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2016
12.08

エンドロールはあなたと 25

ブドウ栽培の最初の数年は、木に適した土を作るために大変な作業を要する。
最初の印象からはわからなかったが、牧野つくしはブドウの木と同じなのかもしれない。
手間をかけ、世話をしてやらなければ女として結実することがないということだろう。
今までいい恋をしてこなかったということか。
それなら豆粒ほどの青いブドウの実が、確実に育つ為に必要なものを惜しみなく与えてやればいいことだ。過去の男は実を実らせる技術を持っていなかったということだろう。

恋人がいない状態が長く続いていたことはこいつの態度でもわかる。
だからと言って、そのことを誰かに責められるわけでもないだろうが、女というのは色々とやっかいな生き物だ。司にも経験がある。過去に付き合った女から年令を理由に結婚を迫られたことはあった。ベッドの相手が欲しいだけだというのに、深い付き合いを求められるようになれば、それなりの見返りで済ませていたが、牧野つくしは違うと感じていた。

はじめは度胸のある女だと思ったが、それは仕事に対してだけだ。昨日の夕食で見せたカジュアルな姿がこの女の本当の姿だろう。滋との食事会は、飾り立てられていただけだと容易に推測出来た。だが昨日は、本当のこの女のプライベートを見た気がした。
地味な生活そのものを表すかのように、黒のパンツにグレーのアンサンブルニットだった。

今日の牧野つくしはビジネススタイルに、俺が贈った靴を履いている。
シートの中で背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いた姿勢でいる。それだけで緊張しているのが感じられた。
司は隣に座るつくしを見据えた。

「牧野。昨日の話だが、おまえは俺がおまえと恋をしたいと言っても困るって言ったよな?確かにいきなりそんなことを言われても困るだろう。だが今まで恋人がいなかったってわけじゃねぇだろ?」

「ええ。それは・・」

突然切り出された昨夜の話の続きであったが、つくしは覚悟していた。
この視察旅行は仕事だ。だが、道明寺司は自分の事を知ってもらう旅でもあると言い切った。
自分の事を知ってくれ、と、いうなら、あたしのことを知りたいと思うのも当然だろう。

つくしにも短い期間であっても男性と交際したことはあった。
だがどういうわけか長続きしなかった。つくしが仕事の忙しさにかまけ、交際相手のことが疎かになってしまうのも事実だった。独身の女性には、桜子のように恋愛体質の女性と、滋のようにビジネスの能力を開花させ、男を凌ぐほど仕事に邁進して行く女性の二つに分かれるのかもしれない。そう考えたとき、つくしは自分がどちらかと言えば、滋の世界に近いのかもしれないと思っていた。

「牧野。俺たちの出会いは運命だと思ってる。おまえは運命を変えられると思うか?俺とおまえは出会うべくして出会ったと思わねぇか?」

司は、牧野つくしとはじめて顔を合わせたときのことを思い出していた。ぶつかって来た女が尻もちをつき、自分を見上げて来た表情を思い浮かべた。

「男と女の間が駄目になるのは、縁がなかったってことで片づけられる。まあ、相性ってのもあるが、おまえは俺のことを気に入るはずだ」

つくしは頬が火照ったのを感じた。
司が言った相性の意味は性的なことだろう。だがその分野について既知の部分はなく、未知ばかりだ。

「あの、道明寺支社長_」
「その支社長って呼ぶのは止めてくれ」司がさえぎった。
「そんなこと出来ません。あなたはクライアントですよ?それに立場のある人です」
「いや、いいんだ。名前で呼んでくれ。第一好きな女に役職名で呼ばれるなんて気持ちわりぃんだ」
「な、名前っていわれても・・」
「それにこっちじゃ役職名なんかつけて呼ぶヤツはいねぇ。こっちじゃ本人がどう呼ばれたいかで、社内での呼び名が決まる。俺はアメリカではツカサだ。イギリスではミスタードウミョウジだがな」
つくしの困惑をよそに、司の声は平坦だ。
「ここはアメリカだからおまえもツカサって呼んでくれてかわまねぇ」
司はなんとかしてつくしに名前を呼ばせようとしていた。
「つか・・」
そこまで呼ぶとつくしは左右に首を振って少し大きな声で言った。
「そんなこと絶対無理です。・・どうしてもと仰るなら・・道明寺さんで、そうよ、道明寺さんでお願いします!イギリス式で呼びます」


つくしは司が言った相性の中に含まれる性的な分野について考えていた。
幾らバージンだと言っても、大人の男女のつき合い方は勿論わかっている。手を繋ぐだけだなんてありえない話であって、つき合いを始めるとすれば、恐らく短期間でベッドを共にすることになるとわかっている。いい年をした男と女、それも相手はあの道明寺司だ。どうして自分が選ばれたのか不思議だが、体を求めて来ることは男としての生理だ。
つくしは気持ちを落ち着けようと目をつぶったあと、開いた。

「あの、あたし_」

実は経験がない。
そのことを伝えるかどうか、もしその予定があるなら先に言った方がいいのではないかと考えていた。セックスをすることに何かもの凄い期待をされているとしたら、無理だ。

「それから気にすることねぇからな」
「でも、やっぱり_」再び司がさえぎった。
「おまえの過去に興味はない。俺と過ごす未来の方がずっと魅力的だ。物事は常に前向きに考えるべきだと思わねぇか?」
「えっ?か、過去?未来?」

つくしは慌てた。道明寺司は明らかにアノことを言っているはずだと思ったが、話している内容はどうやらつくしが思っていたものと違うようだ。途端、つくしは気恥ずかしさでいっぱいになった。

「そうだ。過去は過去だ。俺だって人に胸張って言えるようなことだけが人生にあったわけじゃねぇ。もし、おまえが人に言えないような過去があるって言うなら、俺と共通点があるってことだ」

つくしには人に言えないような過去なんてない。

「おまえが過去にいい恋が出来なかったことで、俺との恋に前向きになれねぇていうのは止めてくれ。そんな過去は俺がきれいさっぱり消し去ってやる」

つくしが思っていることと、道明寺司が思っていることは違っていた。
つくしは、なんと言えばいいのかわからなかったが、一瞬自分が思ったこと、すなわち性的なことは、やはり勘違いだったのかと胸を撫で下ろした。

この男はあたしが過去にいい恋をしてこなかったと思っているようだ。ふと、つくしは視線を司の顔から下に向けた。だが自分がどこを見ているか気づくと、あわてて視線を司の顔に戻した。すると、司はつくしの視線の動きに気づくとフッと頬を緩めた。

つくしは自分の頭の中にある思いを、伝えるべきか止めるべきか考えていた。
実はあたしはまだ経験がないんです。
だが男はそれを聞きたがっているようには思えない。たぶん、30過ぎた女が未だに男性経験がないなんてことは思いもしないからだろう。

「心配するな。俺は前の男と違って女を退屈なんてさせねぇ」

その言葉は明らかに性的な意味の方だとわかった。
なぜなら、道明寺の顔に浮かんでいるのは、男としての性的魅力に溢れた微笑みだ。

つくしは居住まいを正すかのようにシートに座り直すと、無意識に手のひらをグッと握りしめていた。
司はそんな女の片手を掴むと、両手を使って握られている拳を開いた。
柔らかく小さな手。その手は自立した人生を送る女の手だ。彼の周りにはなかった手。

「おまえは爪を短くしておくのが好きか?」

司の周りには、文字通り頭から爪の先まで寸分の隙もないほど、着飾った女たちが多い。
だが牧野つくしは違う。爪先は丸く整えられ清潔感が感じられる。

「伸ばしていると、キーが打ちにくいから・・」

パソコンに向かうとき、爪が長いと邪魔になる。働いている女性なら誰もが感じることだ。

「俺はおまえのそんなところが好きだ。牧野」






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コメント
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dot 2016.12.08 15:10 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
司はこの1週間でなんとかしたいのかもしれませんね?(笑)
必死に口説くなんて(笑)
つくしは自分が初めてだということが、どうやら気になるようです。
司は30過ぎた女にそんなことは求めていないと思いますが、知った時はどうするのでしょう(笑)
でも言えませんよねぇ。アプローチして来る相手は超イケメンでお金持ちです。
何故私が?という戸惑いも感じられつつのこの視察旅行ではないでしょうか?
司、頑張って下さい。^^
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.12.08 22:54 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.12.08 23:49 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
本当ですね!つくしちゃん、意識し始めた途端にアノことに頭が行ってますね!
司の言葉に踊らされているような気もします。司の人に言えない過去!そして退屈はさせない!どうやって?(笑)
今、アカシアの頭の中には、マ**チ様が呟かれたいたアウトレット劇場の司の行為が頭にあり、御曹司にシフトしそうです。
もし、そうなった時は楽しんで下さいませ(笑)
紺野君。今頃悔しがって・・(≧▽≦)そうでしょう。「僕の方が道明寺支社長には似合うはずだ!」と言いかねません。
勝負下着の心配までしてくれる紺野君。確かに女子力高そうですね。妄想紺野君大歓迎です(笑)
ハナキン(笑)恥ずかしくて使えません。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.12.09 00:13 | 編集
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