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2016
09.20

恋人までのディスタンス 33

司はつくしの背中が震えているのを目にしていた。
自分から飛びたいと言った女もさすがにこの高さにはびびっているのか?
高度4000メートル。その高さはまさに眩暈がするような高さ。
日本最高峰と呼ばれる富士山は3776メートル。その高さよりも高い所から外へ飛び出そうというのだから、相当な勇気を必要とするはずだ。

スカイダイビングがしたい。

そのひと言にわかったと頷いた司はさっそく手配をしていた。
危険だから止めろとは言いたくはなかった。それは何故か?
牧野つくしの瞳の中に現れた輝きがまた見たいと思ったからだ。

変化を求めている。

自分で何かを変えようとしている。

そう感じたからだ。



牧野が求めていた冒険。

それにしても随分と危険な冒険を選んだものだ。
だが司はどこか自分と似ているところがるのではないか。そう思っていた。
アメリカで暮らしていた頃、司はスカイダイビングの経験があった。

渡米して間もない頃、刺激の強い非日常的なことを求めていたことがあった。それはある意味高校時代の延長のようなものだ。無軌道で自滅的な高校時代の名残とでもいうのだろうか。 危険だと言われるスポーツで憂さを晴らしていたことがあった。そうでもしなければストレスを発散するところがなかったからだ。大学に通いながら道明寺ニューヨークでも仕事もこなさなければならなかった日々。それは自らの運命を受け入れた日々ではあったが、全てを受け入れたわけではなかった。どこかで自由を手に入れたい。そう考えるとき、危険だと言われるスポーツに身を投じていた。
だが、代々にわたって築きあげられて来た道明寺という会社を自分の代で潰すわけにはいかない。そう自覚してからは危険だと言われるスポーツからは遠ざかり、ビジネスは容赦なく、女とは常に一定の距離を保つようになっていった。


牧野つくしと出会うまでは。


その牧野がこれから初めてのスカイダイビングをする。
セスナ機でダイビングポイント上空まで飛行し、タンデムジャンプをする。
タンデムジャンプとは1つのパラシュートに2人をくくり付けて飛び降りることだ。
お腹と背中がくっ付いた状態で、未経験者の人間の上に熟練者が被さるような姿勢で飛び降りる。

道明寺ホールディングスは北の大地に大規模な牧場を持っている。見渡す限り緑に覆われ、広さにして1500ヘクタールにもおよぶ草原。それは東京ドーム約320個分の広さ。その場所でダイビングをすることにした。

司は今回のダイビングに陸上自衛隊の落下傘部隊出身の男を、つくしのタンデムインストラクターに選んだ。
精鋭無比と呼ばれるスーパーエリート集団出身の男。その男のいた部隊は高い即応力と機動力を持ってあらゆる有事に対応できるように訓練を受けていた。
そんな男は今では司の警護の仕事を担っている。


タンデムの相手は女がいいのだが、その資格を持つような女は見当たらなかった。
それにもし、万が一のことを考えれば特殊任務についた経験のある人間の方がいいと考えた。もちろん同時に飛び降りる人間は司の他に同じく落下傘部隊出身の男達だ。
何かあれば、その男達がサポートすることになっていた。

まあ何かあったら困るんだが・・

「支社長。わたくしが責任を持って牧野様を快適な空の旅へとご案内いたします」

まるでどこかの航空会社のキャッチフレーズのような言い回しだが、司はその男に全幅の信頼を寄せていた。

「ああ。よろしく頼む」

司の隣にいる女は、はじめての経験に緊張しているのか、やけに大人しい。
それにしても、牧野つくしはどうしてスカイダイビングをしたいと言ったのか。
その言葉の真意を探りたかった。今、まさにこれから飛び降りようとする女は刺激が欲しくて飛び降りたいと考えているのか?

それとも_

「支社長。もうすぐポイントです。ご準備を」

震えていた女の背中に飛び降りる為の準備が施されていったとき、やがてその震えも収まっていた。牧野つくし。覚悟を決めたのか?
これから自分が望んだ冒険の世界へ足を踏み出そうとしている。こいつにとってはまさに思い切った行動だろう。牧野つくしのこの挑戦・・いったい何を意味しているのか?

「支社長。それでは先に牧野様をお連れします」

その言葉と共に牧野つくしは落下していった。








***










つくしは自分の冒険がこんなに早く叶うとは思いもしなかった。
ダイブした瞬間、全身の血がいつもと違う流れで体中を駆け巡って行く。まさにそんな感じがした。4000メートルのうち半分ほどはパラシュートを開くことなく、ただ落下していくだけだ。顔面には今まで感じたことがないほどの風圧を受け、重力に逆らうことなく、とてつもなく早いスピードで落ちていく。息をするのがやっとと言う状況に、声すらまともに出ることがなく、言葉を失ってしまったかのようだった。緑に覆われた地上がはるか彼方に見えているが、どんどん加速して行くばかりで、もしかしたらこのままパラシュートが開かずに地上に激突してしまうのではないかと恐怖が過った。
鼓動は激しく、今まで経験したことがないような音を奏でているかのようだ。



つくしはそんなとき、自問していた。

冒険したかったんでしょ?

新しい何かを経験したかったのよね?



「牧野様!」
頭の後ろから声が聞えた。
「パラシュートを開きます!5分空中遊泳になります!」

その声にバッと音がしてパラシュートが開かれると、体が一気に上へと持ち上げられていた。それと同時に体に固定されているベルトが反動で締め付けていた。
早いスピードで落下することを止めた体は、やがてインストラクターにコントロールされながら順調に地上との距離を縮め始めた。

つくしは思い切って足元を見た。
高度1500メートルほどの空中から視線を落とすと、見渡す限り緑が続くなだらかな丘陵地帯が見えた


わあ・・

こんな景色を見ることが出来るなんて・・


はるか彼方には放牧されているのだろうか。沢山の牛の姿が見えていた。
風を感じ、緑の色を目に映しながら空を散歩出来るなんて、今まで躊躇っていたこの冒険だったが道明寺のおかげで実現することが出来た。

やがてパラシュートがゆっくりと落下していくのが感じられた。
地上が近づいてくると余裕が出てきたつくしは、自分の周囲を見渡した。

そう言えば道明寺はどこに行ったんだろう?

セスナの中では何か話しかけられたような気もしたけど、記憶の中に残っていなかった。
地上を離陸してから飛び降りるまでの時間は、何がなんだかわからないうちに過ぎたと言った方がいいだろう。

飛び降りたのはあたしの方が先だったはずだけど、もしかして・・・




やだ。

着地ポイントで空を仰いでいるのは・・
あそこに立っているのは道明寺司なの?


つくしはおずおずと手を振った。

女性が異性に手を振るということは、相手にかなりの親しみを持っているということだ。
他国のように気軽にハグをする習慣のないこの国。そんな国で異性に手を振るという行為はハグに相当するほどの気持が込められているはずだ。まさに相手のことを思うからの表れと言えるだろう。

やがてその手も大きく振られるようになっていた。

つくしの顔には自然と微笑みが浮かび、自分を見上げている男に何か叫びたい気持ちになっていた。それは出会いからこれまでではじめて感じられる思い。





司は上空からゆっくりと降りてくるパラシュートを眺めていた。

牧野つくしは司の姿を認めると、最初はおずおずとだが手を振っていた。

やがて小さく振られていた手が左右に大きく振られるようになってくると、司の顔は満足げにほほ笑んでいた。









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コメント
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dot 2016.09.20 17:46 | 編集
子持**マ様
つくしの願いをすぐに叶えることが出来るのは司だけでしょうねぇ。流石です、司。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 21:36 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
スカイダイビングのインストラクターの資格を取る?ダメです(笑)「危険なスポーツはお控え下さい。」By西田。
つくし、おずおずと手を振りました。その真意は?少しずつ距離が縮まって行くといいですねぇ ^^
好きな女から手を振られたら・・・舞い上がるのではないでしょうか?いや、案外司の後ろにいる人間に手を振っただけかもしれませんよ?(≧▽≦)ハリネズミを懐かせることが出来るでしょうか(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 21:53 | 編集
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dot 2016.09.20 23:17 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^高度4000メートル大丈夫でしたか?よかったです。
北の大地にドーム320個分の牧場を所有する道明寺グループ!凄いですね。その中でハリネズミを一匹だけ飼う。放したら行方不明になりそうです(笑)スカイダイビングもこなす司。ワイルドです(笑)ニューヨーク時代に覚えたようですよ。
そうですよ。早く寝ましょうね^^と、いいつつ明日は休日。少しだけ夜更かしするかもしれません(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.21 22:53 | 編集
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