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2015
09.13

キスミーエンジェル13

あの夜は牧野のせいで眠れなかった。

『 賭けをしないか 』

牧野はその申し出を受けた。
余程自分に自信があるのか、絶対に負けないとまで言い切った。

道明寺は煙草を吸いひと呼吸置いて煙を吐き出すと微笑んだ。
俺だって絶対に負けないつもりだ。

あれから俺は不動産部門の抱えている案件に対しての意見を求められるようになっていた。
ウチのグループ会社となった島田はおのずと道明寺の不動産部門での仕事の割合が増えてきている。そうなると俺と牧野との接点も増えて来た。

俺はどんよりと曇った窓の外に目をやると牧野の事を考えた。
まさかこの俺が会議室の真ん中で腰に手をあて牧野が来るのを待ち構えているなんて誰が想像できる?
あと1時間もすれば牧野がここに来る。
俺は一生懸命だった。
この勝負に負ける訳にはいかない。
ガラス張りの高層ビルの最上階。
普段の会議では決して使うことの無い役員専用会議室を牧野の為に用意した。
空を背景に都内の高層ビルが一望できるが、今日は天気が悪い。

会議テーブルの上に置かれたフラワーアレンジメント。
まさか俺がこんな事にまで気を遣うなんてそんなことを誰が考える?

「会議テーブルの上に生花を飾るなんて素敵ですね」

男の秘書は俺の行動を不思議に思っているとしてもそんな事はおくびにも出す事なく言いのける。
俺の行動をとがめる為に秘書を置いているんじゃないからな。
あの新聞記事が出てからちょっとした騒ぎにはなったが俺のプライベートにいちいち口を出すような秘書じゃない。

「どう思う?」
道明寺は会議テーブルに軽く腰をあずけながら聞いた。

「いいと思います。牧野様もきっと喜ばれると思います」




******





受付で案内を受けたのは61階の会議室だった。
いつもは不動産部門のあるフロアの会議室を使っている。
61階、そこは日本支社長の執務室と役員室が並ぶフロアのはず・・・
あの男また何か良からぬ事を企んでいるのか?
あの夜から何事もなく2週間が過ぎると、つくしはほっとしていいのか憤慨していいのか分からなくなっていた。


私は目の前の重厚な作りの扉を見つめながら気持ちを集中させようとしていた。

会議室に足を踏み入れた私はその光景に驚きを隠せなかった。
オリエンタル調のカーペットが敷きつめられ円形の会議テーブルの上、中央に飾られている溢れんばかりの赤いバラの花。
役員専用会議室と言うだけに重厚感溢れる作りの内装だった。
室内の壁はマホガニー材で作られたと思われるウッドパネル。
会議テーブルもおそらくマホガニーだろう。
壁際のキャビネットにはクリスタルの水差しとグラス。
そして数種類の飲み物が用意されていた。

落ち着かなくてはいけないと思いながらもこの雰囲気に呑まれそうになる。
会議テーブルの向こうには道明寺と秘書と思われる男性が立っていた。

「道明寺支社長、他の皆さんは?」
「あ? ああ、もうすぐ来るだろう」
「すでに支社長がいらっしゃるのに他の方がお見えにならないなんて可笑しいですね」

道明寺は大股で歩きこちらへと向かってきた。
ああ、そうだよな。
他の奴らにはお前の来る時間よりあと1時間は遅い時間で連絡がいっているはずだ。
俺は牧野との戦いがはじまるのが待ち遠しかった。

長身の体躯に沿うように濃紺の背広に真っ白なシャツを着こなしワインレッドのしゃれたネクタイをあわせ、自分のバックグラウンドを誇示するかのようなこの部屋で不適な笑みを浮かべている道明寺を見ているとつくしは落ち着かなくなってくる。
が、つくしはそんなそぶりを気づかせまいと資料を詰めた鞄をギュッと握りしめていた。

「皆さん遅いですね。何かの行き違いがなければいいんですが。私はどの席へ着いたらよろしいですか?」
「ああ、こっちだ」
道明寺はそう言うとつくしが手にした鞄へと手を伸ばしてきた。

「随分重いな」
「支社長、大丈夫ですから」

道明寺の指が鞄を持つ私の手に触れたとき、その指先に感じた彼の手の暖かさに思わず身震いしそうになってしまった。
道明寺はつくしの手から鞄を奪い取るようにすると会議テーブルへと歩みを進めた。

「牧野、コイツは俺の秘書をしている北村だ」
つくしはまるで道明寺が恋人のように寄り添い秘書に紹介するのを黙って見ていた。

「北村さん、どうぞよろしくお願いします。誤解のないように申し上げますが、支社長と私は親しい間柄ではありませんので」

つくしはそう言うと案内された席に着いた。
後で分かったことだが、その席は道明寺の右隣の席だった。
私が道明寺の隣の席に座っているのは新聞記事を鵜呑みにしている者なら当然と考えていたかもしれない。









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