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2017
01.26

エンドロールはあなたと 53

例えば、今こうして一緒に食事をしている恋人が、突然何か別のものが食べたいと言ったとすれば、彼はその食べ物を手に入れるため尽力を惜しまない。

司の目の前でスプーンいっぱいにアイスを掬い取る女は、係長に昇進してからも相変らず精力的に仕事をこなしていた。いや、以前よりも精力的かもしれない。
いくら食べても太らない体質だということは、知っている。それに、仕事が忙しいという理由から、カロリーを消費することもあるのだろうが全く太らない。
そんな女はスプーンを置き、テーブルの上にあるクリップボードを胸に抱え、司の方を見た。

実は新たに道明寺社の広告を手掛けることになった女。
だから、司になんと言われようと見てもらいたいものがある。きっと男のその口から文句が出るはずだと思っている。でも、口が悪いのは今更だ。けれど、つくしを見つめる黒い瞳は情熱的で全くブレることがない。目は口程に物を言う、と言うが、彼の場合目と口は別のものだ。

目は蕩けるようにつくしを見ることがあるが、口は厳しいことを平気で言うことがある。 

今では唇を押し付けることも、裸のどの部分を押し付けることも慣れて来たというのに、熱い想いが込められた視線を向けられるだけで、頬が燃えるように熱くなるのだから手に負えない。

つくしにとって道明寺司という男は、相変わらず危険な男だ。
突然抱きつく、キスをする。まともな頭を保っていくため、こうしてテーブルを挟んでいるのだが、そのテーブルでさえ愛の行為の場所に変えたがる。
そんなことが実際あったのだから、その時のことを思い出しただけで、赤面してしまうが、愛されていると実感できる時でもある。


だが仕事の相手としては手強い相手に変貌する。
確かに、二人の関係がはじまった頃、ビジネスに徹しましょうと宣言したことがあった。
それがいつの間にか二人の関係は恋人同士となっていた。


つくしは自分がこれまで経験したことから学んだことや、過去の失敗も含め、知恵を絞ってアイデアを出すのだが、厳しい目で拒否されることが多かった。でも、今回は大丈夫なはずだ。

「ねえ?これどう思う?感じたまま話してくれない?」
胸に抱えていたクリップボードを差し出した。

「なんだよこれ?」

「なんだって・・絵だけど・・・」

「おまえこれが絵か?下手くそ。おまえ絵の才能なんて全くねぇな。こんなんじゃ絵コンテなんて描けねぇよな?」

確かにつくしが絵コンテを描くことはない。
何しろ会社には、優秀なグラフィックデザイナーが大勢いるのだから、描く必要性がない。
それにしても、何もそんな言い方しなくてもいいでしょ?と、思ったが実際下手なのだから反論出来なかった。
それに反し、司は絵が上手い。ちょっとした絵コンテなら自ら描けるほどだ。そんなとき決まって優越感に浸った顔をしてつくしを見る。

仕事に対しては厳しい男と言われていたが、恋人として過ごしている時間でも言うことは辛辣だ。だが、仕事の話しを持ち出したのはつくしの方だ。プライベートに仕事は持ち込まないと決めている司にしてみれば、少し機嫌が悪いのかもしれなかった。

絵コンテと言えば思い出すのは、ワインのCMのとき、司が持ち出した絵コンテだ。
てっきりグラフィックデザイナーに描かせたものだと思っていたが、あれは司自身が描き上げたものだと知った。

あのとき、つくしは初めて道明寺社の広告の仕事を勝ち取った。
今思えばよくぞ勝ち取ったと自分自身でも思っていた。
でも、どうしてあのワインの広告案が採用されることになったのか未だに不思議だ。
選ばれた理由は説明されたが、もう一度聞いておきたい気になっていた。


「ねえ。改めて聞くけど、どうしてあのワインの広告案が採用されたの?うちの着眼点が良かったって話しだったけど、本当なのよね?」

「アホか。おまえと仕事したかったからに決まってるだろうが。あんな話を真に受けてるのはおまえだけだ。何が年齢層を上げた方がいいだ。勝手なことしやがって。おかげで俺はおまえの提案を通すために会議室で強権発動する羽目になったじゃねぇか」

・・やはり聞くんじゃなかった。

あのとき、公私混同なんてしてないと言ったのは、やはり嘘だったと知った。そんなことを言われたら仕事に対しての自信を失いそうだ。

「・・嘘だ。おまえの提案が良かったからだ」

つくしのシュンとした顔を見た男は、ニヤニヤしながら言った。

「酷い!どうしてそんな嘘つくのよ?あたしは何事にも本気で取り組んでるのにそんなこと言わないで!」

「それよりその服。いいな。よく似合ってる」

「あ?これ?桜子と滋さんとで買い物に行ったの。それでそのとき買ったの」

最近のつくしは色が明るい洋服を着るようになった。以前は暗い色の洋服が多く、桜子には色々と言われたことがあったが、司の勧めもありパステルカラーの洋服も好んで着ることが多くなっていた。


恋人同士となった二人の間に交わされる言葉は、互いに対しての純粋な思いだろう。
今では、心の中で言葉を置き換える必要がないほど素直な気持ちが出せるようになっていた。恋におちたとき、まさにそれは一瞬の変化で、ある日突然だ。
それまで何ともなかったというのに、相手のことを好きだと自覚した途端、態度も行動もぎこちなくなったという懐かしい日々があった。

「おい、それより俺たちの貴重な時間に仕事の話はしないって言ったよな?それこそ公私混同するなって話しだろ?」

「あ、うん。つい司の意見を聞きたくなって・・ごめん」

会話はそこで途切れ、つくしはトイレに立った。



司は自分とつくしのためにブラックコーヒーを注いだ。
そして、それをリビングのテーブルへと運んだ。
司が誰かのためにコーヒーを淹れるようになったのはつい最近。
つくしとつき合うようになってからだ。

そんな男の口をつくのは、″早く結婚してくれ″だ。
そんなとき決まってつくしが言うのは、″結婚する決心はあるけどもう少し待って″だ。
普通なら男の常套句であるその言葉を女の方から言われるとは。
司はそう思いながら、ちっとも嫌そうではない。

恋愛感情が同質で同量だと思いたいが、質は同じだが量は司の方がはるかに上だ。
実は司も気づかなかったが、恋愛=結婚と短絡的な考え方をするのは、自分の方だと最近気づいた。

それにしても、これまで何でも自分でする癖がついていたせいなのか、
『 自分でやるから大丈夫 』と言う癖が抜けきれない女。

司は思った。
いつまでも自分でやるからなんて言わず、何もかも俺に任せてくれないか。
そして、いい加減俺と結婚してくれ。
だが待つと言った以上、彼はつくしの意志を尊重するつもりだ。

ほどなくしてトイレから戻ったつくしは、司がリビングのソファに腰かけているのを見つけると、彼の傍へと近寄った。

テーブルから淹れ立てのコーヒーの芳しい香りがし、部屋中に満ちていた。司が好きな上等なコーヒーは、今ではつくしも好きになっていた。コーヒーを淹れる水も水道水ではなく、ペットボトルの水と、つくしには贅沢だと思えたが、今では自分に許した唯一の贅沢だ。

彼女は何を思ったのか、司が腰かけているその足元に腰を下ろした。
そして彼の膝に頭をもたせかけた。

「・・つかさ・・あのね・・」
「なんだ?」

司は自分の膝に乗せられたつくしの頭を撫でていた。
膝に広がった黒い艶のある髪を愛おしそうに、優しく、そっと。
つくしはその手を感じながら顔を上げ、言った。

「あたし、この仕事が終わったら司と結婚する。・・うんうん、違う結婚したいの」

つくしは司の目を見てどぎまぎとしたが、彼の言葉を待った。
もしかして、言うタイミングを間違えてしまっただろうかと心配しながら。

すると、司はつくしの脇に両手を差し入れ、身体を持ち上げると、膝の上へと腰かけさせた。
そして抱きしめるとキスをした。

絶対に後悔はさせない、と呟きながら。






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コメント
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dot 2017.01.26 12:52 | 編集
S**p様
つくしが決心しましたね(笑)
甘いですか?(笑)
良かったです。大人の二人の甘さです。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.26 22:35 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
>口は悪くても情熱的な瞳で見るのも、恋愛=結婚なのもつくし限定。そうです。
今の司の全てはつくしちゃんですね(笑)
アカシアも絵は全く駄目です。つくしちゃんと同じです(笑)
もはや口癖の「結婚してくれ」(笑)
そうですね、会話の中に何度も繰り返されていることでしょう。
そこで、うっかり「うん。わかった」と言わせたいのかもしれません(笑)
桜子と紺野のペア(笑)二人が一緒だとつくしもお手上げ状態ですね(笑)
紺野くん、これからどうなるんでしょうねぇ・・。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.26 22:51 | 編集
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