つくしは自分に嘘をついていた。
はるか上空から道明寺司を見つけたとき、自分をコントロールする力を失ったことに気づいた。それは自分の心が危険な状態に陥ったということだ。
パラシュートを自分でコントロールすることは出来ない。もちろんそれは未経験者だから
だ。つくしの細い腕で風向きの変化に対応することは出来ず、タンデムのパートナーに導かれなければ無事に地上へは戻ってこられなかった。
コントロール不能で戻ってこられない。
それはまさに今の状況だ。
つくしは自分の気持が道明寺司によってコントロール不能になったと感じていた。
それは出会ってからはじめて感じた思い。血圧が急上昇して、喉が渇いたような状態になっていた。この血圧の上昇は決して4000メートル上空から落ちてきたせいではない。
頭が朦朧とするのも三半規管が弱いとか酸欠とかではなかった。今まで親友の為にこの男と一緒にいると口走っていたが、それは自分に対しての嘘だ。自分の気持を誤魔化すための詭弁だったと気づいた。
他人に対して嘘などついたことがなかったのに、自分に対してはぬけぬけと嘘をついているではないか。
自分の気持に嘘をつく。
理由は理解出来た。
恋をするのが怖いのだ。
道明寺司に・・・
この男の全てに女として刺激を受けていた。
男はこうであるべきで、女はこうあるべきだ。そんな画一化したことを求めることなく、文句があるなら言ってみろ的な態度。そんな態度はつくしに論議をふっかけて楽しんでいるように思えるくらいだ。そんな男に思わず立ち向かいたくなってしまうのは紛れもない事実で、実際つくしは立ち向かっていた。
頭がいい女が好きだと言っていた。
それにつくしに殴られたときも、道連れとなって池に落ちたときも、まるで愛し合う恋人同士の些細な喧嘩だといった態度で済ませられると言うユーモアのセンスを持っている。
それからつくしが動揺するとわかっていて、わざと性的なことを匂わせるような会話をする。
知り合った頃はなんて独善的な態度を取る俺様男だと思った。
でもいつの間にか、この男のペースに引き込まれている自分がいた_
あたしと道明寺司の組み合わせ・・・
もしそうなったら世間はどう思うんだろうか・・・
つくしは上空から見た司の顔、そこに浮かんだ満足げな表情に目をそらすことが出来ずにいた。
無事地上に戻ったとき、やはり道明寺司はつくしの顔を見て満足げな笑みを浮かべていた。
だがその笑みはどこか笑いをこらえているようにも感じられた。
その理由はわかっていた。
着地し、体に装備されていた機材を外された途端、脚がふらついて派手に転んだからだ。
「よお。牧野。それでどうだった?おまえの冒険は?」
転んだつくしの頭上から聞こえたどこか笑いを含んだ声。
「えっ?・・うん・・最高だった!」
つくしは両手に付いた土を払うと、司の顔を見上げ笑顔で答えていた。
人に言えば恐らく止められていたであろうこの冒険。
だがこの男はやってみろと背中を押してくれた。今までこんなふうに自分の背中を押してくれた男性はいなかった。それまでつくしの周りにいた男性は、女性に求めるものが画一化した人間ばかりだった。個性が弱まる方向に持って行きたがる。そんな人間が多かったはずだ。
日本人は自分の意見を言わず、ひと前では好き嫌いを言わない。
だが外国暮らしが長かったこの男はつくしの個性を尊重してくれていた。
他人の基準で人生を決めることなく、自分で自分の人生を選んで行くということを認めてくれているように感じていた。
彼はそこに立ち、先ほどと変わらない笑みを浮かべた表情でつくしを見つめていた。
その表情はどこか優しく彼女を包んでくれるようだ。つくしはここがどこか知らない国で、周りには誰もいない。そんな気がしていた。
実際には先ほどまでこの場所には大勢の人間がいた。
つくしのタンデムインストラクターだった人間や司の警護の人間。万が一の事態に備え救急車まで用意されていた。だがいつの間にか彼らの姿は消えていた。
頬に感じるのはそよぐ風と柔らかい陽光。
そして感じるのはふたりの間に流れるエネルギー・・・
出会った頃とは違う、つくしが〝冒険〟をする前とは違う空気の流れ・・・
目が合ったまま、片手を差し出された。
「ほら。手ぇ出せよ。立たせてやる」
「でも、汚れているから・・」
つくしは土を払っていたがそれでも汚れていることは確かだ。
「いいから手ぇ出せよ。素直じゃない女は嫌われるぞ?」
素直じゃない女_
その言葉は今のつくしの心には響くものがあった。
自分に向かって差し出されている男らしい大きな手。
この手を素直に掴んでもいいのだろうか?
「うん・・ありがとう・・」
つくしが差し出された手を握ると、力強い手がひと息で引っ張り立たせた。
素直に言葉が口をついていた。
ありがとう・・と。
司はつくしの片手を掴んだまま、唇を見つめていた。
素直にありがとう。と呟いた唇を。
「ねえ・・ところでこれからどこに行く_ 」
つくしが言い終えないうちに固い胸にぶつかった。
司の胸_
「おまえの行くところは俺の胸の中以外ないと思うが?」
と、両手でつくしの頭をはさみ、何もいえないうちにキスをした。

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パラシュートを自分でコントロールすることは出来ない。もちろんそれは未経験者だから
だ。つくしの細い腕で風向きの変化に対応することは出来ず、タンデムのパートナーに導かれなければ無事に地上へは戻ってこられなかった。
コントロール不能で戻ってこられない。
それはまさに今の状況だ。
つくしは自分の気持が道明寺司によってコントロール不能になったと感じていた。
それは出会ってからはじめて感じた思い。血圧が急上昇して、喉が渇いたような状態になっていた。この血圧の上昇は決して4000メートル上空から落ちてきたせいではない。
頭が朦朧とするのも三半規管が弱いとか酸欠とかではなかった。今まで親友の為にこの男と一緒にいると口走っていたが、それは自分に対しての嘘だ。自分の気持を誤魔化すための詭弁だったと気づいた。
他人に対して嘘などついたことがなかったのに、自分に対してはぬけぬけと嘘をついているではないか。
自分の気持に嘘をつく。
理由は理解出来た。
恋をするのが怖いのだ。
道明寺司に・・・
この男の全てに女として刺激を受けていた。
男はこうであるべきで、女はこうあるべきだ。そんな画一化したことを求めることなく、文句があるなら言ってみろ的な態度。そんな態度はつくしに論議をふっかけて楽しんでいるように思えるくらいだ。そんな男に思わず立ち向かいたくなってしまうのは紛れもない事実で、実際つくしは立ち向かっていた。
頭がいい女が好きだと言っていた。
それにつくしに殴られたときも、道連れとなって池に落ちたときも、まるで愛し合う恋人同士の些細な喧嘩だといった態度で済ませられると言うユーモアのセンスを持っている。
それからつくしが動揺するとわかっていて、わざと性的なことを匂わせるような会話をする。
知り合った頃はなんて独善的な態度を取る俺様男だと思った。
でもいつの間にか、この男のペースに引き込まれている自分がいた_
あたしと道明寺司の組み合わせ・・・
もしそうなったら世間はどう思うんだろうか・・・
つくしは上空から見た司の顔、そこに浮かんだ満足げな表情に目をそらすことが出来ずにいた。
無事地上に戻ったとき、やはり道明寺司はつくしの顔を見て満足げな笑みを浮かべていた。
だがその笑みはどこか笑いをこらえているようにも感じられた。
その理由はわかっていた。
着地し、体に装備されていた機材を外された途端、脚がふらついて派手に転んだからだ。
「よお。牧野。それでどうだった?おまえの冒険は?」
転んだつくしの頭上から聞こえたどこか笑いを含んだ声。
「えっ?・・うん・・最高だった!」
つくしは両手に付いた土を払うと、司の顔を見上げ笑顔で答えていた。
人に言えば恐らく止められていたであろうこの冒険。
だがこの男はやってみろと背中を押してくれた。今までこんなふうに自分の背中を押してくれた男性はいなかった。それまでつくしの周りにいた男性は、女性に求めるものが画一化した人間ばかりだった。個性が弱まる方向に持って行きたがる。そんな人間が多かったはずだ。
日本人は自分の意見を言わず、ひと前では好き嫌いを言わない。
だが外国暮らしが長かったこの男はつくしの個性を尊重してくれていた。
他人の基準で人生を決めることなく、自分で自分の人生を選んで行くということを認めてくれているように感じていた。
彼はそこに立ち、先ほどと変わらない笑みを浮かべた表情でつくしを見つめていた。
その表情はどこか優しく彼女を包んでくれるようだ。つくしはここがどこか知らない国で、周りには誰もいない。そんな気がしていた。
実際には先ほどまでこの場所には大勢の人間がいた。
つくしのタンデムインストラクターだった人間や司の警護の人間。万が一の事態に備え救急車まで用意されていた。だがいつの間にか彼らの姿は消えていた。
頬に感じるのはそよぐ風と柔らかい陽光。
そして感じるのはふたりの間に流れるエネルギー・・・
出会った頃とは違う、つくしが〝冒険〟をする前とは違う空気の流れ・・・
目が合ったまま、片手を差し出された。
「ほら。手ぇ出せよ。立たせてやる」
「でも、汚れているから・・」
つくしは土を払っていたがそれでも汚れていることは確かだ。
「いいから手ぇ出せよ。素直じゃない女は嫌われるぞ?」
素直じゃない女_
その言葉は今のつくしの心には響くものがあった。
自分に向かって差し出されている男らしい大きな手。
この手を素直に掴んでもいいのだろうか?
「うん・・ありがとう・・」
つくしが差し出された手を握ると、力強い手がひと息で引っ張り立たせた。
素直に言葉が口をついていた。
ありがとう・・と。
司はつくしの片手を掴んだまま、唇を見つめていた。
素直にありがとう。と呟いた唇を。
「ねえ・・ところでこれからどこに行く_ 」
つくしが言い終えないうちに固い胸にぶつかった。
司の胸_
「おまえの行くところは俺の胸の中以外ないと思うが?」
と、両手でつくしの頭をはさみ、何もいえないうちにキスをした。

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Comment:7
コメント
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ち*こ様
近づいてきましたね^^
今のふたりの心の距離はどのくらいでしょうねぇ。
拍手コメント有難うございました^^
近づいてきましたね^^
今のふたりの心の距離はどのくらいでしょうねぇ。
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.21 23:07 | 編集

司×**OVE様
こんにちは^^
ついに自覚したように思います。二人の距離は確実に縮まっています。
ハリネズミつくしちゃん。針を寝かせているようです。餌はまだ与えてはいませんが、今のつくしちゃんは自分の気持にいっぱいいっぱいではないかと・・^^ハリネズミが体を丸めてしまわないうちに、なんとかしたいですね?(笑)
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
ついに自覚したように思います。二人の距離は確実に縮まっています。
ハリネズミつくしちゃん。針を寝かせているようです。餌はまだ与えてはいませんが、今のつくしちゃんは自分の気持にいっぱいいっぱいではないかと・・^^ハリネズミが体を丸めてしまわないうちに、なんとかしたいですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.21 23:19 | 編集

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マ**チ様
今回もお腹を抱えて笑いました(笑)こちらの西田さん、釣りの趣味があったんですね?某映画にも同じ苗字の方がご出演ですよね(笑)F4のFはFishのFだった!!知りませんでした!(笑)大きな黒い魚の司。西田さんが苦労して手に入れたエサをくわえて、まるで戦利品を見せびらかすようにしながら姿を消した(≧▽≦)それもその魚はつくしに似た女性がボートから落ちたとき、スカートの中を窺っていただなんて!!支社長と思わず呟いた西田さん・・・釣りをする西田さんの姿が目に浮かびました。
冷静に魚達を分析する西田さんがおかしくて(笑)F3の魚の例えもまさにそのものです。
>しかしどの司様も牧野様が餌になる・・
本当にそうですね?(笑)そして新しコレクションをどうぞとつくしを呼んでいた西田さんにあっぱれを差し上げたいと思います。
マ**チ様いつも楽しいお話をありがとうございます。m(__)m今日も一日頑張ります!!
コメント有難うございました^^
今回もお腹を抱えて笑いました(笑)こちらの西田さん、釣りの趣味があったんですね?某映画にも同じ苗字の方がご出演ですよね(笑)F4のFはFishのFだった!!知りませんでした!(笑)大きな黒い魚の司。西田さんが苦労して手に入れたエサをくわえて、まるで戦利品を見せびらかすようにしながら姿を消した(≧▽≦)それもその魚はつくしに似た女性がボートから落ちたとき、スカートの中を窺っていただなんて!!支社長と思わず呟いた西田さん・・・釣りをする西田さんの姿が目に浮かびました。
冷静に魚達を分析する西田さんがおかしくて(笑)F3の魚の例えもまさにそのものです。
>しかしどの司様も牧野様が餌になる・・
本当にそうですね?(笑)そして新しコレクションをどうぞとつくしを呼んでいた西田さんにあっぱれを差し上げたいと思います。
マ**チ様いつも楽しいお話をありがとうございます。m(__)m今日も一日頑張ります!!
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.23 05:27 | 編集

さと**ん様
えがっだ。ありがとうございますm(__)m
ここぞという時に放つ言葉。
「お前の行くところは俺の胸の中以外ないと思うが」
わたしも言われたいです!!その胸に「抱きしめてトゥナイト」です(≧▽≦)
かわいいハリネズミが冒険をしたいというので、させてみました。
そうすれば、なんと懐いて来たではありませんか!
まさに北の大地で繰り広げられる動物王国でした(笑)
ハリネズミつくし。飼い方さえ間違えなければ、いい子で手のひらに乗るはずです。
コメント有難うございました^^
えがっだ。ありがとうございますm(__)m
ここぞという時に放つ言葉。
「お前の行くところは俺の胸の中以外ないと思うが」
わたしも言われたいです!!その胸に「抱きしめてトゥナイト」です(≧▽≦)
かわいいハリネズミが冒険をしたいというので、させてみました。
そうすれば、なんと懐いて来たではありませんか!
まさに北の大地で繰り広げられる動物王国でした(笑)
ハリネズミつくし。飼い方さえ間違えなければ、いい子で手のひらに乗るはずです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.24 06:36 | 編集
