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2016
08.19

恋人までのディスタンス 12

優紀に連絡をしたつくしは資料片手に淡々と部屋の説明をしていた。
自分の方を何か言いたげに見る男の視線は無視しているが頭の中ではこれから起こる事態を想像していた。優紀が来ればこの男だってこんな態度は取れないはずだ。
高額な物件だがローンを組む事なく買える男は黙ってつくしの説明を聞いている。
実用性を保つことだけが目的ではないこの部屋は細部にわたって細かい意匠が凝らされているがそんなことにはあまり興味がないようだ。庶民には考えられないほどの価格の物件を買おうというなら何か質問があってもいいと思うが何も聞いては来ない。
ここを購入しようとする目的はいったいなんなのか。住むわけではないとしたら投資目的と考えるのが一番なのかもしれない。
つくしにしてみればこの男がこの部屋をどう使おうと関係ないが、聞いてみずにはいられなかった。

「ど、道明寺さんがこちらの部屋をご購入されるのは投資が目的ですか?」
「知りたいのか?」司はにやりとした。
「当ててみろよ?」
「ですから、投資が目的かと」
司は首を振った。「違うな」
「では、こちらにお住まいになるおつもりですか?」
「最初の印象が変わらなければ・・」

司が何か言いかけたとき、つくしの携帯が鳴った。
表示された名前から優紀がマンションに着いたことがわかった。

「ちょっと失礼します。会社から電話がかかってきたようです。すぐ戻りますから御覧になっていて下さい」
つくしは断りを入れると電話に出るため部屋の外へ出た。

「もしもし?優紀?・・・うん。わかった・・すぐ行くから待っててね」

マンションの部屋を案内することおよそ一時間。なかなか電話が鳴らないことに焦っていたがようやく優紀が到着したようだ。今まであの男は優紀からの電話にも出ることなく最後の別れさえまともに取り合おうとはしなかったと聞いている。
優紀のためにも一刻も早く気持ちの整理をつけさせてあげたい。言いたいことがあるなら正面切って言えばいい。半年間鬱鬱とした気持ちを抱えたままでいた親友のためとはいえ、興味のないパーティーにも参加してきた。だがそれもこれからあの男と優紀が対峙することで終わろうとしていた。
つくしはエレベーターに飛び乗ると1階まで急いで下りた。
優紀はエントランスの外で心配そうな顔をしてつくしを待っていた。

「優紀!こっちよ!」
「つ、つくし・・本当に道明寺さんがここにいるの?」
つくしは優紀をエントランスロビーに招き入れた。
「いい、優紀?あの男は部屋の中にいるから、これから行って言いたいことをぶちまけてやればいいわ」

今日を境にきっと優紀はあの男のことを吹っ切れるはずだ。
心優しい親友がもうこれ以上悩むことがないようにしてあげたいと思うのは、つくし自身が今までどれだけ彼女に励まされて来たのかということがあったからだ。
つくしにとっては大切な友人だ。人生の多くの場面で励まし合って来た仲だ。そんな友人のために一肌脱ぐことなど大したことではなかった。
ふたりはエレベーターに乗り込んだ。

「ねえ、優紀?聞くけど、またあの男とのつき合いを続けたいだなんてことは思ってないのよね?」
優紀はつくしの目を見つめると首を振った。
「うんうん。もうないと思うし、今さらまたつき合いたいだなんて考えてない。でもね、どうしても最後にひと言だけ・・きちんとお別れの挨拶をしたいの」

つくしはその言葉を聞いて安心していた。
あんな男が優紀のように心優しい女性と永続的な関係が続けられるとは想像出来ない。あんな男恐らく死ぬまで女の尻を追い回しているはずだ。現によく知りもしない女にいきなりキスしてくるような男だ。

エレベーターが最上階へ着くと、つくしは優紀の顔を見た。
何か覚悟を決めたような表情が見て取れた。
いよいよだ。
優紀はあの男と会って言いたいことをぶちまければいい。
これであたしの今までの苦労も報われるはずだ。

部屋へと続く廊下を歩きながら、つくしは再び優紀の顔を見た。
唇を噛み締め、何かをこらえているのか、それとも久しぶりに会う男に対して言いたいことを考えているのか。どちらにしてもあたしも優紀も今夜で道明寺司とは縁が切れるはずだ。
あの男につき合う必要がなくなると思えばせいせいしていた。

ふたりは部屋の前に立った。
「いい?優紀。この部屋の中にあの男がいるから言いたいことははっきりと言ってやんなさいよ?」
「うん。そうするわ・・つくし・・色々とありがとう」

優紀は扉を開けると部屋の中へと入っていった。
中にはあの男がいるはずだ。これで優紀も気持ちがすっきりするはずだ。
つくしは扉の外で待っていた。さすがに中の話し声が聞こえるはずもなく、静かな空間がそこにあった。いったいどんな話し合いが持たれているのか知らないが、何かあればすぐにでも優紀を助けに飛び込んで行くつもりでいた。

程なくして扉が開くと優紀が不思議そうな顔をして現れた。
話しに大した時間は必要がなかったようだ。だがどこか様子が変だ。
まさかとは思うが何かされたのだろうか?何しろ手が早い男だ。つくしは心配した。

「優紀、どうだったの?言いたいことは言えたの?それとも一発殴ってやったの?」
優紀は扉を閉めるとつくしに向けている怪訝そうな表情を崩さなかった。

「ねえ、ちゃんと言いたいことは言えたんでしょ?優紀、こんな短い時間でいいの?なんならあたしも立ち会ってあげるから・・」
いざとなればと言う気持ちでつくしは言っていた。

「つくし・・」
「なに?」
「違うの・・」
「えっ?」
「だから違うの・・」
意味がわからない。
「だから・・あの人道明寺司じゃないわ」

ますます意味がわからない。道明寺司はあの男に間違いない。あれだけ有名な男を間違えるはずがない。つくしは確信を持って言った。

「なに言ってるのよ!あの男は道明寺司に決まってるじゃない!」
大きく見開かれたつくしの目は優紀の言葉に自分の耳を疑った。
「でも違うの・・別人なの・・」
「ど、どういうこと・・何が別人なの・・?」
「違うのよ・・中にいる人はあたしが知ってる道明寺司とは違う人なの」


つくしは優紀の言葉がすぐに理解出来ないでいた。
道明寺司が別人?
だが優紀がかつての恋人を間違えるはずがない。
それならいったいどういうことなのか。
つくしは混乱した頭を振った。

「ねえ、もっとちゃんと話してくれない?」
もし中にいる男が本当に優紀の恋人だった男と違うなら、本当の恋人はいったいどこにいるというのだろう。その答えは簡単だった。要するに優紀は道明寺司の名前を語った別人に、
道明寺司になりすました男に騙されたということになる。

つくしは頭を抱えた。
いったい今までの苦労はいったいなんだったのか。
なんとかしてあの男に近付こうと努力したのは無意味だったということなのか・・
そのことを確信したとき、部屋の扉が開くと本物の道明寺司が姿を現した。

「俺にもちゃんと説明しろ。いったいこの女は誰だ?」

男の顔に浮かんでいるのは見紛うことのない怒りの表情だった。









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コメント
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dot 2016.08.19 08:20 | 編集
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dot 2016.08.19 11:17 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
優紀ちゃん騙されていたようです。
司の態度は明日のお話で・・^^
過分なお言葉と頂くと照れます(笑)そのお言葉を励みに執筆頑張りたいと思います。
御曹司のエロ坊ちゃん日曜公開出来るよう執筆中です!本当にどんな司でも大丈夫ですか?(笑)
かなりぶっ飛んだ坊ちゃんもいるかもしれませんよ?
なるほど、あの方が好きでこちらの世界へ足を踏み入れてしまったんですね?(笑)
司に思い浮かべる人物はやはりあの方なのですね?と、なるとも相手はつくしちゃんではなく司×**OVE様ということですね!(´艸`*)エロ坊ちゃんのお相手大変ですね!(笑)
いいんですよ!(笑)大丈夫。引いていませんからね?お話を読んで妄想を膨らます・・大切なことですから(笑)
脳に刺激を与えると思ってお読みいただけるとエロ坊ちゃんも喜んでくれると思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.19 22:47 | 編集
co**y様
こんばんんは^^
つくしちゃんどうするんでしょうね(笑)
言い訳出来るでしょうか(≧▽≦)
坊ちゃんお手柔らかにお願いします!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.19 23:24 | 編集
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