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2017
01.13

エンドロールはあなたと 43

安堵する。
司は今まで自分自身この言葉の意味を感じたとこはなかった。
常にどこか攻撃的だった彼の人生に安堵するという感覚はなかったからだ。
だが、牧野つくしに身に何かあるのではないかと思ったとき、はじめてこの言葉の意味を理解した。

『今日は支社長のお世話になって下さい』 と紺野に言われ笑った牧野。
だがその後、浜野に何をされそうになったか気づいたとき、恐怖を感じ、唇を震わせていた。
その瞬間、司は抑えきれない思いが湧き上がり、牧野つくしの震える唇を己の唇で塞いでいた。いつも司の思いの方が強かっただけにキスを返され、身体の力が抜けたと感じたとき、思いが溢れた。動揺した女を自宅マンションでひとりにすることに躊躇した司は言った。

「まきの、今日はこれから俺のマンションで俺の帰りを待っていてくれないか?」

外出予定だった司のスケジュールは彼の取った予定外の行動により狂ってしまった。
本当ならこのままつくしを連れ帰りたいが、そうもいかず、どうしてもの用件だけは済まさなければならない。

「これから行かなきゃなんねぇところがある。けど、すぐに帰る。だから待っててくれないか?」

二人は黙ったまま互いの瞳の奥を見つめ合った。
今日あった事態は二度と起こって欲しくない。だが女性が男性並に仕事をし、成功する事を妬む輩がいることも確かだ。仕事をする能力が高い女性ほど、妬みや誹りを受けやすいことは彼も知っている。だから司はそんなつくしを守りたいと思った。仕事がしたいなら道明寺で仕事をすればいいと言い出しそうになっていた。
そうすれば二度とあんなことは起きないはずだ。いや、二度と起きないと保証できる。
男が女を愛するとき、欲しいと思う気持ちと守りたいという気持ちがあることを知った。

こいつは考えているはずだ。何しろ何でも真面目に考えたがる。
だが司には司の勘というものがある。今、その勘はイエスという言葉が口から放たれると思っている。考える時間はいくらでも与えるつもりだが、司はつくしと一緒に過ごしたいと思っている。今夜はひとりで夜を過ごさせたくない。司は息を殺してつくしの返事を待った。



微かに微笑みを浮かべたのはつくしの方だ。決して避けられない状況ではないが、つくしは口を開くと言った。
いいわ、と。
勿論、司の言った言葉の意味はわかっていた。

牧野つくしのほほ笑みで、司はどこか緊張していた肩から力が抜けたのが感じられた。

「いいのか?本当に?」

少し間を置いてつくしは答えた。

「・・いいわ。どう言えばいいいかわからないけど、こうとしか答えられないから」

つい最近まで全く知らなかった人がこうして自分のことを心配してくれていることが幸せだと感じられる。それに道明寺と一緒にいたいという気持ちがある。
自分で自分が恥ずかしくなるほど奥手だということは、わかっている。だから好きだと言ってもなかなか前へ踏み出すことが出来ない自分がいた。気が引けるわけではないが、コマーシャルの絵コンテを見せられ、道明寺が求めているものがはっきりとした今、長い間避けてきたことに踏み出したいと思えた。いい年をした女かもしれないが、そんな女を求めてくれる人がいる。それにあたし達は互いの価値を認めた人間だ。道明寺を個人として好きになったのであって、周りのものは必要ない。

つくしも、つくし自身を好きだと言ってくれる人に巡り会えたのだ。今思えば互いに見た目で判断するのではない、相手の後ろにあるものではなく人として、個人として選んだ相手だ。
もう少し、時間をかけて道明寺のことを知りたいと思ったが、もう十分わかった。
この人は、あたしのことを大切にしてくれる人だ。あたしはそんな道明寺が前よりも、もっと好きになった。
だから、もっと道明寺のことを知りたい。
全てを知りたいと思える。



司は両手でつくしの顔をはさんでキスをした。
大きな手だが頬を包んだのは優しい手だ。決して強引ではないキスは唇に触れ、何かを納得させるようだ。キスはキスだというが、かつて舌まで入れた男は、あの時とはまったく違うキスをしていた。
技巧を凝らしたキスではないが、それでもつくしにしてみればこの先に起こることを予想させるには充分すぎると思えるほどだ。それはつくしにとって初めての経験。
司の両手が頬から離れ、唇も離れた。

「いいんだな?本当に?」

その言葉の意味はもう十分わかっている。
頷くつくしに、司は再びキスをすると、両腕でしっかりと抱きしめていた。




***




司は予定していたよりも遅い時間マンションへ帰宅した。
だが待っていてくれる人がいる。そのことに胸の中で騒ぐものがある。
本来ならつくしと食事に行くつもりでいた。だが、スケジュール変更を余儀なくされた結果がこんな時間の帰宅となっていた。この時間には食事も済ませているはずだ。司はメープルから食事を配達させていた。

かつての司にとってのセックスは、愛がなくても出来るものだった。
過去つき合いがあった女性との関係は、言い方は悪いが肉体的な欲求を満たすための関係だったと言える。男なら愛がなくても出来ることがあるからだ。束縛を嫌っていた司にとって女性は必要悪の範囲だった。だが牧野つくしとの関係はそんな気軽なものではない。なにしろ司がはじめて惚れた女だ。

廊下の先にあるリビングから明かりが漏れていることが嬉しく思う。
普段眠るためだけの部屋。そしてどんな女も足を踏み入れたことのないこの部屋。
そこにいるだけでいいと思える存在が扉の向うにいるはずだ。

「まきの?」
呼びかけながら扉を開けたが、返事はない。
「・・まきの?」
まさか?帰ったなんてことはねぇよな?
一抹の不安が頭を過ったが、ソファに横になる女を見つけ安堵した。

司はひとり微笑みを浮かべ、つくしの傍へ膝をつき、眠る顔をじっと見つめた。
こうして女が眠る姿を見るのは、カリフォルニアでのワイナリー視察で、風邪をひき寝込んだとき以来だ。 あのとき、司は女を目の前に自分と闘っていた。それに女を抱くのは随分と久しぶりだ。だがそう言った意味でこいつが欲しいわけじゃない。愛してるから欲しい。本当はすぐにでも抱き上げてベッドへ運びたい気持ちがある。だが、牧野ははじめてだ。そんな女に歓びを与え、一緒に歓喜を味わいたい。そして、その時の表情を見たい。愛らしい顔は、いったいどんな表情を見せるのか。

やがて司の気配に気づいた女が目を覚ました。

「あ、お、お帰り道明寺・・気づかなくてごめん・・あたし、いつの間にか眠ってたみたい・・」
つくしは片手で顔を擦った。
司はつくしの顔を見守るように見ていた。
「まきの・・」
「・・なに?」
「おまえ、本当にいいのか?」

司の言いたいことはわかっている。
昼間の会話が思い出されていた。いいのか?と問われ、いい。と答えた。
その意味は理解している。
つくしは顔が赤くなることを承知で言った。

「あの、先にあやまっとくけど、下手だと思うから・・その・・」
つくしは言い淀み、司を見た。
「もし何かあったら、あたしのせいだと思うから気にしないでね」
「何かってなんだよ?」
「だ、だから。ほらはじめてだと難しいっていうでしょ?いろいろと・・こんなこと話していいかわからないけど、楽しめなかったらごめん・・」

司はにやにやせずにはいられない。だがなんとか笑いを堪えていた。
牧野つくしは自分のことより司の心配をしているという状況に、おまえ、俺を誰だと思ってるんだ、と言いたくなったほどだ。

「これまで・・二の足を踏むじゃないけど、そんな経験がないからわからないじゃない?だから道明寺が気に入るかどうか自信がないって言ったらおかしい?」

自分の気持ちに気づいたというのに、なぜか行動に移すとなると戸惑いが隠せないつくしは言い訳がましく言葉を継いでいた。

「別に結婚するまで処女を守るとかそんなんじゃなかったけど、いつの間にか歳だけ重ねちゃって・・」

「まきの・・もういいから・・これ以上何も言わなくていい」

司はつくしが一生懸命話すのは緊張しているからだとわかっていた。
いちいち司の反応を窺うように言葉を区切り、何か言われるのではないかといった表情で見ている。

「そうよね、こんなこと長々と話すようなことじゃないわよね・・ゴメン道明寺・・なんか緊張しちゃって・・」
「...もういい。少し黙ってろ」

頬を紅潮させた女は途中で黙った。そんな女の唇を司の唇が塞いだ。
つくしは突然のことに驚いたがちょうどよかったのかもしれない。もうこれ以上喋らなくてもいいからだ。

司はつくしを抱き上げ、ベッドへ運んだ。






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コメント
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dot 2017.01.13 12:41 | 編集
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dot 2017.01.13 16:19 | 編集
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dot 2017.01.13 18:56 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
安堵する司。←似合いませんね?(笑)でも彼もひとりの人間ですからねぇ。
大人の司もマンションにいるはずのつくしがいないと慌てます(笑)
道明寺HDにつくしを引き抜くと、もれなく紺野くんも付いて来るかもしれませんね(笑)
恐らく連れてって下さいと言うはずです。
紺野くんをつくしの傍に置いて報告させる?いいかもしれませんね。
紺野犬ですね?(笑)そんな紺野犬と先生が被ったんですか?
犬みたいに可愛い先生?そんな先生なら部下でもいい?25歳・・。未知の世界です(笑)
そうですね。紺野くんと年齢が近いです。紺野くん入社3年目だったはずです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.14 00:32 | 編集
さと**ん様
愛に目覚めた大人の司(笑)
アカシアの好きな坊っちゃんを勝手に作っております(笑)
「牧野、本当にいいのか?」
いいの。いいの。とあかべこのように首を高速でふる(笑)
さすがさと**ん様!的確な例えです!
司、つくしちゃんが大切なんですね・・羨ましいです。
つくしは緊張するとおしゃべりになり、なにやら言っていますが、そんなつくしをキスをして黙らせる司。
続き、どうなるんでしょうか!
アカシアもつくしちゃんと同じく先にあやまっておきます。
ご期待に添えないかもしれません(低頭)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.14 00:41 | 編集
悠*様
胸がキュンですか?坊っちゃんにですよね?
でもこの坊っちゃんつくしちゃんしか目に入らないので、他の女は無視です(笑)
目の前に立つと「てめぇ邪魔だ!どけ!」と言われるはずです。
筆が進まない時は無理をせず、別のことを考えるのもいいと思いますよ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.14 00:50 | 編集
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dot 2017.01.14 01:05 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
ハナキン活動中です(笑)明日、紺野くんが乱入しないようにお願いします!
つくしちゃん、緊張してますね。でも司に任せておけば大丈夫でしょう(笑)
紺野くんの日記?それともポエムでしょうか?
ポケットにいつもワセリン!!(≧▽≦)紺野くん、アカシア場面を想像してしまいました!
読めば読むほど笑いの渦に引き込まれて戻れなくなりそうです。
司に一歩踏み出す勇気をもってと言う紺野くん(笑)
なんだか紺野くん、どんどん危険な方向へ進んでいますね。
紺野くんを見る目が変わりそうです(笑)
しかし、日々パワーアップしていますね。恐ろしいです(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.14 01:30 | 編集
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