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2017
01.20

エンドロールはあなたと 48

豪華な部屋の中にいるのは二人の女と一人の男。
そのうち二人は血の繋がりがあることが見て取れる。つくしは自分が置かれている状況が何を意味しているのかわかっているつもりでいた。

それは、まさに息子の恋人と面談をする母親に値踏みされていると感じていた。道明寺司がただの男でないことは初めからわかっていた。だが、まさか自分がこの男と恋人同士になるとは思いもしなかったのだから、目の前にいる女性に会うとは想像もしなかった。
道明寺の母親が魔女だとか鉄の女と言われて幾久しい。日本の企業社会に於いてこの人ありといわれる人物のひとりだということも充分承知している。

「わたくしが誰であるかご存知よね?」

言われなくてもわかっている。
だが開口一番、いや、二番がこの言葉となると、道明寺が口にした″礼儀正しく他人をコケにする″の言葉があながち嘘ではないように思える。

つくしは常識的に生きてきた女だ。礼儀をわきまえた女ならまずは自己紹介をするのが当然だ。だから相手が挨拶をしなくても、きちんと名前を名乗ることをした。

「はじめまして。牧野つくしと申します」
と、頭を下げた。
「あなたのお名前、とても珍しいお名前ですこと」

名前に纏わる話題はよくある。よく聞かれるのは、春に生まれたの?という問いかけだ。だがそこは興味がないのか聞かれなかった。

「こいつの名前は踏まれてもへこたれねぇ雑草って意味があるらしい」

司が抑揚のない声で言った。
そんなことをいつ話したかと思った。それに本当はそんな意味でつけられた名前ではない。

「あらそう。つくしさんって雑草なのね」

楓は鷹揚な態度でソファに腰かけた息子へ視線を移し、再び正面に座るつくしに目を向けた。

堅苦しい雰囲気をどうにかしたいと思っても、簡単にはいきそうにない。
母と息子の口調はどちらも冷やかで、抑揚がなかった。
道明寺楓は道明寺司の母親であると同時に、道明寺財閥を牛耳ってきた女性だ。新聞やテレビで見る姿より実物の方が一段と迫力があるのは当然だが、やはり本物は違う。一流デザイナーの仕立てであろうスーツ姿の女性の視線は、レーザー光線のように鋭くつくしを見つめていた。

「あなた、今うちのワイン広告を手掛けているそうね?」

楓はワイングラスを取り上げた。
なぜこんな場面でワインが出されるのか不明だが、テーブルの上にはワインとそれに合わせたオードブルが並べられている。まさかこれからパーティーが開かれるわけでもあるまい。いったい何の理由があってと訝しく思うが、整った顔の女性には当然だが隙がなく、表情を読み取ることが出来なかった。そして、礼儀正しいが心がこもらない会話とでも言えばいいかもしれないが、先ほどから交わされている会話に笑みが浮かぶことはない。この女性は声をあげて笑うことがあるのだろうか?ふと、そんなことが頭の中を過っていた。

つくしは膝の上で軽く手を組んでいた。真正面からじっとつくしを見つめる顔にはなんの表情も浮かばず、まさに鉄の女の異名通りではないかと感じていた。

「こちらのワインはカリフォルニアで一番といわれているワインよ?あなた司と一緒にあちらへ視察に行ったそうね?この味がわかるかしら?」

高級ワインと言われれば、それらしい味がすると言いたいのだろう。楓の鋭い視線を受け、つくしもグラスを取った。カリフォルニアで一番いいと言われるワイン。
勿論つくしも勉強した。実際あちらでも口にしたことがあった。

「あなたのことは調べさせてもらったわ。博創堂では営業主任だそうね?それになかなか営業成績もいい。そんなあなたは社会の出世階段を上りたいと望んで司とつき合い始めたのかしら?」

いきなり二人がつき合い始めた理由を聞かれ、言葉に詰まった。ただでさえピリピリとした空気が感じられるなか、放たれた言葉に隣に座る男の身体が動いたのがわかった。

「俺が望んでつき合い始めた。それにこいつは自分の仕事に誇りを持つ女だ。手なんぞ貸さなくても出世の階段ならすぐにでも上っていける実力がある女だ」

司はつくしの背中にそっと手を置いた。スーツを着た男の腕はまるでつくしを守るようだが、身体からは緊張が感じられた。
母親は息子の仕草を見て、二人の状況を確認しているのだろうか。その視線はつくしではなく、息子に向けられていた。

「司は優良物件。そんなふうに思ってるのかしら?」

息子のことを物件だという母親。向けられた視線はやはり冷たさが感じられた。

「ふん。俺が優良物件か・・」

司の口調も冷やかで本当に親子なのだろうかと思えるほどだ。
つくしは真剣なまなざしでしっかりと司の母親を見つめた。

「いいえ。そんなことは考えてもいませんし勿論違います。道明寺が優良物件だと仰る意味がよく分かりませんが、わたしは人間性が好きでおつき合いをさせて頂いています」

つくしはあくまでも礼儀正しく接しようと心掛けていた。
例え相手が魔女であろうと、鉄の女だろうと、どんな人でも好きな人を産んでくれた人だ。
あなたとは人種が違うと言われたとしても、それはそれで仕方がない。これから何を言われるにしても大人同士、きちんと会話が出来ればそれでいいはずだ。

「牧野さん。わたくしは回りくどい言い方は嫌いです。ですからはっきりと言わせてもらいます。御承知のとおり道明寺家は企業家の家系よ。わたくし達は食うか食われるかの世界にいるの。ですから司の相手に求めるのは、現実社会を見つめることが出来る人でなければ困るの。うちは昔、大河原財閥が握る石油事業が欲しくて司には滋さんとの結婚を望みました。おかしな言い方だけど、あの頃の司は所謂物件みたいなものだったのよ。どこの企業家の家でもそうだけど、息子や娘がいれば、それは家同士の関係を揺るぎないものにするための手駒のようなものよ」

相変わらず抑揚のない声は冷たく感じられた。
意味するのは、息子の交際相手が平凡な会社員では相応しくないということだろうか。
楓は短く息を吐き、話を継いだ。

「とにかく、滋さんとの結婚話を進めようとしたわ。結婚すれば石油事業も手に入る。それに司も少しは落ち着いてくれると思った。でも司も滋さんも二人とも自分の人生の伴侶は自分で決めるって断った。それ以来まるで当てつけのように女性と浮名を流しては別れるばかりで少しも本気でつき合おうだなんて考えない子だったわ。まあ、当てつけが昂じてかもしれないけど、仕事の面ではこの子の価値はもう十分と言えるほど力を発揮してくれるようになったわ。でもあの頃の司は道明寺家のレールから外れるような行動を取る子だったの」

この面談の意味は一体なんなのか?話の先が読めない。
隣に座る男はむっとした顔になっている。
この話しの着地点はどこにあるのだろうか。当然息子がつき合っている女を値踏みするためだとわかっている。だが何が言いたいのか?つくしは表情が硬くなるのを感じた。やはり滋レベルの女性でないとつき合うのを認めないと言いたいのか?

「わたくしは手を抜くような人間は嫌いです。あなたは司のパート―ナーとして見劣りしないくらいのレベルにはいるのでしょう?そうでなければ司があなたとつき合うはずはありませんから。そうよね?司」

司に目配せした楓はゆっくりとワインを口に運んでいた。

「当然だろ?俺がバカな女を相手にすると思ってるのか?頭がおかしな女なんかとつき合えるか?」

司はいくらか機嫌を直したようだ。尖っていた顔が少し平静になっている。

「ええ。わかってるわ。牧野さんは頭の浮ついた軽い女性ではないはずね?それから仕事を持つ女性なら自分で自分を見下すようなことはこれからもしないようにしなさい。あなたも自分の仕事にはプライドを持って臨んでいるはず。女性が高い地位とは言いませんが、それなりの仕事をしようと思えば世間から色々と言われることは当然です。避けなければならないこともあるでしょう」

それはまるで会議室で起きた小さな出来事を言っているかのようだ。
おそらく西田から報告が入ったのだろう。司がひとりの女性のために取った行動の報告があったはずだ。

「あなたが司を苗字で呼び捨てにするのを聞くと、なんだかおかしいわね?何しろ司を呼び捨てに出来る女性なんて今までいなかったはずだから。でも司はあなたに呼び捨てにされても怒らないわね?むしろ楽しんでいると言った方がいいのかしら?」

楓は微笑みながら言った。
その微笑みを好意的だと受け取っていいのだろうか?

「そのとおりだ。他の人間に呼び捨てにされたら頭に来ることも、こいつだと頭にこねぇな」

そのとき、初めて母親の片眉が上がるのを見た。その癖は司も同じだ。
途端、ほほ笑みを予感させるような口角の上がり具合が見て取れた。
司が何も言わず頷くと、母親の態度は急に変わった。人を見下すような小ばかな態度はない。
とにかく、さっきまであれほど冷たく感じられた態度が急に変わっていた。楓の視線は司からつくしへと移った。

「あなた、わたくしのことを意地悪な魔女だと思っているわね?そうでしょう?ごめんなさいね。冷たい態度に出たのは、あなたの反応を見る為だったの。でも意地悪は取り消すわ」

まるで何かきっかけがあったのか、楓は優雅な身のこなしで立ち上がり、綺麗にマニキュアが塗られた手を差しだした。つくしも慌てて立ち上がると右手を差しだした。

「いい結論が出せてよかったわ。ワインのマリアージュは人によって異なるけど、あなたと司の組み合わせはベストマリアージュになりそうな気がするわ」

本当にそう思っているかのような口ぶりだ。
楓はさっと背中を向けると部屋から出て行った。





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コメント
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dot 2017.01.20 18:19 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
終始緊張しっぱなしのつくしでしたね(笑)
はい。楓さん鋭い瞳で二人を見極めていました。
頭の良さ、そして人柄。それは少し会話を交わしただけでわかるそうですよ?(笑)
生まれ持ったものもあるでしょうね。つまり第一印象というのは大切だということですね?
楓さんも大人の二人を前に口出しをするなんて無粋なことはしないと思います。
それに司がつくしを溺愛している姿を見れば、反対は出来ないと思います。
楓さん、つくしを認めましたので、これから先は二人の気持ち次第ですね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.21 20:22 | 編集
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