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2016
10.06

恋人までのディスタンス 41

つくしは司の言葉を考えていた。

『 女として俺が欲しくなったらいつで抱いてやるよ 』

低くハスキーな声で囁かれる言葉によって呼び覚まされた感覚は、つくしの中で大きくなっていた。

あれから何度か食事をしながら話しをした。
デートとは言ってもつくしの休みは火曜か水曜で、まれに日曜に休みを取る事が出来る。基本週末が休みの司と会うためには、繰り合わせが必要となっていた。司の方も休みとは名ばかりのことも多く、週末でも仕事をしていることが多いということがわかった。それにつくしには時間の制約はないが、司には制約が多い。海外出張も多く、会う時間も限られるようになっていた。

今思えばよくあれだけの時間を割いて、人探しにつき合ってくれたものだと考えていた。
いや。厳密に言えば探したのはあたし達ではなく、彼の指示で動いた人間なのだが、どちらにしても忙しい人間であることには代わりがないはずだ。
現に今も、道明寺司はニューヨークへ出張している。


つくしは司とならいくらでも時間が過ごせるような気がしていた。
見せかけの態度はいらない。おまえは何も変える必要はないし、変わる必要もない。
本気でぶつかってこいと言われた。
本音で語り合えることが、道明寺司にとっては重要なことなのはわかっていた。
どこの世界でもそうだが、他人に心を開くということはそう簡単にできることではない。
特にビジネスの世界ではそうなのだろう。
だからこそ、あの男は本音で話しをする人間が好きなんだろう。

自分の気持がはっきりした今、迷うことはなかったが、そうなると今度は自分が彼のようなステイタスを持つ男に見合うかどうかということを考え始めていた。
いや。事実考えないわけにはいかなかった。
相手は世界的企業の後継者。そうなるといくら本人が本気だと言っても、周囲がそれを認めるかどうかという問題が起きるはすだ。

以前つき合っていた女性と別れたとき、週刊誌に記事が載った。
相手は女優で、道明寺司がいかに素敵だったか、ということが書かれた記事をつくしも読んでいた。あの時はまだ感情的なこだわりはなく、ただ、これから共に行動をする男がどんな男なのかを知りたかったからまでのことで、単なる興味本位でしかなかった。
だが、こうしてつき合い始めると、自分の立場を考えないわけにはいかなかった。
後ろめたいという気持ちはないが、それでもどこか自分には分不相応な相手ではないか。
そんなふうに考えていた。


「只今戻りました」

つくしが外出先から戻ると二人の若い男性社員が近寄って来て彼女を取り囲んだ。

「牧野さん。大変だよ!牧野さんに会いたいって人が応接室に来てるんだけど、凄いね!俺、初めて本物を見たけど、感動したよ!」
「俺も。やっぱ違うよなぁ。本物はオーラがあるっていうのか、華があるよなぁ」
二人は興奮した様子で言っていた。
「なんかあの目でじっと見つめられたら、どうにかなりそうだよな?」
「だろ?やっぱおまえもそう思ったか?」

オーラがある。
華がある。
まさか道明寺が会社に来るなんてことはないと思うが、その言葉を聞いて思い浮かんだのは、必然的に道明寺司だった。
だがバラの花を大量に送り付けて以来、会社に係わったことはないはずだ。

「とにかく、牧野さんが戻ったらすぐ応接室に来るようにって中村課長が言ってたから。急いで行った方がいいよ」

男性社員は余程興奮が隠せないのか、とにかく急いでとばかりにつくしをせかしていた。

「う、うん。ありがとう。それでいったい誰が・・」
つくしは二人の話を聞きながら机に鞄を置いた。

「牧野さん、水長ジュンって女優知ってるよね?あの人が新しいマンションの部屋を探しているらしいんだよ。ほら、うちって富裕層が好む物件の扱いが多いだろ?多分誰かの紹介だと思うけど・・・」

若い社員は考え込んでいたが、どうやら思いあたる人間はいなかったようで、そのまま言葉を継いだ。

「まあとにかく牧野さんをご指名らしいから、牧野さんが過去にお世話をしたお客様からの紹介なんだと思うよ」

水長ジュン・・

名前を聞いたとき、つくしはハッとした。
その名前には聞き覚えがあった。間違いない。道明寺司が以前つき合っていた女優だ。

水長ジュンと言えば背が高く、すらりとしてスタイルのよい女性で華やかな魅力があった。
テレビドラマよりも、もっぱら映画や舞台に出演する方が多く、ひと昔まえの映画女優というタイプだ。
女神のようだと言われるように、北欧出身の父親から受け継いだのは、その背の高さと瞳の色だろう。ダークブラウンの瞳とブルーの瞳が交配して出来た瞳の色は淡褐色だ。
髪の毛は栗色の長い髪で見事なウェーブを持っている。優雅で気品のある身のこなしは、果たして生まれ持ったものなのか?それとも女優としての演技のなせる技なのか。
どちらにしても、そんな人がなぜこんな街中の不動産屋にわざわざ足を運ぶのか?
ふと、頭を過ったのは、道明寺司に関係あるのではないかという思いだ。

売れっ子の女優がわざわざマンションの部屋探しなんて自分で行わなくてもいいのではないかと思ったが、人には皆それぞれ事情というものがあるはずだ。
つくしは応接室に続く廊下を進みながらそう考えていた。

トントン

「牧野です。失礼いたします」

ノックと共に扉を開いた。

つくしから見て奥のソファに腰を掛けていたのは課長の中村だ。

「ああ、牧野君、帰って来たばかりですまないね。こちらのお客様だか君も知っていると思うが、女優の水長ジュンさんだ。水長さんはこの近くのマンションをお探しだそうだ。それでうちなら地元であるこの辺りの物件を沢山抱えているはずだということで、わざわざ訪ねて来て下さってね。それで牧野君に物件の案内を頼みたいとおっしゃられているんだよ」

中村がつくしを紹介すると、水長ジュンは愛想よく挨拶を返して来た。
だが一瞬、値踏みするような色が瞳に浮かんだような気がした。
長いまつ毛に縁どられた淡褐色の瞳は、どこかつくしを敵視しているように思えた。
だがそこは女優と言われるだけのことはある。軽く目を閉じ、開いた時にはそんな色はどこにも感じられなかった。

つくしはとにかく、友好的なビジネススマイルを浮かべると、中村の隣に腰を下ろした。


つくしが着ているのは、仕事用のビジネススーツだ。それに対し水長が身に付けているのは、シルクで出来た黒のワイドパンツに、黒のストレッチ素材で出来たトップスを身に付けていた。そのせいか、大きな胸の形をはっきりと浮かび上がらせていた。
足元は高さのあるヒールの靴を履き、恐らくその高さなら170センチ以上の背の高さになるはずだ。ワイドパンツとのセットだろうか。黒い上着は脱がれ、水長の隣の席に置かれていた。水長は自分が女優であるということに、自信を感じさせるようなオーラがあった。
まさにそれは芸能人が持つオーラというものなのだろう。
つくしは別のオーラを持つ人間を知っていたが、もしその人と、この女性が一緒にいるとどんなオーラが生まれるのか・・想像するのは簡単だと思った。


虚飾に満ちた世界というのは、今までつくしの周りにはなかった世界だ。
だが目の前の女性を見ていると、そう言った世界が現実の物としてあるということがわかった。
今まで見た女性の中で一、二を争うような美しい人だと思っていた。だが、それがどこまで本物であるかということも気になっていた。


水長は落ち着き払った態度でつくしを観察していた。
そんな女性はかすれたセクシーな声で話しかけてきた。

「あなたが牧野さんなのね?思っていた人とは随分と違うようだけど」

その言葉に込められた意味はいったいなんなのか?
恐らくだが、道明寺司に新しい恋人が出来たということが彼女の耳に入ったのだろう。
そんな女は昔の恋人のことが気になるのだろうか?何しろ以前目にした週刊誌には、どれだけ道明寺司が魅力的な男であるかということが書かれていて、それは水長ジュンの気持の表れだったはずだ。
別れたとしても好きだという思い。あの記事はそれが切々と書かれていた。
だからこうしてつくしの前に現れたということだ。
つくしの頭の中では、これから何かもの凄いドラマが始まるのではないかという思いがしていた。








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コメント
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dot 2016.10.06 19:51 | 編集
子持**マ様
水長ジュン。女優です(笑)
何をしに来たのでしょう・・。
それも司が日本に居ない時に・・ 確信犯でしょうか・・
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.06 22:06 | 編集
ち*こ様
どんなドラマが始まるのでしょうか・・^^
女同士の戦い!となるのでしょうか?
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.06 22:12 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
ライバル出現となるのでしょうか!
でも別れた人ですし・・・
確かに大人司の女とつき合う基準は何なんでしょうね。アカシアも聞きたいです。
坊っちゃん教えて^^
おっとなの坊ちゃん、そこそこおつき合いがある女性はいたでしょう。
女優の他にどんな人とつき合っていたのか・・。
女の闘いとなるのか。それとも?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.10.06 22:17 | 編集
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