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2017
01.16

Collector 27

Category: Collector(完)
花沢類が過去にどんな男だったとしても、今の彼はただ手をひらひらと振るだけの男ではない。かつては呑気そうだと言われた男に、矢継ぎ早に質問を浴びせられることがあったとしても、その質問をぶつけて来た人間に一瞥をくべることは出来る。

「花沢専務!あの記事は本当だったんですか?」

類は足を止めることなくビルに入った。
花沢物産の専務が仕事もせず女に惚けている。低俗な週刊誌に書かれた記事に第二弾、第三弾はなかったが、類の父親はいい顔をしなかった。

「類。こんな意図的な記事を書かれる理由があったのか?」

社長である父親は、類が職務をまっとうしていないとは思ってない。誰かが何らかの意図を持ち、デタラメな記事を書かせたと理解している。今現在ロンドンに住んでいる父親が帰国したのは、記事のこともあり顔を見たいと思ったからだ。

「あの記事のことで責任を取らされるような事態はないが、どちらにしても驚いたよ。誰かの恨みでも買ったとしか言いようがないな、こんな内容では」

スキャンダラスめいた記事を書かせることは誰にでも出来ることではない。
類の父親が言いたいのは、やはりそれなりの金と権力がなければ書かせることが出来ないと言うことだ。だが、この週刊誌以外に書かれていないということが、信ぴょう性が低いことを示していた。しかし事実関係を否定しないことが世間に悪い印象を与えることに違いがない。

そんな事よりその記事が出たと同じ頃、経済新聞に載った花沢物産が系列化を画策していた案件が道明寺によって阻まれてしまったことの方が重大だ。道明寺が花沢を凌ぐ好条件を出したと言われているが、政治と金の力が働いたとわかっている。だがすでに終わってしまったことは、どうすることも出来ない。

「ところで、類は相変わらず牧野さんを探しているのか?」

花沢家で暮らしていた女性は類にとってはどんな相手だったのか。
父親は息子に聞いたことがある。だが子供の頃から心を洗いざらい話したことがない男だ。自分の正直な気持ちを打ち明けたのかどうか、父親にもわからなかった。

ただの友人だよ。そう返された。

恐らくそうだろう。その点は間違いないはずだ。いくら普段離れて暮らしている親子だとしても、子供のことはわかるものだ。例えそれがわかりにくい子供だとしても、親子の絆というものは忠実で、血の繋がりがある親には分かることがある。それはどこの親子関係でも言えるはずだ。

男女の関係はなかったようだが、彼女が類の生活の考え方を変えたことは否めない。他人を受け入れることがなかった息子が、事故で両親を亡くした少女と弟を家に住まわせたいと言って来たとき、正直驚いた。それは優しさと同情を混同することのない息子が初めて親に頼んできたことだ。決して幸福な暮らしをしてきた少女ではなかったが、新しい暮らしに慣れるのは早かったのではないだろうか。だが慣れ親しんできても、心の内を開いて見せることはなかったように感じていた。そんなところはある意味息子と似ていたのかもしれない。


「...牧野は司の所にいるよ。でもどこにいるのかがわからないんだ」

唐突に言われたが父親は黙っていた。
類と道明寺家の息子との関係は幼い頃からのつき合いではあるが、今の二人の関係はあの頃とは違うようだ。それは大企業の跡取りとしての責任が二人の間を遠ざけたのか。それとも息子の口から出た牧野つくしの存在があるのか。陰ではあの女性は司君のところから逃げて来たと言われていたが、それが正しいのかどうか本当のところは分からない。どんなことにも理由があるが、それは当事者以外知りようがない。それに人の心の奥には踏み込んではいけない部分があり、興味本位で聞くことではない。だが道明寺家は一族の仕事と血の繋がりを重要視する家だ。当然跡取りである息子に対して求めるものが大きい。恐らくそのことが関係しているはずだ。

「会えるかどうかわからないけど俺これから司に会ってくるよ」

類は突然何を思ったのか。言うと父親に背中を見せていた。





***






あの日の翌朝、司は寝ている女をそのままに山荘を離れた。
夜のうちに降り積もった雪はさほど多くなく、空は晴れていたが北西の風が冷たかった。
冷たい風はまた次の雪雲を連れてくるはずだ。そしてまた、絶え間なく雪を降らせる灰色の冬の空が戻って来る。

過去に同じような風景を見たことがある。あれはカナダの雪山で遭難しかけたときのことだ。山小屋で一夜を明かし、よく晴れた朝を迎えた。あの頃はまだ互いの存在を認めるか認めないかと葛藤していた頃だったはずだ。あのときの司は何も考えず、雪の中に飛び出して行った。なんの躊躇もせず、自分の命さえ顧みることもなく、吹雪のなか女を探した。

あいつはあの時のことを覚えているだろうか。あの日と同じようによく晴れた雪の朝の景色をどう思った?今、あいつはあの山荘で何をしているだろうか。純白の雪が広がる景色を見て何を思った?

それと同時に思うのは、あのとき、銃を撃った人間はどうしたかということだ。だが雪の中で何かしようとは思わないはずだ。周囲の警備を固めるように木村には伝えていた。純白の雪に足あとを残すとすれば動物くらいだろう。あれはどこかのハンターが迷い込んで猟銃を発射したなどという単純なことではないはずだ。人間を動物のように狩ろうとする。明らかに意図を持った人間の仕業だと考えていた。そして言うまでもなく、牧野つくしを狙ってのことだと思っている。

そのことを別にしても、白い山の斜面が陽射しに反射しキラキラと光っていた景色は美しいと感じた。司は思った。何かを目にして美しいと感じたことは今までなかったはずだと。
何かを見て心が動かされることはなかった。

ただ、執務室を飾る一枚の絵を除いては。

それは冥府の王ハデスが春をもたらす農耕の女神ペルセフォネをさらい、自分の元へと縛り付けようとしている様子が描かれた絵だ。ニューヨークの画廊で手に入れたその絵。

その絵を前に手の中にある重みを確かめていた。それは女から取り上げていたネックレスだ。ほんの僅かの重みでしかない小さな球体。かつて少女とふたり遠くの夜空を望遠鏡で覗き、目にした星を模った球体のネックレスが彼の手の中にある。

今の司が何を思って目の前の絵を眺めているのか。絵の中の男の行為は蛮行と言えるが、女を愛しているから、ひとりではいたくないからと、地獄の底へと女を連れ去ろうとしている姿を自らと重ね合わせているのか。


まだ高校生だった二人が日常の現実とかけ離れた時を過ごしたあの夜。

あの夜からどれくらい時間が流れた?

再会し、このネックレスが女の首にかかっていたのを目にしたとき、自分の感覚の中に嬉しいと思う気持ちがあったはずだ。

司はつくしを思った。
朝、目覚めたとき、隣に眠る女から感じられた規則正しい安らかな寝息に平安を感じた。
肘をつき、身を起こし見つめた顔は美しかった。まるで何かを決意したかのように絶対的確信を込めたような表情。
それは夜の行為がもたらしたものだったのか。抱きしめられた女の手は司の髪の毛を撫でていた。唇に触れる指先とこめかみに落とされた口づけ。華奢な手で背中にしがみつき、愛していると言った。あの日、吐き出された言葉は真実なのか?

だが今、司の目の前にある絵は男の手から逃れようとしている女の絵だ。
もし、牧野が示したのが偽りの愛だとすれば、そのときは―――
司は唇から溢れそうな言葉を堪えた。

あの女の言葉を信じていいのだろうか。
あの口は真実を言っているのだろうか。
まっすぐ見つめてきた瞳は誠実そうに見えた。
牧野つくしを信じたい。
自分の傍にいると言った女の言葉を。
愛してるの言葉を。
女の口から放たれた言葉を信じたい。
だが、傷ついた心で信じあえる日がくるのか。



あの雨の日が嘘だったと誰かに言って欲しい。

記憶のいたずらだとしてもいい。

あの日、制服を着た少女は数時間前までは彼と一緒に笑っていた。司は何年経ってもあの日を探すことが止められない。今までの人生であんなに夢中になったことはなかったはずだ。
決して思春期の少年にあるような熱に浮かされた思いではなかった。だからどんな仕打ちをされたとしても、例え自分の元を去っていったとしても、10年もの間忘れられなかったのも、心の奥深く閉じ込めた思いがあったからだ。好きなのだ。彼女のことが。牧野つくしのことが好きだから、求めることを止められないのだ。だからこの絵の男と同じように女をさらってまでも自分の傍に置きたいのだ。


魂が求めていたのか。


その思いが司を正常ではない精神状態に置き、犯罪と言える行為に走らせてしまったのか。

司が見つめるその絵の女は無理矢理連れ去られた女。
まさに司の行為そのものだ。

「・・クソッ」

司は小さく自分に悪態をつき、絵から顔をそむけた。


今の司には喉に刺さる骨の欠片がある。
この10年、そんな欠片を感じたことはなかったはずだ。それなのに、牧野つくしと再会してから感じられるようになっていた。大した痛みではない。ただ、時折その欠片が過去を思い起こさせることがある。

骨の欠片は彼の行為がもたらした結果なのかもしれない。
多くの会社を潰し、ハイエナのような行為を繰り返してきた男には、死んだ動物の骨が咽の奥に突き刺さったように感じられているのかもしれない。数えきれないほどの死骸を乗り越えて来た男にとっての小さな骨。今までなら彼の動きを止めるようなことなどなかったはずだ。だが、今ではその骨が司の動きを止めようとしていた。

社会規範というものは、誰にでもあてはまる。それは伝統や習慣であったり、道徳であったり、法律などが含まれる。その規範がなければ人は人間性を失うと言われている。司には当てはまらないと思われていたその規範。それが彼の中に芽生えたということだろうか。



判断力を失うとは言わないが、類と会うことを了承したのは、喉に突き刺さった骨がそうさせたのかもしれない。花沢物産の専務がお見えですと秘書が伝えてきたのは、ほんの10分前。アポイントも取らず突然現れるあたりが昔の類を彷彿させた。一触即発という訳ではなかったが、いつだったか類が訪ねて来たとき、二人の男の間に漂った空気は陰鬱だった。だがそれは今も変わらない。




「この前来たときこの絵はなかったね?」

類は壁にかかった絵に目をとめ近寄った。暫くその絵の中に描かれている男と女の姿を見つめ、何か納得したかのように話しを継いだ。

「ハデスとペルセフォネだね。地獄に住む男とその男に囚われた女か・・。地獄に住む男にも愛する人がいた。どんな世界に住んでいても一人で生きていくのは寂しいってことか。司、まさかこの絵を投資対象で買ったなんて言わないよね?」

類は彼独特だと言われる少し茶色い眼球で司を見た。

「類。何の用だ?絵についてのおまえの感想を聞きたいなんて思ってない。それに一体何が言いたいんだ?」

司は類の言葉に神経を逆撫でられていた。
デスクの端に身体をもたせかけ、煙草を取り出すと火をつけ、吸った。

「俺もおまえに言いたいよ。今まで何度面会を申し込んでも会おうとしなかったおまえがなぜ俺と会おうなんて思ったんだ?」

「そんなことはどうでもいい。それより用があるから来たんだろ?なんの用だ?」

「司。俺あの記事のことで文句を言いに来たんじゃないから」

類は、司が仕組んだことだとはっきり言ったようなものだ。

「司。牧野はおまえのところにいるんだよね?どこにいるかは知らないけど、おまえが牧野を欲しいのは今も昔も同じなんだろ?牧野つくしの勤めていた会社を追いつめて手に入れた。ひとりの女が欲しくて会社を追いつめるなんておまえらしいというか、スケールが大きいっていうのか。まあ今のおまえならどんなことでも出来る力があるから誰も文句は言えないだろうね」

類は牧野つくしについては察しのいい男だ。
ほんの短い間だったが彼女のことが好きだったことがある。牧野つくしも類に対して気持ちがあった。だが類に対する気持ちはやがて別なものへと変わっていた経緯がある。

「フン。類。わかったような口を利くがどこの世界に女ひとりが欲しくて会社を追いつめる人間がいる?」

「いるよ。俺の目の前に。だけど司がしていることは間違ってる。司が腹を立てているのはおまえの前から去った牧野が俺と一緒に暮らしていたことに対してだろ?」

二人はじっと立ったまま互いの表情を窺っていた。

昔、類と司がひとりの女を取り合うようにしたことがあった。
二人の好みが似ていたということは、この時まで誰も気づかなかった。司の態度は露骨なほどで、誰の目から見ても、明らかにその女を欲していた。結果として女は司を選んだ。類はそれからその女のことは、まるで違った目で見るようになっていた。性的な対象としての女ではなく、心理的なことから惹かれていた。実際その女と暮らすようになると、長年心にあった世間に対する無関心ともいえる皮肉癖は消えていった。

「司。牧野のことで誤解があるといけないから言っておくよ。俺と牧野は男と女というより気の置けない友達だ。あの時からずっとね。だから俺に変な対抗意識を燃やすのは止めて欲しい」

類は素っ気なく言ったが司は信用しなかった。司にとって類という男は、過去に失ってしまった牧野つくしと一緒に暮らしていたという事実以外思い起させるものはない。

「牧野がどうして俺と暮らすことになったのか調べたの?発端となったのは牧野の両親が交通事故で亡くなったことだけど、その事故について調べたのか?」

司は何も言わず、長い沈黙だけが続いていた。

「どうして俺がそんなことを調べる必要があるんだ?」

歪んだ笑いで答える司は類をバカにしたように言った。

「牧野がどうしておまえとの別れを決めたか聞いたのか?いや。いい答えなくて。答えたらおまえの傍にあいつが居るってことを認めることになるからね。とにかく、 金のためにおまえを捨てたと言われたんだろ?でもそれはそう言わなきゃならなかった事情ってのもあった。何しろあいつの父親は金にだらしのない男だったんだ。司も知ってただろ?あいつの家の貧しさを」

司もそのことは充分承知していた。いつもアルバイトに明け暮れ、家計のやり繰りに頭を悩ませるような女だった。

「人は出自や育ちが選べないのは司もわかってると思うけど、牧野だってそうだったんだ。高校生だった女に何が出来る?追い込まれたらどうしようもないことだってあるだろ?まあ、おまえには理解できないことかもしれないけどね」

「類、偉そうなことを言うが、おまえだって同じだろうが。おまえも貧乏なんて経験したことがないのに何がわかるんだ?」

「確かに俺にもわからないよ。でも誰にだってまちがった人生がある。牧野があのとき選ばなければいけなかったのは仕方がない人生の選択だったんだ。家族のためだったんだよ。それから、おまえは今牧野と一緒にいるんだろ?それならもうこれ以上自分を陥れることは止めろ。過去になにがあろうと関係ないんじゃないのか?おまえはそれくらい牧野のことが好きなんだろ?なにがあったとしてもあいつのことが好きなんじゃないのか?」

司は反論しかけた。だがそれより早く類が言った。

「司。選ぶことが出来るのはこれから先だろ?過去は変えることは出来ない。それから例え未来に決められた何かがあったとしても今のおまえならそんなこと、ものともしないはずだ。いい加減被害者意識ってのを捨てたらどうだ?物の見方や考え方を変えてみることも必要だよ」

「類。俺はおまえと俺の物の見方や考え方について議論する必要があるとは思えない」

類は自分の言葉に司がどう反応するかわからなかった。もっと激しく否定されるかと思ったが、口調は攻撃的だとは思えない。ならばと穏やかに話しを継いだ。

「俺は何も論議するつもりなんてないよ・・・ただ、どうしてこんな話をするんだと思ってるよね?司があんな記事を書かせたり、うちの事業計画の邪魔をしたからだと思ってるんだろ?別に俺はそのことを言いにきたんじゃない」

ならば類はいったい何を言いたいのか。

「類。言いたいことがあるならさっさと言え」

「勿論言わせてもらうよ。どんな形にしろ、おまえが牧野を自分のもとに閉じ込めた状態でいることは俺もわかってる。一度おまえがこうと決めたことを周りが覆すことが難しいってこともわかってる。だからおまえと牧野が二人っきりでいる状況なら、変な話だけどあいつがおまえに本当のことを話すんじゃないかと思ってたよ。俺と牧野の間には何もなかったって。それにどうしておまえの前から消えることになったかも」

類とつくしが男と女の関係でなかったことは司もすでに知っている。
司がつくしを抱いたとき、処女だったのだから。

「俺とあいつの間に何もなかったってことはもうわかってると思う・・。それでもあんな記事まで書かせて、俺の仕事の邪魔をするのは理由があったんだろ?俺と牧野がいくら何もなかったからといって、心がおまえに向いてないようじゃ許せないよね?それに俺が牧野を探していることも煩かったんだよね?あの記事が出たとき思ったよ。牧野はまだおまえに自分の気持ちを伝えてないんだって。でも今日こうして俺に会う気持ちになったのは、牧野がおまえに何か言ったからなんだろ?」

つくしが司に言った言葉が司の気持ちを動かした。
類はそう確信している。

「確かにおまえが牧野を監禁したことが分かったとき、俺は慌てたよ。おまえがあいつになにをするか気が気じゃなかった。だから探した。何しろあの頃のおまえは昔のおまえとは違う人間だ。これは俺の想像だけど、暫くは牧野もおまえを憎んだろうし、おまえもあいつのことを憎んでいたはずだ。だけど時間がたてばその思いも変わって来たんだろ?だからこうして俺と会うことにした。そうなんだろ?」

司の沈黙は類の言葉を認めたようなものだ。
彼の中の生々しいまでのつくしに対する憎しみは癒え始めているのかもしれない。

「司。牧野はおまえと別れてもおまえの事は忘れたことはなかったよ。それに別れを告げたことを後悔していた。それにおまえから貰ったネックレスだって大切にしていた。おまえはあいつのほんの一部しか知らないんじゃないかな?こんなことを言うとまた昔みたいに司が嫉妬してあいつに何かするんじゃないかと心配になるけど」

あの頃、類はあたしの一部だからと言った女がいた。
それに深く嫉妬した司がいた。

「それと、もうひとつ」
類は司の表情に移ろうものを感じながら言葉を継いだ。
「どうして俺の家にいたかだけど、ここから先は俺の独り言だと思って聞いて欲しい。おまえの親父さんだよ。牧野の両親が交通事故で亡くなったことで天涯孤独になったのも確かだけど、おまえの親父さんから守るためでもあった。いくら司の父親が権力者だとしてもうちにいれば簡単に手は出せないからね。ここまで言えばわかってくれたと思うけど、おまえは俺に対して憎しみを抱いている場合じゃない」

二人の男の間に静けさが横たわっている。
司はデスクに身体をもたせかけたまま動かずじっとしているが、指に挟んだ煙草の灰が床に落ちる音を聞いたような気がした。そんな中、口を開いたのはやはり類だ。

「・・・それから・・司。おまえは世界一幸福な男だよ。男が一生のうちに出会えるかどうかわからない本当に好きな人におまえは高校生の頃に出会ってるんだ。羨ましいよ、そんな司が。いい加減おまえも自分の気持ちを認めろ。牧野に復讐したいだなんてこと、今じゃ思ってもないんだろ?」






復讐の姿というものはどんな形で現れるのだろうか。
司のとった牧野つくしに対しての復讐とは、女を閉じ込め、子供を産ませ、道明寺家に対しその女が産んだ子供を後継者として受け入れさせることだったはずだ。
まさに獲物をつかまえ、服従させるためだったはずだ。そして、その復讐をしながらも自分の心は制御できると思っていた。自分自身の姿は今のままでいいと思っていた。

人は自分が傷ついて惨めなとき、他人を傷つけたくなるものだ。
だから彼も他人を傷つけることで心のバランスを保っていた。そして残酷な男になっていった。一度残酷さを身に纏った男はそう簡単にあの頃の自分に戻れるとは思ってない。
あの頃の自分。それはひとりの少女と出会ったことによって変わった自分。
10代の頃の司は牧野つくしに出会うまで人を愛するということを知らなかった。
いや。知ろうともしなかった。だが一人の少女に思いを向けた真っ直ぐな少年だった自分がいたはずだ。


あの山荘で牧野に愛していると打ち明けられるとは予期していなかった。
その告白が心の中にある堅い壁に穴を開けたのかもしれない。
司は上着のポケットに入れられていた小さな球体を取り出し、眺めていた。


5分ほどぼんやりとしていただろうか。
煙草の匂いが漂う執務室にいるのは彼ひとりだ。

火のついた煙草を灰皿に戻し、電話を取った。





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コメント
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dot 2017.01.16 05:38 | 編集
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dot 2017.01.16 06:09 | 編集
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dot 2017.01.16 10:33 | 編集
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dot 2017.01.16 14:54 | 編集
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dot 2017.01.16 14:55 | 編集
す*ら様
司は父親とどう向き合うのか・・・
父子の関係。男同士です。楓さんとはまた違った状況となるはずです。
道明寺家の男たちはそれぞれプライドが高いですので、どうなるのでしょう・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:02 | 編集
悠*様
こちらのお話は心理に重きを置いて書いています。
心の動きを感じて頂き、ありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:05 | 編集
pi**mix様
類くん。やっと出て来ましたね(笑)
長く語って頂きました。司へこれだけ言えるのは類以外いないのでは?と思いました。
司の心の変化は行動にも表れていますので、この先の動きがどうなるか・・。
絵画はまさにその通りです。司の気持ちを代弁していると思います。
類くんはつくしちゃんが幸せならいい。そんな思いかもしれませんね?
でも、少し好きだった思いもあるのかもしれません。
坊っちゃん。答えが出たのでしょうか・・
もしそうなら早く手を打った方がいいと思います!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:15 | 編集
さと**ん様
類、語ってくれました。
はい。この前までの司は、類に会って話を聞くなんて、頭の片隅にもありませんでした。
つくしの決心が大きく影響を与えたということでしょうか?
本人も好きだと認めていますので、憎しみの量が少しだけ減ったのかもしれません。
司の父親。楓さんより恐ろし人です。
つくしの両親の死と関係があるようです。
司、誰に電話をしたのでしょうか・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:22 | 編集
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dot 2017.01.17 00:26 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司と類。二人で話をすることが出来ました。
今まで類と会おうとしませんでしたが、やっとです。
つくしの言葉と行動が司に変化をもたらしたようです。
つくしのことを信じてみようと思い始めたのではないでしょうか?
ネックレスは取り上げていましたが、その球体を見て何を思う?
司と父親の動きが気になりますねぇ。
終着点ですか?はい、一応そのつもりです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:29 | 編集
ハ*子様
更新頑張ります!
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:34 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
予想外でしたね(笑)ちまちま書いて休日に仕上げました。
司の氷は溶けかかっています。類はわかっています。
この二人は運命を共にすべき二人だと。ただ、怖い人が・・。
木村さん‼寝返らないで下さい!(笑)
そこへ紺野くんが!「紺野!おまえなんでこの物語に出て来るんだ!」
赤ずきんの狼のようにつくしのフリをしてベッドで待つ紺野くん(≧▽≦)
そんなことになったら大変です!それに撃たれますよ、紺野くん(笑)
お見事です。紺野くんをここまで育てて下さってありがとうございます。
今週も夜更かし同盟!!アカシアも本日は大丈夫です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.17 00:44 | 編集
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