彼は16年この街で暮らしている。
司の落ちてしまった記憶は決して戻ることは無かった。
優しい声で、優しい笑顔で自分のことを好きだと言ってくれた女がいたはずだ。
誰に言われるでもなく、なんとなく頭の中で繰り返されるその思い。
だがどうしても思い出すことは出来なかった。
記憶を無くしていると言われるまでは、自分に記憶の欠落があるとは考えもしなかった。
すべてが消え去っていたわけではなく、小さな欠片とも言える部分だけが抜け落ちているらしい。だがそれが何であるかがわからない。
誰かがおまえが思い出せないなら、それはそれで運命なんだろうから仕方がない。
そう言っていたのは覚えていた。
運命は変えられるのか。それとも変えることは出来ないのか。
どちらにしても、今さら記憶が戻ったからと言って人生が変わることもないはずだ。
時折頭の中を過る幾つかの光景があったが、いつも途中で途切れてしまう。
その先の展開を求めるように再び目を閉じるが、今しがた頭の中で見た光景は甦ることはなかった。
失われたと言われる記憶を求めようとすると、いつも頭が痛んだ。
目を閉じて痛みをこらえる。
記憶を揺さぶるにはショッキングな出会いが必要だと言われたことがあったが、そんな出会いがあるはずもなく、誰と会っても失ったといわれる記憶が戻ることはなかった。
もしかしたらそんな記憶は初めから無かったのではないか・・そう考えることもあった。
失われたという記憶が自分にとってどれだけのものだったのか。
それはわからないがこれ以上自分に精神的な負担を与えたくはないという気持ちもある。
あれから随分と時は流れ、無理に思い出さなくてもいいという思いもあった。
本当に必要とされる記憶なら周囲も取り戻させるため、なんらかの力を貸してくれるはずだがそれもないまま時は過ぎていった。司の家族にとってはどうでもいい記憶だったのだろう。 忘れ去っていても問題はないと一蹴していた。
それでも親友たちは、失われた記憶の中には大切なものがあると口にしていた。
だが他に考えることもあり、もうこれ以上過去を蒸し返してどうなるのかという思いもある。
あの事件から17年がたつ。
腰にある傷痕は一生消えることはないだろうと言われていた。あと数センチでも位置がずれていれば、恐らく命はなかっただろうと言われた。実際に司の体はあのとき反応を停止した。 命を手放す寸前にまで陥っていたことは事実だった。
もしかすると神は司の命と引き換えに、彼の一番大切な記憶を奪い去っていったのかもしれない。
今となってはその記憶がどんなものなのか確かめようもない。
だが失ったと言われる記憶以前のことははっきりと覚えていた。
覚えていたというよりも植えつけられた記憶なのかもしれない。
休暇で訪れていた島から帰ったところで事件が起こった。港で後ろから刺されたとき、自分の命は尽きると感じていた。あのとき、あの場所には親友たちしかいなかったはずだ。
今でもそう信じているが、それは間違いなのだろうか?
見知らぬ女が何度か訪ねて来たことがあったが、事件直後の記憶は曖昧でそんな女が本当にいたのかさえ確かではなかった。
『 道明寺ホールディングスCEO、道明寺司が日本に帰ってくる。
今後は母親から経営を引き継いで暫くは東京での生活を送ることになる 』
司は新聞をデスクの上に放ると椅子の向きを変え、窓の外を見た。
ニューヨークの夜景。
暫く見ることはない・・か・・・
決して心が和む街ではなかった。
ビジネスを優先し、生きる目標などなく毎日が過ぎて行くだけだった。
そんな毎日のなか、何かが足りないと心の渇望を感じてはいたが、手に取ったものは本当に欲しいものではなかった。
思えばこの街で欲しいと思えるものはなかったはずだ。
日本に帰れば本当に欲しいというものが見つかるのだろうか。
司が立ち上がると秘書が声をかけた。
「そろそろ出発しませんと。」
「おまえは俺の秘書になって何年になる?」
「10年ですが、それが何か?」
「・・いや。なんでもない。」
どこの国にいようと、殆どの時間を会社で過ごしている司にとって執務室が一番居心地のいい場所だ。
10年一緒にいるという秘書。
そんな男といる時間の方が、プライベートの時間よりも長いということがあたり前になっている司の人生。
ビジネスに集中している時が一番幸せだ。
自分が一番幸福を感じているのは、ビジネスが成功したときだ。そう思っていた。
だが、何かが足りなかった。
いったい何が足りないのか?それが何であるのかがわからなかった。
それはとても重要な・・手に入れなければならないものなのか?
いや。欲しいものは全て手に入れているはずだ。
だが司がここ最近見る夢の中では、いつも何かに責め立てられているように感じていた。
その何かは明るい光の中から俺を見つめ続けていた。だがその光が眩しすぎてその何かがわからなかった。逆光線のなか誰かがいる・・そんな気がしてならなかった。
どうして見えないのか?
俺が見ようと努力していないからか?
そこに誰かいるのか?
おまえは誰だ?
司はこめかみに手を当てた。
「代表?どうされましたか?」
「大丈夫だ。問題ない。」
手をあげて近寄る秘書を制止する仕草をした。
最近よく見るようになった夢は、東京に帰るということが、心のどこかに心理的な負担を与えているのではないかとさえ思うようになっていた。
生死を彷徨うことになった事件のあった国へ帰ることが・・・
***
「進、あの子が、航(こう)がいなくなったの。」
つくしは電話で弟に息子がいなくなったことを伝えていた。
「父親に・・道明寺に会いに行ったんだと思うの。」
新聞に載ったのは、道明寺が帰国して生活の拠点を日本に移すという話しだ。
自分が配達する紙面に見つけた道明寺の顔に何かを感じとったのだろう。
そして押し入れの奥深く、普段は目に触れないところにある箱を母親が大事にしているということは以前から知っていたはずだ。
箱の中には思い出の品以外の物も保管されていた。
道明寺に関する古い記事。その新聞記事に書かれていたのは遠い昔、彼が生死の境を彷徨ったということ。そしてその男が渡米したという記事もあった。
暫くして誰かと婚約をしたという記事。それから結婚し、その後すぐに離婚をしたという記事。
あの子は、気づいていたのだろう。
自分の父親が誰かということを。
牧野 航という名前で生きて来た息子は自分の出自を知りたいと思ったのだろう。
『 どうして父さんは僕を欲しがらなかったの? 』
それはあの人があたしを欲しがらなかったから。
そう言えばよかったのかもしれない。
道明寺家にその存在すら知られなかった息子。
あたしが道明寺とそんな関係になったのは一度だけ。
あれは船を下りる前の晩の出来事で、仲間の誰も知らない一夜だった。
***
.
司の乗った航空機は予定よりも1時間遅れて東京に到着した。
だが彼はすぐには立ち上がらなかった。
久しぶりの日本だと言うのに何故か足が重かった。
今までニューヨークで暮らしていたとしても、何度も訪れていた自分の母国。
その国に住むことになったというのに、気が重いのはなぜか。
「代表、そろそろ行きませんとこのあとの予定が詰まっております。飛行機が遅れたのは予定外でしたので急ぎませんと。」
「そうだな。」
「これからすぐにお邸の方で簡単ではございますがご帰国をお祝いしてパーティーがあります。」
司よりも司のスケジュールを知っている男によって流されていく時間。
世田谷の邸で行われる自分の帰国を祝ってのパーティー。
どのパーティーに参加しようが、どこの誰に会おうが司にとってはどうでもいいことだ。
時間の流れはどこの国にいても所詮同じことで、それがニューヨークだろうが東京だろうが変わるものではないのだから。
時間の流れを止めたいと思ったことがあっただろうか?
ふと、そんなことが頭を過ったがそれはないと強く否定していた。
道明寺財閥の後継者の帰国に多くのマスコミが集まるなか、颯爽と到着ロビーを歩く背の高い男。周りには警護の者か関係者と思われる人間が多く付き従っていた。
司の帰国は大きな注目を浴びている。こうしてマスコミ関係者の前を通るのもプレス対応のひとつだ。これから活躍の舞台をこの国に移すにあたってのいわゆるお披露目のようなものだった。
『 道明寺の後継者、満を持しての帰国 』
世間ではそう言われていた。
そんな彼の目の前に開ける道は、ロビーの外で待つ黒塗りの大型車まで続いている。
空港ロビー。
ここは大勢の人間の人生が交差する場所。
目的地が違う者がすれ違う場所。
だが司の前をすれ違うように横切る人間はどこにもいない。
俺の人生と本当の意味で交わる人間はどこにもいないはずだ。
誰が俺の前を横切るというのか?
いやそれはない。
今までもそうだった。
だがそのとき、司の時間がスローモーションのようにゆっくりと流れた。
それは突然の出来事。視界の端に少年の姿が写った。
あれは・・
一瞬だったが若い頃の自分がそこにいるかのような錯覚に襲われていた。
自分によく似た少年の姿に驚きが隠せなかった。
ジーンズを履き、黒のトレーナー姿の少年。
表情は硬く、こちらをじっと見つめている。
そんな少年の前を誰かが横切った。すると少年の姿はその場所から消えていた。
司は見えなくなった少年を探そうと思わず振り返ったが、その姿を見つけることは出来なかった。
どういうわけか気になった。
どこかで会ったことがあったかと考えたが、自分があの年頃の少年と接点などあるはずもないと言い聞かせようとした。
だが・・
何かが司を落ち着かない気分にさせた。
それがなんであるかを確かめなければいけない。
もしかしてあの少年は過去の自分なのか?
日本に帰国してまさか過去の自分に出会うとは思いもよらなかったが、そんな気にさせられた。
最近見る夢の中の誰か・・
逆光線の中の誰か・・
もしかしたらあれは昔の自分の姿なのか?
少年の姿となって現れたのか?
そんな気がするのはなぜだ?
何がひっかかり、心の暗がりへ滑り込んで来たような気がしていた。
だが自問自答すれど今の自分には分かりそうもない。
司は迎えの車に乗り込むと窓の外へと視線を向け、今しがた見た少年の姿を思い浮かべていた。

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優しい声で、優しい笑顔で自分のことを好きだと言ってくれた女がいたはずだ。
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記憶を無くしていると言われるまでは、自分に記憶の欠落があるとは考えもしなかった。
すべてが消え去っていたわけではなく、小さな欠片とも言える部分だけが抜け落ちているらしい。だがそれが何であるかがわからない。
誰かがおまえが思い出せないなら、それはそれで運命なんだろうから仕方がない。
そう言っていたのは覚えていた。
運命は変えられるのか。それとも変えることは出来ないのか。
どちらにしても、今さら記憶が戻ったからと言って人生が変わることもないはずだ。
時折頭の中を過る幾つかの光景があったが、いつも途中で途切れてしまう。
その先の展開を求めるように再び目を閉じるが、今しがた頭の中で見た光景は甦ることはなかった。
失われたと言われる記憶を求めようとすると、いつも頭が痛んだ。
目を閉じて痛みをこらえる。
記憶を揺さぶるにはショッキングな出会いが必要だと言われたことがあったが、そんな出会いがあるはずもなく、誰と会っても失ったといわれる記憶が戻ることはなかった。
もしかしたらそんな記憶は初めから無かったのではないか・・そう考えることもあった。
失われたという記憶が自分にとってどれだけのものだったのか。
それはわからないがこれ以上自分に精神的な負担を与えたくはないという気持ちもある。
あれから随分と時は流れ、無理に思い出さなくてもいいという思いもあった。
本当に必要とされる記憶なら周囲も取り戻させるため、なんらかの力を貸してくれるはずだがそれもないまま時は過ぎていった。司の家族にとってはどうでもいい記憶だったのだろう。 忘れ去っていても問題はないと一蹴していた。
それでも親友たちは、失われた記憶の中には大切なものがあると口にしていた。
だが他に考えることもあり、もうこれ以上過去を蒸し返してどうなるのかという思いもある。
あの事件から17年がたつ。
腰にある傷痕は一生消えることはないだろうと言われていた。あと数センチでも位置がずれていれば、恐らく命はなかっただろうと言われた。実際に司の体はあのとき反応を停止した。 命を手放す寸前にまで陥っていたことは事実だった。
もしかすると神は司の命と引き換えに、彼の一番大切な記憶を奪い去っていったのかもしれない。
今となってはその記憶がどんなものなのか確かめようもない。
だが失ったと言われる記憶以前のことははっきりと覚えていた。
覚えていたというよりも植えつけられた記憶なのかもしれない。
休暇で訪れていた島から帰ったところで事件が起こった。港で後ろから刺されたとき、自分の命は尽きると感じていた。あのとき、あの場所には親友たちしかいなかったはずだ。
今でもそう信じているが、それは間違いなのだろうか?
見知らぬ女が何度か訪ねて来たことがあったが、事件直後の記憶は曖昧でそんな女が本当にいたのかさえ確かではなかった。
『 道明寺ホールディングスCEO、道明寺司が日本に帰ってくる。
今後は母親から経営を引き継いで暫くは東京での生活を送ることになる 』
司は新聞をデスクの上に放ると椅子の向きを変え、窓の外を見た。
ニューヨークの夜景。
暫く見ることはない・・か・・・
決して心が和む街ではなかった。
ビジネスを優先し、生きる目標などなく毎日が過ぎて行くだけだった。
そんな毎日のなか、何かが足りないと心の渇望を感じてはいたが、手に取ったものは本当に欲しいものではなかった。
思えばこの街で欲しいと思えるものはなかったはずだ。
日本に帰れば本当に欲しいというものが見つかるのだろうか。
司が立ち上がると秘書が声をかけた。
「そろそろ出発しませんと。」
「おまえは俺の秘書になって何年になる?」
「10年ですが、それが何か?」
「・・いや。なんでもない。」
どこの国にいようと、殆どの時間を会社で過ごしている司にとって執務室が一番居心地のいい場所だ。
10年一緒にいるという秘書。
そんな男といる時間の方が、プライベートの時間よりも長いということがあたり前になっている司の人生。
ビジネスに集中している時が一番幸せだ。
自分が一番幸福を感じているのは、ビジネスが成功したときだ。そう思っていた。
だが、何かが足りなかった。
いったい何が足りないのか?それが何であるのかがわからなかった。
それはとても重要な・・手に入れなければならないものなのか?
いや。欲しいものは全て手に入れているはずだ。
だが司がここ最近見る夢の中では、いつも何かに責め立てられているように感じていた。
その何かは明るい光の中から俺を見つめ続けていた。だがその光が眩しすぎてその何かがわからなかった。逆光線のなか誰かがいる・・そんな気がしてならなかった。
どうして見えないのか?
俺が見ようと努力していないからか?
そこに誰かいるのか?
おまえは誰だ?
司はこめかみに手を当てた。
「代表?どうされましたか?」
「大丈夫だ。問題ない。」
手をあげて近寄る秘書を制止する仕草をした。
最近よく見るようになった夢は、東京に帰るということが、心のどこかに心理的な負担を与えているのではないかとさえ思うようになっていた。
生死を彷徨うことになった事件のあった国へ帰ることが・・・
***
「進、あの子が、航(こう)がいなくなったの。」
つくしは電話で弟に息子がいなくなったことを伝えていた。
「父親に・・道明寺に会いに行ったんだと思うの。」
新聞に載ったのは、道明寺が帰国して生活の拠点を日本に移すという話しだ。
自分が配達する紙面に見つけた道明寺の顔に何かを感じとったのだろう。
そして押し入れの奥深く、普段は目に触れないところにある箱を母親が大事にしているということは以前から知っていたはずだ。
箱の中には思い出の品以外の物も保管されていた。
道明寺に関する古い記事。その新聞記事に書かれていたのは遠い昔、彼が生死の境を彷徨ったということ。そしてその男が渡米したという記事もあった。
暫くして誰かと婚約をしたという記事。それから結婚し、その後すぐに離婚をしたという記事。
あの子は、気づいていたのだろう。
自分の父親が誰かということを。
牧野 航という名前で生きて来た息子は自分の出自を知りたいと思ったのだろう。
『 どうして父さんは僕を欲しがらなかったの? 』
それはあの人があたしを欲しがらなかったから。
そう言えばよかったのかもしれない。
道明寺家にその存在すら知られなかった息子。
あたしが道明寺とそんな関係になったのは一度だけ。
あれは船を下りる前の晩の出来事で、仲間の誰も知らない一夜だった。
***
.
司の乗った航空機は予定よりも1時間遅れて東京に到着した。
だが彼はすぐには立ち上がらなかった。
久しぶりの日本だと言うのに何故か足が重かった。
今までニューヨークで暮らしていたとしても、何度も訪れていた自分の母国。
その国に住むことになったというのに、気が重いのはなぜか。
「代表、そろそろ行きませんとこのあとの予定が詰まっております。飛行機が遅れたのは予定外でしたので急ぎませんと。」
「そうだな。」
「これからすぐにお邸の方で簡単ではございますがご帰国をお祝いしてパーティーがあります。」
司よりも司のスケジュールを知っている男によって流されていく時間。
世田谷の邸で行われる自分の帰国を祝ってのパーティー。
どのパーティーに参加しようが、どこの誰に会おうが司にとってはどうでもいいことだ。
時間の流れはどこの国にいても所詮同じことで、それがニューヨークだろうが東京だろうが変わるものではないのだから。
時間の流れを止めたいと思ったことがあっただろうか?
ふと、そんなことが頭を過ったがそれはないと強く否定していた。
道明寺財閥の後継者の帰国に多くのマスコミが集まるなか、颯爽と到着ロビーを歩く背の高い男。周りには警護の者か関係者と思われる人間が多く付き従っていた。
司の帰国は大きな注目を浴びている。こうしてマスコミ関係者の前を通るのもプレス対応のひとつだ。これから活躍の舞台をこの国に移すにあたってのいわゆるお披露目のようなものだった。
『 道明寺の後継者、満を持しての帰国 』
世間ではそう言われていた。
そんな彼の目の前に開ける道は、ロビーの外で待つ黒塗りの大型車まで続いている。
空港ロビー。
ここは大勢の人間の人生が交差する場所。
目的地が違う者がすれ違う場所。
だが司の前をすれ違うように横切る人間はどこにもいない。
俺の人生と本当の意味で交わる人間はどこにもいないはずだ。
誰が俺の前を横切るというのか?
いやそれはない。
今までもそうだった。
だがそのとき、司の時間がスローモーションのようにゆっくりと流れた。
それは突然の出来事。視界の端に少年の姿が写った。
あれは・・
一瞬だったが若い頃の自分がそこにいるかのような錯覚に襲われていた。
自分によく似た少年の姿に驚きが隠せなかった。
ジーンズを履き、黒のトレーナー姿の少年。
表情は硬く、こちらをじっと見つめている。
そんな少年の前を誰かが横切った。すると少年の姿はその場所から消えていた。
司は見えなくなった少年を探そうと思わず振り返ったが、その姿を見つけることは出来なかった。
どういうわけか気になった。
どこかで会ったことがあったかと考えたが、自分があの年頃の少年と接点などあるはずもないと言い聞かせようとした。
だが・・
何かが司を落ち着かない気分にさせた。
それがなんであるかを確かめなければいけない。
もしかしてあの少年は過去の自分なのか?
日本に帰国してまさか過去の自分に出会うとは思いもよらなかったが、そんな気にさせられた。
最近見る夢の中の誰か・・
逆光線の中の誰か・・
もしかしたらあれは昔の自分の姿なのか?
少年の姿となって現れたのか?
そんな気がするのはなぜだ?
何がひっかかり、心の暗がりへ滑り込んで来たような気がしていた。
だが自問自答すれど今の自分には分かりそうもない。
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ホワ**スター様
朝から涙が・・朝っぱらから申し訳ないです。
司の覚えていない愛の一夜。さて航君との出会いは・・
髪の毛クルクルしてると思いますよ(笑)
この親子はよく似てるらしいですから(笑)
思い出の一夜が永遠の始まりになることを祈ってやって下さい(ノД`)・゜・。
司!思い出して!ですよね?
コメント有難うございました^^
朝から涙が・・朝っぱらから申し訳ないです。
司の覚えていない愛の一夜。さて航君との出会いは・・
髪の毛クルクルしてると思いますよ(笑)
この親子はよく似てるらしいですから(笑)
思い出の一夜が永遠の始まりになることを祈ってやって下さい(ノД`)・゜・。
司!思い出して!ですよね?
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.13 22:37 | 編集

子持**マ様
唯一無二のいとしい女を忘れてしまった司。
そしてその人との愛の結晶が東京にいるんですが・・
司!早く記憶を取り戻して!と言ってやって下さい^^
拍手コメント有難うございました^^
唯一無二のいとしい女を忘れてしまった司。
そしてその人との愛の結晶が東京にいるんですが・・
司!早く記憶を取り戻して!と言ってやって下さい^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.13 22:43 | 編集

ち*こ様
さあ。結末まであと少しです。でも過大な期待はしないで下さいね。
拍手コメント有難うございました^^
さあ。結末まであと少しです。でも過大な期待はしないで下さいね。
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.13 22:45 | 編集

チ**ム様
お久しぶりです^^皆様お変わりございませんか?
そうですよね。つくしちゃんシングルマザーでも逞しく生きていけると思います。
こちらのお話ではひとり息子を育てています。司に似たハンサム君らしいです。いいですね!(笑)司、早く記憶を取り戻してつくしちゃんを迎えに行ってあげてね。
本当ですね?早く迎えに行かないとつくしちゃん逃げちゃうかも・・(笑)
コメント有難うございました^^
お久しぶりです^^皆様お変わりございませんか?
そうですよね。つくしちゃんシングルマザーでも逞しく生きていけると思います。
こちらのお話ではひとり息子を育てています。司に似たハンサム君らしいです。いいですね!(笑)司、早く記憶を取り戻してつくしちゃんを迎えに行ってあげてね。
本当ですね?早く迎えに行かないとつくしちゃん逃げちゃうかも・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.13 22:49 | 編集

司×**OVE様
司。早く記憶を取り戻さないと!夢の中や明るい光の中にいるのは司が見失った光なのに・・
あなたの息子は16歳になってますよ!と教えてあげたいですねぇ・・・。この親子はどうなるんでしょう・・
とは言え、もう書き上がっているお話ですのでもう少しだけお待ちくださいね^^
コメント有難うございました^^
司。早く記憶を取り戻さないと!夢の中や明るい光の中にいるのは司が見失った光なのに・・
あなたの息子は16歳になってますよ!と教えてあげたいですねぇ・・・。この親子はどうなるんでしょう・・
とは言え、もう書き上がっているお話ですのでもう少しだけお待ちくださいね^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.09.13 22:53 | 編集
