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2016
09.02

恋人までのディスタンス 23

覚えていなかった。
気付けばベッドの上だった。
昼間っからワインが出されるフランス料理なんて食べるんじゃなかった。
が、今さら後悔してももう遅い。

これが酒の勢いというやつなのだろうか。
今まで一度もあんなふうになったことはなかった。
指が掴んだグラスの中身はフルーティーな白ワインで口当たりがよく、上品な甘さがした。

錯覚かもしれなかったが、あの男が、道明寺司が心底リラックスした表情であたしを見て笑ったのだけは覚えていた。

本物のデートをするなんて悠長なことはすっとばしてしまったのかもしれない。
それにこの大量に届けられたバラの花とこのカード!
書かれているのは昨日の夜は最高だったの文字!

もう二度とお酒なんか飲まない。
いくら本気で関心があるからと言われてもいきなり体の関係になるなんて信じられない。

今朝。まさに早朝。
がんがんする頭で目が覚めたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。
動くことも出来ず、見事に固まった状態でベッドの上に横たわっていたが薄く目を開いたとき目にしたのは隣に寝ている道明寺司だった。

こんなの最初のデートですることじゃないわ!

どうしてこんなことになったのか。精神が異常をきたしたとしか思えない。
それも30をとっくに過ぎた女が裸で寝ている男の隣で息を殺しているなんて状況を世間はなんていうんだろう?
それにいったいいつの間にパンティとブラだけの姿になったのか、まったく記憶になかった。
何があったのか必死で思い出そうとしたが、まったく思い出せない。
あの場所がどこかさえ分からずに慌てたがメープルだと気づいたのは部屋を飛び出してからだった。あのときは恐る恐るシーツをどかして見まわせばブラウスと上着とスカートが近くの椅子の背にかけてあった。手早く着込むとテーブルに置かれた鞄と椅子の下に揃えて置かれていた靴を掴むと部屋の外へと飛び出していた。

好意を抱きつつある相手といきなりそんなことをする女だなんて・・
自分の体のことなんだから責任をもって管理しているはず・・
パンティとブラだけはつけていたんだし・・
もし・・何かあったのならそれ相応の・・痛みとかあったはずだ。
落ち着くのよ、つくし。あなたいい大人でしょ?


それにしても、道明寺司が、あの顔で真剣な眼差しで女性に心を開いたとなれば、ほんの短い時間でいかに魅力的な人物になれるのかということが立証されたことになる。
ああ・・あたしはいったい・・あの男と・・・

そのとき電話が鳴った。
「牧野さん!電話よ。3番よ!あなたの熱烈な崇拝者、道明寺さんよ!」

「牧野君、君と道明寺さんがどんな関係か知らないが仕事は仕事だ。きちんとやってくれよ。何しろ我社の信用にかかわるからな」

つくしは課長の中村を睨んだ。
そうしながらも大量のバラの花が生けられた花瓶の間に埋もれているはずの電話機を探した。机の上は大きな花瓶とその前から置いてあった書類でどこに何があるのかわからない状況になっていた。
締めつけられていた胃が今度はキリキリと痛み出した。
きっとさっき飲んだコーヒーのせいよ。カフェインの過剰摂取に違いない。
決してあの男が・・道明寺が電話してきたからじゃない。
ようやく見つけた受話器を取ると緑の点滅を繰り返している番号を押した。

「は、はい。ま、牧野です」

まさに衆人環視とも言える状況で花の贈り主からの電話に出て普通に喋れる人間がいるだろうか?なるべく普通に喋ろうとしたが言葉に詰まっていた。
こんなに決まりの悪い思いをするのは初めてだ。
つくしは受話器の向うから聞こえて来る声を待った。





司は朝起きたら隣に寝ていたはずの女がいなくなっていることに驚きはしなかった。
牧野つくしが慌てて部屋を出て行ったということも知っていた。
知っていてあえて気づかないふりをしていた。
そんな司の方をじっと見つめる女は自分がどうしてここにいるのかといったふうで、落ち着かない様子だった。
身なりを整えると部屋を出て行ったが最後まで俺の方を気にしていた。
部屋のドアが静かに閉まったとき、司はベッドから起き上がった。
立ち上り、両腕を上げて伸びをしたそのとき、床に落ちているものを見つけた。
そこに残されていたのは牧野が履いていたストッキング。
ハリネズミ女のおきみやげだ。

司はそれを拾い上げると丸めていた。

今そのおきみやげは司のスーツのポケットの中にあった。


「牧野か?」

司の問いかけに電話の向うにいる女がゴクリと唾を飲み込む音がした。







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コメント
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dot 2016.09.02 06:08 | 編集
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dot 2016.09.02 11:59 | 編集
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dot 2016.09.02 12:45 | 編集
子持**マ様
偽者探しそっちのけですよね(笑)
ホテルで聞き込みしただけで進んでいませんよね(笑)
彼の優先事項はつくしちゃんを確保することのようです。
本当になんて男なんでしょう!(笑)俺の女はこいつだ!と決めたようです^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.02 22:12 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
獲物を仕留めようとする司。でも小さい獲物でハリネズミ女なんです。
手のひらに乗るような小さな動物。かわいいですが針が刺さると痛いです。
手に入れたい!!と思ったようです。
こんな坊っちゃんですが紳士ですから(笑)
ハリネズミ女を手懐けつつ偽者探しをするのではと思いますがどうなんでしょうねぇ。^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.02 22:21 | 編集
ち*こ様
「牧野か?」
の続きですね?
「はい。牧野でございますがなにか?」
と冷静に応えるつくしちゃん・・。
いや、これは違いますね(笑)
司、二人でしっかりお話をして下さい(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.02 22:33 | 編集
ふ*様
あのとき、つくしちゃんはストッキングを見つけることが出来なかったんだと思います。何しろ薄いですし、司が寝てるそばでこそこそ身支度ですから、もういいっ!と言って生足で駆け出したんだと思います。生足、細くて綺麗なんでしょうね!羨ましいです。
そのおみ足に触ることが出来る人は彼だけでしょうね(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.02 22:44 | 編集
チ**ム様
こんばんは^^
大量に届いたバラの花。オフィスはむせてます。金持ち坊ちゃんのパワー炸裂でしょうか。
現実にあったら・・怖いですね^^追い込まれるつくし。
欲しいと思ったら手に入れてやる!という坊ちゃんですね(笑)
「あぁ?俺のすることになんか文句あるのか?」という坊ちゃんかもしれません(笑)
働く母様もお体ご自愛くださいね。拙宅でパワーだなんて勿体ない言葉です。いつもありがとうございます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.02 22:54 | 編集
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dot 2016.09.02 23:26 | 編集
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dot 2016.09.02 23:32 | 編集
マ**チ様
偽者探しの旅は・・(笑)今はそれどころではないようです。
やはり中村課長はつくしにゴマすりをしておくべきでしょうか。この課長何の気なしに司をアシストしているような気がします。
そうだったんですか?せっかく交換したのに・・。妄想は固まっているんですね!(´艸`*)どんなお話なんでしょうか。
坊っちゃん「これだ!」と言ったアレでしょうか?今度こそ司の願いは叶うのでしょうか!!
気長にお待ちしております。^^週末ですね、なんだか一週間があっという間に過ぎて行くんですが、どうしたんでしょう(笑)
週末の夜更かし同盟は健在です。コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.09.03 00:19 | 編集
さと**ん様
もうっ!(≧▽≦)
どうしてそんな会話になるんですか!!
いや。面白すぎますね。その会話。
キスのテストで俺の勝ちでおまえの負けになっているのですが、あれだけでは足りなかったんですね!
もう一勝負挑んだんですね!ストッキングを履かせる司。
私の頭の中にはそれを一度脱がせ、頭から被る司が思い浮かんでしまいました。
そうなるとかなりのアブノーマルの世界へ入り込んでしまいそうですね。
エロ曹司様に書いて頂くようになりますが・・・
あぶない坊っちゃんが出来上がりそうで、怖いです。
そんな話しは金持ち坊ちゃんに・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.09.03 00:34 | 編集
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