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2016
12.09

エンドロールはあなたと 26

ワイナリーの視察では、現場で働く日本人男性が案内役として待っていた。
まず訪れたのは、緩やかな傾斜地に広がるブドウ畑だ。
この場所は、夏はさんさんと輝く陽射しがブドウの成長を助け、朝と夕暮れには適度な湿度が畑を潤し、良質なワインの生産には理想的といわれる微気候と呼ばれる場所にあたる。

秋の収穫期になると季節労働者の手によって摘み取られていくブドウ。その頃のブドウ畑は、歩くだけで酔ってしまうほどの濃厚な香りがするという話だ。
毎年どんなブドウが出来るかによって、どれだけ質の高いワインが出来るかが決まる。
ただ、ブドウの当たり年と呼ばれる年に作られたワインを口に出来るのは、収穫から何年も先になる。

畑を見学したのち、ワイナリーに戻り、ワイン造りの工程の説明を受けたが、最先端技術を完備した貯蔵工場にある貯蔵タンクを訪れたときには、漏れ出す芳醇な香りに酔いそうになっていた。
ワインには1年から2年貯蔵されるものから、高級なワインの場合、樽の中で6カ月から3年も寝かされる場合もある。

「もっと具体的に説明してくれないか?」

司は案内役の男性に聞いていた。
空になった樽の保管方法についての質問だが、樽は空っぽにしたままだとカビが生える。そうならないためには、樽は常にワインで満たされていなければならないが、その時のブドウの収穫量次第となるため、場合によっては空の樽が発生してしまうこともある。そうなれば、カビが発生してしまうことは確実だ。樽はワインの味を決めるひとつとなるため、生産者は樽の扱いに気を使っている。

「そうか。空の樽を発生させないための予防としては、ブドウがどれだけ収穫できるかってことにかかってくるわけか」

つくしは道明寺司を見つめていた。
少し離れた場所で、樽熟成について尋ねている男の低く官能的な声を聞いていると、余計なことを想像してしまうのはなぜだろう。これだけ近くにて一日中過ごしていれば、少しは慣れてもよさそうなものの、無理だ。
慣れるなんて絶対に出来そうにない。

試飲を勧められ、少しずつだが口にしていく度に、頭の中を思いもしない映像が過っていた。
まだこの男のことを、モデルだと勘違いしていた頃があったが、今ではあの頃の想像をはるかに上回る映像が頭の中に思い浮かんでしまっていた。

ここがワイナリーだということが影響しているのかもしれない。
漏れ出す芳醇な香りと、道明寺司の出す男としてのフェロモンが混ざり合って、あたしの脳みそは酔ってしまったのかもしれない。



ベッドサイドのテーブルに置かれたグラスに満たされた赤い液体。
乱れたシーツに素っ裸で横たわる道明寺司がカメラに向かって『こっちに来いよ』と誘いかける。すると、そこへ近づいて行く長い髪の裸の女の後ろ姿。


あたしの短い爪が好きと言った道明寺司。
握っていた掌、指を丸めて爪を隠していたわけではないが、わざわざ開いて言った男。
でも短い爪だと男の背中に爪を立てることが出来ない。
彼に近づいて行く裸の女性の爪は、果たして長いのだろうか?
そういえば、以前桜子に言われたことがあった。

『爪は女性らしさの象徴なんです。口紅の色と爪の色はお揃いにするのが常識です。先輩もたまには爪のお手入れくらいして下さいね。男性は女性の指先までちゃんと見てますからね。』

確かに見られていた。
もう少し爪を伸ばしてみようか?

『いいですか?それから問題は色です。まあ、先輩のことですから赤い口紅や爪にすることはないと思いますが、赤は発情してますって合図ですからね?サルのメスは発情期になると際立ってお尻が赤く腫れ上がるんです。人は進化して洋服を着るようになったので、お尻は出せません。その代わり、赤い口紅を塗って殿方にサインを送っているという説があるくらいですからね?もし道明寺さんに気持ちをお知らせしたかったら、赤い口紅を塗ればきっと伝わりますから。』

そう言えば、この視察旅行に出発する前に桜子が口紅を手渡して来たが色は赤だった。
もしかして、あたしもあの男もサルと同じだって言いたいの?
それにあたしが発情することを前提にしてるの?

そう言えば、道明寺司は赤色が好きだって言って_


「牧野?おまえ人の話を聞いてるか?」
「え?」

いつの間にかつくしの隣に戻ってきた男は、背中に手を添えると次に行くぞと先を促した。

「ワイン樽の話だ。樽の中にカビが生えたらおしまいだって話しだ。聞いてるのか?」

「も、もちろん。聞いてます。樽の寿命が3年から10年くらいですが、数回使用しただけで捨てられる樽もあるんですよね?」

つくしはさも真剣に聞いていたと言わんばかりの口調で言った。だが、本当はぼんやりと聞いていた。なぜなら、頭の中には男の裸がちらついていたからだ。

「ぼーっとしてると思ったがちゃんと聞いてたんだな?」

まさか、頭の中を覗かれていたとは思えないが、また何か口から出ていたかと自分を訝しんだ。

「も、もちろんです。仕事ですから。だ、誰かみたいに公私混同はしませんから」

「へぇ。言うじゃねぇか?まあ、確かに仕事は仕事だ。俺もああは言ったが、ビジネス重視ってことは嘘じゃねぇ。これからうちで売り出すワインは何年もかけて市場に浸透させていくつもりだ。やるからには、まあ俺が担当になったんだ。いい広告を作ってもらわねぇと困るのはうちだからな。この視察で何かインスピレーションでも湧けば取り入れてくれ」

司は歩きかけたところで動きを止めた。

「牧野。もし歩き疲れて足が痛いなら靴を脱いでもいいぞ?俺が抱えて行ってやる」

と笑ったが、もし本当にそんなことをすれば、スキャンダラスな記事となって配信されることは間違いないはずだ。


カリフォルニアに来てからやたらと体に手を触れるようになってきた男。
それもいとも簡単に、いかにも慣れた手つきでと言ったら悪いが、女性慣れしているのは間違いない事実だ。この国では女性をエスコートする男性の姿をよく目にするが、この男も実に慣れた手つきで堂に入っている。

俺を知って欲しいと言われたが、どう教えてくれるつもりなのだろう。


そして、つくしも知りたいと思っていた。






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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.12.09 12:51 | 編集
司×**OVE様
つくし、司に落ちてしまったのでしょうか?
気にしていますね(笑)
つくしが司を妄想する時は、必ず裸体!(笑)
それも全裸を妄想するなんて、男性経験が無いというのに妄想だけは暴走していますね?(笑)
どうしてなのでしょうか・・
頭の中は公私混同しまくりのつくしちゃん(笑)
紺野君も今頃二人の事を色々と妄想しているかもしれませんね?(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.12.10 21:23 | 編集
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