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2017
01.24

エンドロールはあなたと 51

歩道に横付けされた黒塗りの大きな車から降りて来たのは、司と髪の長い女性。
ガラス窓の向うに見える姿は30代半ばだろうか。いかにも金持ちそうであかぬけて見える。いくらファッションに疎いつくしでも、その女性が身に付けているものが一般女性向けにデザインされたものでないことくらいひと目でわかった。

すらりとした立ち姿で司の隣に立つ女性は、まるで女優のようにも見えるが、間違いなく彼と同じ階級に属する女性だとわかった。女優でないとしても、そんな女性に当たる陽射しはまるで彼女だけを照らすスポットライトのようだ。

そして傍から見れば、成熟した大人の男女に見える二人は、まるで恋人同士のように見えた。

あの女性はいったい誰?






司はロスに住む姉の椿が帰国するにあたり、つくしに会わせたいと思っていた。
将来を見据えた話をしたいと言ったとき、つくしの顔に不安が見て取れたからだ。
母親である楓と会い、二人の交際を認めてくれたのかと心配していたなら、当然その先の話もあるものだと理解していたが、どうやらつくしは少し違ったようだ。
勿論自分がつき合っている女が、仕事にやりがいを見出していたことは分かっていた。
だからこそ、自分の力で昇進したことも喜ばしいことだと思っていた。

かつて誰が見ても結婚に向かない男と思われていた司。
だが今は違う。牧野つくしと結婚したいと思っている。楓が言った司が優良物件という話。
今の司は自分ではまさにそうだと思っている。自分は優良物件だからお買い得だと言いたいほどで、そのお買い得優良物件を勧める人物として姉の椿を連れて来た。



二人は車を降り、目的地である場所に着いたこと確認した。

「司?本当にここでいいの?」
「ああ。間違いない。あいつに付けている人間から連絡が入った。ここでコーヒーを飲んでるってな」


浜野の一件以降、司はつくしに警護を付けていた。
当人は気づいていないと思うが、気づかれぬように行動するのが本来の警護の役割だ。

「そう。わかったわ。でもまさか司が結婚したい人がいるとお母様から聞いたときには驚いたわ」

母親の口から語られたことが未だに信じられないでいた。
何しろあの弟に結婚する気があったのかと驚いていた。椿はすでに結婚して道明寺家を離れているが、司のことは常に気にしていた。
そんな椿の指には結婚指輪がはめられており、耳にはダイヤのピアスが輝いていた。
長い黒髪は肩甲骨のあたりまであり、センターで分けられている。彼女はその長い髪を手で後ろへとはらった。

「いつまでも俺が昔と同じだと思われても困るんだがな」

「昔の司ね?そうよね、自己中心的で少年が大人の身体を借りていたような頃もあったものね?そんな司が一人の女性を幸せにしたいと思えるようになるとは思わなかったわ」

「俺だっていつまでも子供じゃねぇぞ?」

だが姉には頭が上がらない。
両親が共に海外暮らしともなれば、血がつながった家族のなかで唯一傍にいたのは姉の椿だ。そんな姉からすれば、司がどんなに大人になろうと、いつまでたってもやんちゃな弟と映るのだろう。

「わかってるわよ。でも、そのつくしちゃんはあんたが将来を見据えた話をしたいだなんて言ったら困った顔をしたんでしょ?それにしても、策を弄してその女性を手に入れたっていうのに肝心なところで何やってるのよ?いくら女あしらいが上手いからって本当に好きな女性の前では役に立たない男ね?」

どこか呆れたような言い方だが、あくまでも声は陽気だ。ようは楽しそうだということだ。
弟はいつまでたっても姉の手を煩わせると言いたいのだろう。だが頼られるのは椿も嬉しいはずだ。何しろ姉と弟は両親が不在の間、淋しい時を共に過ごした仲なのだから。

「姉ちゃん、自慢するわけじゃねぇけど本気な女には無茶出来ねぇところがあるんだ」

かつて反抗的なティーンエイジャーだった男は女には興味が無く、褒められたものではないが、女を虫けらの様な目で見ていたことがあった。だが今は全く違う。例え小言でも好きな女の口から出た言葉は脳裏から離れることはないほどになっていた。

「わかってるわよ。でもね、司。女性にとって結婚するってことは大きな意味があることなのよ?特にあんたみたいな男と結婚するとなると、何かを犠牲にしなきゃならないの。わかるでしょ?彼女は仕事が出来る人なんでしょ?それに昇進したのよね?それにうちの家族の一員になるってことは何某かの犠牲を払うことになるのよ?」

「・・ああ。わかってる。だから姉ちゃんに来てもらったんだ。あいつ、なんか悩んでるみてぇだから相談に乗ってやってくれ」

「わかってるわよ。それにそれだけじゃないんでしょ?あんたと結婚するメリットを話せばいいのよね?」





***





車から降りた司と女性がつくし達のいる店に入ってくると、店内がざわついた。
モデルと見まがうばかりの男と、女優かと思われる女の出現だ。店内の視線が二人に集中していた。

「つ、椿さん?!」桜子が言った。
「三条さんお知り合いなんですか?」
「し、知り合いもなにもあの方は_」

司はつくしの姿を認めると、決然とした様子でこちらへ歩いてきた。

「よう、牧野。休憩中か?」

いきなり現れた司になんと反応していいのか考えていた。何しろ紺野や桜子がいるのだから、楽しそうに話しをする場面ではないはずだ。一瞬ためらったが、この場に適切な言葉を返していた。

「し、仕事の打ち合わせをしてたところ・・その、紺野君と」
「そうか。紺野?本当か?」
「あっ、いえ、えっと・・そうです・・」

紺野はしどろもどろだが、つくしもどこか素っ気ない。そして先ほどまであれだけ喋っていた桜子は何故か黙っていた。三者三様流れる空気が微妙に違っているが、その沈黙がやけに重苦しく感じられ、つくしは司の背後を気にしていた。


しいんと静まり返ったなか、司は言った。

「おまえ、何か誤解してねぇか?」

満面の笑みを浮かべた男はにやにやしてつくしに言った。

「牧野。姉の椿だ」

「司。もういいわ。ここから先はわたしの出番でしょ?」

司の背後から声を上げた女性はひとつだけ空いた席に腰をおろした。

「はじめまして。司の姉の椿よ。よろしくね、つくしちゃん」

「あ、あの、牧野つくしです。はじめましてよろしくお願いいたします。先日はお邸の方にお伺いしまして、お母様にお会いして・・」

突然現れた司の姉に驚き、立ち上がると挨拶をした。
姉がいるとは聞いていたが、ロスに住んでいると聞いていただけに、この訪問をどう受けとればと戸惑ったが、女性の顔に笑顔が浮かんでいるのを見て何故か安堵した。

「いいのよ、つくしちゃん。そんなに硬くならなくても。座ってくれない?今日わたしがここにきたのはつくしちゃんに話しがあって来たの」

店の中の注目度は高い。
さすがに衆人環視とも言えるなか、話をするには躊躇いがあった。
すると、店内の客が席を立ち、ぞろぞろと出て行った。
いったいどんな手を使ったのかと思うが、さすが公私混同が出来る男の力は違う。例えここにいる人間が誰だかわからないとしても、これ以上話を聞かれることがないよう、何らかの手を打ったということだろう。店内にいた客は誰一人いなくなっていた。

椿は周りの様子を確認し、つくしの方へと向き直った。
「つくしちゃん。突然のことで驚いたと思うけど、今日はつくしちゃんと司の将来について話をしようと思って来たの」

「あの・・」

つくしは言いかけたが桜子と紺野がいることに戸惑っていた。
いつもの桜子ならこんなチャンスに飛びつかないはずがない。
何しろつくしと司との将来についての話だ。聞きたいに決まっている。
だが、流石に椿には敬意を抱いている。何しろ司の姉であると同時に英徳での大先輩。
そして母親の楓が社交界における重鎮だとすれば、椿はその跡を継ぐ存在だ。そんな判断が頭の中に過ったのかもしれない。

「あの、わたしたちも失礼します!紺野君、行くわよ!」

と宣言するなり、立ち上がり、紺野を連れて店の外へと向かった。
すると店内は、司と椿とつくしの三人だけになった。
椿は状況に満足すると、ひと息つき、話し始めた。

「司が将来を見据えた話をしたいって言ったのよね?でもつくしちゃん、何か悩んでいるみたいだって司から聞いたの。わたしは母からつくしちゃんのことは聞かされていたから勿論歓迎するわ。だから何が悩みなのか教えて欲しいの」

司はつくしの考えていることを知っていた。
何しろ何でも表情に出る女だ。それに昇進が決まったということが、これから二人の関係に新たな変化をもたらすのではないかと考えているとわかっていた。

そして、道明寺という家について考えていることもわかっていた。育った環境と全く違う新しい環境に飛び込むことは誰にでもあるが、司の家の場合、その環境の変化は一般家庭とは著しく異なったものだからだ。だが司はそんなことを気にして欲しくない。
裕福な家だ、職業面での立場だなど気にして欲しくはない。だからこそ、姉の椿を呼んで話をしてもらうことにした。


「司の性格に問題があるなら仕方がないんだけど、そうでないなら何が問題なのか教えて欲しいの。ええっと・・なんだっけ?お母様が話したのは、司がレールを外れるとかそんな話だったかしら?」

「あの道明寺が、いえ司さんがレールを外れるような人生を歩んだとかそんなことは気にしていません。逆に・・わたしの方が司さんに十分ではないのかと思ってしまって・・」

やはり考えるといえばそのことだろう。
つくしは考え過ぎる女だ。ましてや相手が大財閥の後継者。そして将来を見据えたといえば、結婚ということになる。それを考えるなと言うほうが到底無理な話だろう。


「あのね、つくしちゃん。司はどうしてもあなたを手に入れたいの。あなた達二人はお互いが必要なんじゃないの?理論的に物事を捉えるんじゃなくて、司に何を求めているか考えてくれたらいいのよ?だからと言って理性を失うなって言ってるんじゃないの。もし、つくしちゃんが司なんかじゃなくて、もっと理性的な人がいいなら司と別れてもいいわよ?」
椿の視線は司に向いた。

「姉ちゃん、そりゃ言い過ぎだ」

「いいからあんたは黙ってなさい」
椿は司を一喝した。
「つくしちゃん、司は情熱的な男なの。だから恋に落ちるときはバカみたいに落ちたんだと思うの。まあ、今までそんな経験もなかったから、恋に落ちたこと自体信じられなかったかもしれないわ。それこそ司が恋に落ちるなんてうちのビルの屋上から落ちるくらいの勢いだったんじゃない?でもね、恋なんて落ちてみないとわからないでしょ?そう思わない?つくしちゃん?」

椿の話しは確かに頷けると思った。
恋なんてどの瞬間で落ちたかどうかはわからない。いつの間にか始まるのが恋だから。
つくしにしても、司とつき合うことは、高層ビルの屋上から飛び降りたくらいの気持ちだったはずだ。それもパラシュートなしで。

「つくしちゃん、もしうちがお金持ちだなんてことを気にしてるなら、お金なんておまけみたいなものなの。司のことが好きなら、おまけのことなんて気にしなくていいからね。うちにお金があるのは、おまけよ、おまけ。それに司のことは生物学的興味があると思ってくれたらいいからね。そんなに悩むほどの家じゃないからね?どうせ司だって動物的本能でつくしちゃんのことを好きになったに決まってるわ?」



説得力があるのか、無いのかよくわからない話しだ。
それにしても、お金があることをおまけと言える司の姉、椿。
さすが道明寺家の長女だけのことはある。





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コメント
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dot 2017.01.24 07:06 | 編集
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dot 2017.01.24 07:16 | 編集
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dot 2017.01.24 14:03 | 編集
椿**さん☆様
こんにちは^^
お姉さま、登場して頂きました。
椿さん。カッコいいお姉さまですよね?
映画のファイナル(DVD)見ましたが、お姉さんが出演されなかった理由はそうだったんですね?
司にとっての椿さんは一番の理解者だったと思いますので、司も寂しいでしょうし、お姉さんも同じ気持ちでしょうねぇ。
こちらの二人のイチャラブ(笑)司が大人な分、つくしちゃんをリードしながらでしょうか?(笑)
お心遣いいつも有難うございます。
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2017.01.24 22:49 | 編集
悠*様
お姉さま、ぶっ飛んだ発言をしますが、ぶれていませんか?(笑)
そうですね。つくしちゃんはぐるぐる思考の人で、考え過ぎる人ですね。
でも、坊っちゃんはそんな彼女がお好きなようです(笑)
そうです。坊っちゃんが幸せならそれでいいんです^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.24 22:56 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司が椿さんと現れ驚いたのは桜子(笑)
つくしはこの綺麗な人は誰っ?と思ったことでしょう(笑)
つくしが係長に昇進すると、結婚が遠ざかるか近くなるか・・
う~ん・・・(笑)
道明寺HDはハウスエージェンシーはないようです(笑)
この先つくしの会社を系列化するかもしれませんね?(笑)
紺野くんと桜子、あれからどうしたんでしょうね・・
お茶を飲みながら語っていたら本当に面白いですねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.24 23:12 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.01.24 23:40 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
椿の強烈な援護射撃(笑)
紺野くんは桜子を見て、司の姉の椿を見て、そのあと主任の顔を思い浮べてホッとした!と(笑)
紺野くん・・それは司に殺されますね?(笑)
椿さんは司の味方であり、つくしの味方でもあります。
弟思いの椿さん。弟の為ならひと肌でもふた肌も脱いでくれるでしょうねぇ(笑)
あっ!紺野くんは脱がなくてもいいですからね?(笑)
今夜は少し早めでしたね?アカシア頑張ってます(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.01.24 23:55 | 編集
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