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2016
09.03

恋人までのディスタンス 24

20センチ以上背が低いくせに、上目遣いに睨んでくる牧野。
その瞳はあきらかに怒っていた。
だがどこか困惑も感じられた。

おまえの忘れ物が俺の手元にあるけどどうする?
いったい何が・・と言いかけた牧野におまえが脱いだストッキングがここにあるけどどうする?
そんなことを言えば、電話口の向うで言葉を失った牧野つくし。
おそらく顔を真っ赤にしているか、青ざめているか、見えないのが残念だがどちらにしても言葉を失っていた。
探す暇もないほど慌てていたのか、床に落ちていたヌーディ―な女の抜け殻。
司はそれを拾うと笑っていた。

電話をかけてから1時間後。
司は自分が買ったマンションにつくしを呼び出していた。
日曜も出勤の牧野だ。仕事だと言われれば文句が言えるはずもなく、あくまでも業務命令だと送り出されてきたはずだ。高額物件顧客との打ち合わせを断れるはずがないがその手には契約書のコピーがしっかりと握られている。
ふん。疑ってたってわけか?

はじめてパーティーで会ったときに感じた予感のようなものは当たっていた。
思い過ごしなんかじゃなかった。
どうしてもこの女に心が惹かれて仕方がない。
あの頃から警戒心があった牧野だが俺とひと晩過ごしたっていうのに、いたく慎重な態度を崩そうとはしない。ここに来たのはあくまでも仕事で来たのだからという態度。
いや慎重な態度のうえには憤然さも窺える。

それにしてもなんでそんなに警戒してるんだよ、ハリネズミ女!
それが曲がりなりにも隣で寝ていた男に対しての態度か?

「よう牧野。早かったじゃねぇか。そんなに焦って来なくても俺は逃げやしねぇよ。今日は日曜だ。十分時間はあるからな」

部屋の奥で腕を組んでいた司はゆっくりとつくしに近付いて来た。

「それにしても今朝はなんで勝手に帰っちまったんだよ?」
わざと甘い声色で言った。

「どう、道明寺さん・・」

「なんだよ?一晩過ごした仲じゃねぇかよ。そんな男を苗字で呼ぶなんて随分と他人行儀だな?」
「い、急いで来たのはか、返して欲しかったからよ・・・それに説明が欲しかったからよ・・いったいあたし達、その・・」

つくしは言葉に詰まると顔を赤らめた。その先の言葉は察して欲しいと言った様子。
どうして同じベッドに寝ていたのか?
それにストッキングが男の手元にあると知らされたとき、あまりの醜態に片手で顔を覆っていた。
「説明ってなんのことだ?」
司はわざとはぐらかしてみせた。
「し、質問に質問で答えるのはやめてよ!わかってるんでしょ?そんな言い方するなんてひ、卑怯よ・・」
「誰が卑怯なんだよ?」
「誰って、ど、どう・・あんたに決まってるじゃない!ね、寝てる人間に・・」
「おまえ、年いくつだよ?もう立派な大人だよな?自分の行動には責任が取れる年だよな?」
「そ、そうよ?あたしは立派な大人・・・」

口をもぐもぐさせながら何かを考えている様子。
おそらく自分はいったいどんな行動をとったのかと考えているはずだ。
静寂が二人の間を流れたが、やがて司がにやりとほほ笑んだ。

「じゃあ俺とおまえの間に何があったか覚えているよな?あんなことがあったんだ。何も今みたいな他人行儀な会話なんて交わさなくってもいいだろ?水くせぇよな?それに俺の名前は司だ。司って呼べよ?」

水くさい・・つくしは固まった。

「何だよ?覚えてねぇのか?それなら思い出させてやろうか?」
「いったい・・なにを・・」
「本当に覚えてないのか?」
つくしは首を大きく縦に振った。
「聞きたいか?」
再び二度大きく頷いた。
「おまえが俺になんて言ったか聞きたいか?それとも何があったか聞きたいのか?」
「で、できれば両方・・」
だがあまり具体的な状況は聞きたくはないはずだ。

司はつくしの考えていることが手に取るようにわかっていた。
口の両端にほほ笑みを浮かべ愉快な表情でつくしを見ながら言ってのけた。

「〝 どうみょうじ・・あたし朝になっても後悔なんかしないから、あたしを抱いて ″」
「う、うそ!嘘よ・・あたしそんなこと・・」
「なんだよ?おまえ覚えてねぇって言ったよな?」

一瞬のうちに顔色が変わったつくし。
サーッと血の気が引いたような顔になったかと思えば、次の瞬間には真っ赤に染まっていた。

「おい、聞いてるか?まだあるぞ」

顔を真っ赤に染めたつくしに司は話しを継いだ。

「〝 あたし夜も眠れないほど、どうみょうじのことが気になってたの。お願い。だからあたしを抱いて ″」

つくしは記憶の扉を開こうと必死だったはずだ。
自分がそんなことを言ったことが信じられないと言った顔で司を見つめていた。

「ねぇ・・あ、あたし本当にそんなこと言ったの?」
「ああ。酒の勢いなんじゃねぇの?俺とおまえは熱烈に愛し合った。愛の言葉を囁き合って、互いの体を貪りあって、おまえ、互いの細菌を送り合うどころの話じゃねぇからな。それこそもっとすげぇ・・」
「お、お願い。も、もういいから」
つくしは片手をあげて司の言葉を遮ろうとした。

「なんだよ?せっかく思い出させてやろうと思ったのに遠慮することねぇだろ?俺たちいい大人なんだ。独身の男と女が愛し合って何が悪い?それにおまえ積極的だったしな・・」

司の目の前の女は卒倒するんじゃないかという顔をしていた。
それでもなんとかつくしは聞いた。

「ねえ・・あたし・・他になにか・・言ったの?」
もし何か言ったとしても覚えていないのだから目の前の男に聞くしかなかったはずだ。
つくしは息を殺して男の答えを待った。

「昨日の夜・・俺たちが何をしたのか?まあ人間だ。酒に頼ってなにかしたいってことも一度くらいあるだろ?おまえはそれが昨日だったかもしれねぇよな?牧野つくし?」

人生の一大事だ、とばかりの態度でいる女がおかしくて、言っているそばから口元が緩みそうになりながらも司は真剣な顔を崩さなかった。

牧野つくしに駆け引きが必要ないとはわかっていたが、ここまでだとは思わなかった。
男女関係については典型的な臆病女。
一度は勇猛果敢に自分からキスをしてきた女だが、恐らく男との経験はないはずだ。

今ここで、このまま抱きしめたらどんな態度をとる?
細いウエストを両手で掴んで抱き寄せる。そしてキスをする。


クソッ!


司はついにこらえきれなくなっていた。
自分の前にいる女の態度に耐えきれなくなった。

「クッ・・」

ククッっと喉の奥で押し殺すような声が聞えたらと思うと、やがて喉を震わせるような笑い声が聞こえてきた。

「お、おまえのその顔・・なんとかしろ・・おもしろすぎる・・」
「な、なによ・・その顔って!あたしは元からこんな顔です!ど、どうせ美人じゃありません!もうっ!いい加減に笑うのを止めて・・き、昨日何が・・」

ひとしきり笑った男はつくしの目を見据えると言った。
「何もなかった」
「えっ?でもいま・・」
「冗談だ。俺が寝てる女を襲うとでも思ったのか?なんの反応もない女を抱いて嬉しがるような男じゃねぇよ。それに好きな女を無理矢理なんてことはしねぇよ、俺は」







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コメント
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dot 2016.09.03 07:32 | 編集
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dot 2016.09.03 11:00 | 編集
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dot 2016.09.03 11:35 | 編集
子持**マ様
おはようございます。
ついつくしで遊びたくなる司ですね(笑)
そんな司の言葉に顔色を変えるつくし。
本気なのか、からかってるのか?司の態度に慌てています。
司もあまりからかい過ぎると痛い目に合うかもしれませんね。
ほどほどに・・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.04 01:09 | 編集
ち*こ様
こんな迫られ方をされるつくしが羨ましいですか?^^
つくしは青くなったり赤くなったりして司の言葉に翻弄されているようですよ?つくし、どうするんでしょうね?(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.04 01:15 | 編集
さと**ん様
「ヌーディーな女の抜け殻」ヌード色ですね(笑)つくしちゃん肌色のストッキングだったんです。
つくしが口走ったとされる言葉は司が作り出した言葉ですが、大人坊っちゃんですから言葉も巧みなんです。己の願望からの言葉かもしれませんね。人は言って欲しい言葉を自ら言うこともありますから、そうだったのかもしれません(笑)
ハリネズミ女をからかう司。酔ったつくしを下着姿で留める。大人の男ですからいきなりは・・しなかったと思いますが葛藤もあったことでしょう。そちらは次回ということでお願いします。つくしハリネズミは懐くでしょうか・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.04 01:26 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
ハリネズミつくし。針を立てて威嚇してみたり、シュンとしてみたり忙しいですね(笑)
司が言った言葉に顔色が変わる。そんなところをからかっている司は意地悪ですね。
ですが酔った女を手籠めにすることは致しませんでした。大人の男として女性を口説くにあたってのマナーでしょうか?同意なしにそんなことはしませんね(笑)エロい御曹司。妄想坊ちゃんですね!硬い口調でエロを説く(笑)そんな坊ちゃんを気に入って下さって有難うございます^^コメント有難うございました。
アカシアdot 2016.09.04 01:35 | 編集
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