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2016
10.20

恋人までのディスタンス 52

蒸し暑かったボイラー室から地上に出た瞬間、風の冷たさを感じたのか、つくしはくしゃみをした。司はそんなつくしを気遣うと、抱いた腕に力を込め、足を速めて車に乗り込んだ。

殴られた頬の赤味は依然としてそのままだが、他に何かされたというわけではないようだ。
だが、心配そうな男の顔に浮かぶのは、水長ジュンに対しての怒りとともに、何故、牧野つくしが自分に連絡をしてこなかったかという思いだ。

「おまえ、水長ジュンが接触して来たら俺に言えって言ったよな?」
「う・・うん・・」
「なんであの女にのこのことついて行った?」
「うん・・」

つくしはうんとしか返事をしなかった。
世間的な基準として自分に好意を抱いていない人間について行くという事が、いかに危険かということを判断することがどうして出来なかったのか。司は理由を知りたいと思っていた。
だがこんな経験をすればもう二度と迂闊な行動はとれないはずだ。

「なあ、なんであの女について行ったんだ?」

答えはなかなか返ってこなかった。

つくしは少し考えて口を開いた。

「あの人がなんだか可哀想に思えたの」

可哀想だから話を聞いてあげたい。
そんな慈愛に満ちた精神が牧野つくしの中にある。
司は理解が出来なかった。

「あんな女のどこが可哀想なんだ!お前を監禁したんだぞ!わかってるのか?こんなもんで済んだからいいようなものの、どんなことになってたかわかったもんじゃねぇだろうが!」

司はとんでもないイメージが次々と頭を過ったことは言わなかった。
手錠やガムテープが用意されていたということは、計画的な犯行だと言えるはずだ。
だが女の考えが浅はかだったからこそ、すぐに見つけることが出来たのは運が良かったとしか言えない。

「・・うん。それはわかってる」

しおらく返事を返す姿に少し言い過ぎたかと思っていたが、言うべきことがあるならこの際だと態度を崩さなかった。

「いや。おまえはわかってない。俺とつき合うってことは、悪いが世間の目に晒されることになることは間違いない。そのことだけはどうしても頭に入れておいてくれ。俺は大切にしたいものは全力で守る。だからもう二度とこんなことにならねぇようにおまえにも身辺警護の人間を付ける。嫌だと言ってもこればかりは譲ることが出来ねぇ。勿論、おまえの仕事に支障が出ねぇように気を付けさせるつもりだ」

司はつくしの腫れた頬にそっと手を触れた。

「痛かったろ?」

小さく頷くつくし。
水長ジュンにあらん限りの力で殴られたのだろうと想像が出来た。
その仕返しは彼の手で返されていたが、痛々しさに心が痛んだ。
自分のせいでこんなことになったという思いが司を苛んでいた。

「怖かったんだろ?」

再び頷いた。

「おまえは他人に頼ることが苦手で自立心が旺盛なのはわかる。だがな、自分ひとりで解決出来ねぇ問題もあるはずだ。困ったことがあれば人に頼るってことも必要だ。それに・・今回のことはそれ以前の問題だ。俺とおまえはつき合い始めたんだろ?俺の昔の女が自分の周りをウロウロするなんて気持ちわりぃと思うだろ?それに関わりなんか持ちたくないはずだ。それなのになんであの女が可哀想だなんて思えるんだ?」

司は半ば呆れたように言ってつくしの目を見つめた。

「道明寺・・あたし。本当にごめん・・ごめんなさい。心配かけちゃって・・」
心からの気持ちを込めてつくしは言った。

「でも、ひとつだけわかって欲しいの。あたしは、あの人のことを嫌いだとかそんなふうに思ってないから。ただ、淋しい人なんだと思う。孤独な人。・・そんな気がする。あの人は大勢の人からちやほやされるんだと思う。だけど本当の自分をわかってくれる人はそう多くはないと思うの。それは多分、華やかな姿に集まって来る人間が多いからなんだと思うの。あの人、自分と道明寺は似てるって言ってた・・」

つくしの言葉が司には理解出来なかった。あんな目に合わされれば、相手に対して同情的な事が思い浮かぶなど考えられないはずだ。
それにどこをどうとれば淋しい人という考えが出て来るのか理解出来ずにいた。

「俺のどこがあの女と似てるって言うんだよ?」

司の冷たくムッとした声につくしは怯んだが言葉を継いだ。

「お願い聞いて、道明寺。あの人は自分も道明寺もお互いに自分が一番な人間・・・そんなことを言ってた。でもあたしは道明寺がそんな人間じゃないことは知ってる。だけどあの人は道明寺とつき合っていても、自分を心の中には入れてくれないって言ってたの。だからあの人も自分を守るため、道明寺を心の中心には置かないようにしてたんだと思うの。だから道明寺には割り切った関係でつき合っているように感じたんだと思う。間違っているかもしれないけど、あたしはあの人が道明寺のことを本気で好きだったんだと思えた・・そう感じたの」


司は何も言わなかった。
例え水長ジュンがそう思っていたとしても、司はそうではなかった。
彼はあくまでも躰だけの関係。そう考えていたからだ。
それに、自分の気持ちはあの女には無かったのだから、わかってやってくれと言われてもどうしようも出来なかった。司の気持ちが動いたのは牧野つくしに対してだけなのだから。


「それに周りにいくら人が沢山いても、本当の自分を見てくれる人がいなかったんだと思う。だから、道明寺なら、自分と同じような人間なら、互いに持ち場を守ればどこか分かり合える・・そんなふうに考えたんだと思うの」


司が思うのは、牧野つくしは物事をいい方にしか捉えないということだ。物事の良い面しか見ようとしない。そんな考え方で生きて来た人間なのだろう。
そんな人間の呼び名は、ずばりお人好しだ。その言葉が意味するのは人を信じやすいということだ。裏を返せば騙されやすいということになる。
そんな女を放っておくわけにはいかない。
今の司にはそのことに対して確固たる気持ちがある。

「なあ、いいか?人間守る者が出来たら強くなれる。そいつを全力で守る為にはどんなことでもしようって気になるもんだ。俺は過去、そんな思いに憑りつかれたことはねぇ。けどな、さっきおまえも見た通りで俺はおまえに手を出す人間は許せねぇ。だからおまえがあの女を許せたとしても、俺は許すつもりはない」

その目はあくまでも真剣で妥協はしないという目だ。

だが、そこまで言うと司は笑った。

「_ってことは俺の弱点はおまえだってことだ。_ったくおまえのせいで俺はもう少しで犯罪者になるところだったな。ガギの頃だって捕まったことなんてねぇのにな」

自嘲気味に笑いながらもつくしを見る目は真剣だ。

「しかしおまえ、すげぇ冒険したよな?」

すげぇ冒険。
確かにそうだ。だがもう二度と経験したくない話しではあるが。

「空から飛び降りたと思えば、今度は地下へ潜ってるんだからな」

司を仰天させたり、挑戦してきたりする女が珍しいと思っていたが、今ではそんな女の虜になっていた。

「おまえには驚かされることばかりだ」
「道明寺だってあんなこと・・」

つくしは司の知らなかった一面を見た。
非情な企業家として知られる男の激しい一面。
それは自分の愛する者に対して向けられる感情のほとばしり。

「いや。おまえの方が俺より数段上だ」

司の視線はつくしをじっと見ていたが、手を伸ばすと膝の上に抱き上げ、そして何も考えられなくなるまでキスをした。

「なあ、牧野。余計なことは考えないで、今夜は大人しく俺の部屋へ泊ってくれ」

司は返事を待った。

やがてつくしは頷き、なにもかもを司に預けるとばかり身を寄せた。








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コメント
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dot 2016.10.20 08:16 | 編集
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dot 2016.10.20 13:59 | 編集
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dot 2016.10.20 23:56 | 編集
ち*こ様
甘々そうですねぇ・・どうでしょうか。
二人の大人ペースに任せていますので(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.21 00:15 | 編集
さと**ん様
つくしちゃん。罪を憎んで人を憎まずですね。
暴力を振るわれても水長ジュンを許せる。
相手を可哀想な人だと思える心は、仏様ですねぇ。
早く見つけることが出来て良かったです。
地下に潜るハリネズミつくしもそろそろ、大人の仲間入りが出来る頃になったような気がします^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.21 00:27 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
やっと一件落着しました。
そうですね。つくしは性善説の人ですねぇ。
しっかり者の良い子なのですが、騙されやすいところがあります。
これからは司がそんな彼女をサポートしてくれるはずです。
えっと、夜はまだ始まったばかりのようです(笑)
女性と一夜を過ごしたことがない司の一夜は・・長そうです(笑)
はい。つくしには無理をさせない・・(笑)
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2016.10.21 00:38 | 編集
マ**チ様
はい。やっと平和が訪れそうです。つくしには初の!!が待っていますが、夜はまだこれからです。^^
週末です!あと一日!そして来週は月末!!(笑)はい。応援を糧にあと一日乗り切って素敵な週末を迎えたいです。
水長ジュンさん。ちょっと可哀想でしたね。
女優としてのプライドと女性としての気持ちの板挟み的なところもあったような気がします。
恐らくですが、気持ちをさらけ出しても司には通じなかったと思います。
彼はつくしに会うまでは女はどうでもいい。という男ですので、たった一人の運命の女性に会えるまでは『不毛な人生』(「いつか晴れた日に」より)だったと思います(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.21 00:47 | 編集
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