「よく来たな、牧野」
「なんであんたがここにいるのよ!」
「なんでってここはウチの別荘」
「はあ? どう言うことか説明しなさいよ!私は工事責任者に呼ばれて来たんだけど?」
「ああ? 俺はこのリゾート開発の総責任者だ」
道明寺はそう言って肩をすくめてみせた。
「ねえ、私が今日この調査に入る事を知っていたの? それで追いかけてきたの?」
「牧野、自惚れるなよ。今日の事はまったくの偶然だ。俺はさっきヘリで来たばかりだ」
道明寺はそう言うとつくしの傍を通り過ぎ、玄関ホールを横切るとその向こうにある重厚な扉を開いた。
「 来いよ 」
こちらを振り返りそうひと言いうとつくしを待つことなく部屋へと入って行った。
つくしは現実的な視点に立って考えてみた。
道明寺エステートの開発するリゾート施設だ。
あの男が総責任者であると言っている言葉はあながち嘘ではないだろう。
私の忍耐力のすべては仕事に対して向けられている。
今大切なのは仕事に気持ちを集中させることよ。
この会食を乗り切れば終わりだと自分に言い聞かせていた。
そしてその部屋の中には道明寺の他にもう一人男性がいた。
工事責任者と名乗った男性と道明寺と私の三人はゴルフ場開発に関する森林保全についての意見を交わしていた。
調整池の必要性、急傾斜地における法面の保護の方法、農薬散布による土壌汚染の有無などを話し合った。
******
会食はつくしが考えたほど堅苦しくはなかった。
「このワインは美味しいですね。牧野さんいかがですか?」
工事責任者の男性がワインを勧めて来る。
「いえ、私はけっこうです」
つくしはそう言って水に手を伸ばした。
食事も上質、もちろんワインも上質なのだろう。
が、そんな事はつくしには関係なかった。
「牧野、味見してみろよ」
「そうですよ、牧野さんも味わってみないと」
そう言われつくしは仕方なくワインをひとくちだけ口にしてみた。
確かに美味しい。
甘く芳醇でいて舌の上にコクのある温かさを感じられるようだ。
「おいしい・・」
「そうでしょう牧野さん」
そう言われまたひとくち口にしていた。
ふとつくしが視線を向けた道明寺はそんなつくしの様子を満足そうに眺めていた。
が、いきなりフォークを伸ばしてきたかと思うと自分の皿の上にあった子牛の切れ端を差し出してきた。
そしてフォーク越しにつくしをじっと見つめている。
「な、なんですか支社長」
「何でも味わってみないと分からないだろ?」
俺のこの言葉に含まれた他の意味に気が付かないお前じゃないよな?
「自分のがありますから」
そう言いながらも牧野はひとくちも口にしていない。
自信に満ちた仕草で差し出されたフォーク。
第三者のいる前でつくしは無駄に論議をするのも面倒だと思い子牛の切れ端を食べさせてもらった。
俺は牧野が俺の手から食べ物をくちにした事に満足していた。
いつか俺の手から与えられたすべての物を受け入れて欲しい。
そんな牧野は目を伏せたまま手元のワインをまたひとくち口にしていた。
今のところは俺に主導権がある。
このまま勝ち続ける為にはもっとポイントを上げなければいつ牧野に主導権を奪われるか分かったものじゃない。
俺は次に渡り合う場面を考えただけで気分が高揚してきた。
牧野は間違いなく俺に気があるのにその事を拒み続ける。
そして決して認めようとしない。
その意志の強さは鉄の女と呼ばれる俺の母親並だな。
まったく称賛に値するよ。
つくしは優雅な磁器のカップで二杯目のコーヒーをくちにしていた。
三人は時間をかけてコーヒーとデザートを味わっていた。
「支社長、牧野さん。では私はそろそろ失礼致します」
「 ああ 」
そう言ってきた男性に道明寺はぞんざいな態度で返事をする。
さあ、これでやっと帰れる。
つくしは足元の鞄を手に立ち上がった。
「では、私も失礼させていただきます」
そう言って席を立ったつくしは男の後に続いて部屋を出て行こうとしていた。
「牧野、待てよ」
足早に部屋を出て行こうとするつくしに追いついた道明寺は彼女の腕を掴んだ。
「お前どうやって帰るつもりだ?」
「ちょっと、手を離して! あの人の車に乗せてもらうんだから!」
おれの選択肢の中に牧野をこのままホテルへ帰らせることは入っていない。
つくしは道明寺が掴んだ手を振りほどいて外の世界へと足を踏み出した。
が、そこから動くことなく足を止めた。
道明寺もつくしのすぐ後ろで同じ様に足を止めた。
2人がその先に見たのは男の乗った車のテールランプがかき消される様に遠ざかって行くところだった。
呆然としている私に道明寺は嬉しそうに言った。
「どうやら俺達は霧に閉じ込められたようだぞ」

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「なんであんたがここにいるのよ!」
「なんでってここはウチの別荘」
「はあ? どう言うことか説明しなさいよ!私は工事責任者に呼ばれて来たんだけど?」
「ああ? 俺はこのリゾート開発の総責任者だ」
道明寺はそう言って肩をすくめてみせた。
「ねえ、私が今日この調査に入る事を知っていたの? それで追いかけてきたの?」
「牧野、自惚れるなよ。今日の事はまったくの偶然だ。俺はさっきヘリで来たばかりだ」
道明寺はそう言うとつくしの傍を通り過ぎ、玄関ホールを横切るとその向こうにある重厚な扉を開いた。
「 来いよ 」
こちらを振り返りそうひと言いうとつくしを待つことなく部屋へと入って行った。
つくしは現実的な視点に立って考えてみた。
道明寺エステートの開発するリゾート施設だ。
あの男が総責任者であると言っている言葉はあながち嘘ではないだろう。
私の忍耐力のすべては仕事に対して向けられている。
今大切なのは仕事に気持ちを集中させることよ。
この会食を乗り切れば終わりだと自分に言い聞かせていた。
そしてその部屋の中には道明寺の他にもう一人男性がいた。
工事責任者と名乗った男性と道明寺と私の三人はゴルフ場開発に関する森林保全についての意見を交わしていた。
調整池の必要性、急傾斜地における法面の保護の方法、農薬散布による土壌汚染の有無などを話し合った。
******
会食はつくしが考えたほど堅苦しくはなかった。
「このワインは美味しいですね。牧野さんいかがですか?」
工事責任者の男性がワインを勧めて来る。
「いえ、私はけっこうです」
つくしはそう言って水に手を伸ばした。
食事も上質、もちろんワインも上質なのだろう。
が、そんな事はつくしには関係なかった。
「牧野、味見してみろよ」
「そうですよ、牧野さんも味わってみないと」
そう言われつくしは仕方なくワインをひとくちだけ口にしてみた。
確かに美味しい。
甘く芳醇でいて舌の上にコクのある温かさを感じられるようだ。
「おいしい・・」
「そうでしょう牧野さん」
そう言われまたひとくち口にしていた。
ふとつくしが視線を向けた道明寺はそんなつくしの様子を満足そうに眺めていた。
が、いきなりフォークを伸ばしてきたかと思うと自分の皿の上にあった子牛の切れ端を差し出してきた。
そしてフォーク越しにつくしをじっと見つめている。
「な、なんですか支社長」
「何でも味わってみないと分からないだろ?」
俺のこの言葉に含まれた他の意味に気が付かないお前じゃないよな?
「自分のがありますから」
そう言いながらも牧野はひとくちも口にしていない。
自信に満ちた仕草で差し出されたフォーク。
第三者のいる前でつくしは無駄に論議をするのも面倒だと思い子牛の切れ端を食べさせてもらった。
俺は牧野が俺の手から食べ物をくちにした事に満足していた。
いつか俺の手から与えられたすべての物を受け入れて欲しい。
そんな牧野は目を伏せたまま手元のワインをまたひとくち口にしていた。
今のところは俺に主導権がある。
このまま勝ち続ける為にはもっとポイントを上げなければいつ牧野に主導権を奪われるか分かったものじゃない。
俺は次に渡り合う場面を考えただけで気分が高揚してきた。
牧野は間違いなく俺に気があるのにその事を拒み続ける。
そして決して認めようとしない。
その意志の強さは鉄の女と呼ばれる俺の母親並だな。
まったく称賛に値するよ。
つくしは優雅な磁器のカップで二杯目のコーヒーをくちにしていた。
三人は時間をかけてコーヒーとデザートを味わっていた。
「支社長、牧野さん。では私はそろそろ失礼致します」
「 ああ 」
そう言ってきた男性に道明寺はぞんざいな態度で返事をする。
さあ、これでやっと帰れる。
つくしは足元の鞄を手に立ち上がった。
「では、私も失礼させていただきます」
そう言って席を立ったつくしは男の後に続いて部屋を出て行こうとしていた。
「牧野、待てよ」
足早に部屋を出て行こうとするつくしに追いついた道明寺は彼女の腕を掴んだ。
「お前どうやって帰るつもりだ?」
「ちょっと、手を離して! あの人の車に乗せてもらうんだから!」
おれの選択肢の中に牧野をこのままホテルへ帰らせることは入っていない。
つくしは道明寺が掴んだ手を振りほどいて外の世界へと足を踏み出した。
が、そこから動くことなく足を止めた。
道明寺もつくしのすぐ後ろで同じ様に足を止めた。
2人がその先に見たのは男の乗った車のテールランプがかき消される様に遠ざかって行くところだった。
呆然としている私に道明寺は嬉しそうに言った。
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コメント
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ゆみん様
拍手コメント有難うございます。
え?その行為は拉致監禁に似てる?(゚Д゚;)
坊ちゃん犯罪者一歩手前でしょうか?
それはいけませんね。
軌道修正しなければ・・(笑)
続きですね?あ、でもそんなに期待しないで下さい。
プレッシャーが・・・(´Д⊂ヽ
もうね、サラっと読んで~(笑)
と、取りあえず明日も読んでみて下さい。(低頭)
拍手コメント有難うございます。
え?その行為は拉致監禁に似てる?(゚Д゚;)
坊ちゃん犯罪者一歩手前でしょうか?
それはいけませんね。
軌道修正しなければ・・(笑)
続きですね?あ、でもそんなに期待しないで下さい。
プレッシャーが・・・(´Д⊂ヽ
もうね、サラっと読んで~(笑)
と、取りあえず明日も読んでみて下さい。(低頭)
アカシア
2015.09.17 22:13 | 編集

う*ちゃん様
このまま行ってもいいんですか?(笑)
本当に?
つくしちゃんに考える余裕を与えずにグイグイですね?
では2人が幸せになるように一緒に頑張りましょう!
う*ちゃん様を巻き込みます。
読むのが楽しみと言って下さるその言葉が励みになります。
こちらこそ毎日読んで下さって有難うございます(´▽`*)
このまま行ってもいいんですか?(笑)
本当に?
つくしちゃんに考える余裕を与えずにグイグイですね?
では2人が幸せになるように一緒に頑張りましょう!
う*ちゃん様を巻き込みます。
読むのが楽しみと言って下さるその言葉が励みになります。
こちらこそ毎日読んで下さって有難うございます(´▽`*)
アカシア
2015.09.17 22:33 | 編集
