婚前契約書の内容なんて、どうせ道明寺の保身の為の書類だ。
あたしには守るべき財産なんて何もない。哀しいかなそれは本当の話だ。
それでも契約書は隅から隅まで、表から裏までよく読むべきだと言われているはずだ。
本当にそうだと思った。消費者庁のお役人さん、その通りです。もっとそのことを世間に対し、周知徹底した方がいいと思います。
「いいのかよ?読まなくて」
今思えば、あのときニヤッと笑った道明寺のしたり顔に意味があったはずだ。
それなのに、そんなことには全く気付かなかった。
婚前契約書なんて、くだらないことが書いてあるに決まっていると決めつけたあたしは、サインすることに躊躇いは全く無かった。別にあたしは頭がおかしい女じゃない。それに一緒に暮らすことで、道明寺に迷惑をかけるようなことをするつもりもないのだから、彼が何を言いたいのかが理解できなかった。
こうして、あたしたちはニューヨークで道明寺が生活の拠点としているマンハッタンにそびえ立つ超高層マンションにやってきた。
洗練されたビル群はスカイスクレイパーとはよく言ったものだ。
下から見上げると本当に空を削るがごとく上層に伸びていた。
まるでアホみたいに見上げているあたしを見た道明寺は、さっさと中へ入って行こうとする。
「早く来い!なにアホ顔して見上げてんだ」
そんな道明寺に遅れまいとついて行く。
当然セキュリティー厳重な建物らしく、入口には銃を装備した警備員、エントランスロビーに足を踏み入れたその先にはレセプションがあり、そこにもまた強面の男性が2人いる。その最奥にあるエレベーターはどうやらペントハウス直通エレベーター。
ん? ペントハウスって、こいつペントハウスに住んでるの?
さすがだわ道明寺。アンタ今じゃ『世界の道明寺司様』だもんね。
それにポーンって、エレベーターって全世界共通でチーンじゃなかったんだってひとり納得するあたし。そんなあたしは自分で自分にアホかと思わず呟きたくなっていた。
軽い電子音が聞こえ、エレベーターのドアが開いた先に広がる風景。
え?風景って何なのよ!自分で言っておいておかしいけど、マンションって普通玄関があって、廊下があってその先にリビングとかって言うんじゃないの?
それなのにここから見えるのはまさしく風景と言っていい程の解放感があった。
白いフロアタイルは月のような光を放っていて外の光を柔らかく反射している。
視線の先、そこに見えたのはマンハッタンを一望する風景で、緑が眩しいくらいに広がっているそこは多分セントラルパークの緑だ。
ニューヨークでもミッドタウンエリアにそびえ立つここは五番街にも近く、恐ろしいくらいの高層で、一面がガラス張りの窓から降り注ぐ光は異常なまでに明るく、まるで外界との堺が無い様で、宙に浮かんでいる様な気にさせられた。
そんなふうに外界の風景に見惚れていたあたしは、道明寺の声に意識を戻した。
「あの、玄関は?」
「は?このフロアは全部俺のモンだ。玄関なんてそんなもん要るかよ」
そうですか。
こいつは何でも最上のものでなければ満足しない男だったよね。
バカと煙は高い所が好きだなんて言葉があるけど、恐らく今のこの男には、そんな言葉は当てはまらないはずだ。何しろ、今の道明寺はあの頃と違う男だ。
世界経済に大きな影響を与える力を持つ道明寺HDNYの副社長だ。
「オイ、俺はこれから本社へ行くからお前も好きにしてろ」
「へっ?」
「買い物に行きたきゃ行けばいいさ。五番街は目と鼻の先だ」
つくしは司から何枚かの黒いカードが手渡された。
「これ、何?」
「お前のクレジットカード。これで買えないものはない。暇つぶし程度に買い物でもしてろ」
女は買い物が好きだろ? そう言い残し道明寺は警護の人間を引き連れて颯爽と出て行った。
「はぁ・・」
つきたくもないため息が漏れていた。
何がなんだか良く分からないうちにここまで来てしまったが、一体あたしは何がしたいのか。今さらだけど、どうしてこんなことをしたんだろう。まさに衝動的だと言われてもおかしくない行動で、思い立ったらなんとかじゃないが、即行動に移すことはあたしにとってはそれこそ青天の霹靂だった。
それに待って! 結婚式ってもっと神聖で厳粛で、感動したり、泣いたりってあるはず。
なのに、滋さんのひと言でこうなってしまったこの状況。
あたしの結婚式って何?いったい何だったの?やっぱりあたしはとんでもないことをしてしまったのだろうか?
もちろん、現実の世界はおとぎ話のようにいかないとわかっている。
つくしの経験からすれば、司が自分の記憶だけを失ってしまったことが、まさにドラマのようだと感じているのだから。
そんな想いを巡らせながら、つくしは窓の外のキレイなニューヨークの空を見上げていた。

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あたしには守るべき財産なんて何もない。哀しいかなそれは本当の話だ。
それでも契約書は隅から隅まで、表から裏までよく読むべきだと言われているはずだ。
本当にそうだと思った。消費者庁のお役人さん、その通りです。もっとそのことを世間に対し、周知徹底した方がいいと思います。
「いいのかよ?読まなくて」
今思えば、あのときニヤッと笑った道明寺のしたり顔に意味があったはずだ。
それなのに、そんなことには全く気付かなかった。
婚前契約書なんて、くだらないことが書いてあるに決まっていると決めつけたあたしは、サインすることに躊躇いは全く無かった。別にあたしは頭がおかしい女じゃない。それに一緒に暮らすことで、道明寺に迷惑をかけるようなことをするつもりもないのだから、彼が何を言いたいのかが理解できなかった。
こうして、あたしたちはニューヨークで道明寺が生活の拠点としているマンハッタンにそびえ立つ超高層マンションにやってきた。
洗練されたビル群はスカイスクレイパーとはよく言ったものだ。
下から見上げると本当に空を削るがごとく上層に伸びていた。
まるでアホみたいに見上げているあたしを見た道明寺は、さっさと中へ入って行こうとする。
「早く来い!なにアホ顔して見上げてんだ」
そんな道明寺に遅れまいとついて行く。
当然セキュリティー厳重な建物らしく、入口には銃を装備した警備員、エントランスロビーに足を踏み入れたその先にはレセプションがあり、そこにもまた強面の男性が2人いる。その最奥にあるエレベーターはどうやらペントハウス直通エレベーター。
ん? ペントハウスって、こいつペントハウスに住んでるの?
さすがだわ道明寺。アンタ今じゃ『世界の道明寺司様』だもんね。
それにポーンって、エレベーターって全世界共通でチーンじゃなかったんだってひとり納得するあたし。そんなあたしは自分で自分にアホかと思わず呟きたくなっていた。
軽い電子音が聞こえ、エレベーターのドアが開いた先に広がる風景。
え?風景って何なのよ!自分で言っておいておかしいけど、マンションって普通玄関があって、廊下があってその先にリビングとかって言うんじゃないの?
それなのにここから見えるのはまさしく風景と言っていい程の解放感があった。
白いフロアタイルは月のような光を放っていて外の光を柔らかく反射している。
視線の先、そこに見えたのはマンハッタンを一望する風景で、緑が眩しいくらいに広がっているそこは多分セントラルパークの緑だ。
ニューヨークでもミッドタウンエリアにそびえ立つここは五番街にも近く、恐ろしいくらいの高層で、一面がガラス張りの窓から降り注ぐ光は異常なまでに明るく、まるで外界との堺が無い様で、宙に浮かんでいる様な気にさせられた。
そんなふうに外界の風景に見惚れていたあたしは、道明寺の声に意識を戻した。
「あの、玄関は?」
「は?このフロアは全部俺のモンだ。玄関なんてそんなもん要るかよ」
そうですか。
こいつは何でも最上のものでなければ満足しない男だったよね。
バカと煙は高い所が好きだなんて言葉があるけど、恐らく今のこの男には、そんな言葉は当てはまらないはずだ。何しろ、今の道明寺はあの頃と違う男だ。
世界経済に大きな影響を与える力を持つ道明寺HDNYの副社長だ。
「オイ、俺はこれから本社へ行くからお前も好きにしてろ」
「へっ?」
「買い物に行きたきゃ行けばいいさ。五番街は目と鼻の先だ」
つくしは司から何枚かの黒いカードが手渡された。
「これ、何?」
「お前のクレジットカード。これで買えないものはない。暇つぶし程度に買い物でもしてろ」
女は買い物が好きだろ? そう言い残し道明寺は警護の人間を引き連れて颯爽と出て行った。
「はぁ・・」
つきたくもないため息が漏れていた。
何がなんだか良く分からないうちにここまで来てしまったが、一体あたしは何がしたいのか。今さらだけど、どうしてこんなことをしたんだろう。まさに衝動的だと言われてもおかしくない行動で、思い立ったらなんとかじゃないが、即行動に移すことはあたしにとってはそれこそ青天の霹靂だった。
それに待って! 結婚式ってもっと神聖で厳粛で、感動したり、泣いたりってあるはず。
なのに、滋さんのひと言でこうなってしまったこの状況。
あたしの結婚式って何?いったい何だったの?やっぱりあたしはとんでもないことをしてしまったのだろうか?
もちろん、現実の世界はおとぎ話のようにいかないとわかっている。
つくしの経験からすれば、司が自分の記憶だけを失ってしまったことが、まさにドラマのようだと感じているのだから。
そんな想いを巡らせながら、つくしは窓の外のキレイなニューヨークの空を見上げていた。

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