陳腐な言葉でしか声をかけることが出来なかったことが司にしてみれば不本意だった。
「ずっとあたしの顔を見ているようだけど、何かついてますか?」
顔を傾け生意気そうに言う仕草が司の意識を戻していた。
司は女の唇ばかり見つめていたことに気づかされた。
キスしたい衝動をかろうじて抑えていた。それこそ司から女にキスがしたいなんてことを思ったことはなかった。キスなんて所詮挨拶で、味わいたいというものではなかったからだ。
だが今の司は目の前の女の唇を味わいたいと思っていた。退屈ないつものパーティーも楽しいものに変わって来たようだ。
「いや。見てたら悪いか?」
「いいえ。見てるだけなら構わないわ。道明寺さん?」
女はくすりと笑った。
司は自分の名前が呼ばれたことが不思議だとは思わなかった。
このパーティーに来る誰もが知っていて当然の名前だからだ。だから今までなら自分の名前を呼んだ相手のことを知りたいとは思わなかった。だが今は目の前にいる女がいったい誰なのか司はなんとしても正体を突き止めたいと思っている。
道明寺財閥の御曹司という立場は生まれたときからのもので、最近ではその妻の座を巡って水面下で繰り広げられる女達の戦いにはいい加減うんざりしていた。
司が仕事に熱心なのが悪いとは言われないが、いい加減結婚しろと家族にせっつかれているのも確かだ。
「それで・・」
司が言いかけたが女が遮るように言った。
「道明寺さんは今夜のパーティーを楽しんでますか?」
それは司が女に対して言おうと思っていたことそのままだ。
このパーティーが退屈極まりないと知っているはずだが探るような言葉に司は思わず気持ちとは裏腹のことを言っていた。
「ああ。いいパーティーだな。あんたは?」
名前を名乗ろうとはしない女に対して苛立ちがあった。いつもなら聞かなくても名乗る女や男が多い。それに女にいたっては自分の連絡先を押し付けてくるような者もいると言うのに名前を名乗りたがらないとは、この女は何者なのか。
「楽しんでるわ」
女はほほ笑んだ。
そんな二人のやりとりを周りの人間は固唾を呑んで見守っていた。
道明寺司に対して堂々とした態度で臨むこの女はいったいどこの誰なのか。
それもわざわざ司自らが近づいて来た女だ。もしかしたら司と親しい間柄なのかもしれない。招待状がない人間が入れるはずがないのだから、調べればわかるはずだ。あの女性はいったい誰なのかと誰もがあからさまに興味を示していた。
つくしは道明寺司がやっと自分に目を留めてくれたことにほっとしていた。
話しかけられ場慣れした女を演じようとしてみたが、下手に喋ればボロが出るような気がしていた。だから必要以上の会話は避けたかった。
今まで道明寺司が出ると言われるパーティーに参加して来たが、そう簡単に接触できるとは考えてもいなかった。
やはり毎回地味な黒いドレスで宝石など一切身に着けることなく壁際に佇んでいるようではこの男の目に止まるはずはないと思っていた。だが今日は何がこの男の関心を惹いたのだろうか?
他の女性達は皆、きらびやかで豪華な装いで参加しているというのに自分でも喪服の未亡人ではないかと思えるほど地味な装いだった。つくしは男性の関心を引くことがいかに難しいかということを改めて知った。それも道明寺司のような男性には正攻法では近づけないことが分かっていたとは言え、こんなに時間がかかるなんてことは思いもしなかった。
何度か参加したパーティーはいつも途中で抜け出していた。例え最後までいてもとてもではないが大勢の人間に取り囲まれている道明寺司には近づくことは不可能だからだ。
俗に言う上流階級が集まる社交場は、つくしが簡単に入れるようなところではない。
パーティーに参加するにあたってつくしは幼なじみの男性から招待状を譲り受けていた。
彼の家はいわゆる土地成金と言われていた。その金を元手に今では不動産管理会社を営んでいるが、いくつかのビルのオーナーでもあり、その管理業務を主な仕事としていた。
そんな仕事の関係なのかパーティーへの招待状が届くことがあるらしい。だが本人はいたって地味な性格で、未だに一部の人間に成金呼ばわりされるような上流の集まりを嫌っていた。
そのパーティーこそつくしが行きたいと望んでいたものだ。
そんな経緯で譲り受けた招待状だった。
「それで、今夜のパーティーはひとりなのか?」
司は落ち着いて言った。
誰かと来ているかと聞いたとき、いいえ、とだけ答えた女だがもしかしたらこの会場で誰かに会うつもりなのかもしれないと考えていた。例えそれが男だったとしても司には関係はなかった。今まで誰かと女を取り合った経験は一度もない。だが今は誰かとこの女を取り合うことになってもいいと思っている自分がいた。
「ええ。ひとりよ」
おまえは誰だ?と司は言いかけたが止めた。
どうして自分の名前を名乗らない?殆どの人間が司に自分の顔と名前を覚えてもらおうと必死なはずだ。
だが女は相変わらず名前を名乗ろうとはしないし必要以上に話しをしようとはしない。
あたしのことが気になるなら聞いてみたらとでもいう態度。
そんな態度は司の気持ちを煽っているかのようだ。
それはどう考えても女が駆け引きを望んでいるように思えて仕方がなかった。
司は自分に対してのあまりにもそっけない態度に気分を害していたのかもしれない。尊大な自分がいることは十分承知しているが、それを見せるのは一部の人間に対してだけのはずだ。
そんな司に対し、いつも周囲が彼に払う態度はこの女には見られなかった。
面白れぇじゃねぇか。
どこの女か知らないが俺にゲームを仕掛けようとしているように感じられてならない。
それとも何かの罠か?
わざと気の無い素振りを見せることで男の気を惹くという戦法か?
司はあらゆる可能性を考えてみたがどれが正しいとは判断がつかなかった。
だが、どんな手を使って来ようが最後は自分が勝つに決まっているはずだ。
それにたとえ今、この女の名前を知らなくても招待客リストを見ればすぐにわかるはずだ。
つくしは司にじっと見つめられて、居心地が悪くなっていた。
寸分の隙もなく仕立てられたタキシード姿の男性が、堂々とした態度でつくしの目の前に立ち彼女を見つめているのだ。パーティー慣れしてないつくしにしてみれば、司の堂に入った態度に圧倒されそうになっていた。

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だが今の司は目の前の女の唇を味わいたいと思っていた。退屈ないつものパーティーも楽しいものに変わって来たようだ。
「いや。見てたら悪いか?」
「いいえ。見てるだけなら構わないわ。道明寺さん?」
女はくすりと笑った。
司は自分の名前が呼ばれたことが不思議だとは思わなかった。
このパーティーに来る誰もが知っていて当然の名前だからだ。だから今までなら自分の名前を呼んだ相手のことを知りたいとは思わなかった。だが今は目の前にいる女がいったい誰なのか司はなんとしても正体を突き止めたいと思っている。
道明寺財閥の御曹司という立場は生まれたときからのもので、最近ではその妻の座を巡って水面下で繰り広げられる女達の戦いにはいい加減うんざりしていた。
司が仕事に熱心なのが悪いとは言われないが、いい加減結婚しろと家族にせっつかれているのも確かだ。
「それで・・」
司が言いかけたが女が遮るように言った。
「道明寺さんは今夜のパーティーを楽しんでますか?」
それは司が女に対して言おうと思っていたことそのままだ。
このパーティーが退屈極まりないと知っているはずだが探るような言葉に司は思わず気持ちとは裏腹のことを言っていた。
「ああ。いいパーティーだな。あんたは?」
名前を名乗ろうとはしない女に対して苛立ちがあった。いつもなら聞かなくても名乗る女や男が多い。それに女にいたっては自分の連絡先を押し付けてくるような者もいると言うのに名前を名乗りたがらないとは、この女は何者なのか。
「楽しんでるわ」
女はほほ笑んだ。
そんな二人のやりとりを周りの人間は固唾を呑んで見守っていた。
道明寺司に対して堂々とした態度で臨むこの女はいったいどこの誰なのか。
それもわざわざ司自らが近づいて来た女だ。もしかしたら司と親しい間柄なのかもしれない。招待状がない人間が入れるはずがないのだから、調べればわかるはずだ。あの女性はいったい誰なのかと誰もがあからさまに興味を示していた。
つくしは道明寺司がやっと自分に目を留めてくれたことにほっとしていた。
話しかけられ場慣れした女を演じようとしてみたが、下手に喋ればボロが出るような気がしていた。だから必要以上の会話は避けたかった。
今まで道明寺司が出ると言われるパーティーに参加して来たが、そう簡単に接触できるとは考えてもいなかった。
やはり毎回地味な黒いドレスで宝石など一切身に着けることなく壁際に佇んでいるようではこの男の目に止まるはずはないと思っていた。だが今日は何がこの男の関心を惹いたのだろうか?
他の女性達は皆、きらびやかで豪華な装いで参加しているというのに自分でも喪服の未亡人ではないかと思えるほど地味な装いだった。つくしは男性の関心を引くことがいかに難しいかということを改めて知った。それも道明寺司のような男性には正攻法では近づけないことが分かっていたとは言え、こんなに時間がかかるなんてことは思いもしなかった。
何度か参加したパーティーはいつも途中で抜け出していた。例え最後までいてもとてもではないが大勢の人間に取り囲まれている道明寺司には近づくことは不可能だからだ。
俗に言う上流階級が集まる社交場は、つくしが簡単に入れるようなところではない。
パーティーに参加するにあたってつくしは幼なじみの男性から招待状を譲り受けていた。
彼の家はいわゆる土地成金と言われていた。その金を元手に今では不動産管理会社を営んでいるが、いくつかのビルのオーナーでもあり、その管理業務を主な仕事としていた。
そんな仕事の関係なのかパーティーへの招待状が届くことがあるらしい。だが本人はいたって地味な性格で、未だに一部の人間に成金呼ばわりされるような上流の集まりを嫌っていた。
そのパーティーこそつくしが行きたいと望んでいたものだ。
そんな経緯で譲り受けた招待状だった。
「それで、今夜のパーティーはひとりなのか?」
司は落ち着いて言った。
誰かと来ているかと聞いたとき、いいえ、とだけ答えた女だがもしかしたらこの会場で誰かに会うつもりなのかもしれないと考えていた。例えそれが男だったとしても司には関係はなかった。今まで誰かと女を取り合った経験は一度もない。だが今は誰かとこの女を取り合うことになってもいいと思っている自分がいた。
「ええ。ひとりよ」
おまえは誰だ?と司は言いかけたが止めた。
どうして自分の名前を名乗らない?殆どの人間が司に自分の顔と名前を覚えてもらおうと必死なはずだ。
だが女は相変わらず名前を名乗ろうとはしないし必要以上に話しをしようとはしない。
あたしのことが気になるなら聞いてみたらとでもいう態度。
そんな態度は司の気持ちを煽っているかのようだ。
それはどう考えても女が駆け引きを望んでいるように思えて仕方がなかった。
司は自分に対してのあまりにもそっけない態度に気分を害していたのかもしれない。尊大な自分がいることは十分承知しているが、それを見せるのは一部の人間に対してだけのはずだ。
そんな司に対し、いつも周囲が彼に払う態度はこの女には見られなかった。
面白れぇじゃねぇか。
どこの女か知らないが俺にゲームを仕掛けようとしているように感じられてならない。
それとも何かの罠か?
わざと気の無い素振りを見せることで男の気を惹くという戦法か?
司はあらゆる可能性を考えてみたがどれが正しいとは判断がつかなかった。
だが、どんな手を使って来ようが最後は自分が勝つに決まっているはずだ。
それにたとえ今、この女の名前を知らなくても招待客リストを見ればすぐにわかるはずだ。
つくしは司にじっと見つめられて、居心地が悪くなっていた。
寸分の隙もなく仕立てられたタキシード姿の男性が、堂々とした態度でつくしの目の前に立ち彼女を見つめているのだ。パーティー慣れしてないつくしにしてみれば、司の堂に入った態度に圧倒されそうになっていた。

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コメント
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さと**ん様
つくしが司に近付く理由はほんの少し先のお話になりそうです。
えー。つくしをストーカーに仕立てるとエロ曹司ネタになってしまいます(笑)
え?別バージョンご希望ですか?その時はまたこっそりお知らせ下さい(笑)
今回のつくしちゃんはどんなつくしちゃんでしょうか。
お話はゆっくりと進みそうです。(恐らくですが・・)
つくしちゃん、実は慣れないパーティー参加で滅茶苦茶緊張してたんです。
さて、司の出方は如何に!!
土地成金は・・そうですねぇ。イメージ的に和也君です。
コメント有難うございました^^
つくしが司に近付く理由はほんの少し先のお話になりそうです。
えー。つくしをストーカーに仕立てるとエロ曹司ネタになってしまいます(笑)
え?別バージョンご希望ですか?その時はまたこっそりお知らせ下さい(笑)
今回のつくしちゃんはどんなつくしちゃんでしょうか。
お話はゆっくりと進みそうです。(恐らくですが・・)
つくしちゃん、実は慣れないパーティー参加で滅茶苦茶緊張してたんです。
さて、司の出方は如何に!!
土地成金は・・そうですねぇ。イメージ的に和也君です。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.04 22:00 | 編集

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マ**チ様
少しミステリーな展開ですか?でもすぐに謎は解ける・・・?(笑)
大人の男女です。色々とあるかもしれません(笑)
もうっ!!読みましたよ!感想はあちらで申し上げます。が、お腹がイタイ(≧▽≦)
いつもながら笑えました!
オリンピック目前ですね!なんとかマ**チ様のご要望に沿えるお話が書きたい・・
日曜の御曹司はどうなるか・・まだわかりません!が、頑張ります(ノД`)・゜・。
コメント有難うございました^^
少しミステリーな展開ですか?でもすぐに謎は解ける・・・?(笑)
大人の男女です。色々とあるかもしれません(笑)
もうっ!!読みましたよ!感想はあちらで申し上げます。が、お腹がイタイ(≧▽≦)
いつもながら笑えました!
オリンピック目前ですね!なんとかマ**チ様のご要望に沿えるお話が書きたい・・
日曜の御曹司はどうなるか・・まだわかりません!が、頑張ります(ノД`)・゜・。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.05 21:30 | 編集
