司は牧野つくしの真剣な顔にほほ笑みを漏らすまいと頬の内側を噛んだ。
この女はまるでわかっていない。
そんな方法で人が探せるわけがない。
ど素人が何をどうしたらいいのかわかってもないくせに、どうするって言うんだ?
司はつくしに自分の偽者を一緒に探せと言ったが本気で言ったわけではなかった。
それはあくまでも口実だ。ふたりの間に人探しという共通の目的を持たせることに意味がある。牧野つくしは自分の友人のために。そして俺は自分の為に。どちらも同じ人物を探しているという連帯感を持たせることが目的だ。
それに人探しなんてのはそれ専門の調査機関に依頼すればすぐに解決する。この女は俺の言うことを真に受けて物事を馬鹿正直にとらえる性格だ。まあその点がこの女の魅力ではあるが。
「あの、道明寺さん。偽者はここであなたの名前を名乗って優紀に声をかけたんだから、やっぱりここから探すべきだと思うんです」
つくしは真剣な態度で言った。
まるでマンションでの出来事など無かったかのようなその態度。
恐らく無かったことにしたいのだろう。
ふたりが訪れたのはメープルのラウンジ。言わずと知れた道明寺グループのホテルだ。
そんな場所で従業員に俺とよく似た人物を見かけなかったかと真顔で聞く女。
そしてその女の後ろに立っているのは当の本人なのだから聞かれた従業員はどう答えればいいのか困惑していた。
もしかしてこれは何かのテストなのかもしれない。
受け答え如何によって何らかの指導があるのかもしれない。
そう思われてもおかしくはないはずだ。
グループのトップに立つ男が自社のホテルにいることは特段不思議ではないはずだ。
司は自分に課した規律は守る男だ。ビジネスはビジネスだ。司が自分に課した規律を守ると言うことは、従業員にも同じことを求める。そのため従業員の誰もが自分の仕事に集中している。そんな中で司によく似た男がいたからと言って気に留めているようでは仕事に集中してないということになる。だいたい道明寺司と視線があって何か言われては大変だと思う従業員の方が多いはずだ。
つくしは自分の後ろに当の本人が立っていては答えてもらえないと思ったのか、あろうことか司をあっちに行ってと追いやった。
「あっちってどっちだってんだ・・」
司はまさか自分のホテルであっちに行けと言われるとは思わなかった。
「あの女、マジで聞いてるのか?」
仕方なくエントランスの柱にもたれて見れば、ラウンジを後にした女は次とばかりにフロントへ向かっていた。
司はそんな女の後ろ姿を見ていた。
やがて踵を返しこちらへ歩いてくる女の足取りは重いようだ。
察するに自分が望んでいたような答えを得ることは出来なかったということか。
「で?俺に似た男はいたのか?」
「答えてもらえなかった・・」
少し落ち込んだ様子で何やら考えているようだ。
どうやら司の仕事に対しての姿勢はホテルの従業員にも徹底されているようだ。
仮に宿泊客ではないとしてもホテルで働く人間が客のことをペラペラと人に教えるようじゃ教育がなってないってことだ。
考え込んでいた女は曖昧な視線を司に投げかけて来た。
「ねえ・・ど、道明寺さんが聞いてくれたら答えてくれるんじゃない?」
期待半分と言った言葉。
だがこのホテルの経営に携わる男が聞けば答えてくれるはずだとの含みがあった。
「なんで俺が俺に似た人間がいたかなんて聞かなきゃなんねぇんだよ?」
「だ、だって探すんでしょ?あなたに似た人を・・」
確かにそう言った手前嫌だとは言えなかった。
「ああ、わかったよ!聞いてやるよ!」
司はつくしの手を掴んだ。
いきなり手を掴まれた女は驚いていたが司はそんなことは気にも留めず、ずんずん歩いて行くとフロントの前を通り過ぎエレベーターの前に立った。
「ちょっと!えっ?なに?」
まるで引きずられるように連れて来られていた。
女が慌てる様子を見て司は満足感を味わった。
何を考えたのかわかったからだ。
どうせ部屋に連れ込まれるとでも思ったんだろ?
「メシ」
「はぁ?」
「先に食事済ませてからでもいいだろ?偽者探しはそのあとだ」
司はつくしの手を掴んだまま見下ろして言った。
「上にレストランがある。なんだよ?なんか文句でもあるのか?」
すると司はにやりと口元を緩めた。
「まさか、おまえ変なこと考えてんじゃねぇのか?」
「な、なに言ってるのよ・・そんなこと・・」
「だったら今なに考えてたのか教えてくれよ?」
司は故意に挑発すると言葉を継いだ。
「おまえ、俺が協力しなきゃ偽者見つけることなんか出来ねぇだろ?いいから黙ってついて来い。どうせ腹減ってんだろ?」
時計の針はもうとっくに12時を回っていた。
いくら朝食を山のように食べていたとしてもこう言えば反論できないと分かっていた。
それに司にしても牧野つくしと時間をかけてゆっくり話しがしたいと思っていた。
「ここで急いだところでどうしようもねぇだろ?どうせどっかでメシ食わなきゃなんねぇんだからな」
そんな言葉に女も納得したようだ。
司の一挙手一投足に慌てる女は相変わらずのハリネズミ女だ。
だがどこをどう突いたら針を出すかはわかって来た。
あとはその針をどうやったら抜くことが出来るかが問題だ。
司は掴んだ手をそのままにエレベーターが来るのを待っていた。

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それはあくまでも口実だ。ふたりの間に人探しという共通の目的を持たせることに意味がある。牧野つくしは自分の友人のために。そして俺は自分の為に。どちらも同じ人物を探しているという連帯感を持たせることが目的だ。
それに人探しなんてのはそれ専門の調査機関に依頼すればすぐに解決する。この女は俺の言うことを真に受けて物事を馬鹿正直にとらえる性格だ。まあその点がこの女の魅力ではあるが。
「あの、道明寺さん。偽者はここであなたの名前を名乗って優紀に声をかけたんだから、やっぱりここから探すべきだと思うんです」
つくしは真剣な態度で言った。
まるでマンションでの出来事など無かったかのようなその態度。
恐らく無かったことにしたいのだろう。
ふたりが訪れたのはメープルのラウンジ。言わずと知れた道明寺グループのホテルだ。
そんな場所で従業員に俺とよく似た人物を見かけなかったかと真顔で聞く女。
そしてその女の後ろに立っているのは当の本人なのだから聞かれた従業員はどう答えればいいのか困惑していた。
もしかしてこれは何かのテストなのかもしれない。
受け答え如何によって何らかの指導があるのかもしれない。
そう思われてもおかしくはないはずだ。
グループのトップに立つ男が自社のホテルにいることは特段不思議ではないはずだ。
司は自分に課した規律は守る男だ。ビジネスはビジネスだ。司が自分に課した規律を守ると言うことは、従業員にも同じことを求める。そのため従業員の誰もが自分の仕事に集中している。そんな中で司によく似た男がいたからと言って気に留めているようでは仕事に集中してないということになる。だいたい道明寺司と視線があって何か言われては大変だと思う従業員の方が多いはずだ。
つくしは自分の後ろに当の本人が立っていては答えてもらえないと思ったのか、あろうことか司をあっちに行ってと追いやった。
「あっちってどっちだってんだ・・」
司はまさか自分のホテルであっちに行けと言われるとは思わなかった。
「あの女、マジで聞いてるのか?」
仕方なくエントランスの柱にもたれて見れば、ラウンジを後にした女は次とばかりにフロントへ向かっていた。
司はそんな女の後ろ姿を見ていた。
やがて踵を返しこちらへ歩いてくる女の足取りは重いようだ。
察するに自分が望んでいたような答えを得ることは出来なかったということか。
「で?俺に似た男はいたのか?」
「答えてもらえなかった・・」
少し落ち込んだ様子で何やら考えているようだ。
どうやら司の仕事に対しての姿勢はホテルの従業員にも徹底されているようだ。
仮に宿泊客ではないとしてもホテルで働く人間が客のことをペラペラと人に教えるようじゃ教育がなってないってことだ。
考え込んでいた女は曖昧な視線を司に投げかけて来た。
「ねえ・・ど、道明寺さんが聞いてくれたら答えてくれるんじゃない?」
期待半分と言った言葉。
だがこのホテルの経営に携わる男が聞けば答えてくれるはずだとの含みがあった。
「なんで俺が俺に似た人間がいたかなんて聞かなきゃなんねぇんだよ?」
「だ、だって探すんでしょ?あなたに似た人を・・」
確かにそう言った手前嫌だとは言えなかった。
「ああ、わかったよ!聞いてやるよ!」
司はつくしの手を掴んだ。
いきなり手を掴まれた女は驚いていたが司はそんなことは気にも留めず、ずんずん歩いて行くとフロントの前を通り過ぎエレベーターの前に立った。
「ちょっと!えっ?なに?」
まるで引きずられるように連れて来られていた。
女が慌てる様子を見て司は満足感を味わった。
何を考えたのかわかったからだ。
どうせ部屋に連れ込まれるとでも思ったんだろ?
「メシ」
「はぁ?」
「先に食事済ませてからでもいいだろ?偽者探しはそのあとだ」
司はつくしの手を掴んだまま見下ろして言った。
「上にレストランがある。なんだよ?なんか文句でもあるのか?」
すると司はにやりと口元を緩めた。
「まさか、おまえ変なこと考えてんじゃねぇのか?」
「な、なに言ってるのよ・・そんなこと・・」
「だったら今なに考えてたのか教えてくれよ?」
司は故意に挑発すると言葉を継いだ。
「おまえ、俺が協力しなきゃ偽者見つけることなんか出来ねぇだろ?いいから黙ってついて来い。どうせ腹減ってんだろ?」
時計の針はもうとっくに12時を回っていた。
いくら朝食を山のように食べていたとしてもこう言えば反論できないと分かっていた。
それに司にしても牧野つくしと時間をかけてゆっくり話しがしたいと思っていた。
「ここで急いだところでどうしようもねぇだろ?どうせどっかでメシ食わなきゃなんねぇんだからな」
そんな言葉に女も納得したようだ。
司の一挙手一投足に慌てる女は相変わらずのハリネズミ女だ。
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コメント
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子持**マ様
そうなんです。偽者探しは口実なんです。
接点を持つために一緒に探そうなんてことを・・
つくしちゃん真剣なのにこの司は自分の偽者がいたとしてもあまり気にしていないようです。そんな不真面目な態度だと嫌われるぞ!と言ってやって下さい(笑)
拍手コメント有難うございました^^
そうなんです。偽者探しは口実なんです。
接点を持つために一緒に探そうなんてことを・・
つくしちゃん真剣なのにこの司は自分の偽者がいたとしてもあまり気にしていないようです。そんな不真面目な態度だと嫌われるぞ!と言ってやって下さい(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.30 23:08 | 編集

さと**ん様
メープル従業員は優秀でした^^
「家政婦は見た」の市原さんのようにはなりませんでした。
ハリネズミ女はトゲトゲしいんです。
手なずけるためにはまず胃袋からでしょうか。
ハリネズミ女は警戒心の塊です。なかなか懐きません。
司の手に乗ってくれるのはいつなのでしょうか・・
針が刺さったら痛いのでくれぐれも刺さらないように頑張ってもらいたいと思います。
コメント有難うございました^^
メープル従業員は優秀でした^^
「家政婦は見た」の市原さんのようにはなりませんでした。
ハリネズミ女はトゲトゲしいんです。
手なずけるためにはまず胃袋からでしょうか。
ハリネズミ女は警戒心の塊です。なかなか懐きません。
司の手に乗ってくれるのはいつなのでしょうか・・
針が刺さったら痛いのでくれぐれも刺さらないように頑張ってもらいたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.30 23:20 | 編集

このコメントは管理人のみ閲覧できます

司×**OVE様
こんにちは^^
自分からキスしたんだから認めて・・
オトナなのにねぇ。素直になりなさいって言ってやって下さい。
メープルで聞き込みをしても従業員教育が徹底していますので知っていたとしても決して言わないでしょうね。
つくしは司の力を甘くみていますね(笑)その気になれば偽者なんてすぐに見つけられる・・はずなのに気付いていないんです。
そうだったんですね。お誕生日!おとなになりましたねぇ。いい男に成長しましたね。^^綺麗なお顔ですよね。
日付は変わってしまいましたが司くん、おめでとうございます!
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
自分からキスしたんだから認めて・・
オトナなのにねぇ。素直になりなさいって言ってやって下さい。
メープルで聞き込みをしても従業員教育が徹底していますので知っていたとしても決して言わないでしょうね。
つくしは司の力を甘くみていますね(笑)その気になれば偽者なんてすぐに見つけられる・・はずなのに気付いていないんです。
そうだったんですね。お誕生日!おとなになりましたねぇ。いい男に成長しましたね。^^綺麗なお顔ですよね。
日付は変わってしまいましたが司くん、おめでとうございます!
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.31 00:19 | 編集

マ**チ様
こんばんは^^
まずは餌で・・釣れるといいのですが!
マ**チ様、なんとか大丈夫ですよ!起きています(笑)
同盟は健在です。活動しています!!(笑)若さでアタック!!←え?
こんなアカシアにぜひ御曹司様の笑いをお願いします。
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
まずは餌で・・釣れるといいのですが!
マ**チ様、なんとか大丈夫ですよ!起きています(笑)
同盟は健在です。活動しています!!(笑)若さでアタック!!←え?
こんなアカシアにぜひ御曹司様の笑いをお願いします。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.31 00:28 | 編集
