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2015
09.21

キスミーエンジェル21

俺は邸へ向かうように運転手に指示をしたが、牧野は帰るならマンションへしてくれとうるさく言ってくる。

つくしは目を閉じ穏やかな車の震動に身をまかせていた。

道明寺は隣で大人しく目を閉じているつくしが時たま眉間に皺を寄せているのを見ていた。
こいつ相当無理してるな。
医者に診てもらえと言えば、マンションの近くに医院があるからそこでいいと言ってきた。
そんな街のヤブ医者なんかに牧野を診てもらうつもりなんてない。
俺はマンションに連れて帰るかわりに条件を出した。
「わかった。マンションに連れて帰るが条件がある。うちの病院から医者を寄こすから診て貰え」
「・・・わかった」
俺は秘書に道明寺系列の病院から牧野のマンションに医者を寄こせと連絡させた。

「牧野、靴を脱いで横になれ」
「・・ん・・」
余程身体が辛いのかつくしはそう言うと大人しく言うとおりにした。
俺は牧野の頭を抱え込むようにして自分の膝に乗せていた。
きっちりと上までボタンが止められたブラウスも今の状態では苦しそうに見える。
俺は牧野のブラウスのボタンを上からひとつ、ふたつと外したところで手を止めた。

・・・まてよ、まずいなこの状況は・・

下腹部に血液が充満してくるあいだ、身じろぎも出来ずにいた。
俺はマゾヒストではないが自分を責めていた。
牧野をマンションまで連れて帰るまでのあいだ、俺は自分の身体の変化を悟られないように神経を集中させ、うめき声をあげまいと歯を食いしばる。
そんな俺の膝のうえで牧野は目を閉じたまま苦しいのか時おり顔を歪めている。
俺の身体の変化なんて今のこいつには気に留める余裕なんてなさそうだった。

「ま、牧野。マンションの鍵はどこだ?」
「 鍵?」

つくしはきつく閉じていた目を開けると道明寺を見上げていた。
ぼんやりとした思考のなか、急に思い出したように目を見開いてきた。
「私の鞄・・・」
牧野は小さな声で呟いた。
「ああ、鞄ならここにあるぞ」
そう言って俺の隣に置いてある牧野の鞄を示した。
「そう・・悪いんだけど内側にポケットがあるからそこから出してくれる?」
道明寺は言われたとおり鞄の中から可愛らしいキーホルダーのついた鍵を取り出した。
「これか?」
牧野の前でキーホルダーを振ってみせた。
「・・うん。あんたに感謝することが増えたみたい。道路を造ってくれたのと今日のこと・・・」



車内には静寂の時間が流れた。



つくしは唇を少しだけ開き潤んだ大きな瞳で道明寺を見上げている。
「・・・・ねえ、わたしを迎えに来てくれたの?」


どう言う意味だ?
牧野、おまえ・・・

道明寺はつくしの額に手を当ててみた。
さっきよりも熱が上がっているように思えた。
「ああ、そうだ。おまえを迎えに来た」
「・・そう・・・」

牧野は吐息ともため息とも思えるような言葉を残し目を閉じると眠りの中に落ちていった。



******



道明寺はつくしを抱き上げるとマンションの部屋まで運んだ。
5階にある牧野の部屋は以前一度だけこの目で確かめたが、部屋の中までは入ったことがない。
俺は牧野を寝室と思われる奥の部屋へと運んだ。
このマンションの部屋は世間で言うところの2LDKらしい。
俺は牧野が奨学金を貰って大学を卒業し、その奨学金も返済途中だと知っている。
こいつの給料なんてたかが知れている。
懐具合なんて調べなくても想像がついていた。
たいしてない家具も明らかに安い量産品ばかりだ。

「支社長、ドクターがお見えになられました」



******



つくしが目を覚ました時、ベッドの傍らで椅子に腰かけている道明寺を目にした。
「気分はどうだ?」
長いきれいな指でつくしの額にかかる髪の毛をかき上げてきた。
つくしは自分がどこにいるのか一瞬考え寝ているのが自宅のベッドの上だと知って安堵していた。
「うん。少し楽になったみたい」
「医者の話じゃただの風邪だとよ。あと睡眠不足もあるんじゃないかって話だ」
道明寺はつくしの目をじっと見つめた。
「おまえ、仕事のし過ぎなんじゃねえのか?」
「・・あんたに言われたくない」

「・・で、おまえ寝るなら服を着替えた方がいいぞ。さすがに俺もそこまではしなかったからよ」
つくしは思わず身を硬くしていた。
そして恐る恐る布団をはがして見る。
スーツの上着が脱がされ、ブラウスのボタンがいくつか外されていた。
「俺は出てるから着替えろよ」
そう言って道明寺は背中を向けてきた。
つくしは彼の広い背中を見ながら部屋まで連れてこられた状況を思い出していた。

浅い眠りのなか、道明寺の腕に抱きかかえられその力強さを感じていた。
彼がその気になれば私のことなど好きに出来るはずだ。
あの別荘での夜も・・・・





道明寺はインターフォンに応答していた。

「支社長、お持ちしました」
秘書の男が大きな保温箱を手に持ち牧野の部屋の入口に立っていた。
道明寺はその大きな箱を受け取るとキッチンのテーブルへと置きつくしの部屋のドアをノックした。
「牧野、着替えたか?」
返事は無かった。
「牧野?入るぞ」

部屋に入った俺が見たのはパジャマに着替えた牧野がベッドの中で気持ち良さそうに寝ている姿だった。








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