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2015
09.18

キスミーエンジェル18

客室のドアは閉じられていた。
つくしは束の間ためらった後、そのドアを押し開くと中を覗いて見た。
そしてその部屋を調べはじめた。

すでに明かりがともされていた部屋はブルーグレーのカーペットが敷きつめられていた。
厚手のカーテンも同じブルーグレーで統一感があり落ち着いた雰囲気が感じられる。
大きなベッドのそばにあるソファは深い青色で部屋全体をクールで気品のあるものに見せていた。
そしてベッドメイキングも施され、いつ誰が来てもいいように整えられている。

つくしは文字通り着の身着のままで道明寺の別荘に泊まるはめになってしまった。


ドアはノックする音とともに開いた。
つくしははっと息を呑み振り返ると道明寺が戸口に立っていた。
「牧野、部屋は気に入ったか?」

道明寺はドアの側柱にもたれ、腕を組み自分の支配する世界の中ですっかりくつろいでいる様子だ。


「とても・・素敵ね」
つくしは無意識に呟いていた。
でも気に入るも何もないじゃない? 私は用意された部屋で休むだけ。
そしてこんな事になった理由(ワケ)を聞いてみることにした。

「私を迎えに来た車はどうしたの?」
「あの車はお前を降ろした後、帰っていった」

たとえ車があったとしても道明寺は私をホテルまで送るつもりはなさそうだ。
それにこの霧だ。
無理を押し通してかえって事故にでも遭ったら大変だ。

「ねえ、もう時間も遅いし、あんたも明日も仕事があるんだし、また明日の朝会いましょう」

私も実際悪天候の中、山道の運転で疲れているしこの会食で思考能力がゼロに近くなっている。
この際道明寺の別荘だろうが何であろうが早く休みたかった。
替えの下着も化粧品も何もなくてもなんとかなるわよ。
私はこの男から早く自由になりたかった。

「道明寺支社長、悪いんですけど本当に疲れてるの」
あんたも大人なら分かるでしょう? 出て行ってよ。

「嘘つけ・・・」
道明寺はまるでつくしの心の中を探るように答えてきた。
そして壁に造り付けられた大きな観音開きの扉を開いた。

「牧野、お前の必要そうなものは大体揃っていると思うぞ?」

つくしはそう言われ、その扉の方へと駆け寄った。
開け放たれた扉の奥、そこには女性物のスーツが数着とブラウス、ハイヒールそして下着に至るまで揃えてあった。


「これって誰の仕業?」
騙されないわよ。
つくしは隣に立つ男の顔を仰ぎ見た。

「 おれ? 」
道明寺は困惑した表情を見せてきた。
あんた以外誰がこんなことするのよ。
この状況は最初から仕組まれたことの様に思えて来た。
つくしは道明寺の顔を凝視した。

「俺をそんな目で見るな」
「そんな目ってどんな目よ?」
「悪意に満ちた目だ」
「あ、悪意を持ってるのはあんたの方でしょ!」
「俺のどこが悪意なんだよ」
「あんたは・・・・」 くちごもった。

道明寺はつくしの心の中を読んだかのように言った。
「俺は変態じゃないぞ!」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
が実はそう思っていた。
大体「赤の他人」の着る服や下着なんてどこの男が買うって言うのよ!
まさかとは思うけど、この男私の下着を自分で手に取って選んだってことは無いでしょうね?

「お前、俺が選んだと思ってるんだろ?」
「・・・・いいえ」
「いや、お前の顔には間違いなくそう思っていると書いてあるぞ」

笑いを含んだような道明寺の口調につくしもなんだかバカバカしく思えてきた。
これ以上この男に振り回されるのは好ましいとは言えない。
が、つくしのすぐそばに立つ男は何かにつけて親しさを示してくる。

「ねえ、今日は本当に色々あって疲れているの・・・だから・・」
「ああ、分かってる。山道を運転して疲れたんだろ? 俺が新しく造った道があったのにレンタカーのナビが役立たずだったそうだな」
「そうよ。あんたに初めて感謝したのが新しい道を造ってくれたことだなんて言ったら・・」
「お前のためなら、道路の一本や二本すぐにでも造ってやるさ」

道明寺はそう言いながら優しい眼差しを向けてくる。

「お、お願い。もう出て行ってくれない?」
「牧野、なにを心配しているんだ? もし俺がお前を抱くことを心配してるならもうとっくにそうしてるぞ?」

そう言いながらつくしの髪に触れたかと思ったらゆっくり休めよと言う言葉を残し出て行った。



「よかった・・・・そうならなくて」









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