携帯電話の呼び出し音はまどろんでいたつくしの耳に届くまで10回は鳴っていたはずだ。
慣れない山道、それも急カーブの連続する道を運転して疲れ果てベッドで横になっていた。
つくしは起き上るとベッドの側に備え付けられたライティングデスクの上で震えながら呼び出し音を鳴らしているそれを掴んで耳元へと押し当てた。
「はい。牧野です」
「あ、牧野さん?先ほどはどうも。設計部の山本です。もうお休みでしたか?」
「いえ、その・・運転に疲れたのかちょっとうとうとしていまして・・」
「お疲れのところを申し訳ないんですが、今夜これから席を設けますのでゴルフ場の森林保全についてのご意見を伺いたいのですが」
「これから・・・ですか?」
窓の外は雨が叩きつけるように降っている。
「ええ、うちの工事責任者がぜひご意見を伺いたいと言っていますのでお願いします」
「そうですか・・・・。分かりました、少しお時間を頂けますか?」
つくしは身支度を整える為にバスルームへと向かうと乱れていた髪を整えて口紅を引き直し、皺の寄ってしまったスーツを着替えた。
この雨だもの。念のため替えのスーツを持ってきていてよかった。
どうせ明日は作業着に着替えるんだし今夜これを着ても問題ないか。
つくしが指定された時間にホテルのロビーで待っていると山本が現れた。
「牧野さん、急に予定外のことをお願いしてしまい申し訳ございません」
「いえ、お気になさらないで下さい」
「ではこれから車で移動をして頂きます」
そう言ってホテルのエントランス前に駐車されていた黒いレクサスへと案内された。
「山本さんはご一緒にいらっしゃらないんですか?」
「ええ、私はここで失礼いたしますので」
神経が疲れ果てているところに工事責任者との会食か・・・
仕方ない。これも仕事のうちよね。
******
車は濃い霧が出た山道を走っていく。
どこに向かっているのか・・・
「運転手さん、どこまで行くんですか?」
「牧野様、ご心配ですか?」
「・・・ええ」
「霧が出ていますが、問題ありませんよ。このあたりでは雨が上がるとよく霧が立ち込めるんですよ」
「いえ、霧ではなくて行先のことなんですが」
「ああ、行先ですか?もうすぐ着きますからご心配にはおよびません」
どうも話が噛み合わない・・
山道を覆っていた霧も幾分薄れてきた頃、ようやく車は目的地へと着いたようだった。
つくしは車から降りると道の終りに建つ邸宅を見上げていた。
山の中に随分と瀟洒なお邸が建っていること。
ここ、レストランか何か?
でも看板は出ていないし、他に車も見当たらないけれど・・・
あ、でも最近はこう言う隠れ家的なレストランも多いのよね。
よし!行くか。
つくしは右手に握りしめていた鞄を左手に持ち直すと建物の正面玄関まで歩いて行った。
******
ベルを押したが何の返答もなかった。
少したって再びベルを押してみるもやはり返答はない。
こんな大きな邸宅なんだもの、ベルを押してもすぐには出てこれないのかもしれない。
そんなふうに思ったつくしは少し躊躇しながらも大きな扉を激しく叩いてみた。
左手に持つ鞄がやけに重く感じられる。
「すいません! 島田コンサルタントの牧野です」
おかしいな、つくしはその大きな扉の装飾が施されたドアハンドルへと手をかけた。
そして手前へと引くと扉が開くことに気づくとそのまま中に入った。
「すいません! 誰かいませんか?」
そこは柔らかな間接照明に照らされた玄関ホールだ。
アーチ状の高い天井には美しい彫刻が施され、明り取りの窓が見える。
美しい家だと思った。
施された天井の彫刻も年代物と思われるコンソールテーブルに飾られた彫像も、木の床もある種の雰囲気を醸し出している。
そしてその硬質の木材で作られたホールの床につくしのヒールの音が響く。
上で足音がしたのでつくしはホール正面奥の階段の近くに移動した。
「すいません。 島田コンサルタントの牧野です。ドアが開いたので勝手に入らせてもらいました」
つくしが視線を上げた先、階段の上には道明寺が立っていた。
そして階段の下に立ったつくしは降りてくる道明寺を見つめていた。

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応援有難うございます。
慣れない山道、それも急カーブの連続する道を運転して疲れ果てベッドで横になっていた。
つくしは起き上るとベッドの側に備え付けられたライティングデスクの上で震えながら呼び出し音を鳴らしているそれを掴んで耳元へと押し当てた。
「はい。牧野です」
「あ、牧野さん?先ほどはどうも。設計部の山本です。もうお休みでしたか?」
「いえ、その・・運転に疲れたのかちょっとうとうとしていまして・・」
「お疲れのところを申し訳ないんですが、今夜これから席を設けますのでゴルフ場の森林保全についてのご意見を伺いたいのですが」
「これから・・・ですか?」
窓の外は雨が叩きつけるように降っている。
「ええ、うちの工事責任者がぜひご意見を伺いたいと言っていますのでお願いします」
「そうですか・・・・。分かりました、少しお時間を頂けますか?」
つくしは身支度を整える為にバスルームへと向かうと乱れていた髪を整えて口紅を引き直し、皺の寄ってしまったスーツを着替えた。
この雨だもの。念のため替えのスーツを持ってきていてよかった。
どうせ明日は作業着に着替えるんだし今夜これを着ても問題ないか。
つくしが指定された時間にホテルのロビーで待っていると山本が現れた。
「牧野さん、急に予定外のことをお願いしてしまい申し訳ございません」
「いえ、お気になさらないで下さい」
「ではこれから車で移動をして頂きます」
そう言ってホテルのエントランス前に駐車されていた黒いレクサスへと案内された。
「山本さんはご一緒にいらっしゃらないんですか?」
「ええ、私はここで失礼いたしますので」
神経が疲れ果てているところに工事責任者との会食か・・・
仕方ない。これも仕事のうちよね。
******
車は濃い霧が出た山道を走っていく。
どこに向かっているのか・・・
「運転手さん、どこまで行くんですか?」
「牧野様、ご心配ですか?」
「・・・ええ」
「霧が出ていますが、問題ありませんよ。このあたりでは雨が上がるとよく霧が立ち込めるんですよ」
「いえ、霧ではなくて行先のことなんですが」
「ああ、行先ですか?もうすぐ着きますからご心配にはおよびません」
どうも話が噛み合わない・・
山道を覆っていた霧も幾分薄れてきた頃、ようやく車は目的地へと着いたようだった。
つくしは車から降りると道の終りに建つ邸宅を見上げていた。
山の中に随分と瀟洒なお邸が建っていること。
ここ、レストランか何か?
でも看板は出ていないし、他に車も見当たらないけれど・・・
あ、でも最近はこう言う隠れ家的なレストランも多いのよね。
よし!行くか。
つくしは右手に握りしめていた鞄を左手に持ち直すと建物の正面玄関まで歩いて行った。
******
ベルを押したが何の返答もなかった。
少したって再びベルを押してみるもやはり返答はない。
こんな大きな邸宅なんだもの、ベルを押してもすぐには出てこれないのかもしれない。
そんなふうに思ったつくしは少し躊躇しながらも大きな扉を激しく叩いてみた。
左手に持つ鞄がやけに重く感じられる。
「すいません! 島田コンサルタントの牧野です」
おかしいな、つくしはその大きな扉の装飾が施されたドアハンドルへと手をかけた。
そして手前へと引くと扉が開くことに気づくとそのまま中に入った。
「すいません! 誰かいませんか?」
そこは柔らかな間接照明に照らされた玄関ホールだ。
アーチ状の高い天井には美しい彫刻が施され、明り取りの窓が見える。
美しい家だと思った。
施された天井の彫刻も年代物と思われるコンソールテーブルに飾られた彫像も、木の床もある種の雰囲気を醸し出している。
そしてその硬質の木材で作られたホールの床につくしのヒールの音が響く。
上で足音がしたのでつくしはホール正面奥の階段の近くに移動した。
「すいません。 島田コンサルタントの牧野です。ドアが開いたので勝手に入らせてもらいました」
つくしが視線を上げた先、階段の上には道明寺が立っていた。
そして階段の下に立ったつくしは降りてくる道明寺を見つめていた。

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Comment:3
コメント
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た*き様
はじめまして。コメント有難うございます。
いいところで終わりました?(笑)
そう感じて頂けて良かったです。
もう自分では良いのか、悪いのかよく分からなくなってます(笑)
更新を楽しみにしているとの言葉を有難うございました。頑張ります!(*´-`)
はじめまして。コメント有難うございます。
いいところで終わりました?(笑)
そう感じて頂けて良かったです。
もう自分では良いのか、悪いのかよく分からなくなってます(笑)
更新を楽しみにしているとの言葉を有難うございました。頑張ります!(*´-`)
アカシア
2015.09.16 21:49 | 編集

H*様
押しまくれ!!
いつも気合いが入った応援有難うございます。
この司もなかなか手が出せていませんよねぇ(笑)
どうもつくしちゃんに対しては弱いんですよね・・
惚れた弱みでしょうか(笑)
でも最後はちゃんとハッピーなエンドです。
拍手コメント有難うございました(^^)
押しまくれ!!
いつも気合いが入った応援有難うございます。
この司もなかなか手が出せていませんよねぇ(笑)
どうもつくしちゃんに対しては弱いんですよね・・
惚れた弱みでしょうか(笑)
でも最後はちゃんとハッピーなエンドです。
拍手コメント有難うございました(^^)
アカシア
2015.12.08 00:28 | 編集
