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2016
08.11

恋人までのディスタンス 9

牧野つくしの示す歓迎の態度は、後部座席のドアが開かれた瞬間消えていた。

つくしの目の前に立っている男は笑みを浮かべていた。

「牧野つくし。元気そうだな?」
「な、なんであんたがこんなところにいるのよ・・」
「マンションを案内してもらうためだ。おまえにな」

司が前に一歩踏み出すと、つくしは一歩後ろに下がった。
いずれいつかこんな日が来るとはわかっていた。あの日この男を殴った瞬間から、何もなかったでは済まされないことは十分理解していた。

殴ったことに対して訴えられることを覚悟してもいたし、裁判所からでは無いにしろ弁護士から何がしかの連絡があるのではないかと内心びくびくしていた。
それでも優紀との約束から再びこの男に会うことを決めたのだから、今ここで道明寺司に会えたことは手間が省けたのかもしれなかった。
だがこの男の口から聞かされた言葉に耳を疑った。

「マンションを案内・・?」
この男は確かにそう言ったはずだ。
「な、なに・・?」
「おまえの会社にこのマンションを案内するように言ったはずだが?」
「はぁ?」
「はぁじゃねぇよ。おまえは日本語が理解出来ねぇのかよ?」
「だ、だって・・あたしが会うのは田中さん・・」

節度のある会話というのはどう言った会話のことを言うのだろう。
つくしはこの出会いが計画されたものだと理解した。
そこから先のつくしは自分の使命なんて忘れていた。
つくしの使命、それは不動産物件を売る事で客と対立している場合ではないはずだ。

「あ・・あんたまさか・・自分が田中だなんて言うんじゃないでしょうね!」
「名前なんてどうだっていいだろ?そんなことより案内してもらおうじゃねぇか」

司は呆然と立ち尽くしているつくしの横を通り過ぎるとさっさとマンションの入り口へと向かって歩いていた。

「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」
つくしは慌てて後を追った。

「ったく、うるせえ女だな。黙って案内しろ」
「だ、だから、ど、どうしてあんたがここにいるのよ!」
「田中だか山田だか知らねぇけど、頼んだ人間がそう名乗ったんならそれでもいいけどな」
「だ、だからそんなことを言ってるんじゃなくて、なんで・・その・・」

司は立ち止った。
彼は片眉を上げるとつくしが聞きたかったことを言ってのけた。

「なんでここにいるか?おまえに会いに来たに決まってるだろうが。おまえが俺に対して腹になんか隠し持ってるってのは分かるけどな。それがなんだかしんねーけど構わねぇ」

その落ち着いた声の様子から突き放した態度が感じられたがつくしはそんな言葉を無視した。
自分の正体がバレた以上この男がここに現れた理由が知りたかった。

「か、構うとか構わないとか・・なんなのよ・・いったいあたしになんの用があるのよ」
「用があるのはおまえの方だろうが。だからわざわざ来てやったんだ。それにおまえいきなり殴りかかりやがって俺になんか恨みでもあんのか?」
鋭い瞳で睨まれた。

用があるのはおまえの方・・
この男の言うとおりだ。足しげくパーティーに顔を出していたのも、親友のためどうしてもこの男に会う必要があったからだ。そんな相手が自らつくしに会いに来たのだからものは考えようで丁度いいのではないだろうか?

つくしは司の黒い瞳にじっと見つめられて顔を赤らめた。
この男は富と権力とクールな風貌を持つ男だ。それに癪にさわるほどハンサムなのは認めないわけにはいかなかった。
そのハンサムな顔にパンチを浴びせたのは自分で、そのせいで自分の右手が痛むのは自業自得だ。今でもまだ痛みは残っている。

「恨みじゃねぇんだとしたら狙いはなんなのか教えてくれねぇか?」
黙ったままのつくしに業を煮やしたのか司は聞いた。
「あ、あんたはあたしのことを知らないかもしれないけど、あたし達には共通の友人がいるのよ」
「俺とおまえの間に共通の友人?誰だよそいつは。おい、まさか俺が退屈してるからっておまえみてぇな女使って冗談仕掛けてきたわけじゃねぇよな?」

冗談・・?
仕掛ける・・?
この男はいったい何が言いたいのか・・
毎回パーティーに出て気の無い素振りを見せて、それでもどこかで気のある素振りで男を誘うというゲームとでも言いたいのだろうか。
半年かけてそんなゲームをする人間がどこにいるって言うのよ!
それにこの男にそんなゲームを仕掛ける人間がいるってこと?
もしかしてあたしがこの男に退屈してるでしょう、と言った言葉に反応したのはあたしのことを自分が仕掛けられたゲームの駒だとでも思ったわけ?

この男・・自惚れるのもいい加減にしなさいよ・・

「それでこのゲームはいつまで続けるつもりなんだ?それにおまえが俺を落とせなかったらなんかまずいことでもあんのか?」
司はつくしに向かって一歩踏み出した。
「けどな。心配すんな。俺はおまえが気に入ったんだ牧野つくし」
司は面白そうに唇の端をあげた。
「それに俺のビジネスにおける信条ってのはやられたらやり返す。それに自分が欲しいと思ったらそれを必ず手に入れることだ」

司の言葉を聞いて、つくしはどきっとした。
欲しいと思ったら手に入れる?
もちろんあたしのことじゃないわよね?
それに自分を殴った女を欲しいと思う男がいるなんて考えられないし、もしそうだとしたらこの男は頭がおかしいに違いない。
つくしは慎重に言葉を選びながら言った。

「そ、それが今日のことと何が関係あるっていうのよ・・こ、答えになってないし、いったいなんの用があって・・」
「答えか?俺がここにいる理由がそんなに聞きたいのか?」
司はつくしの言葉を遮った。
「そんなに理由が聞きたいのか?」

司がさらに一歩前に足を踏み出したとき、つくしは後ろに下がることはしなかった。
二人の体が近すぎるほど近づいた。つくしはますます自分の顔が赤くなるのを感じていた。

「き、聞きたいわよ。だいたいなんであんたがここに・・」
「じゃあ教えてやるよ」

理由はこれだ、と言った道明寺司は目の前の女牧野つくしを抱きしめると唇を合わせていた。









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コメント
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dot 2016.08.11 16:02 | 編集
さと**ん様
ブチュッ!と司、行きました。
グイグイ攻めていますが大丈夫でしょうか・・
このつくしは強力なパンチの持ち主ですのに・・大丈夫でしょうか?司は一度殴られましたので細心の注意を払って近づいたのかもしれません。捕獲出来るといいのですが・・(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.11 21:18 | 編集
みい様
司、こんな出方です(笑)
二人とも頑張って恋を実らせ欲しいのですが、どうでしょうか?この司は強引なところが感じられます。司、殴られないように気を付けてね(^^)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.11 21:27 | 編集
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