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2016
10.27

恋人までのディスタンス 58

「道明寺のお母さんって、思ったとおり綺麗な人だった。男の子ってやっぱり母親に似るのよね?でもやっぱりお父さんも似てるところがあるのよね?」

つくしが肩越しに振り返ったのは手が離せないからだ。

「似てるなんてのは、染色体の幸運な組み合わせだろ?」
「もう・・。もう少しロマンチックな言い方が出来ないの?」
「なんだよそのロマンチックてのは?」
「だ、だから愛の結晶だとか、奇跡の組み合わせだとか・・」
「やめてくれ。あのオヤジとお袋が愛だの奇跡だの言ってる姿は想像が出来ねぇ」

母親の楓以外には会ったことはないが、多忙を極める父親はいい年をした息子が女ひとりに責任を持てないようでは一人前とは言えないと、二人の結婚話は至って平穏に事が運んでいた。
司の父親は道明寺家の当主として、そして道明寺グループの総帥として多忙な日々を送っている。母親の楓が実務的な役割だとすれば、父親は論理的な役割をこなしていた。


30代の男女は何事も一度決めると早かった。まるでこれからの時間を無駄にしたくない。
そして今までの無駄な時間を取り戻そうとするかのように一緒に暮らすことを決めていた。
そう。あのマンションのペントハウスで。
そして今。二人はこうして運ばれてきた荷物を片づけているところだ。

同棲という言葉は使いたくない。そしてもちろんお試しという言葉も。
それならこの二人の生活をなんと呼ぶのだろうか?
つくしの家族は娘の恋人が裕福な男性だと知っても、特段な気遣いはしなかった。
平凡な会社員の父親も専業主婦の母親も、娘の選んだ人生は自分で責任を持てばいいとばかりだ。
ただ弟の進だけは、こんなにカッコいい兄貴が出来るなんてと驚いていた。
ねぇちゃんは雑草なのに道明寺さんは何を間違って摘んだんだろう。珍しい草だとでも思ったんじゃないか?と、そんなことを呟いていた。



道明寺司ほどハンサムな男性には、まずお目にかかることはない。
それは世間の誰もが認めることではあるが、つくしは別にその外見に惹かれたわけではなかった。世間は司のことを洗練された男のように扱うが、それはあくまでも世間に対して見せる顔であって、つくしの前では平気で裸になるし、洗練された部分以外も見せる。

そしてこの男はつくしに対しては心配症で、少し嫉妬深いという性格の持ち主だ。
過剰な愛というものは、ときにつくしを窒息させそうになるが、それは愛しているからだ。
と、そのひと言で片づけられてしまう。

女性はだれでもそうだが、「愛してる」と言われれば嬉しいものだ。
例えそれが過剰な愛だとしても。



司は高校時代の自分が生き急いでいたことは告げていなかった。
あの頃の彼はまさか自分がこんな生き方をしているとは思わなかったはずだ。
女嫌いだったあの道明寺司が、女の隣に立ってキッチンでコーヒーカップを片づけていた。


「それにしてもおまえお袋と渡り合ったのか?」
「わ、渡り合ったというか、話をしただけで別に言い合いをしたわけでもないし・・」

司は次に手にしていたグラスをキッチンカウンターの上に置くと、感心したようにつくしを見た。
「けど、おまえよく一人で乗り込んだよな?」

司の海外出張中に呼ばれただけで乗り込んだわけではなく、お招きを頂いたということを理解してもらいたい。
それに話しをしてみれば、道明寺楓も普通の母親で、なかなか結婚しない息子にヤキモキしていた頃だと聞かされた。
それなのに、そんなことは関係ねぇとばかりの男は、つくしの顔を訝しげに見ている。

「な、なによ・・あたしに向かって偉そうに眉を上げるのはやめて!」
「どっちの眉だよ?」
「ど、どっちって・・右?うんん、左?・・と、とにかくどっちでもいいでしょ?」

司は偉そうにと言われた眉を、右眉をわざと高く上げて見せると笑った。

「あ、右なのね?」
「そんなもん、どっちでもいいだろ?」
「うん。でもね、道明寺のお母さんも同じように右だったわ」

親子で癖が同じだったかと、司がふっとほほ笑んだ。瞬間、つくしの中で緊張が高まった。
それは性的緊張。そしてその顔はつくしだけが見ることが出来るほほ笑み。
結婚によって全人生が変わるというわけではないはずだが、つくしはまるで甘美な波にさらわれたかのように感じていた。

些細なことが甘く感じられるのは、司がつくしの話をきちんと聞いてくれるからだ。
そして新たに知ったのは、驚くほど聞き上手だということだ。人の話を聞いて、的確な意見を述べることが出来る。要するに頭の回転が速いということだ。それは勿論そうだろう。そうでなければ大規模な事業展開など出来るはずがない。






そんな男はさりげなく女性をエスコート出来る。
海外での生活が長かったこともあるが、気づけばいつの間にかつくしの後ろに立っていることがある。そんな時はつくしひとりが緊張感を高めてしまうのだから、いい加減に慣れろと言われる始末だ。

道明寺司が本気の誘惑をすると、こうなるという事例がまさにそれだ。
ある日二人は共に遅い夕食を済ませると、明日の仕事に備え早く休もうという話になるのだが、なぜかいつもその言葉通りになることはない。



「つくし・・」

司はつくしの前に立つと、頬に人指し指の腹を優しく這わせた。
指は頬の膨らみからやがて唇の端に触れると、ゆっくりと唇の上を左右に動いた。
指先ひとつだけを女性の唇に這わせる行為は、どこかエロチックで艶めかしい。
触れる指先にほんの少しの力を込めると、唇が開かれ、その隙間からピンクの舌がチロリと覗く。
その舌先に触れるか、触れないかという指の動き。もしこの指が欲しいのなら咥えてもいいと言わんばかりの態度。そんな時に限って唇の渇きを潤すかのように行われる行為に司の欲望が掻き立てられる。





まだ腫れてない唇。

だがいつも一日の終わりには司のキスでその唇は腫れていた。


鋭い瞳で、だがつくしにだけ向けられる優しい眼差し。

息が荒く、不規則に変わるのが合図となったかのようにつくしを抱き上げると、ベッドルームへと運んだ。



そっとやさしく降ろすのはいつもの行為。
だれにも渡さず、触れさせないと抱きしめた。
これから生涯ふたり一緒に過ごしたい。

つくし?

俺を欲しがって。

欲しいと言ってくれ。

なあ、つくし?

生涯離れねぇと言ってくれ。

俺も一生離すつもりはねぇ。


強烈な欲求は収まるはずもなく、あらゆる部分で牧野を欲しがる。
司はつくしの腰に手を当て引き寄せると己の腰へと脚を回す。
欲しいものはわかっていても、司の情熱の高まりは奪うことを躊躇する。
好きだから。
愛しているから簡単に奪えない。

だがどうしても欲しい。

その気持ちに愛があるから、だから愛し合う行為が尊いものに感じられる。
愛のないセックスはただの獣の行為。
昔の司ならそれでよかった。だが愛を知った男はそれだけでは満足しない。

欲しいのは・・

欲しいものは・・

愛しい女のすべて。奪って、奪い尽くしてもまだ欲しい。

渇望はいつまでたっても収まることを知らず、飢えた獣に成り下がってしまう。

「・・まきの?」

おまえも俺が欲しいか?
そうだろ?
それなら俺と一緒に高みに舞ってくれ。
一緒に空を飛んだろ?

そして、俺と一緒に堕ちてくれ。
どこまで堕ちるかは二人の愛の深さに比例するはずだ。

だから・・

深く責める俺を許してくれ。


彼の人生で最後の女。
本当に愛している女からは1ミクロンも離れていたくない。



司はつくしを抱きしめると、そっと上掛けを二人の上へとかけた。
まるで繭に包まれる蛹のように、ふたりひとつの温もりを求めるように、互いの体を抱きしめ、眠りの彼方へと舟を出す。

牧野・・

牧野・・

愛してる。

だがそのひと言は、すでに寝息を立てる女には聞こえていない。

そんな女を後ろから抱きしめ、深い眠りへ落ちていった。








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コメント
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dot 2016.10.27 18:20 | 編集
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dot 2016.10.27 22:45 | 編集
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dot 2016.10.27 23:07 | 編集
子持**マ様
愛を知った人は・・司は変わりましたね^^
一途な愛を貫く人・・司はそんな男になりました。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.28 21:17 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
司と楓さん、同じ癖がありました。右眉を上げる癖です。(笑)
そうですね、若かりし司が聞いたら怒っていたことでしょう。
愛に目覚めた男(笑)は片時も離したくないとばかりつくしを手元に置きたがる・・
大人ですので、その愛し方の幅は広いことでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.28 21:22 | 編集
サ*ラ様
こんばんは^^
楓さん、息子が結婚してくれるならそれでOKです。
そうなんですか?そんなドラマがあるのですね?
このお話のつくしちゃんがまさにその女性のようなのですね?
坊っちゃん、もう十分遊んで・・ははは・・そうですねぇ。
そろそろ年貢の納め時・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.28 21:27 | 編集
チ**ム様
こんばんは^^
楓さんを攻略。出来たようです。
愛に目覚めた男は・・一人の女性に永遠の愛を誓う坊ちゃんは素敵ですね^^
ペントハウスからの眺めは最高です!隣に好きな人がいれば、それだけで幸せだと思います。
お話もそろそろ・・ですね(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.10.28 21:36 | 編集
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