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2015
09.04

キスミーエンジェル5

俺は煙草に手を伸ばしかけてやめる。
牧野と話しをしたいと思い、あいつの会社まで出向いたはいいが話しにはならなかった。

数多くの企業買収を手掛けてきて、敵意に満ちた目で見られるのは慣れている。
そんなことは気にもしていないし、取るに足らないことだ。
だが牧野からあんな風に睨まれるとは思わなかった。

俺は牧野との関係を修復したい。
あの頃の俺とお前の幼かった淡い恋心をまた取り戻したい。
俺の内面で牧野への想いが大きくなってきているのを感じる。

そして一番厄介なのは夢だ。
あいつの出てくる夢を見る。
高校生の牧野と今の牧野が出て来て俺に笑いかけてくる。
今までは夢を見ることなど殆ど無かった。
帰国してきてからの俺の夢には必ずと言ってもいいほどに牧野が出て来ては俺に微笑みかけてくる。


重症だな。


道明寺はデスクから離れると執務室を後にする。
秘書の男が顔を上げてこちらを見たが何も言うことはなかった。


どこへ行くとあてもなく役員室が並ぶ長い廊下を歩いてエレベーターの前まで来た。
いったい俺は何をしているんだ。
俺は動揺しているのか?

牧野をこの腕の中に抱き寄せた時の感触は今もこの手に残っている。
だめだ、牧野のことを考えるだけで興奮してしまう。
俺は知らないうちに汗をかいた手のひらを握りしめていた。




******




つくしは開いていたファイルを閉じた。
都内某所でのマンション建設用地に関する報告書をまとめている。
ここは湾岸エリアに近い為どうしても地盤が軟弱だ。
ある程度の地盤改良が必要となるだろう。

仕事のことを考えつつもあの男の言葉が頭の中を巡る。

 『 俺は今でもお前のことが好きだ 』

そう言っていた。
その言葉が嘘か真か確かめることは出来る。



つくしは閉じたファイルをキャビネットの中へと収め席をたった。
ひとり休憩室の自動販売機の前まで来るとお気に入りのコーヒーのボタンを押し
低い位置にある取り出し口からカップを取り出す。
屈んだ拍子に首の後ろに痛みが走りその場所を片手でさすりながら背を伸ばした。
仕事のし過ぎなのかな?

何気に窓の外の風景へと目を向けた。
そこにはきれいに晴れ渡った午後の青空が広がっている。
遠くに白い雲が浮かび、飛行機雲も見える。
飛行機か・・・・
まさか道明寺とあんな場所で会うことになるとは思わなかったな・・・・

私の肩をつかんだ道明寺の手の感触がまだ残っている。

仕事上のことなら割り切ればいい。
それにあいつの会社がうちを買収したからと言ってもそれも仕事だと割り切ればいい。
何を企んでいるのかは知らないけど私は自分の仕事を完璧にこなせばいい。
あの時は感情的になってしまったけれど、今なら落ち着いて話も出来るはずだ。

私は自由になりたい。あの時の想いから・・・・

つくしは飲み終えたコーヒーのカップを捨てると休憩室を後にした。




******




会議は午後2時に始まった。
道明寺ホールディングス日本支社での会議に島田コンサルタントから派遣されたのは牧野だ。
道明寺エステートが開発するマンションの建設を請け負った会社が地質調査を依頼していたのが島田だった。
俺はそれを知ってこの会議に無理矢理参加をすることにした。
この際、スケジュールが多少狂おうと関係ない。
牧野が自らうちのビルに足を踏み入れるなんてことは今後もあるかどうか分からないからな。
入念な計画を練っていた牧野つくし捕獲作戦は作戦変更だ。

何がなんでも牧野つくしを・・・捕まえてみせる。

なぜ不動産部門の会議に支社長である俺が自ら参加しているのか不思議に思うだろう。
そこは帰国間もない俺が各部門の視察も兼ねてと言う意味合いを含めてある。
上席についた俺は会議テーブルに並ぶ人間の顔を確認した。
居並ぶ人間は皆こちらに注目をしている。
が、牧野だけは俺の方をろくに見ようともしない。
今日の牧野は濃紺のスーツだった。
上品で落ち着いた雰囲気が感じられ、髪は後ろできっちりと束ねられている。


いいか、くれぐれも焦りは禁物だ。
今まで2度も失敗しているからな。

不動産部門の担当者が会議の開始を宣言している。
俺は鷹揚に頷いてみせた。




道明寺が自らこの会議に参加する意味は無いはずだ。
この男は昔から何をやらかすか分かったものじゃない。
いい歳をして何を考えているのか・・・
私は発言者の意見に耳を傾けながらそんな事を思っていた。




******




「島田コンサルタントの牧野さん、お話を伺いたいので少し残って頂けますか?」

そう言いながら私に話し掛けてきた道明寺に対し私も丁寧に答える。
「はい、どのようなお話でしょうか?」

ここはあくまでもビジネスライクに接してみせるわ。
既に数名が席をたち会議室を後にしはじめている。

支社長が自ら声をかけた人間に対して回りの人間は訝しげな視線を送ってくるが
二人を直視する人間などいるはずがない。
会議室は先ほどまで意見が交わされていた熱を急速に失ってきたように感じられる。
既に立ち上がっていた私はそのままの姿勢で道明寺がこちらへと近づいてくる様子を見ていた。
他の社員の前で残って欲しいと言われた手前、大人しく話を聞くしかない。
後ろでドアの閉まる音が大きく響いた。

「牧野、なぜ俺から逃げようとする?」

二人きりになった会議室で道明寺はつくしに詰め寄ってくる。
彼から漂ってくる懐かしい香りに気持ちを乱されそうになった。

「べ、別に逃げてなんていませんが?」
「じゃあなぜ俺の話を聞こうとしないんだ?」

つくしは思考をまとめようとしていたが、こんなに至近距離では無理だった。

「な、何を聞けと?」

道明寺はつくしを見下ろしている。
彼と距離をおかなくては・・。
そう思った途端、左腕を掴まれて引き寄せられた。

「俺の気持ちはもう伝えたよな?俺はお前の事が好きだ、今でも」









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