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2017
01.23

エンドロールはあなたと 50

二人で歩道を歩くとき、つくしのヒールのコツコツという音が、隣を歩く男の靴音と重なることが増えて来た。

黒髪のハンサムな男性と、小柄な女性の組み合わせ。
想像力を働かせなくてもわかるほど仲がいいのが見て取れる。歩幅の小さい女性に合わせるように歩く大きな男性。そしてそんな男性を笑顔で見上げる女性の姿は、見ていて微笑ましいものがある。対し、愛情を表す一途な視線が、他の誰にも向けられることはなく、つくしだけを見つめてくれる。

自然のままが一番輝いている。
その言葉に、どこか気にしていた外見を気にする必要がないと知った。自分の人生に現れるとは思いもしなかった男性の存在が、慣れ親しんできた人生を少しずつ変えていた。

つくしにとって初めての男性。
道明寺司と恋人同士でいることに慣れて来たところだ。そんなとき、将来を見据えた話をしたいと言った男の態度に嬉さを隠せなかった。
だが、長年自分の面倒は自分で見てきた女は、この段階で昇進の話が持ち上がったことに悩んでいた。昇進すれば今以上に仕事が忙しくなることは、目に見えていたからだ。

道明寺社のワイン広告をライバルであった光永企画から勝ち取った功績は大きい。
そして光永が、今後道明寺社との仕事が出来なくなったことにより、博創堂への仕事の依頼が増えたのだ。きっかけはつくしが手掛けた今回の広告にあったと見たのは、博創堂の営業トップだ。もちろん、社内世論の多くは、道明寺司と牧野つくしが恋人関係にあると知ってはいるが、黙殺されていた。

道明寺社と光永企画の間に何があったのか。その経緯は不明だが、道明寺関連の事業全ての広告から、光永企画が外されたというニュースは、業界関係者の間で大きなニュースとなっていた。



「主任、おめでとうございます。係長昇進ですよ!」

営業からの帰り、つくしと紺野は喫茶店にいた。
仕事ぶりが評価され、係長への昇進が決まった。
それはまさに嬉しい知らせ。今まで懸命に仕事をしてきた甲斐があった。
主任と係長の何が違うのかと言われれば、どちらもさして変わりがないのだが、それでも嬉しいことに変わりない。自分の仕事ぶりが認められての昇進だとわかっているからこその嬉しさがある。

「え?うん、ありがとう」
「どうしたんですか?主任、あまり嬉しそうじゃないですね?」
「そんなことないわよ。嬉しいわよ?」
「そうですよね?嬉しいに決まってますよね?何しろ今回のテレビCMの反響も凄いですからね?」

テレビCMの反響。
確かにインパクトがあり、世間の注目を浴びていた。
ゴージャスで華麗な男女が過ごす一夜をイメージして作られたCM。
如何にも男女が愛し合った後だといったシーツの乱れと残されたワイングラスとボトル。
そこからジャグジーバスの中でのシーンへのカット。最期まで見なければ何のCMかわからないような流れとなっており、ハンサムな男性と若く美しい女性がジャグジーバスで軽く戯れるシーンまで、少しずつ商品の内容が明らかになっていく。それはまるで映画のワンシーンを見ているように美しく流れていた。
そして、CMは最後に次のような言葉で締めくくられていた。

低い男性の声が囁くように言った。

″至福の夜を愛する人と一緒に″

テレビで流れるたび、思わず見入ってしまうのはつくしだけだろうか。



「主任?どうしたんですか?」
「え?ど、どうもしないけど?」
「また何か悩んでますね?係長になるんですよ?何をそんなに悩むんですか?仕事は順調だし、道明寺さんとの仲も問題ないんですよね?それなのに何をそんなに悩むんですか?」

何を悩むんですか、と言われたからといって紺野に相談するようなことではない。
彼氏に将来を見据えた話をと言われれば、考えることはひとつしかないからだ。
誰か女の人のアドバイスが欲しい。決して友人たちが信頼出来ないわけではない。
ただ、もっと別の誰かの意見が聞きたいと思っていた。


「先輩、偶然ですね!」

そのとき、背後から声がかかった。
振り返ると、そこにいたのは三条桜子だ。
美しい人形のような顔の桜子は、襟ぐりの深いワインレッドのワンピースを着て、真っ赤な口紅を塗り、黒いマスカラをたっぷり塗った目でつくしの隣に腰を下ろした。

「桜子?どうしたのこんなところで?」
「先輩こそ、どうしたんです?」
「え?うん、営業からの帰り。ちょっと休憩かな?喉渇いちゃってね?桜子は?」
「わたしはこの近くのエステに行った帰りです」

なるほど。どうりで顔の艶がいつもよりもいいはずだ。
そんな桜子の視線はつくしの正面に座る紺野に移った。
四人掛けの席に座るつくしの正面には紺野。そして二人の間に腰を下ろしたのが桜子だ。

最近のつくしは、心の中で紺野のことを夢見る夢男と呼んでいた。
そんな夢男と毒舌家との対面にいやな予感がする。
男に対しては媚びるか高飛車な女は、紺野を前にどちらの態度で臨めばいいのか考えているようだ。そんな女は獲物のネズミを狙う猫のように目を細めて紺野を見た。

「先輩。このひと誰です?道明寺さんはご存知なんですか?」

ご存知も何もない。
司のことをボスとまで呼ぶ紺野は、いったい誰の部下かと思えるほど司を慕っている。

「え?ああ、あたしの部下の紺野君。紺野君、こちら三条桜子さん。あたしの親友なの」

桜子は紺野の顔から爪先まで視線を這わせると何やら納得したようだ。

「先輩。先輩の部下はまだ子供ですね?これなら道明寺さんも心配なんてしませんね」

桜子はとっておきの笑顔で紺野を見た。
この笑顔はどんな意味を持っているのだろうか?
男に媚びる笑顔ではなく、だからといって高飛車な態度でもない。

「三条さんはじめまして。牧野主任の部下の紺野です」

紺野もにこやかな笑顔で桜子に挨拶をした。
この二人にどこか通じ合うものがあるような気がするのは思い違いだろうか?
それにしても、紺野は見るからに称賛の眼差しで桜子を見ている。

「牧野主任、僕、こんなに綺麗な人を見たのは初めてです」
「そういうあなたも可愛らしいわね?」
と、にこやかに返す桜子。
・・やっぱり。
この二人はどこか似ていると思ったのは間違いではなさそうだ。



それにしてもコーヒー一杯でこんなにも盛り上がれるものなのだろうか?
桜子と紺野の話題はつくしの女としての魅力。どうしたらあんなに素敵な男性を射止めることが出来たのか?と言った話題に変わっていた。

「僕、牧野主任と道明寺支社長がまさか恋に落ちるとは思ってもみませんでした」

「そうよ。まさか先輩があの道明寺さんと恋に落ちるなんて思いもしなかったわよね?」

「三条さんもそう思いましたか?そうですよね?僕もまさかと思いました。だって主任なんてご覧のとおり、女としての武器が今ひとつ足りないんですよ。昔からそうだったんですか?」

「そうなのよ。先輩は昔っからそう。男に興味なしで勉強ばかり。おまけにいい年して女に磨きをかけようとか、そんなこと一切しない人なのよ。全く男っ気がない青春時代を過ごしてる人なのよ?それなのに彼氏はあの道明寺さんなのよ?信じられないでしょ?」

桜子のマシンガントークに口を挟むつもりはないが、そこに輪をかけて紺野の喋りが重なるのだから内心毒づきたくもなっていた。だが、ここで口を挟めば今以上何か言われることはわかっていた。この場は黙ってやり過ごすのが一番いいはずだ。

「三条さん。恋愛の段階で一番盛り上がるのはなんだか分かりますか?」
「決まってるじゃない。男と女が一番盛り上がると言えば、愛し合うまでの過程よ」
「そうですよね?僕もそう思うんです。僕も恋に落ちた女性が頭がぼーっとしてコーヒーを零す場面に遭遇したことがあるんです。何も考えられなくなってるって言うんでしょうね?」

つくしは黙って聞いていたが、内心興奮した紺野が何を言い出すかとヒヤヒヤしていた。
それに桜子もだ。そんな二人をもう止めた方がいいはずだ。

「ねえ、桜子も紺野君もいい加減・・」

そのとき、窓の向うに黒塗りの大きな車が止まるのが見えた。

「えっ!あれって道明寺さん?」
「本当だ。道明寺支社長ですね?」





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コメント
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dot 2017.01.23 13:47 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
係長昇進おめでとうございます!
こちらの会社での係長は忙しいと思います(笑)
CMも無事放送され、その映像を食い入るように見ているつくし。
何を考えているのでしょうか(笑)
紺野君と桜子のご対面。二人で言いたい放題ですね(笑)
やっぱりこんな部下は嫌です(笑)
憧れの人が登場しますが、盛り上がるのでしょうか?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.23 22:40 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2017.01.23 23:59 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
桜子と紺野くんは意気投合(笑)お互いに親近感を持っているはずです。
今回はこの二人の問題発言はなく、さっさと退場して行きました(笑)
司も何やら考えていたようですよ(笑)
紺野くん、支社長のことは諦めて下さいね!もう貴方には手が出せません。
何しろお姉さまがお見えになられましたので下手に手出しをすると、抹殺されてしまいます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.24 23:45 | 編集
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