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2017
01.31

Midnight Dreams 中編

荘厳な宮殿と言われる邸宅で行われた誕生パーティー。
今更だが、この年になっても執り行われるのは、ひとつのイベントとも言える恒例行事となっているからだ。

見知った顔から、見知らぬ顔まで、大勢の人間の顔が俺に向かって祝いの言葉を述べる。
上品な笑みを浮かべ、美辞麗句を述べるが、ひとつ間違えれば、あほらしく思えるほどの誉め言葉が並べられることがある。当然そんな言葉は耳に残ることはない。

祝ってもらいたいのはただ一人の女。
かつてこの邸の庭で開かれたパーティーで、場違いな人間としてそしりを受けた女は、今では俺の妻だ。

そんな無意味とも言えるパーティーから解放されたこの時間。
東の角部屋で、妻から美しく包装された箱を受け取った。


司が受け取った大きな箱。

彼は随分と昔を思い出していた。
やはり誕生日に大きな箱を貰ったが、中に入っていたのは一枚のカードだけだったことがある。そして、そのカードに書かれていた『お誕生日おめでとう』の文字。
裏を返し、歓びが溢れたときを思い出していた。
そこに書かれていたのは、『それで、あたしたちいつ結婚するの?』の文字。
それは、妻の誕生日にプロポーズをし、その返事として返された言葉だった。
その言葉が一番の贈り物だったことを思い出していた。


・・・こいつ。
まさかまたそんなこと考えてんじゃねぇのか?
ご丁寧に包装された箱の中身はカード一枚なんてことがまたあるのか?
司はそう思いながらも、あのときと同じように丁寧に包みを剥がした。

そして箱の中から出て来たのは一冊の本。
なんでこんな大きな箱に入れたんだ、と、聞けば、それしか見当たらなかったから。と返された。そうだ。そうだったな。あの時も大きな箱にカードが一枚だったからな。もったいないが口癖の妻のことだ。この箱もなんかの再利用なんだろ?

しかし本を贈る意味はいったいなんなのか?
もっと勉強しろ、本を読めといいたいのか?
それとも今流行りの本なのか?
どちらにしても目の前にいる贈り主に聞く必要がある。

「なんだ?これは?」

「えっ?本だけど?」

本には違いない。
しかもご丁寧にカバーまでかけられている。

「・・これがあたしからの誕生日プレゼント・・」


誕生日に本を貰う。

それは司が今までもらったことがない贈り物だ。
それにしても、どうして本をプレゼントしようと思った?
小学生の子供へのプレゼントか?
いや。最近の小学生が誕生日プレゼントに本なんかで満足するはずがない。
それともこの本はプレゼントの一部で他に何かあるのか?
司は訝しく思いながら手にした本を開いていた。



その本は今流行りの本でもなければ、ビジネスに関する本でもない。

本のタイトルは『千夜一夜物語』

別名『アラビアンナイト』と呼ばれるいわゆるひとつの説話の本。
今も世界中で読み続けられている民話、昔ばなし、伝説といった類の本だ。


妻はいったい何が言いたいのか?
ますます意味がわからなかった。

千夜一夜物語とはアラビア語で書かれ、主にペルシャ、今のイランやインド、エジプトあたりが舞台となった物語が収められている。その中でも有名な話というのは、『アリババと40人の盗賊』や『アラジンと魔法のランプ』など、まさに子供が喜びそうな話だ。そして取り上げられることが多いのは、娯楽的要素がある話しが多い。それを今更読めというのか?

だが、「おとぎ話って子供のものじゃないのね?」と、言った妻。
なぜそう感じたのか?
そう思った理由は、この物語が書かれた背景に因るはずだ。
その事を知った妻。

なぜ千夜にも渡り、物語が語られることになったのか。


それは、妻の不貞を見て女性不信となったペルシャの王が妻を処刑し、その後若い処女と一夜を共にしては殺していくことを止めさせるため、大臣の娘が自ら王に嫁ぎ、毎夜王に興味深い物語を語ったことが、この本の主軸として書かれている。つまり、その娘が王に語ったとされる物語が収められているのがこの本だ。だが、王が話に興味を抱かなければ、語り手となった娘も殺されていたはずだ。

千夜一夜物語というのは、残酷な一面を持った物語であるということだ。
そして、実は『アリババと40人の盗賊』も『アラジンと魔法のランプ』もどちらも千夜一夜物語の原本には収録されてないという事実がある。


物語の語り手の名はシェヘラザード。
彼女は話が佳境に入ると、続きはまた明日。と、言って話を打ち切っていた。王は次の話が聞きたいがため、毎夜シェヘラザードを寝所に呼び寄せ、殺すことなく多くの夜を過ごし、その間に子供をもうけ、彼女はやがて王妃となると言った話だ。そして王は、彼女の口から語られる話を聞き、人倫と寛容さを身に付けたと言われている。

千夜一夜物語の中には純愛もあれば、不倫、嫉妬の物語もある。
そして甘い官能的な話しも。
シェヘラザードは、自分が殺されないために、王の興味を損なわないような話を語っていた。

妻は、今夜はあたしがシェヘラザードになるからと言った。
ならば、妻は俺に興味深い話をしてくれるということか?

「・・あのね・・司の誕生日だから、色々プレゼントを考えたんだけど、司は何でも持ってるでしょ?だからあたしがこの本みたいに興味深い話をしてあげたいと思ったの。でも、結局、か、考えつかなかったから、あたし・・司の話す物語の通りのことをしてあげる・・・王様の指示に従って望み通りのことをしてあげるから・・・」

相変わらず何が言いたいのかよくわからない妻の話。
寝室で夫を前に何を照れてるんだか全く理解できねぇ。
恐らく言いたいのは、今日は俺の誕生日だから我儘を聞いてやると言いたいのだろう。
しかしコイツはシェヘラザードの立場を理解してるのか?シェヘラザードが毎晩物語を語ってたってことは、毎晩ヤッてるってことだぞ?おい、もしかして俺たちはこれから毎晩ヤルのか?それに千夜一夜物語は壮大なピロートークだってことを分かってるのか?それも1001夜だぞ?

・・・多分、分かってない。

まあ、

妻が言いたいのは、その王はかつての俺にどこか似ていると言いたいのかもしれない。確かに若い頃、この王のように人を信じることなく、蛮行を繰り返していたことがあった。
そんな俺とつき合い始めた頃、妻は周りから猛獣使いと言われていた。
そして今ではすっかり飼い慣らされてしまった男がいる。


だが、

『今夜は司の誕生日だから。望みを叶えてあげる』

シェヘラザードになると言った妻から聞かされたその言葉。
望みをと言われれば、今の世界そのものを遮断してしまうほど、欲しいものがある。
それをこの本の世界で味合わせてくれると言うのか?
それはこれから千の心躍る夜を過ごさせてくれるということか?


「なんでも言うことを聞くんだな?」

俺の目を見て頷いた女。

・・・こいつ。

男に性的な刺激を与えることが下手だと思っているなら大きな間違いだ。
無自覚だろうが、上目遣いに見るその顔が、どれだけ俺をそそっているかなんて知らないはずだ。昔からそうだ。そんな顔をされるたびに、欲望の波が押し寄せるのを感じ、どれだけその思いを抑えてきたことか。生意気さと、無邪気さをもってしても消し去ることが出来ない仕草ってのがあることを分かってない。今も昔も世慣れする事がない女がいったい何をするつもりだ?


それなら・・

――ちょっとイジメてやろうか?



司は口角を親指でさすった。
「今夜は楽しませてくれるのか?」
恥かしそうに小さく頷く妻。
「今から始めるということか?」

口の両端でゆっくりとひろがっていく微笑みは、楽し気に、そして司はわざとらしく眉を上げた。


「下着を脱いで俺に渡すんだ」





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コメント
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dot 2017.01.31 05:38 | 編集
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dot 2017.01.31 07:17 | 編集
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dot 2017.01.31 14:33 | 編集
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dot 2017.01.31 21:31 | 編集
悠*様
坊っちゃん、幸せだと思います。
いとしのつくしちゃんと結婚しているんですから、これ以上の贅沢はないと思っているはずです。
明日はどうなるんでしょうか・・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.31 22:49 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司くんは今頃つくしちゃんにお祝いしてもらっているのでしょうねぇ(笑)
つくしちゃん、プレゼントは本でしたが、結局つくしちゃんがプレゼントのようです(笑)
「千夜一夜物語」は物語にもよりますが、大人の本です(笑)
そうですねぇ・・調べるといいますか、頭の片隅に「ああ。こんなエピソードがある」と思い浮かんでから確認はしています。
えっと、拙宅で知識になるようなことがあればいいのですが・・(笑)ありますか?(笑)
プレゼント、明日貰えるのでしょうか?(笑)←え?|д゚)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.31 23:03 | 編集
司×**OVE様
再び。こんばんは^^
はい。去年のお話と繋がっています。
そんなエピソードを入れました(笑)
えっ?来年の話ですか?(笑)遠い目になりますねぇ(笑)
こちらのお話・・特に何年後とは設定していません。
読んで頂いて、好きな年齢を設定して頂けたらと思います^^
坊っちゃん曰く、いくつになっても顔を赤らめるつくしちゃんが好きなようです(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.31 23:09 | 編集
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