「雨、よく降るわね」
「台風の進路にあたっているらしいわよ」
「そういえば牧野さん来週から出張だったわよね?」
そう言われたつくしは来週からの出張に備えて資料の整理をしているところだった。
今回は甲信越地方での調査だ。
幸いにして台風はまだ遠い。
「牧野さん出張大丈夫なの? 今回は不便なところなんでしょ?」
「うん、新幹線を降りたらそこからはレンタカーを借りる手配をしているから大丈夫」
「どのくらい運転するの?」
「1時間位かな?結構山道でカーブも多いみたいだからちょっとキツイかもね」
小雨の中、つくしは車のハンドルを固く握りしめながらカーブを曲がった。
もう何度カーブを曲がってきただろうか。
山道の登り坂のうえ、カーブもトンネルも多く目が回りそうだった。
運転は得意とは言えず、幸い対向車両は少なくて少しホッとしていた。
カーナビの言うことを信じてここまでやって来たけど本当に目的地に着けるのか心配になってきた。
まったく道明寺の会社も凄い場所でリゾート開発なんて考えたわね。
いったいどんな客層を対象とした施設を考えているのか知らないけれど、こんな道じゃ到着する頃にはヘトヘトだわ。
*****
車から降りたつくしは足元が少しぬかるんでいる黒い土の上に立っていた。
なるほどね、ここに広大なリゾート施設を建設するわけか。
さすがにこれだけの広さがあればゴルフ場も併設できるはずだわ。
ここなら緑化保全も保たれるし開発許可も問題なく降りるわけね。
ここは高原だけあって都内と違い空気が美味しく感じられる。
たまにはこう言う場所への出張もいいかもね。
「島田コンサルタントの牧野さんですよね?」
声をかけて来たのは山本と名前が書かれたヘルメットをかぶった見たところ四十絡みの男性だった。
「あ、はい」
「私、設計部の山本と言います」
「お世話になります。島田の牧野と申します。今日はよろしくお願い致します」
つくしは鞄の中から名刺入れを取り出すとその中から一枚を差し出した。
「それが申し訳ないんですが、今日はご覧のとおり生憎の天気で作業は中止になったんですよ」
「そうなんですか」
「ええ。わざわざ東京からお越しいただいたのに申し訳ないです。会社の方には連絡を入れておいたんですが、牧野さんには連絡はありませんでしたか?」
つくしは慌てて鞄の中から携帯電話を取り出し確認をしてみた。
「・・・あ、留守番電話にメッセージが・・・。運転に一生懸命で気が付きませんでした。物凄い山道ですね?」
「あ、もしかして牧野さんは裏道を通ってきたのでは?カーブが多くてトンネルも多かったでしょ?あそこは携帯の電波も届いたり届かなかったりするんですよ」
「ええ、確かに。でもカーナビではこの道だと指示が出ていましたので・・」
「レンタカーですよね?そのカーナビはきっとデータの更新がされてないんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、今はいい道路が出来てますよ。ここを開発するにあたって県から許可が出て新しく道路を建設したんですよ」
なるほど。道明寺の会社が地元出身の代議士にでも働きかけたんじゃない?
「それで牧野さん、今日はそう言うわけで作業は中止になりましたのでまた明日お願いするようになりますが大丈夫ですか?」
「ええ、それは問題ありません。私の方でも万一の事を考えて予備日を設けていましたので」
「そうですか。それは良かった、助かります」
さて、これからどうする?
先ほど来た道を帰らなくて済んだのには助かった。
一日のうちにあの道を往復するなんて考えただけで三半規管が狂いそうだった。
初めて道明寺に感謝することが新しい道路を作ってくれていて有難うだなんて笑える。
ここから予約したホテルまで新しい道を走れば30分程度か。
助かった・・・
もうこれ以上の運転は神経がすり減って仕方がなかった。
******
道明寺のパイロットはリゾート開発予定地へとヘリコプターを着陸させた。
迎えに来ていた車はヘリから降りた人物を乗せるとスピードを上げて走り去っていく。
目的地へと向かう車には豪雨が降り注いでいた。
ヘリに乗った時、すでに風も雨もひどくなりつつあったが腕のいいパイロットにはそんな事は関係ないように思えた。
「よく降りますね」
道明寺の隣に座る現場の工事責任者はそう声を掛けると作業工程表を指し示してきた。
「台風接近の影響でこのあたりも天気が荒れそうですので、作業工程に遅れが出てくるかもしれません。今日は島田コンサルタントの方に来て頂いていましたが、このような天気になりましたので調査は中止になりました」
「ああ、ゴルフコースの件だったな?」
「はい。一応明日も予備日として予定をして頂いていましたので、明日にでもと思いました
が、この天候では明日も難しいかもしれません」
「分かった。その件については問題ない。島田の担当者は・・・」
「牧野さんとおっしゃる女性の方です」
「そうか・・・」
「ええ、まだお若い方のようですがあの若さでこの仕事につけるなんて優秀な方なんでしょうね」
「だろうな」
それは簡単な選択に思えた。
牧野がここの調査に来ているんなら話は簡単だ。
東京を離れたこの地であいつと過ごせる時間を有効に使わない手はない。
「島田の牧野はどこに泊まってるか知ってるか?」
「はい。牧野さんなら市内のビジネスホテルに泊まると」
「そうか。その牧野と至急連絡を取ってもらいたい」
「どのようなご用件で・・・」
「ゴルフ場の森林保全につての意見を聞きたいとでも言ってくれ。ただし俺が呼んでいるとは言うな。お前の責任で呼び出してくれ」
道明寺はそう言うと手を伸ばし用意されていた資料に目を通し始めていた。

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「そういえば牧野さん来週から出張だったわよね?」
そう言われたつくしは来週からの出張に備えて資料の整理をしているところだった。
今回は甲信越地方での調査だ。
幸いにして台風はまだ遠い。
「牧野さん出張大丈夫なの? 今回は不便なところなんでしょ?」
「うん、新幹線を降りたらそこからはレンタカーを借りる手配をしているから大丈夫」
「どのくらい運転するの?」
「1時間位かな?結構山道でカーブも多いみたいだからちょっとキツイかもね」
小雨の中、つくしは車のハンドルを固く握りしめながらカーブを曲がった。
もう何度カーブを曲がってきただろうか。
山道の登り坂のうえ、カーブもトンネルも多く目が回りそうだった。
運転は得意とは言えず、幸い対向車両は少なくて少しホッとしていた。
カーナビの言うことを信じてここまでやって来たけど本当に目的地に着けるのか心配になってきた。
まったく道明寺の会社も凄い場所でリゾート開発なんて考えたわね。
いったいどんな客層を対象とした施設を考えているのか知らないけれど、こんな道じゃ到着する頃にはヘトヘトだわ。
*****
車から降りたつくしは足元が少しぬかるんでいる黒い土の上に立っていた。
なるほどね、ここに広大なリゾート施設を建設するわけか。
さすがにこれだけの広さがあればゴルフ場も併設できるはずだわ。
ここなら緑化保全も保たれるし開発許可も問題なく降りるわけね。
ここは高原だけあって都内と違い空気が美味しく感じられる。
たまにはこう言う場所への出張もいいかもね。
「島田コンサルタントの牧野さんですよね?」
声をかけて来たのは山本と名前が書かれたヘルメットをかぶった見たところ四十絡みの男性だった。
「あ、はい」
「私、設計部の山本と言います」
「お世話になります。島田の牧野と申します。今日はよろしくお願い致します」
つくしは鞄の中から名刺入れを取り出すとその中から一枚を差し出した。
「それが申し訳ないんですが、今日はご覧のとおり生憎の天気で作業は中止になったんですよ」
「そうなんですか」
「ええ。わざわざ東京からお越しいただいたのに申し訳ないです。会社の方には連絡を入れておいたんですが、牧野さんには連絡はありませんでしたか?」
つくしは慌てて鞄の中から携帯電話を取り出し確認をしてみた。
「・・・あ、留守番電話にメッセージが・・・。運転に一生懸命で気が付きませんでした。物凄い山道ですね?」
「あ、もしかして牧野さんは裏道を通ってきたのでは?カーブが多くてトンネルも多かったでしょ?あそこは携帯の電波も届いたり届かなかったりするんですよ」
「ええ、確かに。でもカーナビではこの道だと指示が出ていましたので・・」
「レンタカーですよね?そのカーナビはきっとデータの更新がされてないんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、今はいい道路が出来てますよ。ここを開発するにあたって県から許可が出て新しく道路を建設したんですよ」
なるほど。道明寺の会社が地元出身の代議士にでも働きかけたんじゃない?
「それで牧野さん、今日はそう言うわけで作業は中止になりましたのでまた明日お願いするようになりますが大丈夫ですか?」
「ええ、それは問題ありません。私の方でも万一の事を考えて予備日を設けていましたので」
「そうですか。それは良かった、助かります」
さて、これからどうする?
先ほど来た道を帰らなくて済んだのには助かった。
一日のうちにあの道を往復するなんて考えただけで三半規管が狂いそうだった。
初めて道明寺に感謝することが新しい道路を作ってくれていて有難うだなんて笑える。
ここから予約したホテルまで新しい道を走れば30分程度か。
助かった・・・
もうこれ以上の運転は神経がすり減って仕方がなかった。
******
道明寺のパイロットはリゾート開発予定地へとヘリコプターを着陸させた。
迎えに来ていた車はヘリから降りた人物を乗せるとスピードを上げて走り去っていく。
目的地へと向かう車には豪雨が降り注いでいた。
ヘリに乗った時、すでに風も雨もひどくなりつつあったが腕のいいパイロットにはそんな事は関係ないように思えた。
「よく降りますね」
道明寺の隣に座る現場の工事責任者はそう声を掛けると作業工程表を指し示してきた。
「台風接近の影響でこのあたりも天気が荒れそうですので、作業工程に遅れが出てくるかもしれません。今日は島田コンサルタントの方に来て頂いていましたが、このような天気になりましたので調査は中止になりました」
「ああ、ゴルフコースの件だったな?」
「はい。一応明日も予備日として予定をして頂いていましたので、明日にでもと思いました
が、この天候では明日も難しいかもしれません」
「分かった。その件については問題ない。島田の担当者は・・・」
「牧野さんとおっしゃる女性の方です」
「そうか・・・」
「ええ、まだお若い方のようですがあの若さでこの仕事につけるなんて優秀な方なんでしょうね」
「だろうな」
それは簡単な選択に思えた。
牧野がここの調査に来ているんなら話は簡単だ。
東京を離れたこの地であいつと過ごせる時間を有効に使わない手はない。
「島田の牧野はどこに泊まってるか知ってるか?」
「はい。牧野さんなら市内のビジネスホテルに泊まると」
「そうか。その牧野と至急連絡を取ってもらいたい」
「どのようなご用件で・・・」
「ゴルフ場の森林保全につての意見を聞きたいとでも言ってくれ。ただし俺が呼んでいるとは言うな。お前の責任で呼び出してくれ」
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