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2016
09.28

恋人までのディスタンス 38

『 道明寺と恋がしたいの 』

あの日の唐突な発言につくし自身も驚いていた。突然の告白に恐らくあ然とされるだろうとは思っていた。だが心に湧き起こった感情を思わず口に出していた。あれほど素直じゃなかった女がどうして急にそんなことを言い出したのかと思うだろう。大人の男としての道明寺を意識し始めたのはいつ頃だったのか。性的な対象として見ないわけにはいかなくなっていた。

時々見せる温かなほほ笑みが自分に向けられるたびに、心が動いた。だが厄介なことにいい年をして、と言われるかもしれないが自らの気持に気づくには少し時間がかかった。
いや、少しどころじゃないはずだ。随分と時間がかかったかもしれない。

道明寺が時間をかけてゆっくりと事を運ぶことを得意としているとは思えなかったが、意識し続けるうちにこの男にも変化が現れて来ていた。
大人の男の本気の誘惑というものに接したのは恐らくこれが初めてだった。



つき合い始めたんだからそれなりのデートをしようとふたりが向かったのは、東京近郊のマリーナに停泊している豪華クルーザー。50メートルほどのエレガントな白い船体は、あの池の手漕ぎボートと比べ物にならないのは当然だが、ふたりの生活レベルの違いをまざまざとつくしに見せつけていた。

ちょっとしたクルージングだと言ったが、金持ちの男とのデートなどしたことがないつくしは、こんな時はどうしたらいいのか勝手がわからなかった。
それでもクルージングが初めてのつくしには全てが目新しく映り、デッキで穏やかな陽射しを浴び、潮風を感じてのんびりと過ごすことは非日常を感じさせてくれることで楽しむことが出来たはずだ。


「くつろいでくれ」

と、言われたがどこでどうくつろげばいいのか。
船の中には船室がいくつかと、中央にはサロンと呼ばれる大きな部屋がある。
サロンは広く美しい設備が備えられていて、船の中とは思えないような快適さだ。

「あの、聞いてもいい?」
「ああ。なんだ?」
「この船って道明寺の物なの?」

これだけ大きな船だ。個人の所有かそれとも会社の所有物なのか興味があった。

「ああ。これは俺個人のものだ」

何しろこの男は桁はずれの金持ちだ。やはりそうかと納得した。

「あの池で乗ったボートもよかったが、あれはクルーズには不向きだからな。外洋に出るならこっちの方が乗り心地がいいはずだ」

真面目な顔で冗談をいう男はつくしのことをじっと見つめていた。

「牧野、そんなに緊張するな。なにもおまえを取って食おうだなんて思ってねぇよ」

あっさりと考えを読まれたつくしは顔を赤らめた。

「どこでもいい。とりあえず座れ」

つくしはサロン中央にあるソファに腰を下ろした。
船の中とは思えない造りに感心していたつくしだったがデッキとは異なり、室内に入ると司の存在が急に近くに感じられた。

司はバーカウンターの内側に入ると、つくしに聞いた。

「おまえ何飲む?酒もあるけど、おまえは酒を飲むとすぐ酔っぱらうからな。紅茶でいいか?」

おもむろに引き出しを開け閉めしたかと思うとティーパックしかないが、と言って、カップに入れるとお湯を注ぎはじめた。つくしはその様子に思わず見とれていた。
そんな姿はまるでこの男に似合わないが、どこか家庭的に思えた。

「えっ?う、うん。ありがとう」

思いもよらぬ行動にこの男の別の一面を見たような気がしていた。





俺と恋がしたいと言った牧野。

真正面に立ってカップを手渡したとき、緊張しているのが司にもわかった。
当然ながら船の中は逃げる場所などない。
司はつくしの凝視に気づいたが、わざと視線を合わすことはしなかった。
駆け引きとは言わないが、そんな様子が見ていておかしかった。
まさに穴が開くほど見つめると言っていいほどだった。興味はあるが手は出せないと言った様子でいた。

司の経験上、こんな状況ともなれば、これまでほとんどの女性が彼に強引に迫って来た。
だが牧野は相変わらず恥ずかしそうな態度を崩そうとはしない。
これほど奥手の女には出会ったことはなかったが、反面これほど愉快な女にも出会ったことがなかった。
恋がしたいと言ったくせに牧野は踏み出すことを恐れている。

そんな女のため時間と空間が取れ、二人っきりになれる場所。そう考えたとき思いついたのがこの船の中だった。それにここなら周りの目も気にしなくていいはずだ。

なんでも考え過ぎる女は真面目な性格のうえに、なかなか自分の気持を正直に話そうとはしない。
それなら司から行動をしないかぎり、ふたりの距離は縮まることはないだろう。

「なあ、牧野。聞きたいことがあるんだがいいか?」

司は少し距離を置いて腰を下ろすと脚を組んだ。片腕はソファの背にかけ、くつろいだ姿勢をとった。

「おまえが空から落ちてきたとき_」
「あ、あたしが空から落ちて来たとき?」
「ああ」
「おまえが空から落ちてきたとき、俺に向かって手を振ったよな?」
「う、うん」

スカイダイビングをしたとき、地上近くで道明寺を見つけたとき思わず手を振っていた。

「あのとき、なんで俺に手を振ろうなんて気になったんだ?」

司はつくしの表情を見守ることにした。感情が表に出やすい女はこれからどう表情が変わるのかと思ったからだ。
大きく見開かれた黒い瞳が司を見た。

「あたしが、今まで考えていたのは・・その・・想像していたのは全然ちがったの」

「何が違ったんだ?」

司はソファから身を乗り出すようにして聞いた。

「いつの日かあたしにも、また男性とつき合う日が来ると思ってた。でも、なかなか上手くいかなかったっていうのが正直なところなの。優紀にも言われたけど、男の人とつき合うのが苦手で、どちらかと言うと壁の花みたいなところがあったの。なかなか次の一歩が踏み出せなくて悩んでいるうちにフラれちゃった。なんてことがあったの。別に嫌な思いをしたとか言うんじゃなくて、ただ・・あたしが踏み出せなかった・・」

つくしはため息をついた。

「だから男性経験がないのは、仕方がないのよ。勇気がなかっただけなんだと思うの。でもいつか、また誰かと恋をしたいと思わないことはなかったの。でもそれが、道明寺みたいな男性だとは考えもしなかった」

「なんだよ?俺みたいな男ってのは?」

司は静かに切り出した。
恋に慣れてない女に対し自分の恋心を気づかせるのは力がいる。そう感じていたからだ。
恋は誰でも平等に落ちる病だが、牧野は自分の恋心をどうしていいのか知らないのだろう。

「だ、だってあたし達全然似てないもの」
「アホかおまえは。あたりまえだろうが。似ていたらつまんねぇだろうが」
「だってあたしは、美人でもないし、お金持ちでもないし、ましてや・・」
「何だよ?言えよ?」
「む、胸も大きくないし・・」
「おまえは・・そんなこと気にしてるのか?」
「き、気にするわよ。だって道明寺の昔の彼女なんて人は・・み、みんなスタイルがいい人ばかりじゃない?女優とつき合ってたって記事だって・・」

司の視線が呆れたようにつくしを見た。

「牧野。おまえは俺のことそんなふうに見てたのか?」
「だって見るもなにも・・」

生活レベルが違うからつき合っていくのは難しい。
このクルーザーにしても、普段の生活にしてもどう考えても違い過ぎる。そう思い始めていた。

「いい加減にしろ。おまえは救いがたい女だな。俺は色んな意味でおまえが好きだって言ったよな?」

「う、うん・・」

「俺の基準を勝手に決めんじゃねぇよ。胸がデカいとかちいせぇとか、美人だとか金持ちだとかそんなことは関係ない。俺はひとりの人間としておまえを見た。松岡のために必死になったおまえの姿勢もそうだが、仕事も真面目だ。少しくらい不真面目なところがあってもいいはずだが、それもない。それにおまえは性根が座ってる。何しろ怖いもの知らずで俺に立ち向かって来るような女だからな。正直おまえのあのパンチはマジで痛かったけど、今となってはいい思い出だ」

司はあの時のことを思い出して、笑いだしたい衝動にかられていた。
だが、今笑うわけにはいかなかった。目の前の女はえらく真剣な表情で司を見ていたからだ。

「あのね、道明寺。あたしは、スカイダイビングを経験してからもっと色んなことに挑戦したいって思えるようになったの。だけどあたしと道明寺の経験の差は、その大きくて・・そのことを考えると怖気づいてしまって・・それに・・」

「牧野。いい加減自分を卑下するのはやめろ。人がどうであろうとおまえはおまえが思うように生きてきたんだろ?それなら今の自分に自信を持てよ?そうだろ?他人がどうの、俺がどうのなんて思う必要なんてねーからな」

司はつくしの顔を見ながら落ち着き払って言った。
その眼差しは真剣だったがどこか茶目っ気が感じられた。

「それにおまえは魅力的だ。おまえの魅力がわかんねぇ男はアホだ」

司は立ち上がるとつくしの隣に腰を下ろし手首を掴んだ。
嫌がる様子はない。

「いいか。牧野。経験なんてのはどうにでもなる。そんなのはゆっくりでいいんだ。俺が教えてやるから心配するな」

司はつくしの表情に不安の色がないかと見たがそんな様子も見られなかった。
すると、つくしの手を自分の脚の間へと持って行くと、高ぶった体に触れさせた。
一瞬の出来事につくしの目は大きく見開かれた。

「これがなんだかわかるよな?おまえに魅力を感じてるからこうなってるんだ。他の女じゃこんなふうになんねぇんだ。だからおまえじゃないと俺が困るんだ」







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コメント
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dot 2016.09.28 07:40 | 編集
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dot 2016.09.28 16:45 | 編集
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dot 2016.09.28 23:46 | 編集
子持**マ様
司はなんてことをしてるんでしょうね(笑)
本当にどうしてこんなことを!
困った人ですm(__)m
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 00:45 | 編集
し*様
続き。二人はどうなるんでしょうねぇ・・
司の大胆な行動にびっくりです!
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 00:48 | 編集
チビ**りん様
お久しぶりです!お元気ですか?
司の愛の表現エロチックといいますか、大胆ですよね(/ω\)
つくしちゃん、お顔が引きつっているんでしょうね(笑)
続きもお楽しみ頂けるといいのですが・・・
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 00:52 | 編集
vi**o様
本当ですね!直接的すぎです(笑)
坊っちゃんセクハラですよ!
え?でももっとやるんですか?
それは・・どのように?(≧▽≦)
色々想像してしまいました(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 00:55 | 編集
司×**OVE様
二人のお話は無事終わったと思ったら、なんと司の大胆な行動に目がテンですよね?
どうしたんでしょうか、この司は。抑えが効かなくなってしまったかのようです。
暴走するのは御曹司だけにしてもらいたいと思います(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 00:59 | 編集
マ**チ様
司と豪華クルーザーで二人きり・・。本当に御曹司が降臨したような行動にアカシアも目がテンです(笑)
どうしたんでしょうか!この司の大胆な行動は!(笑)
マ**チ様Ver.つくし・・狂喜乱舞して次の行動に移しそうですね。
忙しさは、まあいつものことですが、本当に哀しいかな世代的には疲れが蓄積されてしまって、どうしようもないといいますか、慢性的なんですよね(笑)あら、こんなところで愚痴ってしまいました。自分で労わらないと誰も労わってくれませんよね(笑)
マ**チ様もお気をつけて下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.29 01:07 | 編集
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