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2016
08.25

恋人までのディスタンス 17

つくしは歩きやすい靴で歩道に立っていた。
10時に迎えに行くからといったあの男の言葉を鵜呑みにするわけではなかったが、もし本当に現れるなら部屋の中で待つより外で待っていた方がいい。
家は知られているらしいし、逃げたところでいつかは顔を合わさなければならないと言うのなら、さっさとあの男の偽者探しを済ませた方がいいに決まっている。

それにつくしはマンションでひとり暮らしだ。
そんなところによく知りもしない男が尋ねてくるなんて冗談じゃない。
いくら今日が休みだからと言って装いは決して気安い恰好ではなかった。
いつも仕事で着るスーツに手にしているのはこれまた仕事に使う鞄だ。
そうよ。これは仕事よ!
これはあくまでも仕事の一環で決して遊びなんかじゃないんだから。

「まったくなんて男なんだろ!人の仕事を勝手に・・なんだと思ってるのよ!」
思わず声に出していた。

勝手に休みにされた土曜日。
もうすぐ10時だ。土曜に自宅にいること自体が久しぶりだと言うのに、それが自分の為じゃなくてあの男につき合うためだなんてなんて勿体ない。
これが自分のための一日ならどんなに気分がいいことか・・

そんなつくしの前に現れたのはあの男が乗っていると思われる大きな黒い車。
その車がつくしの立つ歩道の縁石ギリギリに横付けになり道明寺司がにこやかに出てきた。

「なんだよ牧野。そんなに俺に会うのが待ちきれなかったのか?」
「時間の節約のためです」

つくしは降りて来た男の表情とまるで正反対のムッとした表情で言った。
別にこの男に早く会いたくてここで待っていたわけじゃない。だけどそんなことはいちいち説明なんてしなかった。

まるでつくしの服装に示し合わせたような男の服装。
道明寺司は今日もスーツ姿だった。そうか。もしかしたらこの男は他にも用があるかもしれない。今日のこの人探しは時間をかけることなく終るとつくしは見込んだ。
どこをどう探すのかさっぱりわからないが、この男のことだ。見当をつけているのかもしれない。せっかくの土曜日。望んで貰えた休日ではなかったが、それならさっさとその予定を済ませて土曜日しか出来ないようなことをしたい。


昨日あれから買った経済誌に書かれていたのはビジネス界の王道を行く男だとか、経営のカリスマだなんて言葉が躍っていた。そんな言葉が躍る経済誌とは逆に女優との破局が書かれた雑誌の記事はと言えば、女優Sさんが語る道明寺司の魅力がつらつらと書き綴られているだけで、暴露記事でもなんでもなかった。

別にこの男の醜態が知りたかったわけではなかったがなんとなく買ってしまったその雑誌は早々にリサイクル資源として活用されるはずだ。
それにしても三流雑誌の記事は別としてこの若さで経営のカリスマだなんておかしいでしょ?
そんなつくしがムッとした表情のままでいると
「なんだ?車がリムジンじゃないから機嫌が悪りぃのか?さすがに道の狭い住宅地にあの車じゃ無理だからこの車にしたけど気に入らねのか?」
「は?」
「だからリムジンの方がよかったのかって聞いてんだ」
男が乗って来た車は運転手付きのベンツだ。

「だ、誰も車のことなんて気にしてません!そんなことよりも言いたいのはどうして勝手にあたしの仕事を取り上げるようなことをするんですか!」
「別におまえの仕事を取り上げたつもりなんてねぇけどな」
「と、取り上げてるじゃない!あたしは本当なら今日はお客さまを案内して・・」

つくしの目の前に立つ男はそんな話しなんて聞いちゃいねぇよとばかりの態度だ。
胸の前で腕を組み、つくしの様子を眺めていた。

「おまえは朝っぱらから威勢のいい女だな。電話といい声がでけぇよ」
「う、うるさいわね・・」
「もしかして腹がへってんのか?」
「だ、だれが・・ちゃんと朝食は食べたわよ!」
「ならそんなにイライラすることねーだろ?」

つくしは道明寺司を見ていると、あの夜この男にキスされた時のことを思い出していた。
薄暗くなったマンションまでのプロムナードで抱きしれられてキスをされた日へと引き戻されていた。つくしは視線を司の手に落とした。あの手が、力強くつくしを抱きしめたあの手を思い出さずにはいられなかった。

いったいあたしはどうしたと言うんだろう。
この男とかかわるようになってからどうも調子がおかしい。
この男の言い方にいちいち苛立ちを感じてしまうのはどうしてなのか。
でも自分のことよりまず優紀のことよ。つくしは自ら自分に言い聞かせた。今日だって別に会いたくて会ってるわけじゃないんだから無遠慮なもの言いをしたって構わないし、この男に今さらいい印象を与えたいなんて思っていないんだから・・・だから・・威勢のいい女で上等よ!






司はつくしの心の底を見抜こうとするかのように彼女の目をじっと見た。
威勢のいい女は自分の前でドーンと足を踏ん張っていた。
ふん。やっぱおもしれぇ女。

牧野つくしが自分の前で落ち着きを無くすのはどうしてか。
学生時代反抗的だった男は大人になってからは人の気持を読むすべを身に付けていた。
ふたりが会えば喧嘩をすると言うことを前提としているわけではないとわかっていた。
恐らく牧野の恋愛経験値の低さが、この女の男に対する許容範囲を超えているのだろう。
俺みたいないい男に会ったことがねーってことだろ?

司の目の前にいる女は自らトラブルに巻き込まれるようなお人よしの女だ。
たいした美人でもない顔。それにどちらかといえば幼さが残るような体。とても自分のひとつ下の女だなんて思えなかった。服装も司が見たことがあるのは黒のドレスかこのビジネススーツ以外なかった。それに何年も使い込んだようなビジネス鞄。普段司の周りにいるような女なら決して選ばないような地味な口紅の色に抑えた化粧。

どう考えても俺の好みじゃないはずの女。それに自分が求めていたものを持つとは思えなかった女。だがパーティーで見かけていた名前も知らない黒いドレスの女の頃から気になっていた。
会う度に心の底から湧き上がる思いがあった。あの頃感じたのは言葉に出来ない魅力だった。俺が話しかけるまで決して俺の方を見ようとしなかったが、どこかで視線の重みを感じていた。
だからふたりだけでマンションの前で会ったとき、こらえきれずに抱きしめてキスをしていた。

まったく司らしくなかった。
今までなら肉体的関係だけで済ませていたところが、それ以上のつき合いがしたいと望んでいた。そんな中で自分の偽者探しという名目で連れ出すことにしたが、司の過去にあったひねくれた性格は少し違う解釈をしたようだ。

自分が恋に落ちるはずがない。

だからこの女が恋に落ちればいい。

そうだ。

俺に恋に落ちればいい。

司の視線は自分を見つめている女の唇を見つめていた。
そこから視線を瞳に戻すと微笑んでみせた。
俺に見つめられた女は蛇に睨まれたカエルか?
それとも決戦直前の闘犬か?

司の前で自分よりもはるかに背が高い男に向かってやれるもんならやってみなさいよ。
と、ばかりに構える女。
やっぱりこの女はおもしれぇ。

彼の心の中に湧き上がったのはこの女を手に入れるにはどうやったらいいかという思いだ。
その計画をどうやって実行に移すかがこれから自分の腕の見せ所だ。

欲しいという思いと恋に落ちるとではまったく意味が違うはずだ。
そんな思いを心の中に閉じ込めてみたが司の気持はゆらゆらと揺れていた。







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コメント
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dot 2016.08.25 15:08 | 編集
司×**OVE様
こんにちは^^
つくしちゃんの仕事の都合なんて関係ないとばかりの司。
自分に都合のいい解釈をする人ですねぇ(笑)
欲しいと思っている時点で恋に落ちているのは確実だと思います。
頑固なつくしも意識していますが、こちらも認めさせる為にはどうしたらいいのでしょうねぇ?
司も策を練らずにストレートで(笑)本当に仰るとおりです。
恋は走り出したら止まらないはずです。(*^_^*)
しかし本当にまだまだ暑いですね。
季節の変わり目は苦手ですので、体調管理には気をつけたいと思います。
いつもお心遣いいただき有難うございます。司×**OVE様もご自愛なさって下さいね。
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2016.08.25 23:17 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.08.26 01:08 | 編集
マ**チ様
可笑し過ぎてお腹が痛いです!(≧▽≦)ひとりPCの前で口を押えて笑いをこらえていました。
相変わらず坊ちゃんはつくしにお口でごにょごにょして貰いたいんですね?その夢が叶う日まで絶対諦めない!
なんと力強いお言葉!さすがマ**チ様!でも坊ちゃんがかわいそうになって来ました(笑)マ**チ様Ver.司の為に手ほどきですね?ではアカシアが色気のあるお話を書けばいいのでしょうか?(笑)司の新たなる野望はいったいなんでしょうね!
本当に楽しいお話をありがとうございます!このふたりが読んでくれている状況にアカシア蜂蜜も大喜びです!!
恋人まで~の方は俺様司で、色んな意味で自信満々の男となっております(笑)なんだか御曹司キャラが乗り移りつつあるんです(笑)気をつけます(^^)本日金曜の夜ですね。明日は土曜ですので夜更かし同盟、今日は夜更かしです!
コメントありがとうございました^^
アカシアdot 2016.08.26 22:24 | 編集
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