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2017
01.19

エンドロールはあなたと 47

数日前。つくしは滋に電話し、道明寺楓に会いに行くと告げた。
司から聞かされたのは、母親がおまえに会いたいそうだ。の言葉。
まさにお呼びがかかったとも言えることだが、好きな人の母親との対面は避けることの出来ない障害物とまで言われ、どんな女性も一度は経験することだ。
すると、電話を受けた滋は、桜子を引き連れ、ピザとビール持参でつくしのマンションに現れた。
司の母親を直接知る人間は数少ないが、その中のひとりが滋だ。何しろもしかすると義理の母娘となっていたかもしれなかったのだ。そんな滋は楓のことを話し始めた。

「道明寺楓でしょ?なにしろ司の母親だもん。ゴージャスな女性よ?でもねぇ。口で説明するのは難しいのよ。何しろ鉄の女って異名を持つ人だから表情が読めないの。それに情け容赦ないところもあるしね。でも懐に入ってしまえばまた違うと思うんだけど、あたしはその懐に入るのはご遠慮したわけ」

カラカラと笑う滋はピザをひと切れ頬張り、「うん、おいしいわこれ」と満足げに咀嚼した。

「ところで先輩。道明寺さんとのセックスはどうなんですか?うまくいってるんですよね?まさか道明寺さんとのセックスが嫌いだなんてことはないと思いますけどどうなってるんです?」
桜子は藪から棒に言ってつくしの目を覗き込む。
「・・ぐッ・・」
つくしは口に運んだピザを喉に詰まらせそうになり、慌ててビールを口にし、胸を叩いていた。そんな様子を横目に滋は桜子に言った。

「あんたねぇ、うまくいってないなんて、そんな訳ないでしょ?」
「だって牧野先輩教えてくれないんですもの。ちゃんと出来たとか報告くらいあってもいいと思いません?」

不機嫌そうに口を尖らす女。
確かに桜子は恋愛指南を尽くしてくれた。だが、ちゃんと出来たとは?
何をもってちゃんと出来たというのだろう。
滋は口に持っていったふた切れ目のピザを箱に戻し、桜子を見た。

「桜子。つくしが嫌いなわけないじゃない。あの司よ?あんたどこの男に向かってそんなこと言ってんのよ?つくしはね、嫌いとか以前に知ろうとしなかっただけなのよ。今のつくしが司のこと拒否できると思う?そんなの絶対無理よ。でも残念なことしたわ。あたしも結婚しなくてもいいから一度司にお願いしておけばよかったかも。あの頃の司は野獣だったから、きっと激しかったわよねぇ・・・」

滋は掌に顎をのせ、遠い昔を思い出したように言った。

「でも今からだなんて言ったらつくしに怒られちゃうわよね?」
と、ちらりとつくしを見た。

「滋さんっ。なんですかそれ!そんなのズルいじゃないですか!それならあたしも今からでもお願いしたいくらいです!」
「桜子、冗談に決まってるじゃない。それにあんたは絶対無理!だって司は作り物の胸なんて嫌いだと思うわよ?あの男、まがい物は嫌いだからさ」
「なんですか!そのまがい物って!」
「だってそうでしょ?だいたい司はつくしの胸が理想なんだから、あんたの大きな胸なんて好みじゃないのよ!」

滋と桜子はつくしそっちのけで言い合いを始めた。
だが、いつものことで決して本気ではない。

「・・ふ、ふたりとも・・あのね、今はそんな話じゃなくて、道明寺楓・・」
滋と桜子は同時につくしを見た。
「そうですよ、今はこんなことを話している場合じゃないですよね?」
「そうよ、桜子。今はあたしたちの話なんてどうでもいいのよ!」

話があらぬ方向に傾きかけたが、なんとか軌道修正出来たとつくしはホッとした。
これでやっと滋から道明寺楓について少しは聞く事が出来るはずだ。カンニングペーパーとまでは言わないが、知りたいことがある。なにしろ相手は魔女だ。

「で、先輩。どうだったんですか?道明寺さんとのセックスは?」
「そうよ!つくし、どうだったの?あたしもそれは知りたいわ!だって司がどんな体位が好きなのかとか興味あるじゃない?」

なぜ話がそっちの方向に向かうのか?軌道修正出来たと思ったが、修正どころか逸脱して方向転換して戻ってきた。興味津々の二人の友人は教えるまで解放しないわよ。と言っているのが感じられた。

「えっ?どうだったって・・ふ、普通よ、普通・・」
途端、桜子は
「だからっ!今更カマトトぶらないで下さいよ!教えて下さい、道明寺さんってやっぱり凄いんですよね?それに普通って先輩は何が普通かなんてご存知ないでしょ?」
「そうよ、つくし。やっぱりひと晩中離してもらえなかったんじゃない?」
だから何がどう凄いと言えばいいのか。
「あのね・・生物の授業で習ったとおりで・・」
つくしの頬が赤く染まった。

「・・先輩ってヤル事ヤッてもまだ顔が赤くなるんですね?」
桜子は半ば呆れた様子で言った。




***





おとぎ話の主人公になればハッピーエンドが約束されているはずだが、つくしはこれから川を渡る心境だった。ルビコン川を渡るシーザーとまでは行かないが、彼女の武装はいつもよりも上等なビジネススーツと司が買ってくれた靴だ。あの時以来、靴の数は確実に増えていた。
つくしは司に聞いたことがある。

「ねえ、もしかして道明寺は靴フェチなの?」
「いや。おまえと出会ってからだな。おまえが踵の高い靴を履いて俺の目の前で転んでからだ。おまえのせいである日突然そうなったのかもしれねぇ」

と答えを返され、ほほ笑んだが靴といえばシンデレラだ。
あの物語には意地悪な継母がいる。
だがシンデレラにはもう一人重要な女性がいる。それはシンデレラに魔法をかける年老いた妖精の存在だ。もし今の自分が魔法をかけられた女性なら、道明寺はまさに王子様ということになる。いや。王子様というよりも王様と言った方がいいかもしれない。
惨めな境遇からちょっとしたきっかけで幸運を掴み、成功した人をシンデレラと言うが自分は違うと思っている。それにつくしはこれから向かった先で、靴を置き忘れて帰るつもりはない。


世田谷にある道明寺邸と、司の住む高級マンションは、車に乗れば目と鼻の先にあるほど近い場所にある。都内に広大な邸宅を構える道明寺家は戦前からこの場所にあるという。凝った装飾のある門を抜けると、その先にはまるでどこかの公園のような庭が広がっていて、その中を車はゆっくりと進んでいた。敷地内に私道があるようで道のりは遠い。その先に見えてきたのはコロニアル調大宮殿だ。

隣に座るつくしは、司の態度がいつもと違うことに気づいた。整った顔立ちが冷たさを帯び、いつになく無表情に感じられる。

「ねえ。道明寺・・アンタのお母さんってどんな人なの?勿論知ってるけど、それはあくまでもニュースとか雑誌とかで見るくらいで・・」
「・・うちの母親か?そうだな。礼儀正しく他人をコケにする・・か?」

その言葉に思わず唾を呑み込みそうになる。
そんな簡単な言葉で終わるなら、世間がどうして魔女だなんて言い方をするのかわかっているのだろうか?

「・・ありがとう。なんだか最高な人みたいね?」

つくしにしてみれば、単なる恋人の母親という簡単な話ではない。
なにしろ相手は道明寺HDの社長だ。普通の人間が簡単に会える人物ではないことは充分承知している。

メイドの出迎えを受けた玄関ホールは広々としてどこか寒々しい。
広大な邸宅の中に足を踏み入れ、重々しい廊下を歩いていく。壁に掛かっているのは先祖の肖像なのだろうか。見つめられ、目が合ったような気がした。そして、その下に飾られているのは、恐らく想像もできない価値を持つ花瓶や壺なのだろう。

司に連れられ、広々とした豪華な部屋に入ったが誰もいなかった。

「まきの。いいか。これからうちの母親と会うわけだが、ひとつ言っとく。嫌われても俺がついてるから心配するんじゃねぇぞ?」

どう言う意味かと聞こうとした。だが、ノックもなくいきなり扉が開かれ、背後から人が入ってきた気配が伝わると、つくしは立ち上って振り返った。


「牧野さん。どうぞおかけになって楽にしてちょうだい」





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コメント
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dot 2017.01.19 14:54 | 編集
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dot 2017.01.19 20:18 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
そうですよね、誰かと比べようがないので、答えようがありませんねぇ(笑)
昔の司が桜子と滋と・・う~ん・・知り合いですから無いと思います(笑)
「礼儀正しく人をコケにする」
司の言い方が冗談なのか本気なのかつくしも判断つかず、何か言わなくてはと思い素敵な人ね。
と言ったことでしょう。でも大人の言葉でしたね^^
いよいよご対面です。何を言われるのでしょうねぇ。

毎日1名しか当たらない!倍率はどれくらいあるのでしょうねぇ・・
でも応募しなければ当たりませんし、誰かに当たる・・もしかしたら努力が実るかもしれませんね?
はい。何事にも希望を持つことは大切ですよね?
あら。断られたのですか?興味ないのでしょうか?
明日もチャレンジ頑張って下さいね!当たりますように・・本当に宝くじのようですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.19 23:26 | 編集
サ*ラ様
こんばんは^^
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします!
楓さん登場(笑)でもいい年をした大人の二人ですから(笑)
楓さんは陰でこそこそしませんねぇ(笑)堂々としています。
「Collector」の司の両親・・黒いですね。
あちらは色々と大変なようです。父親が怖い人です。
次回もなるべく早く頑張ります。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.01.19 23:35 | 編集
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