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2016
11.16

エンドロールはあなたと 8

男の腕に抱きかかえられ運ばれる女。
世間でいうお姫様抱っこ。
恐らく世の中の殆どの女性は恋人にその抱っこをされて、寝室まで運ばれることを夢見る。
だがつくしが運ばれたのは、医務室で恋愛とは全く関係がなかった。
それは怪我をした女を助けた男というシュチュエーション。
まるで外国映画にあるような一場面。それはそれでCM的には絵になるカットだ。
ただ問題は女性の顔を映さないということか・・
あくまでも主役は男性で・・・

「はぁ~こんなこと考えている場合じゃないわ・・」

あの時はまだあの男が道明寺司だなんて知らなかったのだから、男のことを広告のイメージモデルと思い込んでいた。そして隣にいる中年男性をマネージャーだと思っていた。
そんな中でその男をイメージキャラクターとして使う方法を考えているうちに、つくしの足はどんどん痛みを増していた。

「あたしって運がいいのか、悪いのか」

つくしは滋から紹介される予定の男と思わぬ形で出会ったということだ。
滋が言った道明寺司という名前の人間は、子会社の役員程度に考えていた。だが相手は道明寺財閥本家本元の道明寺司だというのだから、親友はいったい何を考えているのか。
あらかじめ相手を知ることは悪くはないが、二人の立場が違い過ぎるということは気にならないのだろうか?それにしても相手は″華麗なる道明寺一族″の御曹司だとは!

つくしは鏡に映った自分の顔を見ていた。
平凡な顔。特徴と言えば大きな瞳だけ。
あとは見事なまでに平均的。瞳はふたつ。鼻はひとつ。口もひとつ。あたり前か・・

それに比べてあの男。
彫の深い顔は日本人離れしていて、その背の高さを合わせれば本当にモデルとしてでも食べて行けそうな男だ。そして印象的なのは目だ。切れ長の三白眼は濃く長い睫毛が覆っていた。 人を射抜くような眼差しというのはああいった視線を言うのだろうか?ぶつかって床に座り込んでしまったとき、思わず下から見上げたあの男は、まるで珍しい動物か何かを見るような視線であたしを見ていた。

つくしはあのとき、思わず見惚れてしまっていたのは確かだ。
そうよ。男なのにどうしてそんなに綺麗なのよ!
だからモデルだなんて勘違いをしてしまった。だがその勘違いはすぐに解消されることになったのだが、滋さんは本当にこの男をあたしに紹介しようとしているの?
つくしの目の前には経済誌の最新号が広げられていた。

「まったく、あたしってどうしてすぐに気づかなかったんだろ」

写真からでもわかるが、道明寺という男は普通とは違う。
この写真からでもその圧倒的な存在感が感じられると言うのに、あの時のあたしはどうかしていたに違いない。

34歳の道明寺司はつくしや滋のひとつ上だ。
英徳学園の高等部を卒業するとニューヨークへ住まいを移し、大学を卒業し、最終学歴はハーバードビジネススクール。この写真の男はスーツをビシッと着こなし、手首からはゴールドの薄い時計が覗いていた。

写真を見なくても本人には会ったのだから、今更だと言われればそうなのだが、あのとき医務室でじっと見つめられ、その視線の強さに思わず目を反らしていた。
だがあのとき感じた空気は、目の前の写真を通しても感じられる。眉は優雅な弧を描いていて、唇は薄く引き締まり、口角は不機嫌そうに少しだけ下を向いている。そして、なんとなくだが感じられる面倒臭いという雰囲気。
だがシャープな顎のラインと顔の輪郭からはパワーが感じられた。

「ああっ、もうっ!」

「主任、どうしたんですか?鏡とにらめっこして?自分の顔に何か新しい発見でもあったんですか?それとも吹き出物でも出来てるんですか?」

椅子に腰かけ、手にしていた鏡を見ていたつくしは後ろを振り返った。

「何も発見なんてしてないわよ・・」

冷たく言い放ったが、まったく最近の若い子は。という言葉がまるで口癖のように出そうだったがそこは堪えた。

「あ、牧野主任それ道明寺支社長ですね?」

紺野はつくしが机の上に広げていたページに目を落とした。

「カッコいいですよね~。僕憧れてるんですよ。道明寺さんに。偶然でもいいからこの前会えないかなぁなんて期待しちゃったんですよ。でもやっぱり会えるわけないですよね?お忙し方ですし、下々の元へ降りて来るような方じゃないですからね。まさに雲の上の存在ですから」

「ま、また大袈裟なことを」

つくしは後輩の大袈裟な例えに口を挟んだ。
自分がエレベーターの前で転んだのは、その雲上人道明寺司にぶつかったせいだとは言えなかった。
だが紺野はまるでアイドルの話でもしているかのように目を輝かせていた。

「だってそうじゃないですか?道明寺財閥の御曹司ですよ?まさに銀のスプーンをくわえて生まれて来た人じゃないですか。でも道明寺さんなら銀どころか、金でしょうけどね。
それに知ってますか?アメリカの雑誌なんですけど世界で最も結婚したい独身男性の10人に選ばれたんですよ?凄いじゃないですか!アジア人じゃ初めてですよ?それにセックスアピールって言葉は道明寺さんのためにあるような言葉じゃないですか!」
紺野は勢い込んで言った。
「僕、男だけど道明寺さんにだったら抱かれてもいいかも!」

紺野君はゲイだった?

「牧野主任、僕はゲイじゃありませんからね。その口から漏れる独り言、いい加減に止めて下さいね!そんなんだから男の人が逃げるんですよ!本当に主任、気を付けて下さいね!」
紺野はひとしきり言うと、言葉を継いだ。
「主任、これから会議ですから急いで下さい!ああそれから白雪姫の意地悪な継母じゃあるまいし、先輩の顔は鏡に責任はありませんからね!」





***






広告代理店のクリエイティブ部門というのは、まさに芸術性に富んだ人間の集まりだと思っていた。クリエイティブディレクターを筆頭にコピーライター、グラフィックデザイナーと言ったアーティスト達が緊張感に包まれて仕事をしていた。

プレゼンまで1ヶ月しかないという現実。恐らくプレゼンは再々行って振るいにかけるはずだ。最後に残る一社になれるかどうかはプレゼン次第ということになる。

オリエンテーションを受け、すぐに基本方針を決める会議を開き、どんな内容にするかを決めるが、するべきことは山のようにあった。ターゲット情報やクライアント情報を基に広告の課題を見つけ、そこから課題解決のための戦略を練る。ターゲット情報はマーケティング部門が市場の分析をし、リサーチをし、どんな広告なら売り上げ向上につながるのか戦略を立てる。
1ヶ月しかないのだから最初の10日でデザイン案やコピーなどアイデアを練る。次に企画書やスライドや資料の作成だがこれも10日で作る。そして最後の10日を使って発表のための練習をする。

そしていよいよ本番ということになるのだが、問題はそのプレゼンに道明寺側から出席するメンバーに考えもしない人の名前があるということだ。

プレゼン当日の傍聴者は誰か。
その人の立場は?年齢は?性別は?
重要なのは傍聴者の情報だ。
誰がこのプレゼンの最高責任者になるのかによって話しかける相手が決まるからだ。
プレゼンとは、誰に向かって話をするのかが重要だ。
そう。最終的にはたった一人の人に伝えることが多いからだ。

そしてその傍聴者の中に見つけたのは、支社長、道明寺司の名前だった。







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コメント
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dot 2016.11.16 15:56 | 編集
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dot 2016.11.16 22:10 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
御曹司の妄想癖がつくしに乗り移る!(笑)
そうですね(笑)つくしちゃんお仕事柄、つい妄想してしまうようです。
紺野のひと言。辛口な後輩ですねぇ。最近の若い者は!
鏡よ鏡。世界で一番美しいのは~(笑)つくしはそんなことは言いませんが
紺野君のひと言はキツかったですねぇ^^
さ、明日はプレゼンですね。上手くいくといいですね!
つくしちゃん成功を祈ります。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.11.16 22:38 | 編集
さと**ん様
紺野(笑)とんでもない暴言を吐きますね。
しかし、紺野君、なかなか語彙が豊富です。
さすが代理店勤務の男ですね。
銀のスプーン(笑)金持ちの御曹司ですから違いますねぇ。
でも、司は本当に金のスプーンをくわえていそうです。
白雪姫の継母とか紺野君童話も詳しいんですね!
そんな紺野はいつかびっくりするはずです。
そうでしたか。お大事になさって下さいね。症状が目に浮かぶようです。
これから流行りそうですね・・アカシアも手洗いうがいを心掛けます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.11.16 23:01 | 編集
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dot 2016.11.16 23:38 | 編集
マ**チ様
紺野くんに大賞ありがとうございます!!(笑)
「牧野主任!僕、なにか賞をもらったみたいです。いやぁ、嬉しいですよ、1年間頑張った甲斐がありました」と言っています。
とてもユニークな部下ですねぇ(笑)言いたい放題ですし、本当にどうなんでしょうね。
牧野主任に紺野くんの教育はしっかりとお願いしたいですね。
部下を育てることも大切なスキルとなります。
えっ!!紺野くんをアウトレットの皆さんと共演ですか?(≧▽≦)
ぜひ、よろしくお願いします!
はい。残り半分頑張りますが老体にムチですね・・(笑)
コメント有難うございました^^ 
アカシアdot 2016.11.17 00:08 | 編集
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