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2017
01.05

Collector 26

Category: Collector(完)
*表現に性的な文言が含まれますのでご注意下さい。
************************




この山荘の静けさは、今に始まったものではない。
外の世界は白く変わりつつある。

女をこの場所に連れて来たのは罰を与えるためであって、守るためではなかった。
だがあの銃声は偶然の産物ではない。それにこの界隈は道明寺家の地所であって一般人が立ち入ることも出来ず、当然狩猟は許可されてない場所。だからこそ誰かが狙って撃ったとしか言えない状況だ。

山の冷気に響き渡った銃声。

いったい誰が?

それも牧野を狙ったということに理由がある。司ではなく、女を狙う。
確かにそれは昔からよくある話しだ。男の情婦を痛めつけることでダメージを与えるという戦法。ビジネスに於いて使える手段があれば何でも使う。そしてそれを躊躇しない。
しかしこの場所にしても、牧野つくしの存在にしても、誰かに知られているとは思えない。

だが司には敵が多い。彼がこれまで潰した会社の関係者か?それとも相手はプロか?
いや。もしプロなら外しはしないはずだ。だが何かの拍子に手元が狂ったか?

あのとき両足に力を入れ、銃をかまえ引き金をひいた。
弾は木々の間を縫って飛んでいった。隣で小さく声が上がったのはわかった。鋭い銃声は山に響き、狙撃者を威嚇したはずだ。
相手はスコープを覗いているはずだとわかっていたが、そんな状況で司が銃を放ったことで、より明確にこちらの居場所がわかったはずだ。そして誰がこの場にいるか。


激しい狂気を目に宿している男には敵が多い。
ならば、ロシアンルーレットのような人生もいいか?いつかどこかで撃たれ死ぬ。
その引き金を引くのが自分だったとしてもそれは仕方がないことだ。

司は自らが銃を放ったあと女の手を取った。彼に手を引かれて歩く女の手に震えを感じ、不安を感じ取っていた。それと同時に肺の中に入り込んだ冷たい空気が熱を持ったのが感じられた。それは女の恐怖を感じ取ったからなのか。それとも銃口をこちらに向けていた人間に対しての怒りからなのか。だからと言って決して息を荒げることはなかったが、反対側の手に握っている銃を再び使うと考えることを疑うことはなかった。そして全思考を女のために傾けていた。



司自身、自分が命を狙われることがあるとわかっていた。世界的企業の頂点にいる男は、常に自分の身に起こる不測の事態に頭を巡らせなければならないことがあるからだ。
たとえ周りに誰もいないこの山荘にいても。だが決して警護が手薄なわけではない。
自らルールをつくり、他人をそれに従わせ、コントロールする男。

要は、自分のしたいようにするのが彼のスタイルだ。誰にも文句は言わせない。いや、もはや今の彼に対し口を挟む者はいない。だから女をここに閉じ込めた。それが犯罪行為だったとしても構わないと。

だがどんなに罪を犯した人間にでも、善なる部分があるという。
逆に善人と呼ばれる人間には悪の部分がある。それはコインの表と裏。誰もが心の中に悪を飼っている。だが一度悪だと決められた人間はどうすれば生きていけるのか?
そして誰にも強さと弱さがある。他人に弱さを見せることが出来ない男がいるとすれば、その男はどうしたらいいのか?
黒か白か。どちらかの色を選ばなくてはならなかった人間は、どちらの色を選ぶ?

かつて司の心の中にも真っ白な心を持つ子供がいた。その子供は大きな囲いから逃げ出そうとしていた。だが、その子供はもういない。幼な子が持つような真っ白な心は、決して取り戻すことが出来ないとしても、ひとりの人間をどちらかのカテゴリーに閉じ込めてしまっては、もう二度とその囲いから逃げ出すことは出来なくなる。

司の人生がそうであるように。

道明寺家の人間として生きることを定められてしまった男。


今の彼は他人の内臓を喰らい、吐き出し、その吐き出したものをまた喰らう。
それは彼が買った会社であり、バラバラにして売り払った会社。
まるでハイエナのような行為。
そんな行為に手を染め生きてきた男。
人に憎まれ、恐れられる人間になった男。
他人の心の痛みなど感じることなく生きてきた男。
その結果、彼の心の中には醜い塊がある。


そんな男を今でも好きだと言った女。
好きだと言って顔を赤らめる女。
この女は昔から本当のことを話すとき、必ず顔を赤らめていた。ならば口から出た言葉は本当のことだというのか。
今まで身を固くして拒んでいた女の態度が急に変わる。
そうなると、司の中でも訳の分からない怒りのような気持が湧き上がる。



「いったいどういうつもりだ?」

長いあいだ彼は身じろぎもせず、口を開かなかった。だが低く唸るような声で言った。
司の前にいる女は、白い肌に細い体をした女。ほんの一瞬だったが躊躇いを見せながらも、自ら衣類を脱ぎ捨てた。当然その意味を理解しているからこその行為。過去10年で、司の前に体を投げ出す女は大勢いた。だが決して本気になどなったことはない。

女の黒い大きな瞳と司の目は合ったままだ。司は自分を見つめている女を見て思った。
暗闇の中に立つ男がいる。その男が求めたのはただひとつ。恋焦がれ、憧れ、欲した世界があった。それは牧野つくしがいる世界。彼女だけが連れて行ってくれるはずだった世界。愛に飢えた少年だった頃求めた、たったひとつの光りだった女。その女が自ら衣類を脱ぎ、立っている。

彼には両手があり、目の前には抱かれてもいいという女がいる。
それなら差し出された身体を受け取ればいい。当時思い半ばにして彼の元から離れて行った、いや、彼を捨てた女。二度と振り返ることなく自分を置き去りにした女が自らの意思を持ち、裸でそこにいるというのに何を躊躇う?歩み寄って、抱きあげて、ベッドに運べばいい。だが、今の司の心の中には得体の知れないものが住み着いてしまったかのように感じられる。以前その場所にいたのは別のものだったが、得体の知らない何かが彼の心の中にあった。

司は躊躇った。だが何を躊躇う必要がある?

「道明寺。あたしは今でもあんたのことが好き」

女は、司の微かな戸惑い感じとったのか、はっきりとした口調で言った。
その言葉に感じられるのは強い意志。それは昔女が司に向けていた態度と同じだ。






つくしは自分がどんなふうに見えているかわかっているつもりだ。
今の道明寺にしてみれば、自ら裸になって身を差し出す女など珍しくもないだろう。だが今、目の前にいる男の目に見えたのは、どこか憂いを秘めた瞳だ。
それはまさにつくしの心を映し出す瞳と同じだと感じていた。

つくしが放った言葉が司の心を揺り動かしたのは確かだ。
男の心は感情を抑えてはいるが、彼の心の中には激しい嵐が吹き荒れているはずだ。彼の父親によって結ばれることを不可能とされた関係だったが、こうして再会すれば、また再び気持ちが結び合った一瞬があったとつくしは思った。

ふたりの仲はまだ終わっていない。

幼い頃の男は今のような男ではなかったはずだ。
小さな頃は、孤独でも、近寄りがたくもなかったはずだ。
だがその子供は成長するにつれ、心が凍り付くことになったのだろう。男の子供時代を台無しにしたのがつくしではないとしても、彼がつくしと出会ってから手にした希望を台無しにしたのは、つくしだ。


つくしは心の中の思いを口にした。

「道明寺。あたしを抱いて?あたしは、あんたが好き」


近寄り、手をのばし、目の前の男の乱れた黒髪を直していた。黒い瞳を縁取る男の睫毛は長く濃い。その睫毛が瞬いたのを感じていた。

不思議な気持ちだ。かつて少年だった男は以前にも増して人を寄せ付けない男になっている。それでも今の男の口元に皮肉っぽい歪みもなく、無防備な少年のように見えた。もし、これが母性だというのなら、この人を助けなければならない。
指先を伸ばし、乱れた髪を直し、顔の輪郭がなぞれるなら、心の中にある孤独の縁をなぞりたい。




司の目の中に暗い影がゆらりと横切る。

男の手がつくしの手首を掴んだ。

「いったいどういうつもりだ?俺を好きだと言えば、自由にしてもらえるとでも思ったか?それとも俺を憐れだとでも思っているのか!おまえに・・あのとき、おまえに・・捨てられた俺を可哀想だとか、憐れだと言いたいのか?」

司は女に憐れみをかけられるなど、自分のプライドが許さない。
激しい怒りの目でつくしを見据え、口元に力を入れ皮肉な笑みを浮かべた。

「俺を憐れんでもらわなきゃいけない男だと思ってるのか?」

その言葉が司の口から飛び出すと同時に、彼は唇を重ねた。

つくしは抵抗するつもりなどない。こうして欲しいと願ったのは彼女の方だ。
激しい感情の全てを受け止めるつもりでいる。
男の言葉が胸に突き刺ささったが、自分の思いを伝えなければならない。決して間違えることのないように、彼の心がこれ以上傷つかないためにも。


裸の身体が抱きしめられ、スーツに擦れる柔らかい肌も、女の全てが欲しいと奪い尽くそうとするかのような口づけも、意識を無くしそうなほど強く抱きしめてくる力強い腕も、全てをのみ尽くされてしまっても構わない。これまでくすぶり続けていた思いを全て伝えたい。つくしは司の背中に両手をまわすと抱きしめた。スーツ越しに感じられる体の硬さを感じ、全てを受け止めると心に決めた。

二人の心の中にあるのは、愛と憎しみと後悔、そして躊躇いという言葉なのかもしれない。 二人の間には別の世界が存在していることはわかっている。憎んでいても、憎みきれないという思い。それなら時を遡って別の世界にいる二人を思う。だがあのとき二人の上に激しく降った雨は、今でも二人の人生を苦しめている。

わたしの人生にあなたは必要ないと言われた男は、心が砕けてしまった。

二度と再生出来ないほど。


だがつくしは決めた。司を絶対にひとりにしないと、司の傍にいると決めた。
やり直すことが出来るなら、それを苦だと思わない。つくしは今でも彼が好きだ。瞳の中に写るのは彼しかいない。今なら最善の自分を差し出すことが出来るはずだとわかっている。

あの頃、暗闇の中に置かれ道を見失っていた。光に手が届かないのではないかという気持ちでいた。ただ道明寺が置かれた暗闇はもっと深かったはずだ。深い闇に置かれた男は、孤独に生きることをしか出来ない人間になっていた。
何かあったとしても、周りに打ち明けられる相手はおらず、感情の全てを殺して生きてきた男。夜ごと何を思って女を抱いてきたのか。恐らくまったく意味をなすことのない、身体の交わりだったはずだ。

つくしは心の中で何度も呟く。
これからは、そんな思いはさせない。
もう決して遠ざけない。
遠ざけたりしない・・。

道明寺の内側は、あの頃の内側はまだ彼の心の中にある。それは銃声を聞いてすぐ駆けつけて来たとき知ることが出来た。二人の関係は一時的に中断しているだけ。そう考えた。

今の自分が何をしようとしているのか、何がしたいのか。その為に何をすればいいのか。
わかっている。うまく言葉にすることができないが、いつも心の深いところで道明寺を思っていた。だからこの男のために出来ることはしなければならない。道明寺が無くしてしまった心を取り戻す。それはあの頃の少年が持っていたつくしだけに向けられた真っ直ぐな心。その心を無くしたままで生きていくことを彼も望んでないはずだ。

あたしは道明寺の心を取り戻してみせる。

でも、もし道明寺が心を無くしたままで生きるというのなら・・
この世界で心を無くしたこの男と共に生きていく。
最後の審判の日が来るのなら、その日を共に迎えるつもりでいる。


頬を両側から包み込む司の手はつくしの顔の角度を変えた。
キスが深まり、感情の全てを注ぎ込まれようとしているのが感じられた。
決して罰したいというキスではない。相手の全てを欲するような濃密なキス。

あたしはどこにも行かない。
そう口に出したい。道明寺にそう伝えたい。

何度でも。






さっきまでキスをしていた女。
司は女の口から唇を離し、じっと見つめた。
司のいる闇の世界には痛みはなかった。
なぜなら彼が傷つけられることはないからだ。何に対しても無感覚で、痛みも恐怖も感じなかった男。だがこうして牧野つくしと再会し、世界が少しずつ周り始めると、なにかが彼の心を傷付け始めた。司は牧野つくしの行動の意味を考えようとしていた。

司は17歳のとき、大人であり子供だった。
すでに将来が決められていた男には、進べき道が決められており、揺るぎようのないものだ。そこから10年の年月は彼をすっかり大人へと変えた。だがその歳月は彼がモンスターと呼ばれることになった10年でもあった。本当ならあったはずの失われた10年は彼の全てを変えた。

もし牧野が俺を見捨てなければ・・・。
今その女が彼を受け入れると言っている。
だが聞かずにはいられない。

「何が望みなんだ?」
司が上着を床に脱ぎ捨てた。
「俺を愚弄しようと思うなら考えた方がいいな。俺はもう女に振り回されるような人間じゃねぇ」

それは事実だ。牧野つくしに去られたあと、彼は女どころか、他人に対して絶対的な権力を持ち、有無を言わさない人物になっていた。

「俺はおまえが10年前に欲しかった。それなのにおまえは俺から逃げた。俺は人生で初めて望みのものを手に入れることができなかった。本当に欲しかったんだ・・おまえが」

司は蔑むような笑みを浮かべた。

「だからおまえを掴まえたら決して逃がさないと、今度は逃がさないと決めた。だから言われなくても抱いてやるよ」

つくしはそれでいいと頷いた。
司の傍にいると決めたのだから。
もう決して傍を離れないと。
心を遠ざけることはしないと。

今、ここにある一瞬に賭ける。そして次の一瞬に希望をつなげることをしていけばいいのではないだろうか。そうやって自分の気持ちを積み重ねていくことで道明寺に信じてもらえるなら、そうするべきだ。あの頃、彼が何もかもをあたしに捧げたというなら、これからの時間の全てを彼のために捧げる。それは自分の時間なのだから、誰に何を言われることもないはずだ。

心配して探してくれる人がいても・・・。


「道明寺。あたしは・・どこにも行かないと決めた。だからずっとあんたの傍にいる。傍にいてあんたをずっと見つめている。本当のあんたを知るのはあたしだけだって・・わかってる。だから、あたしを・・」

つくしは言葉に詰まった。
道明寺にもわかりきったことだが言わなければと思った。

「あたしを抱いて欲しい」






司はつくしを抱き上げ、ベッドへと運んだ。

窓の外に降る雪はどのくらい積もったのだろうか。
厚いカーテンが引かれた窓から伺い知ることは出来ないが、雪の降る日は普段にも増して静けさが感じられる。まるで雪が全ての音を吸収し遮るかのように。

あの雨の夜の記憶が二人を傷つけ続ける。
司はつくしの身体をベッドに横たえた。つくしは抵抗しない。
そして言った。

「あたしはどこにも行かない。どこにも行かないから」

既に何度も抱かれ、今更恥ずかしがることなど無いはずだ。
だが今の気持ちはどこか純真な思いがする。つくしは司の頬に手をふれ、そして背中に手をまわすと引き寄せた。セックスが彼の心を満たすとは思ってない。そんなもので心の傷は癒せはしない。でも今はそれでいい。そうすることで道明寺の憎しみに満ちた心が癒されるなら。


決して元に戻ることはない二人の関係。
決して振り出しに戻ることのない二人の関係。
あのとき、振り返っていれば何かが違っていたのかもしれない。
胸に突き刺さった棘はあのときと同じでまだ互いの心の中にある。
道明寺の心の中は空洞で、棘だけが残されているはずだ。そしてその棘と共に暗闇に住まう怒れる獣がいる。あの日の記憶が心を狂わせるとしても、一緒に乗り越えなければならない。

つくしは、司が素早く服を脱ぎ捨てるのを見ていた。
ベッドの傍に立つ男はそびえるように見えるはずだ。
だが服を脱ぎ捨てるあいだ、ふたりの視線は絡み合っていた。




司はつくしを抱いた。
彼は今までのようには抱くことが出来ないでいた。身勝手で、自分の欲望だけを満たすような抱き方は出来なかった。何度も抱き、今となっては何ひとつ目新しいことはない女のはずだ。
だが今、司に組み敷かれているのは、なすすべもなく抱かれていた女ではない。黒い瞳に浮かんだ悲しげな決意とも言える輝きが司の心を突き動かし、今まで思いもしなかったことが頭を過る。身体の中心を駆け抜けるのは欲望だけではないと感じたからだ。
思えばこの細い体のどこに自分を受け入れることが出来たのかと思う。壊しそうだと感じ、見える眼差しに傷ついている気持ちが溢れていたはずだ。


今の二人は視線を結び、現実を見つめようとしているかのようで、決して目を閉じることなく視線を外すことはしない。互いを見つめる瞳の中に、深い呼吸に、いつのまにか自分たち以外の世界は消えてなくなっていた。言いたい言葉はあっても口に出すことはなく、喉の奥へと呑み込んでいた。


自分の人生に欠けたものなどないと思っていた頃を思い出していた。
あの頃も決して善人といえない男がいた。それでもひとりの女性を好きだった男は彼女以外目には入らなかった。


司は唇で桃色の頂きを弄んだ。優しく引っ張り硬くする。
片手の指は女の中に差し入れ、緩急をつけながら抜き差しを繰り返し、高みへと押し上げた。
明りの下、白い体が震え、漏れ続ける甘い蜜が勿体ないとばかり太腿に手を這わせ、顔を埋める。

唇を使い、舌を使い、秘肉の奥深くへ愛撫を繰り返す。
溢れてくる蜜が司の顔を濡らしても、舌を使うことを止めようとしない。
蜜を受け止めるはずの花弁は役割を果たしておらず、司の舌で掬い上げられていた。
力が抜けた体はさらに司を受け入れようとする。だがそれは今までの二人の関係とは違う。
決して逃がさないと、体を煽ったはじめの頃と今とでは何かが違う。

奪い尽くしたいという思いと、愛おしいという思いが交錯する。


あの雨の日。
傷ついて立ち尽くすのではなく、無理にでも引き留めればよかったのかもしれないと。
あとを追って引き留めるべきだったのではないかと。
抱きしめて行くなと言えばよかったのかもしれないと。
あの日、雨に濡れたばかりに女の頬を流れる涙に気づいてやれなかったのではないかとさえ思い始めていた。あの雨の中にあったのは虚ろな瞳だったのではないかとさえ思っていた。

あの頃の面影を残す女も今は彼だけのもの。
互いに相手の快感を高め、歓喜の声を上げ、極みに達したい。
過去の女たちのように自分をコントロールすることなく、飢えを満たしたい。
怒りに駆られたセックスなどではなく、クライマックスの瞬間、互いの心に手を伸ばし触れ合いたい。だが今までのセックスで感情について考えるなどあるはずもなく、自分の気持ちを振り払った。

司は腰を激しく打ちつけながら、硬く張りつめたものをさらに奥へと突き入れた。
全身で女を味わい、深く満たす。
体の奥のこの場所は、彼だけのものだ。

子宮の奥深く先端部を突き入れ、見下ろす女の口から″どうみょうじ″と漏れた己の名前に体が震え、司は律動を止めた。
女の体に突き立てることしかしてこなかった男が、初めて見せた自己制御とも言える行動。
互いの口から漏れる息遣いだけを聞き、見つめ合っていた。

かつて両手を固定され男にされるがままの時があった。
容赦なく身体を弄ばれ抵抗出来ずにいた女がいた。二人ともまだあの時の記憶が生々しく残っている。あのとき、司の心もつくしの心も凍り付き、遠くに感じられた。あの日から目の前にあったのは感情を殺した心だけだったはずだ。だが今しがた女の口から漏れた名前に、目尻から零れ落ちた涙に、もう何年も感じたことがない思いが感じられた。
心の奥に巣食った醜い塊が吐き出されるような気がしていた。

「・・どうみょうじっ・・・」

再び名前を呼ばれた瞬間から、司の動きは早く荒々しくもあったが、求めるものがあった。
腰を掴む手に力が入り、繰り返し突き入る行為が激しさを増す。
呻き声も、喘ぐ声も、全ては司がもたらしたもの。

「・・どうみょうじっ・・・」

もっと名前を呼んでくれ。
彼女だけが呼ぶことを許されたその呼び名を叫んで欲しい。
求めて、望んで、欲して欲しい。俺が欲しがる以上に求めて欲しい。
心も体も全てが欲しい。
その体から溢れるものは全て。

そして誰にも渡さない。

腰を突き上げ、女の中に自分を打ち込む。

司は視線を下げ、つくしの顔を見た。

そこに浮かんだ表情は、過去に苦痛を与えられていた女の顔ではなく、血の通った温かみを感じることが出来た。それと同時に歓びとも言える表情が浮かんでいたが、涙も頬を伝っていた。

「どうみょうじ...愛してるから」

その瞬間、女の目から再び涙がこぼれた。









昔、彼に背を向けて去った女は、闇に覆われた彼の心のひと筋の光となるのだろうか。

この静な場所で。


司は体の力を抜き、自分の胸に女を抱き寄せた。
温かく、火照った小さな体。華奢な肩を抱き、細い腕を撫でていた。
狂った男の中に、僅かに残る正気の部分が感じているのがわかる。
どれくらいぶりだろうか。怒りと緊張に包まれていた体がやわらいだような気がした。
今こうしているのが、ごく自然なことのように感じられる。

あの頃、自分に向かって開いて欲しいと願ったものがある。
心を全て俺にさらけ出して欲しいと。
ひとり心に抱え込むことなく、全てを話して欲しいと望んだ。
それがどんな話しであっても・・・。


『どうみょうじ...愛してるから』

愛してるから...


牧野つくしの告白をどう捉えたらいいのか。
その言葉に嘘はないと信じたい。
だが今は頭も心も何も考えたくはないと、受け付けようとはしない。
それもそのはずだ。二人には10年という長い年月が横たわっている。

司は眠りについた牧野つくしの顔を見ていたが、やがて眠りに落ちていった。


今夜は悪い夢を見ることなく、深く安らかな眠りにつけるような気がしていた。






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明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
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コメント
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dot 2017.01.05 08:58 | 編集
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dot 2017.01.05 12:49 | 編集
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dot 2017.01.05 14:54 | 編集
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dot 2017.01.05 18:58 | 編集
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dot 2017.01.05 20:35 | 編集
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dot 2017.01.05 22:16 | 編集
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dot 2017.01.05 23:59 | 編集
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dot 2017.01.06 10:14 | 編集
き**ち様
こんにちは^^
楽しみにしていた・・そう言って頂き大変嬉しいです。どうもありがとうございます。
Collector。いつもお待たせして申し訳ございません。←本当にいつもですね(笑)
早く続き・・(笑)頭の中にはあるのですが、何分文章にする時間があまりありませんので、また少しお時間を下さい。
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:22 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
新年最初のお話がこちらでいいのかと思いましたが、少しずつ執筆しておりましたので、そろそろと思いました。そしてこの休みで仕上げました。
司を愛すると決めたつくしの気持ちは報われるのか。司もまだ全てを信じてはいません。
人は自分のことを好きだ、愛してる、と好意を寄せて来る人のことを、まあストーカーは別ですが、彼がかつて求めていた女性からの言葉ですので、彼女の気持ちを受け入れて行く・・と・・思います。
ただ司の父親のことがありますので、すんなり行くかどうかですねぇ。
とにかく信頼関係を築くことからですね?つくし、司の心の闇を取り去って!
いつも忘れた頃の更新ですみません(^^ゞ
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:29 | 編集
椿**さん☆様
こんにちは^^
新年早々こちらのお話でして・・・。
もっと新春らしいお話がご用意出来ればよかったのですが・・。
『幸福への架け橋』いい言葉ですね!
まだ色々とあると思いますが、つくしちゃん、司の事を宜しくお願いします。
幸せを掴むまで、書かせて頂きたいと思っています。
今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2017.01.06 21:32 | 編集
つか**Pちゃん様
こんにちは^^
いつもお待たせしております。←本当に毎回同じ返事で申し訳ないです(低頭)
実りのあるお話ですね?頑張ってみます。
そうですね、こちらのお話、ここから先は今までとは少し変わってくるかと思います。
つくしの口から出た『愛してる』の言葉に司の心の変化が見れるのでしょうか?
父親のこともありまが、最後は幸せにしてあげることが二人のためであり、アカシアのためでもあります(笑)
今年もよろしくお願いいたします。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:37 | 編集
す*ら様
こんにちは^^
鬼畜な部分・・そうですね。もうこの司はそこまでいかないと思います。
司の絵!ぜひ、お願いします。見たいです!楽しみにしています。
はい。こちらの司は、自ら車の運転もします。つくしちゃんを自らの運転でこの山荘に連れて来ました。
仰るとおり、絵もお話も同じものは書けないですし、個性がありますので、躊躇なさらずに思うがままの司をと思います^^
こちらの司、冷酷ですねぇ。ゴルフクラブで車のフロントガラスを叩き割る行為に出たこともあります。
灰皿を鏡に向かって投げつけることもありました。そんな司を受け止めるつくしです。
絵。本当に楽しみにしてますね!今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:42 | 編集
こ**る様
こんにちは^^
電車の中で長文を読んで頂き、ありがとうございました。
どんどん文字数が増えてしまいました。読みにくいですよね?
映画にしてJ君を?そうですねぇ・・こちらの司、かなり冷酷ですのでイメージが合いませんよね?
司の父親はどう出るでしょう。原作では殆どお目にかかりませんでしたが、楓さんより怖い人であることに間違いはないと思います。
二人が幸せを掴んで欲しいですね。それがアカシアの願いでもありますので。(笑)
今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:48 | 編集
悠*様
こんにちは^^
新年最初からこちらのお話でいいのかと思いましたが、書き上がりましたのでこちらとなりました。
拙宅の司と作品が?本当ですか?ありがとうございます。
基本はつくしひと筋の司なのですが、こちらの司は道に外れることをしてますね。
えっ!ドラマチックな作品ですか?あまりドラマチックに書くと司に怒られるかもしれません。
「てめ、何度オレを記憶喪失にしたら気が済むんだっ!」(怒)記憶喪失多いですので(笑)
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:53 | 編集
Hap**ending様
こんにちは^^
新年早々こちらのお話でもよかったですか?
司も徐々に人間らしさを取り戻して来ました。そんな彼の前にはひとつの愛があります。
そしてそれは無償の愛。それを拒否できる人間はいません。
まさに親の愛情と同じです。今の司が求めているものは親の愛ではありませんが、男性が女性に見るのは、果たして誰の姿なのか。
司にも愛を掴んで、幸せになってもらいたいのですが・・
今年もよろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 21:59 | 編集
マ**チ様
こんにちは^^
マ**チ様お正月にダウンですか?大丈夫ですか?日頃のお疲れが出ましたか?
年明けの初話がこちらのお話とはですよね・・(笑)
もっと明るい話をご披露出来ればよかったのですが、少しずつ執筆していたお話をこのお休みで仕上げました。
銃を撃った男と司の父親の存在が二人の未来に暗い影を投げかけています。
ええ。でもアカシアは坊っちゃんを不幸には出来ません。
二人の進展に何かあったとしても・・・間違ってもこちらのお話に紺野君は登場しないはずです。(笑)
これから大寒に向け一段と寒くなりそうですね。マ**チ様もお体にお気を付けてお過ごし下さいね。
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
また笑わせて下さい(低頭)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 22:03 | 編集
pi**mix様
こんにちは^^
坊っちゃん、つくしからの言葉をどう感じたのでしょうか?
片手に銃を握り、もう片方の手でつくしの手を掴み、小径を山荘へと戻る司。
心の中に色々な思いが渦巻いています。心の奥を覗いてみたいですねぇ。
10年の時が流れていますので、そう簡単にはいかないのでしょうね。
今の彼は昔の彼と違い、世の中の暗部を知る大人の男ですしねぇ。
基本坊っちゃんでどんな彼でもお好きなんですね?鬼畜な司でも、どんな司でもOKなんですね?つくしに出会わなければ確実にその道へ進まれていたことでしょう。やはり愛は偉大です(笑)
司の父親、そして心配して探している類。それに坊っちゃん自身の気持ち。と、話はまだまだです。
終わらないで欲しい作品?大変ありがたいご感想ですが、早く二人をこの地獄から解放してあげなければと思っています。
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.01.06 22:12 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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