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2016
08.24

恋人までのディスタンス 16

金曜日の午後、つくしは外出先から戻る途中、書店に立ち寄ると一冊の経済誌を手に取った。
なるほど。この男は経済誌だけに留まることのない幅広い活躍を見せているようだ。
隣の雑誌には先日別れたという女優とのゴシップが書かれているのだろう。

『道明寺司氏と別れた女優Sさんは語る』そんな記事見出しが目に飛び込んで来た。

女優と付き合うなんて道明寺司という男は案外ミーハーなの?
もしかしてこの女優のファンだったとか?
青年実業家と女優の交際なんて話しはよく耳にするがそんな感じなの?
パトロン関係だったとか?あ、でも青年実業家じゃなかった。
この男は財閥の跡取り息子で御曹司だった。まさに金持ちの御曹司って男だ。
でも今思えばどうして優紀は自分がつき合っていた男がそんな男だなんて思ったんだろう。
よく考えればいくら顔が似てるからって、もう少しわかりそうなものだと思うけど・・
まあ本人が名前をそう名乗ったんだから仕方がないか・・

それにしても一生の不覚と言ってもいいかもしれないほどの失態を演じたためにあの男と一緒に偽者探しをすることになるなんて・・


つくしは道明寺司と渡り合うためには少しでも情報を仕入れておかなければと考えていた。
何しろ色んな意味で油断が出来ない男だからだ。
それにつくしの知らない世界を知る男だ。そんな男は全てにおいて自信たっぷりだ。
つくしは手にした経済誌を見た。どれだけ頭がいいのか知らないがビジネスでは切れる男なんだろう。
それに女性経験も豊富・・
なにしろずうずうしくキスをしてくるような男だ。
キスひとつでガタガタ言うなと言われそうだが、よく知らない男に突然襲いかかられるようなキスだなんてはっきり言って暴行事件に匹敵するんじゃないかと思っていた。

つくしは会社では信頼と実績の牧野つくしと呼ばれている。そう言われるのはお客様からの評価が高いと言うことだ。不動産業にとって信頼をされることは商売をしていくうえで非常に大切な要素のひとつだ。あの不動産屋なら信頼出来る。それがこの業界では重要だ。
つくし自身もそれだけ仕事は手堅くやってきたつもりでいた。だから優紀の元恋人を探すことだってやれば出来ると思っていた。

それなのにあの男が手伝ってやろうかなんて言い出すんだから・・
なにがなんだかわからないままに一緒に問題の男を探すはめになっていた。
あのとき、マンションで優紀に会ったとき、人違いだったし誤解だったことがわかってあの男が何も言わず立ち去ってくれたら良かったのに・・
だがそんなわけにはいかなった。

つくしは経済誌を手にしたまま、棚に平積みされている雑誌を買うかどうか迷っていた。
あの男のゴシップ記事か・・つくしが大して興味がなかったせいか、知らなかっただけなのか、だがこんな記事は今までもあったのだろう。今後の為に一応読むべきだろうか・・
つくしがその雑誌を手に取ったとき、携帯電話が鳴った。
会社の携帯電話ではなく、つくしの個人携帯にかかってきたのは見慣れない番号だった。
いったい誰だろう?
つくしは躊躇いながらも通話表示に指を滑らせていた。

「も、もしもし?」
「牧野か?」
男の声だ。つくしは誰か心あたりを探した。
「道明寺だ」

携帯電話から聞こえて来たのはあの男の声だった。
つくしは自分がこの男のことを考えていた時に本人から電話がかかってきたことに驚いていた。自分でもどうしてそんな行動を取ったとかわからないが思わずさっと周囲を見まわしていた。
もしかしてあの男が近くにいるのではないかという感覚が頭を過ったからだ。

「な、何の用ですか?」
「おまえ明日明後日も仕事だよな?」
土日は不動産屋にとっては書き入れ時で物件案内を希望する客が一番多い曜日だ。
「そ、そうですが?」
「明日おまえの仕事は休みだから」
つくしは一瞬言葉に詰まった。
「明日は俺と偽者探しに出かけるからな」
「はぁ?」
「はぁじゃねえぞ!ちゃんと聞いてるのか?」
「あ、あの、聞いてるけどいったいどういうこと・・」
「どうもこうもねぇだろうが。おまえ俺と偽者探しをするって話しをしたよな?」
「あ、あのね、道明寺さん。あれは・・」

つくしはここではたと気づいた。
どうしてこの男があたしの個人携帯の番号を知ってるのよ!まさか会社の人間が教えたなんてことはないわよね?仕事用の携帯だってあるのに教えたわけ?いくら相手がこの男でも個人情報まで・・・
いや。あり得ない話しではなかった。
あの課長なら簡単に教えてしまいそうだ。

「おい牧野!聞いてるのか?明日おまえの家まで迎えに行くから用意しとけよ?」

「な、なにを用意するって言うんですか!それに言っときますけどあたしは明日お客様を案内する約束があるんです!ご、ご存知ないんですか?不動産屋に土日の休みなんてないんですからね!」
つくしはぴしゃりと言い返した。

「・・ったく、耳元で怒鳴るんじゃねぇよ!おまえの会社の男がなんにも問題なんてねぇって言ってたぞ?」
「だ、誰がそんなこと言ったんですか!」

不動産業界では春と秋とが一番取引が活発になる時だって言うのに誰がそんなこと言うのよ!まさにこれからがピークって時になにを言ってるのよこの男は!だが大体状況を呑み込むことが出来た。課長の中村が言ったに違いない。

「知るか。それより明日10時に迎えに行くから用意しとけ」
知るか?
「む、迎えに行く?なんなんですかそれは!だいたいあたしの家を・・」

つくしが反論する間もなく電話は切れていた。









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コメント
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dot 2016.08.24 23:37 | 編集
マ**チ様
こんばんは^^
図々しくなる司(笑)危険な香りがしてきましたか?(笑)
司は好きだ!と認識するとまっしぐらで迷いません。
恐らくこの司もそうでしょうね。二人の道行きはまだ先が・・・
あのニュース本当なんでしょうか?私も驚きました。意外な組み合わせですね。
マ**チ様オリンピックも終わりましたので、そろそろ早寝を心掛けましょう!(お互いに・・(*^^))
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.25 23:04 | 編集
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