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2016
08.23

恋人までのディスタンス 15

司は牧野つくしに自分の偽者探しを手伝えと言ったが、あの女がこの話しを真面目にとらえたことがおかしかった。
友人に対する心遣いからもそうだが、罪悪感とか義務感とかそう言ったことに敏感な女だということはわかっていた。要は気にし過ぎるところがあるということだ。
司にしてみれば、人探しに時間を割くなど考えられないことだ。それ自体がまったく自分らしくないことだと分かっていた。

他人の空似ともいえる男を探す・・

司の頭の中ではすでにいくつかの可能性が渦巻いていた。
ずうずうしくも自分の名前を使う男。
松岡から聞いた話しの中に特徴的なことがあった。
背は司よりも若干低く、髪型が違う。それに自分よりも少し年上だということだ。
実は以前耳にしたことがあった。
それは彼がまだアメリカにいた頃、友人たちから東京でおまえを見かけたと言われたことがあったからだ。
司はその男がどうして松岡優紀という女に興味を示したのかが気になっていた。
自分に似ているという男の行動。
その男のことがなければ牧野つくしに出会うこともなかったからだ。



「西田。松岡優紀の勤める会社は?」

執務室では表情を変えることのない男はただじっと西田を見た。
秘書の男は上司が言った言葉を確実に実行することが求められていた。
調査対象者が上司とどんな関係にあろうが、決して口を挟むことはないはずだ。
現に今までもそうだった。

牧野つくしのことはあの女の携帯電話を拾った時に調べはついていた。
あの女、『わたしはこのままで何の不満も無いわ』とでも言いそうな暮らしをしている女だった。親友が恋人に振られたらその相手を探すために一生懸命になるような女で自分の恋愛にはさも興味はなさそうな態度。
司がキスしたときも眉間に皺をよせ、まるで岩のように固まっていた。
だが唇を離した途端、まるで山猫みてぇに後ろに飛びのいた。それにあんときも一発お見舞いされそうになっていた。

「はい。松岡さんですが製薬会社にお勤めです。彼女はインフルエンザの治療に関する研究をしていますね」

毎年世界中で流行を繰り返すインフルエンザのウィルスはどんなに薬を開発してもすぐに耐性を持ったものが現れるやっかいなウィルスだ。確実に予防しようと思えばワクチンを打つことが効果的だが、それさえその年流行するウィルスに適合するかどうかわからない。ましてや新型インフルエンザと呼ばれるものは、殆どの人間が免疫を持たないため感染すると世界規模の大流行、パンデミックを起こすことがあった。

仮にワクチン予防が効かず、罹患した場合は抗インフルエンザウィルス薬で治療する以外方法はなかった。今の日本で使われているのは点滴、飲み薬、吸入薬の三種類がある。
はたして松岡優紀が研究しているのはどのタイプの薬なのか?
同じような仕組みを持つ薬の登場はシェアを下げることになるから新薬の開発にも力が入るはずだ。
どちらにしても抗インフルエンザウィルス薬として有名な薬のひとつはすでに特許が切れていた。だが特許期間延長制度に基づき5年間の特許延長が申請され認められている。
その5年の間に新たな新薬を開発しなければ会社としての利益は下がってしまう。
特許が切れた薬はジェネリック医薬品となってしまうからだ。国によっては特許を申請しても認められなかった例もあり、個人で輸入し個人的に使うことも出来る。だがその薬を飲んで何らかの事故が起きてもすべては自己責任となるため、薬に対して余程の知識を持っていることと、何が起きても仕方がないということを理解、納得しておく必要があった。


インフルエンザワクチンの開発に取り組んでいる製薬会社は多い。
ウィルスが人の体内で猛威を振るうのは短期間だが、変異を遂げた新型と呼ばれるものに即座に対応できるワクチンを開発出来た会社が多大の利益を得ることになる。冬の流行に備えるなら遅くても夏までにワクチンの準備が出来ていなければならない。
だが今シーズンに流行るウィルスがどれになるかなどわかるはずもなく、製薬会社としては今年どんなウィルスが流行るのか毎年予想を立てているだろうが、大きな博打のようなものだろう。

「それで、あいつの・・・松岡って女はどんな女だ?」

牧野つくしの親友。
あの女は親友のためならと司との人探しも引き受けた。

「松岡優紀は申し分のない研究者だと聞いています」
「西田、その申し分のないってのはどういう意味だ?」
「はい。優秀な、と言うより研究所に勤めている平均的な研究者だという意味です。研究所はなにも最先端の研究を行っているものだけが勤めているわけではありませんから。ありていに言えば真面目にコツコツと仕事をこなしている女性といったところでしょう」
「理性も分別もある女か・・」

確かに見た目がそんな女だった。
大人しく真面目なタイプの女だ。
それに引き換えあの牧野つくしは自分の信じる道は突き進むタイプの人間だ。

司の目におかしそうな表情が浮かんだ。

正義感に溢れる瞳を自分に向けてきたあの日を思い出していた。
そうだ。牧野に殴られた日だ。
親友が男に捨てられたということに対し自分がなんとかしてあげるとばかりにパーティーに乗り込んでは司の方を窺っていた女だ。
あの女は自分のことより他人のことを考えるような人間こそ騙されやすいということがわかってないようだ。

「だから俺に騙されるんだ・・」
「支社長?なにかおっしゃいましたか?」
「いや。なんでもねぇ・・」

司は心の中でそんな女をおかしく思っていた。

『わたしはこのままで何の不満も無いわ』
その言葉を実際聞いたわけではなかったが、あの女が衝動的になにかをするところが
再び見たいと思っていた。
正真正銘の牧野つくしの姿を見たい。
それは司を殴った時と同じくらいの勢いで自分に向かってくるあの女の姿。
司が女性に求めてきたものは、あの女にはまったくと言っていいほどあてはまらなかった。 それにもかかわらず、あの女は自分の求めている何かを持っているような気がしていた。
だからあの女を気に入った。あの女の何がいったい自分を惹きつけるのか。
それが知りたいと思っていた。

これから始まることは人探しと言うには名ばかりの楽しいパーティーになりそうだ。
司にはそんな確信があった。








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コメント
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dot 2016.08.23 19:54 | 編集
司×**OVE様
こんばんは^^
つくしはこの状況に困ったと頭を抱え、司はこれからを楽しみにしている。本当に対称的なふたりですね(笑)
いつもの大人の司。そろそろ頑張って頂きましょう!優紀ちゃんも絡んでいますのでつくしも迂闊な対応は出来ない・・
本当なら「なによ!道明寺司なんて!」と言いたいところでしょうが、そこは友人のこともあったり、つくしは自分が殴ったという罪悪感もあるでしょうし、どういう対応をしたらいいものかと考えあぐねているようです。
坊っちゃん、頑張れ!(笑)
台風ですがテレビで拝見すると北の大地の被害が激しいようですね?災害は忘れた頃に・・と言いますのでいつも準備を怠らないようにと思っています。日本列島は只今完全に二極化しているようです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.23 22:13 | 編集
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