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2016
08.03

恋人までのディスタンス 2

司は手にしていた二杯目のグラスを飲み干し、今夜はもう引き上げようかと周囲に視線を巡らせた瞬間、会場に入って来た女に目が止まった。飲み干したばかりのグラスを持つ手に力が入っていた。

あの女だ。

半年前から司の脳裏をちらつく女。
謎の女はやはりいつもと同じ黒いドレスを身に纏っていた。そしていつものことだが宝石類は全く身にはつけていなかった。いたってシンプルな装いはかえって目立つものだということをあの女は知っているのだろうか?
どうしてもあの女と近づきになりたい。
だが、ひとつ疑問があった。
どうやら今夜もひとりらしいが、誰でもが簡単に入れるはずのないパーティーにこうして足を運ぶことが出来ると言うことは、誰かの知り合いだということは間違いがないはずだ。
いったい誰の知り合いなのか・・それを確かめたいと思った。

司は女から目が離せなかった。瞳は大きく、視線はまっすぐにどこかを見つめていた。
そうだ、まるで誰かを探しているようだ。
司は手にしていたグラスを近くの男に押し付けると、彼はあっという間に女に手が届く範囲のところまで来ていた。

まるで10代の高校生が好きな女の前での振る舞いのようにだけはなりたくはなかったが、声をかけずにはいられなかった。それにしても司が自ら女に声をかけたことは初めてだ。

「失礼」
司は声かけると女を見据えた。

「どこかでお会いしましたか?」
安いセリフが口をついた。

当然だが司は有名人だ。このパーティーに来るというならまかり間違っても彼が誰だか知らないはずがない。彼が声をかければ何がしかの反応があると思っていたが驚きもしなければ、悦びもしなかった。まるで司のことなど眼中に無いかのような反応。
それに女の瞳は臆することなく司を見返して来た。一点の曇りのも無い瞳というのは、こういう瞳を言うのではないだろうか。大きな黒い瞳は力強かった。
司は相手の出方はこの際どうでもいいとして、女の瞳と唇を交互に見ていた。

それに誘っていい相手なのか、そうでない相手なのか。司は女の手を見た。
左手に指輪はなかった。勿論どの指にも指輪はなかった。だが、この女はいつも黒いドレスを着ているがまさか未亡人ということはあるまいかと訝った。いや、未亡人が足しげくパーティーなんかに顔を出すか?それともやはり後家さんは女郎蜘蛛ごとく男を探しているのか?
男から男へと渡り歩いて金を吸い上げて行くとでもいうのか?
エスコートなしでこの場に来る意味はいったい何なのか?

「いいえ。お会いしたことはないと思います」

決して冷たい口調ではなかったが、だからと言って興味があると言うほどでもなかった。

「そうか・・どっかで会ったことがあるような気がしてるんだが、気のせいか?」

「ええ。お会いしたことはないと思います」

司は女遊びが好きなわけではない。
ごく普通の男性としてごく普通の欲望を持っているに過ぎない。
だが感じていた。この女は気のない素振りをしてはいるが、司の事を意識していることには間違いがないはずだ。
司は目の前の女が他の女とどこが違うのかということを確かめなくてはという声が胸の奥深くに響いているのを感じていた。
近寄ってみれば、背は司の肩に届くか届かないか程しかない。それも踵の高い靴を履いてやっとというところだろうか。

「今までも何度か見かけたことがあるんだが、いつもひとりだったような気がするが?」
「そうですね?」
「誰かと来てるのか?」
「いいえ?」

司より25センチほど低い女の黒い瞳が楽しそうに輝いて見えた。思わず腕の中に抱き寄せたくなったがそんなことをすれば騒ぎになることは明らかだ。

司はこの女を連れてパーティー会場から抜け出したいと思った。今までこんなふうに感じたことはなく、選ぶ基準は常に自分と同じような感覚を持っている女を選んでいた。
自分に似たタイプの女だ。ロマンチックな空想にふけることがない女。つまりつき合ってはいても結婚は望まず体の関係だけで満足するような女だ。それなのに何故か司の頭の中には今までとは全く逆の思いが渦巻いていた。
決して衝動的に行動するわけではないのに、体が勝手に動いてここまで来ていた。
リスクがあるとしても、司はどうしてもこの女が欲しかった。特段体が欲しいというわけではなく、何か別の次元で言葉に出来ない何かを感じていた。

言葉に出来ない魅力とは。
だが理由を自問したところでまったくわからなかった。

恋のかけ引きが始まる時はこんなふうに始まるのではないかとふと思った。
今までの司にとってかけ引きを必要としたような女はいなかった。だがどうやら目の前にいる女は違うようだ。

勝負に負けた事はなかったし、ビジネスのかけ引きなら幾らでも経験があった。
だが他人の関心を引くようなことは望んではいない。関心など向けて欲しくはなかったが司の周りにいる人間は誰もが彼のすることを気にしていた。それは彼を怒らせたくないからなのかそれともまた別の理由だからなのか。
どちらにしても今一番関心を寄せて欲しいのは、司の目の前で彼にさして関心もなさそうに佇んでいる女だった。








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コメント
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dot 2016.08.03 09:05 | 編集
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dot 2016.08.03 09:11 | 編集
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dot 2016.08.03 09:28 | 編集
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dot 2016.08.03 18:48 | 編集
co**y様
二人の今後の展開はですねぇ・・言えません(笑)
初対面ですからお決まりのセリフです。
坊ちゃんのありきたりのセリフも最初だけかもしれません。
坊ちゃんとつくしちゃんの攻防戦となるか・・。勝のはどちらでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.03 22:15 | 編集
司×**OVE様
おはようございます^^
新連載始めましたのでまたお楽しみ頂けるといいのですが。
よろしくお願いいたしますm(__)m
本当ですね!自分で書いておいて似てることに気づかなかったです。
と、いうかやはり書いてる人間が同じだとパターン化して来るのかもしれません(笑)
つくしちゃん、謎の女ですね。ですが司は気になるようですね。
早朝5時更新の拙宅ではございますが、管理上アカシアが都合のよい時間というだけで深い意味はございませんので
ゆっくりと起きてからお読み下さい(笑)ゆるくお読み頂いて大丈夫ですから(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.08.03 22:31 | 編集
サ*ラ様
新連載始めました^^
まだまだ謎だらけのつくしちゃんです。
どんな事情でパーティーに?気になりますよね。司くんも気にしてるご様子です。
今回も大人の二人の恋となっております。いい恋が書けるといいのですが(笑)
金持ちの御曹司は週末に・・と思っております。Collector・・はは。何故か筆が止まっておりますね。申し訳ないです。
御曹司坊ちゃん!今頃なにしてるんでしょうね・・・と考えています。単なるおバカにならないように語らせているのですがどうもアッチ方面に考えが偏るようですね(笑)エロ坊ちゃん真面目に仕事して下さい!
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2016.08.03 22:43 | 編集
さと**ん様
つくしの手を見て誘ってもいいか女かどうか判断する司。
どこでそんなことを学習したのでしょうね?
女性は気になる男性に出会うと指輪で判断することも多いかと思いますが、司も指輪を確認したようです。
まあ指輪を嵌めてない男性も多いですが・・
パーティーに来ている理由。沢山料理が食べれるからかもしれませんね(笑)
欲しいと思った女には一直線のようです。だからと言ってすぐに食べれるわけではないでしょう・・
大人司の腕の見せ所でしょうか・・(笑)つかさ、頑張ってつくしを手に入れて下さい!
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2016.08.03 22:54 | 編集
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