道明寺司は大勢の取り巻きに囲まれて歩くことがあたり前なのだろう。
34歳の彼は自分こそがここの主だと言わんばかりの態度でロビーを歩いている。
確かに彼がここの主であるということはまぎれもない事実だ。
何しろ道明寺ホールディングス日本支社長なのだから。
抜きんでて背が高い男が中央に、その周りにはいかにもというような屈強な男達が取り囲んでいた。癖のある黒髪とクールな風貌に切れ長の三白眼。スーツにしても、左手首に光る金の時計にしてもすべてが桁外れに違いないはずだ。
あのクールな顔がほほ笑むことがあるのだろうか?
壁際に下がった女性社員はそんなことを考えていたが、一団がビルの外へと出て行くのを見届けると手にしていた封筒に目を落とし、はっとしたように慌てて駆け出していた。
司はいつもの退屈なパーティーで欠伸を噛み殺していた。
いつも同じような顔ぶれに、同じような会話。
そしていつも変わらないのは、彼の周りに集まって来る女たち。
高価な装いなのは見てわかるが、恐らくもう二度と袖を通すことなどないはずだ。
いかにして自分を司に印象付けようとしているのかが見え見えだ。
面倒だと思いながらも付き合いだから仕方がないと顔を出してはいたが、興味をそそられるような印象的な人物に出会うことは無かった。
ここに来ればあの女に会えると思っていたが・・どうやら今夜はいないようだ。
普段、彼の頭の中は仕事のことでいっぱいだ。
それなのに・・
くそっ!
なんでこの俺がこんな思いをしなきゃなんねぇんだよ!
司はこの半年ほど、パーティーである女を見かけていた。
特段美人だとは思わないが何故かその女から目が離せなかった。
そうだ。その女の方を見ないではいられなかった。黒い髪をうなじのところでまとめ、象牙色の肌はいつも黒いドレスに包まれていた。胸は小ぶりだが形は良さそうだと思っていた。
女はいつもひとりで壁際に立っていた。パーティーならパートナー同伴が普通だが
女の傍にそれらしい人物は見当たらず、気づけばいつの間にかいなくなっていた。女は決して司の方を見ようとせず、近寄りもしなかった。この会場にいる若い女は司目当てで来ていると言うのにまるで彼になど興味がないと言わんばかりの態度だ。
その態度になぜだか挑戦し甲斐を感じ血が沸いた。
美しい女なら大勢見てきた。そのほとんどが司に言い寄ってきていた。そんな女たちを適当にあしらってきたが、最近では相手にすることが鬱陶しく感じられていた。
あの女のせいだ。
謎の女・・司は心の中でそう呼んでいた。
調べれば簡単にわかると思ったが、意外というのか誰もあの女のことを知らなかった。
パーティーだと言うのにまさに壁の花と化していた女。何人かの男が声をかけてはいたが、相手にはしていなかった。そしていつも気づけばいなくなっていた。
だが、決して幻ではないはずだ。あの女は確かにそこにいた。
司に恋人がいたのは随分と前で、ここ最近は仕事のことばかりで正直女のことはどうでもよかった。だがあの女を見つけた時から司の体は急に熱を持ったように熱く感じられていた。
あの女はいったい何者なんだ?
司は手にしていたグラスを煽った。
司は女に声をかけることはない。責任が伴うような関係は極力避けるようにしていたからだ。
だがもしこの次にあの女が現れたら必ず掴まえて何者なのか問いただしてやるつもりだ。
そんな考えが浮かぶこと自体が司にとっては意外なことだったはずだ。女に対して感情むき出しになることなど今までなかったはずだが、あの女が来るかもしれないと思うからこそ、こうしてどうでもいいパーティーに参加している自分が滑稽だと思っていた。
ただ寝るだけの女が欲しいなら、手を伸ばせば彼の周りには幾らでもいるが、あの女は果たしてどうなのか?
司の今までの好みとは違い正統派美人とは言い難い女だが、なぜかあの女が気になって仕方がなかった。
ロマンチックな考えなどこの年になればなくなるのが当然だと思うが、それでも何故かあの女に対しては空想めいたことを考えてしまうのはどうしてなのかと訝っていた。

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34歳の彼は自分こそがここの主だと言わんばかりの態度でロビーを歩いている。
確かに彼がここの主であるということはまぎれもない事実だ。
何しろ道明寺ホールディングス日本支社長なのだから。
抜きんでて背が高い男が中央に、その周りにはいかにもというような屈強な男達が取り囲んでいた。癖のある黒髪とクールな風貌に切れ長の三白眼。スーツにしても、左手首に光る金の時計にしてもすべてが桁外れに違いないはずだ。
あのクールな顔がほほ笑むことがあるのだろうか?
壁際に下がった女性社員はそんなことを考えていたが、一団がビルの外へと出て行くのを見届けると手にしていた封筒に目を落とし、はっとしたように慌てて駆け出していた。
司はいつもの退屈なパーティーで欠伸を噛み殺していた。
いつも同じような顔ぶれに、同じような会話。
そしていつも変わらないのは、彼の周りに集まって来る女たち。
高価な装いなのは見てわかるが、恐らくもう二度と袖を通すことなどないはずだ。
いかにして自分を司に印象付けようとしているのかが見え見えだ。
面倒だと思いながらも付き合いだから仕方がないと顔を出してはいたが、興味をそそられるような印象的な人物に出会うことは無かった。
ここに来ればあの女に会えると思っていたが・・どうやら今夜はいないようだ。
普段、彼の頭の中は仕事のことでいっぱいだ。
それなのに・・
くそっ!
なんでこの俺がこんな思いをしなきゃなんねぇんだよ!
司はこの半年ほど、パーティーである女を見かけていた。
特段美人だとは思わないが何故かその女から目が離せなかった。
そうだ。その女の方を見ないではいられなかった。黒い髪をうなじのところでまとめ、象牙色の肌はいつも黒いドレスに包まれていた。胸は小ぶりだが形は良さそうだと思っていた。
女はいつもひとりで壁際に立っていた。パーティーならパートナー同伴が普通だが
女の傍にそれらしい人物は見当たらず、気づけばいつの間にかいなくなっていた。女は決して司の方を見ようとせず、近寄りもしなかった。この会場にいる若い女は司目当てで来ていると言うのにまるで彼になど興味がないと言わんばかりの態度だ。
その態度になぜだか挑戦し甲斐を感じ血が沸いた。
美しい女なら大勢見てきた。そのほとんどが司に言い寄ってきていた。そんな女たちを適当にあしらってきたが、最近では相手にすることが鬱陶しく感じられていた。
あの女のせいだ。
謎の女・・司は心の中でそう呼んでいた。
調べれば簡単にわかると思ったが、意外というのか誰もあの女のことを知らなかった。
パーティーだと言うのにまさに壁の花と化していた女。何人かの男が声をかけてはいたが、相手にはしていなかった。そしていつも気づけばいなくなっていた。
だが、決して幻ではないはずだ。あの女は確かにそこにいた。
司に恋人がいたのは随分と前で、ここ最近は仕事のことばかりで正直女のことはどうでもよかった。だがあの女を見つけた時から司の体は急に熱を持ったように熱く感じられていた。
あの女はいったい何者なんだ?
司は手にしていたグラスを煽った。
司は女に声をかけることはない。責任が伴うような関係は極力避けるようにしていたからだ。
だがもしこの次にあの女が現れたら必ず掴まえて何者なのか問いただしてやるつもりだ。
そんな考えが浮かぶこと自体が司にとっては意外なことだったはずだ。女に対して感情むき出しになることなど今までなかったはずだが、あの女が来るかもしれないと思うからこそ、こうしてどうでもいいパーティーに参加している自分が滑稽だと思っていた。
ただ寝るだけの女が欲しいなら、手を伸ばせば彼の周りには幾らでもいるが、あの女は果たしてどうなのか?
司の今までの好みとは違い正統派美人とは言い難い女だが、なぜかあの女が気になって仕方がなかった。
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ま**ん様
新連載スタートしました^^
今回の二人はどんな関係なのかですね?
大人の二人の恋物語になることだけは確実です。
夏バテ・・本当にもうすでにそのような兆候が見え隠れしています。
私の場合水分不足で頭痛になることがあります。
だからと言って一度に大量には飲めず。なのですが、飲めば自ずとお手洗いが近くなって困ります(笑)
暑さはこれからが本番ではないかと思われます。
ま**ん様もお体にはご自愛なさって下さいませ。
コメント有難うございました^^
新連載スタートしました^^
今回の二人はどんな関係なのかですね?
大人の二人の恋物語になることだけは確実です。
夏バテ・・本当にもうすでにそのような兆候が見え隠れしています。
私の場合水分不足で頭痛になることがあります。
だからと言って一度に大量には飲めず。なのですが、飲めば自ずとお手洗いが近くなって困ります(笑)
暑さはこれからが本番ではないかと思われます。
ま**ん様もお体にはご自愛なさって下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.02 23:40 | 編集

chi***himu様
お仕事お疲れ様です。しかし毎日暑いですね?
いえいえ何をおっしゃいますか。ご遠慮なくどんどん書いて下さいませ。
はい。また大人の恋の物語でございます。
「恋の予感~」再び読んで下さったんですね?
そうなんですよ、ミトコンドリアは母からのみ遺伝ですので、chi***himu様のミトコンドリアは残念ながらお孫さんには伝わりません。残念!そうですね、お嫁さんのミトコンドリアに期待しましょう!(笑)え?何を期待するのでしょう・・?(笑)
更新ゆる~りとなる時があるかもしれませんがおつき合い頂けると幸いです。
母さま、色々とお忙しい毎日だとは思いますが、頑張りましょう!
コメント有難うございました^^
お仕事お疲れ様です。しかし毎日暑いですね?
いえいえ何をおっしゃいますか。ご遠慮なくどんどん書いて下さいませ。
はい。また大人の恋の物語でございます。
「恋の予感~」再び読んで下さったんですね?
そうなんですよ、ミトコンドリアは母からのみ遺伝ですので、chi***himu様のミトコンドリアは残念ながらお孫さんには伝わりません。残念!そうですね、お嫁さんのミトコンドリアに期待しましょう!(笑)え?何を期待するのでしょう・・?(笑)
更新ゆる~りとなる時があるかもしれませんがおつき合い頂けると幸いです。
母さま、色々とお忙しい毎日だとは思いますが、頑張りましょう!
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.02 23:54 | 編集

LOV**こし様
こちらの司くんはある女性に興味を抱いているようです。
大人の二人の恋物語です。
さて司くん、いい大人ですから頑張って恋も成就させて頂きたいと思っています。相手は手強いか?それとも・・?
拍手コメント有難うございました^^
こちらの司くんはある女性に興味を抱いているようです。
大人の二人の恋物語です。
さて司くん、いい大人ですから頑張って恋も成就させて頂きたいと思っています。相手は手強いか?それとも・・?
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.03 00:02 | 編集

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co**y様
おはようございます^^
新連載はじめました(笑)「情景」書いて少し脱力してますが、なんとかスタートしました。
34歳坊ちゃん、このお話ではどんなことが起こるのでしょうね。←こらっ!自分に喝です(笑)
謎の女・・ええ。もちろん・・彼女です。
掴みはOK?(笑)でも後がねぇ・・
展開はほどほどにお楽しみ下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
新連載はじめました(笑)「情景」書いて少し脱力してますが、なんとかスタートしました。
34歳坊ちゃん、このお話ではどんなことが起こるのでしょうね。←こらっ!自分に喝です(笑)
謎の女・・ええ。もちろん・・彼女です。
掴みはOK?(笑)でも後がねぇ・・
展開はほどほどにお楽しみ下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.03 00:11 | 編集

さと**ん様
新連載はじめました。またお楽しみ頂けるといいのですが(*^^)
会談ではございませんのでご安心下さい。
「いつの間にか消えていた」・・季節柄怖いですよね。ですので直しました。「いなくなっていた」え?それでも怖いですか?
つくしちゃん、もちろん生きてます!!「情景」では危なかったのですが生きております。
毎回ですが大人の恋物語です。素敵な恋が書けるといいのですが・・(笑)
コメント有難うございました^^
新連載はじめました。またお楽しみ頂けるといいのですが(*^^)
会談ではございませんのでご安心下さい。
「いつの間にか消えていた」・・季節柄怖いですよね。ですので直しました。「いなくなっていた」え?それでも怖いですか?
つくしちゃん、もちろん生きてます!!「情景」では危なかったのですが生きております。
毎回ですが大人の恋物語です。素敵な恋が書けるといいのですが・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.03 00:25 | 編集

マ**チ様
新連載、謎の女です。勿論主役はあの方です。
司、見る所は見てる(笑)うちの坊ちゃんいつもそうですよね?男ってそうなんでしょうね?(笑)
今回も大人の二人の設定ですので、色々とありそうです。
御曹司がリンクしたら是非お願いします(≧▽≦)
夜更かし同盟ですからお気になさらずに(笑)
しかし本当に暑いですねぇ。マ**チ様もお体ご自愛下さい。本当に体は自分でしか分からないですよね・・
私たちの世代はこれからは無理は禁物ですね・・(笑)最近腰痛が酷いです!(笑)←笑い事ではありませんね(^^ゞ
コメント有難うございました^^
新連載、謎の女です。勿論主役はあの方です。
司、見る所は見てる(笑)うちの坊ちゃんいつもそうですよね?男ってそうなんでしょうね?(笑)
今回も大人の二人の設定ですので、色々とありそうです。
御曹司がリンクしたら是非お願いします(≧▽≦)
夜更かし同盟ですからお気になさらずに(笑)
しかし本当に暑いですねぇ。マ**チ様もお体ご自愛下さい。本当に体は自分でしか分からないですよね・・
私たちの世代はこれからは無理は禁物ですね・・(笑)最近腰痛が酷いです!(笑)←笑い事ではありませんね(^^ゞ
コメント有難うございました^^
アカシア
2016.08.03 00:32 | 編集
