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2017
01.12

エンドロールはあなたと 42

本能的に身体をよじらせ、あらがった。

「やめて!放してよ!」

浜野の手を振り払って逃げようとしたが、彼はつくしの腕を離さなかった。

「牧野さん、道明寺支社長とつき合ってるらしいね?だからあなたの企画が採用されたってことなんだろ?」

人の口に戸は建てられぬと言う。いくら箝口令が敷かれていたとしても噂というものは一人歩きもする。浜野はどこからか二人がつき合っていることを耳にしたのだろう。
男の掴んだ手に力が入った。
浜野が言外ににおわせていることを、理解できないほどつくしもバカではない。女性の営業が大きな契約を勝ち取れば、必ず思われるのは男と女の関係に持ち込んだと思われることだ。だがつくしは理解できないとばかり言った。

「何をおっしゃりたいのか分かりません。放して下さい。もしこれ以上不躾なことをおっしゃるようでしたら大声を上げますよ!」

つくしは本気で大声を上げるつもりだ。
それにこれ以上つけ入る隙を与えないためにも弱気な態度を見せるのはよくない。

「それにしても、牧野さんのような女性でも男を篭絡させることが出来るものなんですね?それもあの道明寺支社長をですから、あなたも相当なテクニックをお持ちなんでしょうね?枕営業なんてしたことないような顔をされてますが、実はかなりの腕前なのでは?」

「わたしはそういったことはしません!」

つくしは精一杯の厳しい声で言い切った。
どうやったらこの男から逃げることが出来るかと考えたが、感情的になれば相手も感情的になる。とにかく掴まれた腕から離れることが第一だ。

「そんなことをしてまで契約が欲しいとは思いませんから」

「別にそんなに否定しなくてもいいですよ。それに恥ずかしがるようなことではないと思いますよ。誰でも大口の契約は欲しいですからね。それにしてもあの道明寺支社長があなたとつき合っていること自体が信じられないな。まあ、どうせ契約絡みのようだし、遊ばれて捨てられるのは目に見えてるね」

浜野はつくしを司と寝て契約を取ったと決めつけているようだ。
つくしの胸に怒りが込み上がる。

「それにしても世間じゃ30過ぎの独身女は相手を見つけるのが大変だと聞くが、あなたは例外だったってことですね?でもまさか道明寺支社長と結婚出来るなんてバカなことを考えてはいないでしょうね?あの方は一流の人間で我々とは住む世界が違いますからね。変な夢なんて見ない方がいいですよ、牧野主任。もっと自分のレベルに合う男を見つけてさっさと結婚したらどうですか?」

女はさっさと結婚して子供を産めという考えは、一部の男性の間ではまだ根強い。
特に年を重ねた人間ほどその傾向がある。まさかそれをこの男に言われるとは思わなかった。それに、事実に反することを言われていることに腹立たしさが収まらない。身体を武器に契約を取り、結婚も出来ない女だなんてことを平気で言われ、ただ黙っているなんてことは出来ない。

「浜野さん。何を根拠にそんなことをおっしゃるのかわかりませんが、わたしは自分の身体を武器に契約を取るなんてことは絶対にしません。それは過去にもありませんし、これから先もありません。いい加減に手を放して下さい!」








司と紺野はエレベーターから降りると走った。
会議室はエレベーターから一番離れた場所にある。廊下には誰もおらず、二人の男がたてる革靴の硬質な音が響いていた。

紺野の話す光永企画の浜野という男がこのビルにいる。それなら牧野と出会った可能性はある。いや。可能性ではない。司には感じるものがあった。
遠くから、かすかだが叫び声が聞える。それは紛れもなく女の声。司は扉を開け、中に入った。

「まきのっ!」

司が目にしたのは、男がつくしの腕を掴み、引き寄せようとしている光景だ。
そしてつくしが身をよじって逃げようとしている姿に、司はカッとなると素早い行動に出た。獰猛なコブラよりも早い動きで右手を繰り出し、拳を男の顎に命中させた。瞬間、司の硬い関節が男の顎の骨を砕いたのではないかと思われるほどの音がした。殴られた男は床に倒れ、呻き声を上げると自分を殴った男を見上げた。

「ど、道明寺支社長・・」

怒りに駆られた司は床に倒れた男を引っ張り上げ、喉を掴み、胸と胸がくっつくほど引き寄せた。
「おまえが浜野か?」

喉を掴む手、すなわち顎の下を掴む手に力がこもり、男の身体が持ち上げられると爪先が床から離れた。
「おまえ、浜野かって聞いてんだ!」

男はなにも答えることは出来ず苦しそうに顔を歪めている。
喉の奥から微かに呻く声が聞こえるが、喉を強く掴まれた状況で返事など出来るはずもなく、そのうちに顔の色が変わって来た。

「支社長――」
遅れて現れた西田が何か言おうとするのを司は目で制した。
「西田、心配するな。さすがに今の俺は昔みてぇなことは出来ねぇ。おい紺野、牧野を連れて隣の部屋へ行け」

司は部屋の入口に立つ男に向かって言った。
これからすることをつくしに見て欲しくないという思いがある。かつて暴力に明け暮れていた自分の姿を知られたくない思いがあった。

西田は紺野とつくしが部屋から出ると、入れ替わりに二人の男を招き入れ鍵を閉めた。
長年仕えている上司の過去を知る数少ない男は黙っていた。少年時代の道明寺司という男は喧嘩をすれば百戦百勝負け知らず。向かうところ敵なし。彼の歩いた後には無意味な喧嘩のあとが残り、秘書はその後始末に追われていたという過去がある。だが大人になった司は無意味な喧嘩をすることもなく、その代わりビジネスという名の戦場でその才能を発揮していた。
だが今の道明寺司はあの頃と同じように相手の男を殺しかねないほどの形相だ。

「それにしても、いい年した男が、仕事をライバル会社に取られたぐれぇでごたごた抜かすようになったらおしまいだと思うが?」

締め上げた男の喉から返事があるわけではない。そして苦痛の呻きが漏れることはない。男はかなりぐったりとして来ていた。だが司の手は緩められることがない。まるであの頃、暴力が生活の一部であった男の姿がそこにある。

司は面倒くさそうに左手の人差し指と親指で目の周りを揉むと、するどい視線を浜野に向けた。すでに浜野の顔色は土気色になっていて、この場には異常なまでの静かな空気の流れがある。だが司も秘書も冷静で、こんなことは日常だと言わんばかりの態度だ。

「どうするか。この男」

「支社長。もうそのあたりでよろしいかと思いますが」

「西田。いいわけねぇだろ?この男、牧野に何をしようとしたか分かって言ってんのか?」

司が言いたいことはここにいる男たちはわかっているはずだ。
プライドが高い男は自分の思い通りにいかないことがあれば、それを阻んだものに対し攻撃を仕掛ける。そして踏み潰そうとする。相手が女なら手段はひとつ。
もし、司と紺野が来るのが遅れたら・・。
そのことが司の頭を過ったことに違いはない。

「浜野。おまえ今度牧野に触れたらそこの窓から投げ落としてやるからそう思え。まあそれ以前にうちの会社に入ってこれるかどうかだな?おまえの会社とは取引中止だ。金輪際うちの会社の仕事は無い」

男は頷くことも返事をすることも出来ないほど顔色がない。
すでに気を失っているかもしれない。最期の息寸前までいっているかもしれない。
下手をすると命のカウントダウンが始まっているかもしれない。

「クソが!」

怒りが抑えきれなかった司の口から出た言葉。
今の司は決して乱暴な言葉を吐く事はない。だが自分の言動に気づかないほど怒りに我を失っている。司が手を放さないかぎり、浜野の身体は床から浮き上がったままだ。司の手は緩みそうにない。人間の脳は酸素が行かない状態が長ければ長いほど機能障害を起こすことがある。司は当然そのことを理解している。今の状態がこのまま続くと、浜野は障害が残るかもしれない。

「司様。もうそろそろよろしいのでは?あとはこちらで処理いたしますので牧野様をお願いいたします」

西田が敢えて名前で呼んだことで司は我に返り、男の首から手を放した。
ドサッと床に崩れ落ちた男の身体はピクリとも動かずその場に横たわっていた。だが生きていることに間違いはない。司はそんな浜野を力一杯蹴り上げていた。




司は隣の部屋に走り込んだ。

「おい!牧野っ!大丈夫か?」

部屋の隅で椅子に腰かけたつくしに紺野が寄り添っている。
司はつくしの傍に近寄り、腰を屈めた。小さく頷く女は自らの身体を両腕で抱きしめるようにしている。男に襲われそうになるということが、どれだけ恐怖なのかと思えば、やはり浜野を窓から投げ落としてやればよかったかと思った司。手を伸ばし、つくしの身体を抱きしめていた。

「大丈夫だ。もう二度とあんな男はおまえの傍には近寄らせねぇから心配するな」

「うん...ちょっと驚いただけだから、ごめんね心配かけて....」

浜野に対する態度に、つくしは自分の知らない司を見たような気がしていた。だが怖いとは思わなかった。それにそんなことはどうでもいいような気がする。

いつも自分の身に降りかかることは自分で処理しなければならなかったが、守ってくれる人がいるということがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
道明寺の心配を嬉しく感じる。自分一人でも生きていけると思っていた頃もあったが、今は違う。この短い時間でもっと道明寺のことを知ったような気がする。
この人は自分の大切なものを守るためならある意味手段を選ばない人間だ。

「紺野。俺はこれから牧野を送っていくから会社には適当に言っておいてくれ」
「はい。ボス。わかりました。任せて下さい」

任せて下さいと返事をする紺野。
いつから紺野は司の部下になったのか?
司とつくしは顔を見合わせた。
そして二人は笑っていた。

「牧野主任、今日は支社長のお世話になって下さい。会社には打ち合わせが長引いてるとか適当に言っときますから。じゃあ、僕は帰りますね」
その言葉に思わず笑ったつくし。その表情に司は安堵した。

「元気が出たか?」
「うん...大丈夫。でもどうして道明寺がここに居るの?」

司は下で偶然紺野を見かけたこと。浜野とつくしの話を聞き胸がざわついたことを話した。そしてやっぱり俺たちは運命に導かれているんだという結論に落ち着いていた。
そんな話をしながらも、つくしの唇は震えていた。
いくら気丈に振る舞っていても、浜野に腕を掴まれ引き寄せられそうになっていたことに恐怖を感じたからだ。
その感情を読み取ったのは司だ。
彼はつくしの震える唇を唇で塞いだ。それは衝動的とも言える行為だ。キスしたかったからキスをした。いつものことだが本能的な行動ともいえる。

それまでつくしはキスをされても、自ら返したことはなかった。
だが今は司の豊な髪の毛に両手を差し入れ、キスを返していた。





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コメント
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dot 2017.01.12 08:53 | 編集
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dot 2017.01.12 09:54 | 編集
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dot 2017.01.12 12:17 | 編集
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dot 2017.01.12 13:26 | 編集
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dot 2017.01.12 20:36 | 編集
悠*様
こちらの司は大人ですから、色々なものをダダ漏れさせているかもしれませんね(笑)
そうですねぇ。本は知識の泉といいますが、自分にあったスタイルを探すことも大切だと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.12 23:02 | 編集
す*ら様
こんにちは^^
司が男の首を掴んで持ち上げる。見たいです!!
記憶が定かではないのですが、こちらに近いシーンが原作のどこかにあったと記憶しております。
雨の日の別れのあと、荒れた司にそのようなシーンがあったかと・・。
どちらにしても怪力の持ち主。司なら簡単だと思われます(笑)
バイオレンスな司。確かに彼、つくしに出会わなければそっち方面に走っていたかもしれませんね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.12 23:17 | 編集
さと**ん様
浜野、嫌な男でしたね。
真面目に仕事をしてきた女性の敵です。
司の手は早かったです。首を締めあげる司。
下手をすれば浜野の命はありませんでした。
大人の司、つくしに自分の過去の暗部は見せたくなかったようです。
配慮がありましたね(笑)
紺野くん。司へ「ボス」発言です。
司のワイルドな部分を知った紺野くん。
ますます司に憧れることでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.12 23:24 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司と紺野くん、間に合いましたね。
浜野はつくしを襲うつもりでつけて来たのでしょうね。
そんな浜野は司が本気だと知らなかったことが誤算でしたね。
命を落とす寸前まで行ったのではないでしょうか。
紺野くんのような部下。欲しいですか?でも少しうるさいですよね?(笑)
静かにしなさい!と言いたくなります(笑)
嬉しそうに「ボス」発言していました。何しろ司は憧れの人ですから(笑)
はい。今回のことで二人の仲は一気に加速しそうです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.12 23:36 | 編集
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dot 2017.01.13 00:34 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
紺野くん。エレベーターの中でも大人しくしていました(笑)
そして『ボス』と司を呼ぶ紺野くん。頭の中を「太陽*ほえろ!」が過りました(笑)古いっ!
浜野は道明寺HDとの契約を失いました。出入り禁止にもなり、会社を首になる恐れがありますね?
司に助けられたつくし。そうなんです。また司の魅力を知ってしまいました。
そして、まるでマ**チ様の呟きが聞こえたかのような展開となってまいりました。
”つかこん”の行方も気になります。でもマ**チ様が浜野のように司に吊り上げられては大変です。
本当に寒いですね。今週末は大寒波!マ**チ様もお気を付けて下さいね。
本日ハナキン!夜更かし同盟健在です(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.01.13 23:17 | 編集
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