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2016
09.19

恋人までのディスタンス 32

牧野の瞳に時々ぱっと現れる輝きが俺を惹きつける。
司はつくしの思わぬ発言に驚いたが、望みを告げて来た時の顔は楽しそうだった。
冒険を求める気持ちはあるということがわかり、それを叶えてやることが出来るのは自分だと知った。そしてそのことに思わぬ悦びを感じていたのも確かだ。
言った手前、あいつの望みを叶えてやらなければならない。
だがその前に例の偽者を捕まえておくことが先決かもしれない。




「最近ハリネズミを飼い始めたんだが、餌が悪いのかなかなか懐かねぇけど、なんとかなりそうだ」
司は友人を前に話しを始めた。
「は、ハリネズミって・・司がか?」

友人は予想外の話しの展開に戸惑いの表情を浮かべていた。
久しぶりに訪ねてみれば、ペットを飼い始めたと聞かされたのだから驚きを超えて戸惑うしかなかった。

「ああ。そうだ。小さいのを飼い始めたんだが針を立ててばっかで全然懐かねぇんだ」
「餌って・・ハリネズミの餌ってなんだよ?」
「これだ」

司が差し出したのは一枚の写真。

「なんだよこれ?おまえによく似てるよな?もしかしてアレか?おまえがニューヨークにいるのに東京に現れたって言うおまえに似てる男か?」
「そうだ。この男がハリネズミの餌だ」
「司、おまえの言ってることがよく理解できねぇんだけど?」

写真を手にした男はまじまじと司を見た。

司は執務室の応接であきらを相手に話し始めた。
あるパーティーをきっかけに牧野つくしという女に出会って惚れたこと。
その女の親友が司の名前を語る写真の男とつき合っていたが、ある日突然その男と連絡が取れなくなったこと。写真の男は司本人だと思われていたことから、牧野つくしは親友が司に会いたいという願いを叶えるため、パーティーを通じて司に近づこうとしていたこと。司は自分が殴られたことは言わなかったが、その男が司ではなかったと誤解が解け、今では牧野つくしと一緒に司の偽者と言われる男を探すことになった、ということをかいつまんで話した。

「しかし、おまえのそっくりさん。というか偽者だけど確かに似てる。でもよく見ると全然違うぞ」

顔と体つきは似ているが力強さも優美さも感じられない。
写真を通してでも感じられる本物の道明寺司にあるものが当然だがない。
つまりオーラがないと言うことだ。

「だろ?どうやったら俺とこの男が同じだなんて思えるんだ?」

「おまえの名前を語ったんだ。語られた方の女は信じるしかねぇだろ?
人は自分の信じたいことを信じるように出来ている。その女も信じたいことを信じたんじゃねぇのか?おまえとつき合えるってな。それにあなた本物の道明寺司ですか?なんて聞く女はいねぇだろ?それにたとえ偽者だとしても本物になろうって意志が働くならそう見えてもおかしくなかったんじゃねぇのか?」

「それならこの写真の男は今その意志がないからこんなふうに見えるのか?」

ふたりが見ている写真は力強さも優美さもないただの男が写っている。

「ああ。そうだ。それにどう考えてもおまえに成り代わるなんてことは出来ねぇよ。有名人のそっくりさんだなんてのは所詮まがい物で本物にはなれない。偽者は本物があるからこその偽者だ」

あきらの言うことはもっともだ。

「それで、この男はいったい何者なんだ?」

「ああ、この男か?」

冷静な満足感が目に浮かんでいた。
司は松岡優紀が製薬会社に勤めているということに着目していた。
インフルエンザの新薬の研究をしているという牧野の友人。
その友人を騙すようにしてつき合っていた司によく似た男。

「スパイだよ。スパイ。産業スパイだ」

調査員からの報告は至って簡単だった。

「産業スパイ?この男がか?」

あきらは写真を見ながら顔をしかめた。

「ああ。どうやらそうみてぇだ。騙された女が製薬会社の研究施設に勤めているんだが、その女から情報を引き出そうとしていたみてぇだ。だが男は女が目的としていた情報を持っていないとわかった途端、女を捨てたってわけだ」

「で、この男ってどこの誰かわかってんのか?」

「うちにも製薬事業部門があるが要は商売敵、ライバル会社の社員だ。この男は研究の進捗状況を知りたかったってわけだ」

「まじか・・。でも女の方だってそんなに簡単に研究のことを喋るとは思えねぇけどな。あれか、やっぱピロートークで何気に聞くってことか?」

あきらは少し考え込むようにすると納得したように頷いた。

「確かに俺がつき合ってた女の中には聞きもしないのに、自分の仕事を自慢げにペラペラ喋る女もいたな」

あきらは写真をテーブルに置くと、くつろいだ様子でソファにゆったりと体を預けた。

「なあ司。それよりおまえその牧野って女だけど、どんな女なんだ?」

司もソファに体を預けると胸の前で腕を組んだ。

「牧野がどんな女か。か?ひと言で言えば冬眠中のハリネズミだな」
司の口元がフッと緩んだ。

「おまえ、さっき言った飼い始めたハリネズミってのは牧野って女のことか?」
「ああ。そうだ。ちっちぇえんだけどなかなか根性がある女だ」

司は自分が殴られた時のことを思い出し顎に手をあてた。

「それにしてもハリネズミってのは冬眠するのか?」

「ああ。暑すぎたら夏眠して寒すぎたら冬眠するらしい。あの女の場合は社会生活から冬眠しているようなもんだ。だからちょっと刺激を与えてやんねぇと延々と眠ってしまう可能性が大きい」

「何だかよくわかんねぇけど、司がそんなに手間のかかる女に興味を持つとは思いもしなかったな。それに手に入れたいものを前に躊躇する姿を見ることになるなんて思わなかったぞ。おまえその女が欲しいんだろ?」

司は答えなかったが、あきらには分かっていた。
ビジネスに関しては天性の勘を持つといわれる男。
女に対しての態度は氷の男だと言われていても、親友の心の内には熱い情熱が潜んでいることを。そんな男を虜にした女はいったいどんな女なのかと興味が湧いていた。
それにどうやらその女は、際立つ美貌を持つ男にあまり興味を示していないようにも思える。金、権力、そして美貌を持つ男につれない女・・・
よほどの美人か?それともどこかの御令嬢か?

だが司が形容するのはハリネズミのような女_

「それで、司のいうハリネズミに似た女はどんなことをしたら喜ぶんだ?手に入れるために何か考えてるんだろ?」

あきらは今まで親友が女にプレゼントを買ったということを聞いたことが無かった。
そんな男がもし何か買ってやるとすれば、いったい何を買い与えるつもりなのか興味があった。金で買えないものはない男だ。車でも宝石でも女が欲しがるものならなんでも与えてやることが出来る。それに相手の女は何か要求したはずだ。
司は足元を見るまでもないほどの金持ちだ。いったい何をねだったのか_

「あいつ、空を飛びたいって言うからその望みを叶えてやることにした」
「空?なんだよそれ?ジェットで遊覧飛行でもするのか?」
「いや。違う。自分が飛びたいらしい」
「飛ぶ?」
「いや。あれは飛ぶじゃなくて落ちるか?」
「落ちる?」

予想外の答えにあきらの言葉には疑問符ばかりが増えていた。
まさか司にジェットを買えとおねだりしたってことか?

「ああ。パラシュートで降りて来るあれだ。あれ」
「あれってもしかして、スカイダイビングか?」
「ああ。あいつ空からダイブしてみたいって言うから今度の休みにつき合うことにした」
司は面白そうに笑っていた。

「つき合うって・・おまえ・・まさか一緒に飛ぶつもりか?」

「そうだ。せっかくだから最上級の4000メートルから飛ぶつもりだ」








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コメント
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dot 2016.09.19 13:53 | 編集
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dot 2016.09.19 23:27 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.09.19 23:56 | 編集
子持**マ様
偽者さん。あと一歩でしょうか・・
司に成敗して頂きたいですね^^
恐らくきっとそうしてくれるでしょう。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 00:26 | 編集
ち*こ様
連休も終わり、また日常が戻ってきますね。
今後はどうなるのでしょうねぇ^^
大人の司クンの腕の見せ所となるでしょうか?
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 00:29 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
執務室で会話した相手はあきら君でしたね。確かに類では興味なしとなると寝てしまいそうですよね。総二郎はエロ話しへ・・。まともな会話が出来そうなのはあきらですね(笑) 司は偽者探しもきちんとしていたようです。
スカイダイビングデート。ハリネズミちゃんに餌を用意してる・・?ん?どうなんでしょう・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 00:34 | 編集
チ**ム様
こんばんは^^
司くん、つくしちゃんの冒険心を満足させてあげるようです。まずつくしの心を掴む作戦に出たんでしょうか?
残念ながらアカシアは経験ございません^^無理です(笑)高い所は苦手です(笑)でも飛行機には問題なく乗るんですが・・(笑)
もし搭乗中の機から飛び降りろと言われたらどうしましょうねぇ(笑)そんな怖い目に合わないようにと祈っています。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.20 00:42 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
4000メートルのお話。アカシアも高い所は苦手です(笑)ご心配なく。それほど詳しく書いていないと思います。そうです。抱えられて・・となりますが、そのあたりの事情も書いてあります^^
御曹司マ**チVer.数パターンもあるんですか?凄いですね!!全て読みたいくらいです(笑)今から楽しみにお待ちしています。ところで泡噴いて倒れた司はどうしてますか?(≧▽≦)
今週は途中にお休みを挟んでいるので気が楽ですが、台風が来ていますね。被害がないといいのですが・・・
マ**チ様、夜更かしのし過ぎは体によくないですよ。たまには早く休みましょう・・お互いの健康のためにも・・(笑)
コメント有難うございます^^
アカシアdot 2016.09.20 00:54 | 編集
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