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2017
02.09

エンドロールはあなたと 60

まるで新しい自分を発見したような気分だ。
今までの自分はなんだったのか?つくしはそんなことを考えていた。仕事が忙しくても、私生活が充実していれば、その忙しさが気にならない。それどころか、今までにないエネルギーが湧き上がってくる気がする。気がするじゃない。実際そう感じ、気分が満たされていた。

週末になれば、好きな人の腕の中で過ごせること、そして女としての歓びを感じ、くつろいだ気分で過ごすことが出来る。司に愛される情熱的な夜を思い浮かべれば、それ以外のことが思考の中から飛んで行ってしまいそうになる。
だがそんなとき、やはりつくしの頭の中に聞こえてくるのは、紺野の声だ。

「・・野係長・・牧野係長!聞いてますか?」
「な、なによ?聞いてるわよ?」
「嘘ばっかり。聞いてないですよ!僕が今、なんて言ったか言って下さい」
「・・・」
「・・やっぱり。僕の話なんて全然頭の中にないでしょう?」

つくしはそんな紺野の言葉に沈黙した。
紺野はつくしが係長に昇進してからも世話を焼いていた。それはつくしが一度危ない目にあったからだ。それ以来紺野は、係長のことは僕が注意して見てますから、と司に宣言していた。まるで司からその任務を任されたかのように益々つくしのことを気遣っていた。


「しかし、係長が本当に道明寺さんとの結婚を決めるなんて、こう言ったらアレですけど未だに信じられない気分です。だってそもそも出会いが仕事絡みですよ?いくら共通のお知り合いの方がいたとしても、あの道明寺さんが係長を選ぶなんて未だに信じられない思いです。ルビコン川も堂々と渡っちゃうし、係長って、日ごろの行いがよっぽど良かったんですね?そうでもなきゃこんなことありませんよ?ほんと、ビギナーズラックですよ!」

それから、紺野は怪訝そうな顔でつくしを見た。

「・・・係長、その書類ですけど、そのまま提出なんて出来ませんからね。いくらそれが道明寺社宛だからって、担当者の方が誤解されます。今回の案件は道明寺支社長がご担当ではなかったんですからね?」

つくしは、紺野が言っている意味がわからなかった。いったい何が言いたいのか?
だが、視線を下に向けたとき、呻きそうになった。
そこに描かれていたのは、大量のハートマーク。
無意識に描かれたのだろうが、つくしは恥ずかしさに机に突っ伏していた。

「あ、牧野係長!噂をすれば道明寺支社長ですよ!」

紺野の声につくしは顔を上げた。
突然つくしの会社に現れた男だが、ここはもう道明寺HDのグループ会社だ。
関係者が現れてもなんの不思議もない。

「つかさ・・じゃない。道明寺支社長どうされたんですか?」

つくしは一瞬驚いたが、立ち上がると、オフィスの入口へ立つ男の傍へと慌てて歩み寄った。
名前の呼び方にしてもそうだが、一瞬駆け出そうとしたところを、ここは会社だったと理性が働いた。だが堂々と、当然のように現れる男に周りは今更だといった雰囲気だ。
それに、司とつくしがつき合っているのは周知の事実。二人が何をしようと誰が文句をいうことでもない。むしろどうぞ、どうぞと言った空気さえある。

「どうしてって今日はおまえが抱えてた仕事の色々が終るって日だって言ってたよな?だから迎えに来た」
勿論約束などしていない突然の訪問。
司は目の前に立つつくしの手を掴んだ。
「よし、行くぞ」
「ち、ちょっと、待って!」

つくしはいきなりの行動に慌てた。司に引きずられまいとしたが、男の力には敵わない。
「行くってどこに行くのよ!それにあたしまだ片付けが残ってるのよ!」
強い口調で言っていたが、ここがどこだかハッとしたつくしの声は急に小さくなった。
「迎えに来たって、まだ帰れる状態じゃないし、ちょっと・・ねぇ・・つかさ・・」
「そんなモン紺野に任せとけ」
「でも・・」
すると司は立ち止って振り向いた。
「紺野!おまえこいつの机片付けてやっといてくれ!」
「任せて下さい!その代わり、例の件、よろしくお願いします!」
「ああ。わかった。心配するな。ちゃんとやってやるよ!」
「ち、ちょっと、司!な、なにどうしたのよ?」

例の件?何がよろしくお願いします?
その言葉につくしも紺野を振り返った。

「ちょっと、紺野君?何が例の件?それから、あ・・それ資料室に返さないとだめなのよ!」
司に向き直ったつくしは顔一面に笑みを浮かべる男に言った。
「ちょっと、どうしたのよ?まだあたしは仕事中なんだけど?」
「どうもこうもねぇ。これから行くところがある」
「だ、だからどこに行くっていうのよ?」
「ごちゃごちゃ言うな。俺と一緒に来ればわかる。いいから来い」
司がほほ笑む。
「おまえは仕事は出来るが、自分のことになると意思決定が亀よりも遅い。仕事のケリがついたんだ。俺との約束をちゃんと守ってもらおうと思ってな」

その言葉につくしは深呼吸した。
つくしは司と約束していた。今携わっている仕事が終わったら司と結婚すると。
そして、道明寺司の妻としてこれから彼の傍で仕事をすると決めた。それはもちろん道明寺楓の勧めもあったからだ。司の支えとなって欲しいと。夫がどんな仕事をしているか知っておくべきだと。そして、言われていたことがある。

『あなたは仕事が好きなのよね?それならわたくしに遠慮なんかしないでちょうだい。ビジネスはビジネスです。わざと手を抜いてわたくしには勝てないと思わせるようなことはしないこと』

この言葉の意味はどう取ればいいのだろう?
確かにつくしは結婚しても働きたいと言った。司に専業主婦は嫌いか?と聞かれたとき、はっきりとした返事はしなかった。決してキャリア志向だからではない。家庭的かと言われれば、それはどうか未知数な部分だ。何しろひとりで頑張ってきた時間が長かっただけに、何をどう家庭的というのかが分からなかったからで、働きたいと言ったのは仕事をすることが好きだからだ。


とにかく義理の母親になる女性は、噂通りビジネスについては身内にも容赦ないようだ。

司はそんな母親に言った。『つくしは俺の妻で、お袋の部下じゃねぇぞ』と。
『あら。でもつくしさんはあなたと結婚しても道明寺で働くなら、わたくしの部下でもあるわ』と返されていた。

仕事の面での司は、徹底的な合理主義者だと言われているだけに、計画人間でもあった。
もちろん、先を見通す力がなければ、計画は思い通りにはいかないことも分かっている。
若い頃は無軌道だったとしても、今の彼は現実人間だ。そうでなければ、事業は成り立たない。時々子供みたいなこともあるが、それは誰にでもあることだ。

そんな男は、今日つくしの仕事が一段落つくことを待っていた。

エレベーターに乗せられ、1階ロビーのボタンを押す。その間も掴んだ手はそのままで、ずっと握られていた。まるでどこかへ逃げられることを恐れているかのようだ。
扉が開くと再び引きずって歩く勢いで歩く男。

「ちょっと、どうしたの?いったいどこに行くのよ?」
「いいから、早く車に乗れ」

ビルの正面玄関に横付けされた黒塗りの車は、運転手がドアを開けて待っていた。
有無を言わさぬその行動力。これ以上言うだけ無駄だと分かっているだけに、黙って車に乗っていた。





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コメント
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dot 2017.02.09 13:00 | 編集
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dot 2017.02.09 23:52 | 編集
四*様
はじめまして^^
強引な司も、少し不安をのぞかせる司もお好きですか?
彼も人間ですから、色々な感情を見せるようです。
ただし、それは好きな人の前だけ限定です。
恋をすると誰しもそうなる・・そう思っています。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.10 00:10 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司がお迎えに来ましたね。
つくしの頭の中も恋する乙女となってますね(笑)
幸せな思いが頭に溢れているようですよ(笑)
司、やっと望みが叶うのでしょうか!
紺野くんの今後・・・(笑)
桜子と紺野くん・・う~ん・・お茶飲み友達かもしれませんね?
美容談義に花が咲いているかもしれません!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.10 00:21 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
昨夜は寝落ちしましたが、本日は大丈夫です。
えっ!紺野くん、新しワセリンを買いに走ったんですね?チューブの方だったんですね?(笑)
わはは!(≧▽≦)脳内変換された言葉が”焼きそば一つお願い”に!!
出来たての焼きそばを持ってきた司!(笑)それを西田さんに手渡し、颯爽と部屋から出る!
駄目です(笑)・・その姿が脳裏に過ります。そして紅生姜と青海苔を買うようにメールする西田さん!
本当に素敵な劇場です(笑)紺野くん、もう立派な劇団員ですね?
ええっと、まだ書いてる途中なんです・・(笑)
もう少しで終わりますから・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.02.10 00:31 | 編集
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