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2016
12.19

エンドロールはあなたと 33

背の高い男の腕に抱えられ、医務室まで運ばれるのは二回目だ。
自分の気持ちに気付くと、普通の態度で接することが出来なくなってしまった。

会議中、目が合った瞬間、身体は大丈夫なのか。そんなことを口にしたのだから、その場にいた者の注目を浴びるのは当然だった。ばかげた心の動揺を抑えることが出来ず、コーヒーが入ったカップをひっくり返してしまい、慌てた。

テーブルの上に零したコーヒーは、まるで意志を持ったように、まっすぐ道明寺司の許へ流れて行った。その流れを止めようとしても、ますます事態は悪くなるばかりだ。

コーヒーがかかった右手はじんじんとした痛みを伴い、赤く腫れて来たのがわかった。
気持ちが高ぶっていたせいか、痛みよりも心の動揺の方が激しく、目の前にいたはずの男に、突然後ろから手を掴まれた瞬間、驚きと共に動揺した。
この心の動揺を知られてしまったとすれば、どんな態度で接すればいいのかと考えていた。

「あの、わたしは大丈夫ですから・・」

控えめに言ったが、本当なら叫びたかった。
周りの人間の目が痛いほど感じられ、全身を緊張したまま男の腕に抱えられている状況に、まるで丸太にでもなったかのように、じっとしていた。

何がなんだか分からないうちに抱き上げられるということが、世の中のどれくらいの女性に対して起こりうることなのか。そして道明寺司のような男性と、恋に落ちる確率はいったいどれくらいあるのか。考えても無駄なことだとわかってはいるが、心がかき乱されるのだから、考えてしまった。

今まで道明寺司を恋愛対象だと見て来なかっただけに、今さら気づいてしまった自分の気持ちに、驚きを持ってしまったことは間違いない。
今まで気づかなかったが、紺野にしても、周りの女性たちの反応にしても、見ればわかることがある。この男は、想像以上にモテる男だということが。

恋愛は好きになった方が負けだと言われるが、先に好きになったのは、この男のはずだ。
それならこの恋愛での勝者はあたしということになるのだろうか?
でも、それは違うような気がする。勝ち負けなんか関係ない。先にどちらが好きになろうと、相手をどれだけ深く思うか。それが恋愛における本来の姿のはずだ。


そう考えただけで、こうして道明寺司の腕に抱かれていることが、落ち着かなくなり、つくしはもぞもぞと身動きをした。

すると、たちまち厳しい声が聞えた。

「もぞもぞ動くな。じっとしてろ」

そう言われても落ちつかないのだから仕方がない。
意識するなという方が無理だ。以前と同じようにはいられない。

「・・大丈夫だから。あの、道明寺さん、自分で歩けます」

腕の中に抱えたつくしを見下ろす黒い瞳。
つくしのうろたえた顔を見た司は、声をやわらげた。

「大丈夫かどうかは俺が決める。それに俺はおまえをどうこうしようなんて考えてねぇ。だから肩の力を抜いて大人しく抱かれていろ」

有無を言わさぬ口調に、つくしの考えを払拭するかのような言葉。
つくしは、司が心配し過ぎだと思った。
それに、この男の腕の中で肩の力を抜けと言われても無理な相談だ。

「それにおまえは自分のことはなんでも自分でやりたいって思う女だろ?他人に頼るってことが嫌なのか、それとも迷惑をかけたくないって思うのか知らねぇけど、時には誰だって人の手を借らねぇとやっていけねぇことがあるってことだ。おまえが足を痛めたときもそうだが、今だってそうだ。右手はおまえの利き手だろ?診てもらえる状況にいるんだ。遠慮するな」

気づけば、いつの間にかエレベーターの中にいて、あの時と同じように男の腕に抱かれている。
意識の全てがこの男に向いていた。
つくしは心の動揺を悟られまいと、懸命に努力したはずだ。
だが、どうやらそれは難しいようだ。いつも紺野からも言われるではないか。考えていることが顔に出やすいと。


二度目の男の腕の中、つくしは一度目には感じられなかった温かみを感じていた。
それは、自分が意識し始めたからだとわかっていた。実のところ、あの時より何十倍にも感じられるものがあった。頭を胸に傾ければ、鼓動を感じる。
この男独特の香り。
そして、性的魅力。

どうしたらいいのか。
道明寺司のことが好きだということを、気づかれてしまっただろうか。
もしそうなら、どういった態度をとればいいのか。
心の中の声が漏れているというなら、この男に聞こえているはずだ。
医務室が近づくにつれ、鼓動はどんどん早くなっていた。
つくしは勇気を振り絞り、顔をあげ司を見た。

ひと目見たら決して忘れない男。
誰もが羨むステータスを持つ男。

つくしの視線に気づいた男は、下を見た。

二人は見つめ合った。

そのとき、男は黒い瞳にまじめな表情を浮かべ、つくしに顔を寄せた。

「俺とおまえの間にある仕事がどうの、立場が違う、そんなことは考えるな。ついでに言うが、恋愛について分析するのはやめろ。これから俺とおまえがつき合ってくってのに、他人の物差しで俺たちの事を図るな。他人は他人、俺たちは俺たちだ」

恋愛について分析するな。
まるで聞きかじりの知識しかないような物言いは、若いとは言えないつくしが、耳年増かのような発言。もしかしたら、知られているのかもしれない。経験がないことを。
そして、これから俺たちはつき合うんだという宣言とも言える言葉。
だが、つくしは黙ったままでいた。

そんな女にまるでキスするかのように、顔を寄せた司は、唇の数センチ手前で留まった。

「エレベーターの中で、キスするなんてことを考えたことはなかったが、おまえとならキス以外のことでもやりたいくらいだ」

司はニヤリとすると、露骨な視線を浴びせた。

「おまえがその気なら、俺はすぐにでもおまえと愛し合いたい」

コーヒーと煙草が混ざり合った息が、つくしの鼻をくすぐった。

キスされる、そう思った途端、唇が重なっていた。






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コメント
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dot 2016.12.19 08:06 | 編集
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dot 2016.12.19 15:16 | 編集
み*ちゃん様
おはようございます^^
ちょっとずつ、ちょっとずつ近づいて来ました(笑)
若くない大人の二人ですので、がむしゃらには突き進めないようです。
特につくしちゃんは悩むのが彼女のセオリーでしょうか(笑)
そして恋に臆病のようです。そんなつくしちゃんにゆっくりと近づく司。
我慢も必要ですね?ただ、どこまで我慢が出来るのでしょう(笑)
でも大人ですから^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.20 00:29 | 編集
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dot 2016.12.20 00:36 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司の確信犯的行動(笑)
でも、そんなことは頭になく、本能で行動しているのかもしれませんね?(笑)
つくしちゃん、素直になって下さい。司は色々知ってますよ?(笑)
紺野くん。この状況を目の当たりにして、目が点かもしれません(笑)
司のサインを欲しがっていた紺野くん。この展開をどう思っているのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2016.12.20 00:37 | 編集
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dot 2016.12.20 00:42 | 編集
チ**ム様
こんばんは^^
司、猛烈プッシュですねぇ(笑)
男も惚れる道明寺司。紺野君は司のファンです。
つくしちゃんのことは、牧野主任ですから単なる仕事の上司ですね(笑)
やはり自分に自信がある男性は輝いています。
司はかなりの自信家でしょうねぇ(笑)
年末ですねぇ。色々とお忙しいとは思いますが、チ**ム様もどうぞ、よいお年をお迎え下さいませ。
来年はどんな年になるのでしょうか・・こちらこそ、よろしくお願いいたします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.20 00:51 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
えー、アカシアも午前様です(笑)
つくし、やっとエンジンが動き出しました(笑)
司はいつでもOK!ですが、つくしちゃん、未経験者ですから・・。
その辺りをぜひ考慮して頂きたいですね!(笑)
マ**チ様西田さん、ぜひ御曹司の秘書にお願いします!!
司の良き理解者でありたい!秘書の鏡ではないですか!
こんな妄想エロ御曹司をかわいがっていただき、本当にありがとうございます!
今週は週末まで短いので、今夜はこんな余裕を・・(笑)夜更かし同盟しています(笑)
いつも色々ご心配を頂き、ありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.20 01:06 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.11.03 07:18 | 編集
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