはずだ。何しろ社会の第一線で働く女だ。恐らく自分と似た何かをつくしの中に見たのだろう。


広報の仕事のひとつは会社のイメージアップだ。
そうなると、当然支社長のバックアップをすることにもなる。
夫のサポートは妻として当然なのだが、会社で支社長のサポートをなると、また勝手が違う。
司は会社で自分をサポートしてくれるつくしの姿が見たいと思っていた。





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コメント
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dot 2017.02.16 15:10 | 編集
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dot 2017.02.17 00:26 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
仕事人間つくし。職場が変わっても一生懸命なようです(笑)
公私混同は嫌いなつくし。司のことも愛していますが、仕事は仕事のようですね(笑)
そんなつくしにどこかヤキモチを焼く司です。
司はどんなつくしでも可愛いいはずですが、愛情の多さは自分の方だと考えているようですね?

実生活多忙で返信が遅くなってしまいましたが、コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.02.18 13:27 | 編集
マ**チ様
こんにちは^^
紺野くんがコーヒーを淹れる!そうです、DTD48のテストに司の好みのコーヒーの味は?という設問がありましたよね?
それを完璧に答えることが出来た紺野くんだから水から豆まできちんと手配していたと思います。
つい、「まきの・・」と言ってしまい奥様と訂正する紺野くん。
本当です。機嫌が悪い司だと怒鳴られているかもしれませんね(笑)
執務室につくしを呼び出す司。そうなんです、どうしても御曹司が頭の中にチラチラするんです!!
アカシアの頭は御曹司がメインなのかもしれません!!(笑)困りました(笑)
週の半ばでこんな感じでスミマセン。年度末で色々ありますのでこんな感じです!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.18 13:48 | 編集
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