「はぁ~」
つくしは鍵穴に鍵を差し込んだ状態でため息をついた。
施錠すると鍵を抜き取って鞄に収めた。
なんてことなの!
道明寺司と一緒にあの男の偽者を探すことを了承してしまった。
本当は断りたかった。
だが筋の通った断り方など思いつくはずもなく、ましてや自分の感情など二の次だった。
罪の意識に苛まれていたつくしは断れるはずもなく押し切られてしまったというのが正しいのかもしれなかった。
毎日の仕事は順調で、日々の生活もたいして変わりもなく安定した毎日を送っている。
申し分のない毎日だと思ってはいたが恋愛に関しての想像力を働かせる力は殆どなかった。 だからこそ優紀の恋愛があんな形で終わってしまったことが残念でたまらない。つくしは30代の女性にしては恋愛経験が少ないが恋愛に夢を描いたこともあった。
だがどうもうまくいかなかった。いったい何がいけなかったのかと考えてはみても自分では見当もつかなかった。
大台に乗ったとき、頭に描いていた恋愛はもしかしたら本から得た知識が多すぎてマニュアル化した恋愛を求めていたのかもしれないと気づいた。
だからといって今さら冒険をしようとは考えなかった。
そんな中であの男と一緒に人探しをすることはつくしにとってハードルが高かった。
何しろ相手はあの道明寺司だ。世慣れた男だ。世界的企業の後継者で御曹司と呼ばれる男だ。それに恋愛経験も豊富な男という印象があった。恐らく実際にそうなんだろうけど、つくしは大して興味がなかったのだからあまり詳しくは知らなかった。
この偽者探しだってあの男は退屈な人生のひとコマ、単なる余興のひとつなんだろう。
だがつくしはそう簡単には考えられなかった。
つくしのことを気に入ったと言い切ってキスをしてきた男だ。
でもキスした男とはいえ個人的には全く知らない男だ。妙な縁でこんなことになったがいったいこれから自分はどうなるんだろうかと思わずにはいられなかった。
それは心の中でふっと何か小さな塊が動いたような気がしたからだ。
キスなんて軽く受け流せばいいのに、それが出来ないのはその何かのせいなのかも知れなかった。
オフィスに到着したとき、数人の社員がつくしの傍へと寄ってきた。
あのマンションの最上階が売れたという話しを耳にしたのはその時だった。
もちろん買ったのはあの男だ。
つくしにマンションの案内を頼んだ課長の中村は買い手が年配の女性から道明寺司に変わったことにさして驚きはしなかった。
「まあ牧野君、そう驚くことではないよ。道明寺さんは名前を出して欲しくはなかったんだから仕方がない」
その口調は初めから知っていたと言わんばかりだ。
つくしはどうしてもひとこと言わなければ気が済まなかった。
「中村課長?そうはいいますけど男性のお客様に女子社員が案内につくなんてことはおかしいですよね?あれは本来なら男性社員が・・」
「何を言ってるんだ。あの道明寺さんがおかしなことをするはずないだろ?」
中村は地位も名誉もある男が何の問題を起こすのかという目でつくしを見ていた。
「か、課長?でもどんなに立派な人間だって問題を起こすことがありますよ?」
つくしは思わず大きな声を出していた。
事実は言えないが問題は起きている。道明寺司に抱きつかれ、キスをされた。だが元はと言えばこうなってしまったのはつくし自身があの男を殴ったことから始まっていたのかもしれなかった。
「そりゃあ人間誰でも多かれ少なかれ問題は起こすものだ。だけどね、牧野君。相手はあの道明寺さんだ。曲りなりに何かあったとしたら儲けものだよ?」
「な、なんなんですかそれ・・」つくしは怒りを抑えて言った。
「ま、牧野君そんなに怒らなくてもいいじゃないか。たとえ話のひとつとして考えてくれないか?たとえば見初められたとか、そう言ったことだよ。まあ、うちの不動産会社は比較的裕福なお客様が多いから君もそんなお客様に声をかけられたことがあるんじゃないか?」
つくしは思わず目を細めていた。
おおかたの場合、課長の中村はつくしの意見を聞いてくれるし販売能力と業績を評価してくれる。それに会社で決められたルールを守る人間だ。それなのに、今回はまるであの男の意向に沿ったようなことをしているとしか思えない。あの男は牧野つくしを案内に寄こせと言ったに決まってる。それに中村はやはり最初からわかっていたということだろう。
つくしはもうこれ以上中村に何を言っても無駄だと思った。
長い物には巻かれろと言うことなのだろう。要は金持ちのいうことは聞くのが当然なのだろう。
つくしはため息をついた。
正直これからあの男とどう接したらいいのか・・それが問題だ。
あの男は優紀を騙した男じゃないし、これからはもう見知らぬ他人ではない。
そう思うと夕べは頭が混乱して何も考えられずにいたが罪悪感と一緒に義務感がつくしを苛んでいた。

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つくしは鍵穴に鍵を差し込んだ状態でため息をついた。
施錠すると鍵を抜き取って鞄に収めた。
なんてことなの!
道明寺司と一緒にあの男の偽者を探すことを了承してしまった。
本当は断りたかった。
だが筋の通った断り方など思いつくはずもなく、ましてや自分の感情など二の次だった。
罪の意識に苛まれていたつくしは断れるはずもなく押し切られてしまったというのが正しいのかもしれなかった。
毎日の仕事は順調で、日々の生活もたいして変わりもなく安定した毎日を送っている。
申し分のない毎日だと思ってはいたが恋愛に関しての想像力を働かせる力は殆どなかった。 だからこそ優紀の恋愛があんな形で終わってしまったことが残念でたまらない。つくしは30代の女性にしては恋愛経験が少ないが恋愛に夢を描いたこともあった。
だがどうもうまくいかなかった。いったい何がいけなかったのかと考えてはみても自分では見当もつかなかった。
大台に乗ったとき、頭に描いていた恋愛はもしかしたら本から得た知識が多すぎてマニュアル化した恋愛を求めていたのかもしれないと気づいた。
だからといって今さら冒険をしようとは考えなかった。
そんな中であの男と一緒に人探しをすることはつくしにとってハードルが高かった。
何しろ相手はあの道明寺司だ。世慣れた男だ。世界的企業の後継者で御曹司と呼ばれる男だ。それに恋愛経験も豊富な男という印象があった。恐らく実際にそうなんだろうけど、つくしは大して興味がなかったのだからあまり詳しくは知らなかった。
この偽者探しだってあの男は退屈な人生のひとコマ、単なる余興のひとつなんだろう。
だがつくしはそう簡単には考えられなかった。
つくしのことを気に入ったと言い切ってキスをしてきた男だ。
でもキスした男とはいえ個人的には全く知らない男だ。妙な縁でこんなことになったがいったいこれから自分はどうなるんだろうかと思わずにはいられなかった。
それは心の中でふっと何か小さな塊が動いたような気がしたからだ。
キスなんて軽く受け流せばいいのに、それが出来ないのはその何かのせいなのかも知れなかった。
オフィスに到着したとき、数人の社員がつくしの傍へと寄ってきた。
あのマンションの最上階が売れたという話しを耳にしたのはその時だった。
もちろん買ったのはあの男だ。
つくしにマンションの案内を頼んだ課長の中村は買い手が年配の女性から道明寺司に変わったことにさして驚きはしなかった。
「まあ牧野君、そう驚くことではないよ。道明寺さんは名前を出して欲しくはなかったんだから仕方がない」
その口調は初めから知っていたと言わんばかりだ。
つくしはどうしてもひとこと言わなければ気が済まなかった。
「中村課長?そうはいいますけど男性のお客様に女子社員が案内につくなんてことはおかしいですよね?あれは本来なら男性社員が・・」
「何を言ってるんだ。あの道明寺さんがおかしなことをするはずないだろ?」
中村は地位も名誉もある男が何の問題を起こすのかという目でつくしを見ていた。
「か、課長?でもどんなに立派な人間だって問題を起こすことがありますよ?」
つくしは思わず大きな声を出していた。
事実は言えないが問題は起きている。道明寺司に抱きつかれ、キスをされた。だが元はと言えばこうなってしまったのはつくし自身があの男を殴ったことから始まっていたのかもしれなかった。
「そりゃあ人間誰でも多かれ少なかれ問題は起こすものだ。だけどね、牧野君。相手はあの道明寺さんだ。曲りなりに何かあったとしたら儲けものだよ?」
「な、なんなんですかそれ・・」つくしは怒りを抑えて言った。
「ま、牧野君そんなに怒らなくてもいいじゃないか。たとえ話のひとつとして考えてくれないか?たとえば見初められたとか、そう言ったことだよ。まあ、うちの不動産会社は比較的裕福なお客様が多いから君もそんなお客様に声をかけられたことがあるんじゃないか?」
つくしは思わず目を細めていた。
おおかたの場合、課長の中村はつくしの意見を聞いてくれるし販売能力と業績を評価してくれる。それに会社で決められたルールを守る人間だ。それなのに、今回はまるであの男の意向に沿ったようなことをしているとしか思えない。あの男は牧野つくしを案内に寄こせと言ったに決まってる。それに中村はやはり最初からわかっていたということだろう。
つくしはもうこれ以上中村に何を言っても無駄だと思った。
長い物には巻かれろと言うことなのだろう。要は金持ちのいうことは聞くのが当然なのだろう。
つくしはため息をついた。
正直これからあの男とどう接したらいいのか・・それが問題だ。
あの男は優紀を騙した男じゃないし、これからはもう見知らぬ他人ではない。
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コメント
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chi***himu様
こんばんは。
指先に放置されているスマホ・・。そうですね、まるでダイイングメッセージが書かれているかの様です(笑)
その状況を想像させて頂くと思わず笑ってしまいました。
こちらのつくしちゃん、司くんからドン引きしてますねぇ。狩人司くんどうやってつくしちゃんをモノのするのでしょうね。
確かに司くんにキスされてうっとりしないつくしちゃんは勿体ないかもしれませんが、よく知らない人にいきなりですからねぇ。
あのつくしちゃんなら怒るでしょうね^^今年の台風は進路がいつもと違うようですね。我が地域は問題はありませんでした。ご心配を頂きありがとうございました^^
オリンピックも終わり少し寂しい日常が戻って来ましたね。それでもchi***himu様にはお楽しみがあるということで良かったです。そして当サイトもそのひとつとしてお役に立てて嬉しいです。大したおもてなしは出来ませんが、どうぞいつでもお立ち寄りになって下さいね。コメント有難うございました^^
こんばんは。
指先に放置されているスマホ・・。そうですね、まるでダイイングメッセージが書かれているかの様です(笑)
その状況を想像させて頂くと思わず笑ってしまいました。
こちらのつくしちゃん、司くんからドン引きしてますねぇ。狩人司くんどうやってつくしちゃんをモノのするのでしょうね。
確かに司くんにキスされてうっとりしないつくしちゃんは勿体ないかもしれませんが、よく知らない人にいきなりですからねぇ。
あのつくしちゃんなら怒るでしょうね^^今年の台風は進路がいつもと違うようですね。我が地域は問題はありませんでした。ご心配を頂きありがとうございました^^
オリンピックも終わり少し寂しい日常が戻って来ましたね。それでもchi***himu様にはお楽しみがあるということで良かったです。そして当サイトもそのひとつとしてお役に立てて嬉しいです。大したおもてなしは出来ませんが、どうぞいつでもお立ち寄りになって下さいね。コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.23 21:34 | 編集

マ**チ様
つくしの会社の社内のルールまで曲げさせる道明寺司。さずがお金持ち(笑)
おまえならこの部屋のコーディネートどうする?なんて聞きながら・・(*^^)v
さすがマ**チ様!司に絡めとられていくつくしちゃん。
さて、司はどうやってつくしちゃんをモノにしていくのでしょね?(´艸`*)
おおっ!!楽しみ待ってます!!すぎちゃんみたいにお外でもいいですよ?(笑)
マ**チ様に美味しく調理された御曹司(笑)いつもつくしちゃんに逃げられるので可哀想な気もしますが、いいんです。
司は永遠につくしを追いかける運命ですので。
コメント有難うございました^^
つくしの会社の社内のルールまで曲げさせる道明寺司。さずがお金持ち(笑)
おまえならこの部屋のコーディネートどうする?なんて聞きながら・・(*^^)v
さすがマ**チ様!司に絡めとられていくつくしちゃん。
さて、司はどうやってつくしちゃんをモノにしていくのでしょね?(´艸`*)
おおっ!!楽しみ待ってます!!すぎちゃんみたいにお外でもいいですよ?(笑)
マ**チ様に美味しく調理された御曹司(笑)いつもつくしちゃんに逃げられるので可哀想な気もしますが、いいんです。
司は永遠につくしを追いかける運命ですので。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.23 21:45 | 編集
