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2017
02.15

エンドロールはあなたと 63

意外性に乏しいと思われていたつくしの人生。
平凡な家庭に生まれ、平凡な人生を歩んでいた。
それが突然変わることになった。
滋の楽しみね?の言葉と共に始まった新しい職場。

つくしは結婚を機に司によって買収された博創堂から転籍し、道明寺HD日本支社で働くことになった。部署は今まで広告代理店にいた経験を生かし広報課と決まった。

広報とは、社会と自社をつなぐ役割を担っており、企業イメージを作る仕事でコミュニケーション能力が必須だ。つくしは広告代理店で仕事をしていたこともあり、その点は問題ない。何しろ営業は、クライアントとの細かい折衝を必要としていたこともあり、コミュニケーション能力はあるつもりだ。

夫婦となって近くにいることになった二人。

だからこそ職業倫理はしっかりと持ちたいと思っていた。
どんな職業にもある倫理観。それは人によって捉え方が違うかもしれないが、二人が一緒に働くにあたってつくしが挙げた条件がある。職場に私生活を持ち込まない。ただそれだけで、他に何かあるかと言われても思いつかなかった。

つくしは旧姓の牧野として働くことを希望した。
理由は言わずもがな。社内での無用な気遣いを避けることが目的だ。
道明寺つくしなどと名乗れば、仕事がやりづらいことこの上ない。
そんなことから二人が夫婦であることを知るのは、社内でも限られた人間だけだ。

社内ですれ違えば無言の言葉のやり取りと言ったものを交わすことがある。
司お得意の片眉を上げる仕草で何かを問いかける。するとつくしは眉間に皺を寄せた。
二人の交わす秘密めいたやり取りとも言える表情。

それで会話になっているのかと、夫婦のそんな仕草に笑う人物がいる。司の傍にいるのは秘書の西田。そしてつくしと同じ博創堂から転籍してきた紺野がいた。
司の秘書は数名の男性がいる。
その中のひとりに空きが出たことにより、紺野がその席に収まっていた。
まだ若いが仕事は率なくこなし、つくしの部下であったこともあり、人間性はよくわかっていた。西田もそんな紺野のことを気に入っていた。つくしも、気心の知れた紺野がいることは、心強いところもあるかもしれない。司はいい人選だと思っていた。
本当なら司は秘書として妻となったつくしを傍に置きたい気持ちがあった。だが司は元々女の秘書は嫌いだと宣言している手前、つくしを秘書として傍に置くことは出来なかった。


「西田室長。支社長と奥様、またやってますね?」
「無言の会話ですね?」
「でも、支社長と奥様ってお互い何を言いたいのか理解出来てるんでしょうか?」
「想像力が欠如していなれば、奥様が何を言いたいのかわかることでしょう。何しろ、紺野くんもご存知のとおり、奥様はお考えが顔に現れ易いですから」


ふたりは幸せな結婚生活を送る夫婦だが、社内ではあくまでも他人のふり。
だがそれが司には耐えられないこともある。
これじゃあなんの為に同じ会社になったのか意味がわかんねぇ。
司はむっつりとした顔を決め込むと、誰も近寄るなと相手を睨みつけることもあった。

そんな男は露骨につくしに纏わりつくようになっていた。
だが司が広報室へ自ら足を運ぶ理由を探す方が難しい。と、なるとつくしを呼び出すしかないのが実情だ。

「奥様。西田です。恐れ入りますが支社長がお呼びです」

「すぐうかがいます」

つくしは周りにひと言言って部屋を出た。
広報課は、外部に自社の情報を発信するということもあり、秘書課と一緒に仕事をすることもある。そして呼び出されることも多かった。

広報室のあるフロアから、支社長室のある最上階でエレベーターを降りると、秘書の西田が待ち受けていた。メタルフレームの奥に見える目の表情が変わることはない。
まるでロボットではないかと思えるほど、いつも冷静な男西田。その西田がいつもに増して無表情につくしを見た。

「奥様、支社長はご機嫌斜めのようです」

「はぁ。そうですか・・」

つくしは秘書の西田には全幅の信頼を置いていた。
その西田のいたく真剣な顔にもしかすると、仕事でのミスがあったのかもしれないと考えて始めていた。


トントン

西田がノックした。
「支社長。奥様がお見えになりました」

西田が一礼をし、後ろへ下がると、つくしは一歩前へ出た。
背広を脱いだ男は、鋭い目で一瞬つくしを見た。
いつもなら呼び出されても、自分の顔を見れば破顔するはずの夫の鋭い視線。
こめかみに浮かんだ静脈がただ事ではないと伝えていた。そんな夫は大柄な身体を革張りの椅子にゆったりとあずけ、不満そうにつくしを見た。

「これはどういうことだ?」

「こ、これって・・?」

いつもなら優しいバリトンが冷たく地を這うように響く。
それに厳しい口調だ。

「これだよ?どういうつもりだ?」

支社長室に流れる冷たく緊迫した空気。
司は表情が失せ、視線も冷たい。
つくしは益々自分がなにか仕出かしたと思った。
もしかすると先日のプレスリリースに書かれていた文言に気に障ることがあったのだろうか。それとも・・

「・・・なんで俺の嫌いなモンが弁当に入ってるんだよ!」

いつも外食が多い夫が今日はつくしの弁当が食べたいと言った。
そんな夫のため、考えた弁当の中に嫌いなものが入っている。
ただそれだけのことで呼び出されたつくしはカチンと来た。

「もう!!いちいちそんなことで呼び出すのは止めてよね?」

「なんで止めなきゃなんねぇんだよ!俺は夫だろうが!」

「お、夫とか夫じゃないとかって言う問題じゃないでしょう?あたしたち社内では立場が違うでしょ?つ、司は支社長であたしはただの社員の牧野。だからただの社員の牧野がどうして支社長室に呼ばれるのよ?それっておかしいわよ!そ、それに・・」

つくしは、これ以上言っても仕方がない論議だと諦めた。
なぜなら、こんなことをいくら言っても夫は無視するからだ。

司はにやつくと、席を立ち、つくしの傍で立ち止まった。

「それになんだよ?別にいいじゃねぇか。俺とおまえは結婚したんだ。夫婦だろ?」
司は笑い、つくしを引き寄せた。

「だ、だからってお弁当に嫌いなものが入ってるからっていちいち呼び出さないでよね?」

司の声が甘い音色に変わった途端、むきになって反論したことがバカバカしく思えた。
ここまで来るとパターンが見えていた。

「・・ンなこと言ったら俺の食えるモンがねぇだろう?だからおまえを喰わせてくれ」

恐らく目的はそれ。
弁当がどうのこうのはこじつけ。
単に妻と一緒にいたいだけ。
やっぱりこうなるんだと諦めた。

「人生は生きていれば多少の逸脱くれぇあるだろ?なんでも決められた通りってわけにはいかないってこともあるってことだ」

ここでは二人で交わす無言のやりとりはない。
だがいいだろ?と言った意味なのか、片眉を上げることはいつものこと。

滋の言った『楽しみね?』の意味。
実は夫は我儘坊っちゃんだと言いたかったのだと、つくしは今さらながら気づかされた。





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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.02.15 10:47 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.02.15 20:47 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
先日のお話し。す~っと入りました?(笑)
良かったです!さら~っとお読みいただければと思います。
つくし、道明寺HDに転籍しました。
紺野君が秘書課!西田さんの部下になりました(笑)
紺野君はつくしも好きですが司も好きです。
きっと二人の役に立つはずです^^
弁当のおかずを口実に呼び出す司(笑)
本当にねぇ、ワガママ坊っちゃんだったみたいです(笑)
つくしを溺愛し過ぎて酸欠にならないようにしないといけませんね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.16 00:38 | 編集
さと**ん様
あの紺野くん、司の秘書に収まりました!
お喋り紺野くんですが、秘書として西田さんに鍛えられるはずです。
それにつくしと司のことは好きですから、彼ら二人の味方としてこれからも頑張ってくれるはずです。
そうですね、つくしに悪い虫が寄って来ないよう、お目付け役を兼ねているかもしれません(笑)
片眉を上げる司と、眉間に皺を寄せるつくし。
司は眉に表情があるように感じられるので、眉で会話が出来るんですねぇ(笑)
ただ、お互いにそのニュアンスを感じ取っているかどうかが疑問です。
『今夜一緒に風呂に入ろうぜ?』
『だめ。今生理中なの』
『チッ・・』
おや?御曹司のようです(笑)
弁当のおかずが気に入らないと呼び出す司。
どうも書いていると、どんどん御曹司っぽくなるんです(笑)
おかずは「つくし」が一番ですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.16 00:54 | 編集
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