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2016
12.13

エンドロールはあなたと 29

司が話し始めてからすぐ、牧野つくしが寝息を立て始めたのがわかった。
彼が部屋に戻って来た頃は寝入りばなだったようで、まさにこれから眠りに落ちようとしていた時だったはずだ。恐らく枕に頭を乗せるやいなや、眠りたかったのだろう。だが俺が部屋に戻って来ると言った以上、先に寝るわけにはいかないと思ったのかもしれない。
司はベッドに近づき、眠りに落ちた女を確認するとソファまで戻り、大きな体を窮屈そうに横たえていた。





つくしが目覚めたのは、すでに日が高くのぼったと感じさせる明るさの時間だった。
カーテンが閉められていても、感じられるほどの明るさだ。
あれから、つくしはバスルームに駆け込むことはなかった。どうやら吐き気は収まったようだが、体が重く、だるい、それに喉が痛い。
いったい今は何時なのかと、ベッドサイドのテーブルに置かれた腕時計に手を伸ばし、時間を確認するとベッドから上半身を起こした。

「嘘っ!どうしよう!」

時刻はすでに昼の12時近く。眠りについて、すでに半日近くが経っていた。
つくしは慌てた。今日は新たに別のワイナリーの見学に行く予定だ。
だが今にもくしゃみが出そうで、どうやら風邪をひいてしまったようだと感じられた。
しかし、すぐに頭を過ったのは、道明寺は、道明寺司はもう出かけてしまったのではないかということだ。
どうして起こしてくれなかったのかと男の行動を訝った。
だが今の状況を瞬時に理解することは出来なかった。
自分の隣に男が寝ている。
それだけでも理解出来ないのに、恐る恐る見れば、隣に寝ている男は道明寺司だ!
あの道明寺司が自分の隣で寝ている!それも同じベッドで!
つくしは一瞬言葉を失ったが、思わず叫んでいた。

「ちょっと!なっ、何してるのよっ!」

叫ぶと同時にベッドから飛び降りた。が、くしゃみが出た。
すると、隣に寝ていた男。いや、道明寺司が目を覚ましてつくしを見た。

「な、なんで道明寺が・・いえ、道明寺さんがあたしのベッドで寝てるのよ!」
「...うるせぇな、朝っぱらからなんだよ?」
つくしの声に男は面倒くさいとばかりに返事を返した。
「な、なんだよじゃないわよ!どうして人のベッドに寝てるのよ?」

全く動じることなくにやりと笑う男は、つくしが頭の中に思い描いた道明寺司の姿だ。
乱れたシーツに素っ裸で横たわる道明寺司がカメラに向かって『こっちに来いよ』と誘いかけている姿。
でも、この男が素っ裸かどうかまだわからない。とは言え調べるつもりはない。
だが男が上掛けを取っ払うと現れたのは、下着姿の男だ。それはまさに素っ裸に近い姿。
男は大きな欠伸をすると、片肘をつき、頭を乗せた姿勢でつくしをじっと見つめていた。
それはまさに男が女と一夜を共にした後のような悩ましさを感じさせる視線。

駄目だ。やっぱりあたしは風邪をひいている。そうよ、これは幻よ。
あの時の思いが頭を過るなんて脳みそがどうかしてしまったのかもしれない。それに急に起き上ったせいか、眩暈がする。
今のあたしは風邪なんてひいている暇なんてないはずだ。

道明寺司がこの部屋にいることを納得させられたのは覚えている。
吐いて気分が優れないつくしを心配した男は、今晩この部屋のソファで休むと言ったところまでは記憶にある。弱った女に手を出すつもりもないと言い切ったことも記憶にあった。
それなら、なぜ、この男が同じベッドに寝ていたのか。

つくしは自分のパジャマを確認した。ボタンはきちんとかけられている。問題ないはずだ。
だが目の前に横たわっている男を見れば裸だ。いや、厳密に言えば下着は履いている。
それに幻ではなく現実だ。


つくしにも弟がいる。男の裸くらい見たことがある。
だがこの男の黒の下着はピッタリとしたもので、弟が身に付けているものとは全然違う。つくしは焦りから思わず唾を飲み込んでいた。ボクサーブリーフだかジョッキーショーツだか忘れたが、下着の会社の広告にそんな名称が使われていたはずだ。確かそんな名前の下着のはずだ。

寝乱れた黒い髪、面白そうにこちらを見つめる黒い瞳、官能的と言える薄さを持つ唇、胸は逞しく、そして平たい腹部にあるくぼんだヘソと細い腰・・・
そこまで見たつくしは、慌てて目を反らした。

「どうした牧野?観察はもう終わりか?おまえの目から見て俺は合格点か?」

笑いを含んだ艶のある低い声は、まだ目覚めて間もないつくしの頭の中でこだましていた。
つくしは司の目を見た。途端、頬がカッと熱くなった。

「だ、だからどうしてあ、あなたがあたしのベッドにいるのよ?」

「どうしてって昨日言っただろ?おまえのことが心配だって。それにおまえ風邪ひいただろ?さっきからくしゃみしてるし、我慢してるだろ?」

目覚めた瞬間、体が重く、だるいと感じた。それに道明寺司の言うとおり、さっきから何度もくしゃみが出そうだが我慢していた。

「それに落ち着け。俺がおまえのベッドで寝ていたことで何をそんなに慌てる必要があるんだ?」
にこやかにほほ笑みを浮かべる男。

「あ、あるに決まってるじゃない!あなたどうしてあたしと同じベッドにいるのよ?ソファで休むって言ってたじゃない!」
つくしは言い張ったが喉が痛かった。

「ああ。そのことか。1時間くらいか?あのソファに横になったのは。けど、やっぱあのソファは寝るのには向いてねぇ。俺にはちっちぇえんだ」

そんなことは最初からわかり切っていたはずだ。何しろこの男は体が大きい。
だがソファで寝る事を了承したのだから、そうすべきだ。

「じゃあ自分の部屋に戻ればいいじゃない!」
「あほか。苦しんでる乙女を、いや30過ぎた女に乙女じゃ乙女が可哀想か?とにかく、好きな女が苦しんでるってのに、ほっとけるか?」

苦しんでる乙女...
つくしはそこの言葉に口をつぐんだ。
男が冗談で言ったのか、本気で言ったのか、わからないが、つくしはある意味乙女だ。だがその言葉を楽しむ余裕はない。

「_って言うのは嘘だ。おまえが寒そうにしてたから抱いてたんだよ。おまえ完全に風邪ひいてるぞ?ほっといたらどんどん悪くなる一方だ。医者の往診を頼んだ。もうすぐ来るはずだからベッドに入れ。大人しく寝ろ。海外でぶっ倒れたら困るだろ?」

確かにつくしは足元がふらついた。
何か言おとしたが、その前に電話が鳴った。司はベッドから起き上がると、ソファまで歩いて行き、傍のテーブルに置かれていた携帯電話を取った。

「ああ。俺だ_そうだ。今日の予定は全てキャンセルだ」
司は電話相手に話しを促すように言った。
「_ああ。今日はオフだ。電話もするな。_どうしても__ああ、そうだな。わかった」
司は電話を切ると、振り返ってつくしを見た。

「いつまでもそんな格好で布団から出てると悪化するぞ?それから俺の前で吐いて、自尊心が無くなったとかそんなことは気にするな。俺とおまえはひと晩ベッドを共にした仲だ。一緒に寝た仲だ。だから何も気にすることはねぇからな」

まさか・・・?
いや。それは絶対にない。それだけは確信を持って言える。
それに寒そうにしていたから抱いていたと言ったではないか。
ホテルは十分暖房が効いているが寒気を感じていたときがあった。いくら布団を引き寄せても暖かさを感じることがなかったのは確かだ。だがそんなとき、暖かく大きな塊に包まれた記憶がある。その温もりを求めて抱きしめたはずだ。
それが道明寺司だったなんて。

・・あたしはこの男の温もりを求めた。

だが、例え醜態を晒したとしても気にするなと憎らしいほど余裕を感じさせる男に向かってはっきりと言い放った。

「あのね、道明寺さん。確認しますけど、ベッドを共にしたんじゃありません。ベッドで・・過ごしただけ?違う・・ベッドを・・・とにかく同じベッドを使っただけで、何もなかったんですから、そんな言い方しないで下さい」
「そんな言い方ってなんだよ?」
「だから一緒に寝たとか言わないで下さい。あ、あたし達は一緒の部屋を使っただけですから」
「随分と冷てぇ言い方だな?看病してやった俺にその態度か?」
「看病もなにも・・・」

つくしは言葉に詰まった。
看病と言われるようなことがあったかと言えばそうでもない。でも本気で心配してくれているのは感じられる。それに気が弱っているときに傍に誰かがいてくれることで、安心感があったのは事実だ。

「何だよ?文句があるなら言えよ?」

片眉を上げ、携帯電話を持ち、何が悪いのかと堂々とした態度を見せる男。
文句と言われても文句は・・いや、あった。今すぐ解決したい問題がある。
つくしはにやついた半裸の男に向かって叫んでいた。

「お、お願いだから、早くなにか着て。目のやり場に困るのよ!」

「それを言うならおまえは早くベッドに入れ!」

つくしは言われると慌てて布団にもぐり込んだ。
威勢のいいことを言っていたが、どう考えても風邪をひいていた女。
その後、くしゃみが止まらず、おまけに鼻水まで出始めていた。


それからすぐに医者の往診を終えたつくしは、ベッドの中で大人しくしていた。
医者に断言され、本人が自覚した途端、なぜか悪化するのが風邪だ。
「風邪をひくなんて何年ぶりかな・・」
つくしの言葉に司は聞いた。
「こんなふうにひくことがか?」
「うんん。違うわ。風邪をひいてもこんなふうに寝てる時間なんてなかったの。それに看病してくれる人なんていないし、忙しかったから仕事を休んでる暇もなかった。でもそれは道明寺・・さんも同じでしょ?」
司はつくしのベッドの傍に腰をおろしていた。
「こんなにしてもらえるなんて、本当にありがとうございます。それに今日の視察はキャンセルされたんですよね?」
つくしは自分のせいだと責任を感じていた。
「気にするな。どうせ俺の思いつきで来た視察だ」
「そう言って頂けると、気持ちが楽です。なんだか気が弱くなっちゃったような気がするんです。病気のときに優しくされるとほだされるって言うのか・・。あたし男の人にこんなに優しくされたことがないんです」
つくしは司を見つめると、赤くなった。
「牧野。俺に対してそんなこと言ってもいいのか?そんなに俺を褒めて、なんかさせたいのかと思うぞ?」
少しのあいだ、探るような目でつくしを見つめた男は、薬が効いてきたのか、ウトウトし始めた女の髪を撫でていた。

「とにかく、今はゆっくり休んで早く治せ。風邪をひいたまま気圧の低いところに長時間いるのは辛いからな」
飛行機の機内は気圧が低い。
意味するのは帰国の日が近いということだ。

牧野つくしは、これまで女たちとつき合ってきた経験が、なんの役にも立たないほど別格だ。
司を利用しようとしない女。あくまでも対等な立場で女を主張することがない。
だが、性的なことを匂わせば乙女のように顔を赤らめる女。苦しんでる乙女という言葉に異常に反応したところが見物だった。

「まさか...この女、男との経験がないのか?」

司は低く呟いていた。
だからこんなにトゲトゲしいのか?
思えば心当たりがある。
″あたしに火をつけた人はいない″発言は挑戦的だと受け取ったが、そうではないということか?単なる経験が少ないだけの女かと思っていたが、違うということか?
アプローチの仕方が間違っていたということか?

司はバージンを相手にしたことはなかった。
思いがけず胸がときめく。
司をそんな気持ちにさせるのは、やはり牧野つくしだけだ。






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コメント
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dot 2016.12.13 11:05 | 編集
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dot 2016.12.13 11:48 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
朝起きたら隣に司が寝ていた!羨ましいですね(笑)
奥手のつくしちゃんにはハードルが高いですね?焦りますね(笑)
看病してくれるけどフェロモン出し過ぎですか?(笑)
元々フェロモンが多い人なので、自ずと醸し出されるんでしょうねぇ。
ご本人はそのつもりはないと思いますが、どうでしょうか。
弱ったつくしちゃんにジワジワと行く司。バージンだと気づきましたがどうするんでしょう・・
直接的なアプローチから間接的に変わるのでしょうか・・
頭の中にいるのは彼なんですね?^^
色々言ってもらいたい・・そんなことを大人の司に言わせております(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.13 23:31 | 編集
Ob***sama5様
こんにちは^^
風邪ひきで飛行機に乗って辛い思いをされたのですね?
同じくです(笑)耳が痛く、喉も痛く、何度唾を飲み込んでみても全く効果が得られず、眠りたいのになかなか眠れず10時間以上過ごしました。
坊っちゃんさらりと言いましたが、恐らく経験があったのでしょう。
インフルエンザシーズン到来ですのでOb***sama5様もお気を付けてお過ごし下さいませ^^
狭い機内でウィルスが飛び交うという状況には遭遇したくないです・・(泣)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.13 23:51 | 編集
イ**マ様
こんにちは^^
胸がときめくようなアプローチを司はしてくれるのでしょうか(笑)
つくしちゃん、振り回されてながらも少しずつ追い込まれて・・
まさに追い込み漁をしている司ですねぇ。
大きな網を持って追いかけ回す司が見てみたいです。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.12.13 23:56 | 編集
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dot 2016.12.13 23:56 | 編集
vi**o様
こんばんは^^
余裕綽々の司(笑)
対してつくしちゃんはいつもあたふたしています(笑)
大人の坊っちゃん、つくしちゃんに手のひらで転がされちゃえ~(笑)
そうですよね?やっぱりそうですね?(笑)
いつかその日が来るのでしょうか(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.14 00:02 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
目覚めれば超絶イケメン。いいですよね~。でもつくしにとっては青天の霹靂!
そのわりには司の体をしっかり観察。興味はあるんですね?(笑)
じろじろ見られている司。どうだ!見ろ!って感じかもしれません(笑)
そしてバージンに胸ときめかせる司!...まったく。(笑)
新鮮素材に喜んでいるのか、司はどう調理してくれるのでしょう。
そうです。生きがいいので大変そうですが、今、少し弱っているのでそこから・・(笑)
今週も始まったばかり・・ハァ・・(笑)頑張りましょう!!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.14 00:12 | 編集
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