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2016
07.25

大人の恋には嘘がある~番外編~

女性との真剣なつき合いを、女性と恋に落ちることを避けてきたという男は、愛する女性と結婚してからは家を空けることを極端に嫌がるようになっていた。
出張するのは仕方がないとしても、極力自宅に帰って愛妻の作った食事を食べたがる。
今では世間の誰もが認める存在となった道明寺夫妻。
二人の相性は完璧で、まるで二枚貝の片割れがもう片方を探し求めていたかのようにピッタリだ。
そんな夫妻の夫に付き従う男は常に冷静だ。

「奥様は逃げも隠れもいたしませんから、いい加減仕事に集中して下さい。お子様はまだお生まれになりません。そのように頻繁にご自宅へお電話されても奥様がご迷惑です。それにそんなに追いかけ回されては奥様が嫌がると思います」

司の顎がぴくりと動いた。

西田の言葉はまさに図星だったのだろう。
どこへ行くにも、何をするにもつくしと一緒がいいとばかりに世話を妬く夫は心配性だった。
まさかという思いだが、結婚するまでの道明寺司と言えば、結婚には一切興味を持たず、女性との付き合いも後腐れなく済ませるような男で、司が第一に考えていることは仕事を成し遂げることだったはずだ。彼の黒い瞳は鋭く、相手の考えなどお見通しだと言わんばかりの態度でライバル会社を蹴落として来た男だ。


それがだ。


「この部屋には愛が感じられない」

西田はその言葉に上司にあたる司を凝視してしまった。
司は黒いピンストライプのスーツに身を包み執務デスクへと斜めに体を預けている。
胸の前で腕を組み、何が気に入らないのかむっとしていた。

「職場に愛が必要なのでしょうか?」
「西田。おまえはわかってない」

いったい何がわかっていないのか。
長年仕えて来たとはいえ、結婚してからの上司の変貌ぶりには驚くほどだ。

「支社長、いえ司さま。いくらゴネても今日の会食には必ずご出席下さい。これまでも何度となくすっぽかされているのですから今夜は必ずご出席をいただきませんと。それに愛が感じられないとおっしゃいますが、パソコンの壁紙は奥様でいらっしゃいますよね」

司のデスクに置かれたノートパソコンの壁紙は愛する妻の画像が設定されていた。

「わりぃかよ?」司は西田を睨みつけた。

「別に悪いとは思いませんが画面を見ながらにやつくのは止めて頂きたい。いいですか?それにメールでの愛の語らいは止めていただきませんと業務に差しさわります」

「な、なんでおまえがそんなこと知ってんだよ!」

「お傍で見ていれば分かります。会議中に画面を見ながらにやつくのは止めて頂きませんと社員が変に思います」

「べ、別に社員に迷惑かけてるわけじゃねーんだからいいじゃねえかよ」

「それに迷惑なのは奥様だと思います。四六時中ところ構わずなのですからお可哀想です」






***






今夜は会食で遅くなると聞いていたつくしは、バスルームの中でシャワーを浴びていた。
司は自分の行動の全てをつくしに伝えてこようとする。
それは結婚する前におまえには嘘をつかないと言ったこととどうやら関係があるようだった。自分の所在をきちんと明かしておくことでつくしに対してなんらやましいことなんて無いと言いたかったのかもしれない。



司はバスルームの外に立つと中の様子を窺っていた。

つくしに見つかんねぇようにしねえぇと・・

会食をさっさと済ませた司はペントハウスへと戻っていた。
司はつくしに気づかれることなく見ていたかったが同時に心配もしていた。
ひとりでシャワーを浴びるなんてことして、濡れた床で滑って転んじまったらどうするんだよ・・
勝手なことしやがって。
とは言っても手を出すとあいつ怒るからな・・

そっと扉を押し入ればつくしはシャワーブースの中にいた。
透明なガラスの中、胸に湯を浴びている様子が丸見えだ。
子どもを宿してからのつくしの胸は以前に比べて大きくなっていた。
あの胸も今は俺だけのモノだが、チビが生まれたらそいつのモノになっちまうってのが残念で仕方ねぇ・・やっぱり両方ともガキのモンになるのか?

クソッ!

司はバスルームのドアにもたれ腕組みをすると、つくしがひとりで体を洗っているところを見るしかなかった。
シャワーの熱でピンク色に染まった肌、そこを流れ落ちる泡・・
あの泡になってつくしの体を包み込みてぇ・・

中に入って一緒にシャワーを浴びたい。
いや、浴びるだけじゃダメだ。
濡れた体のあちこちを洗ってやりてぇ。
特に脚のあいだとか今のあいつの体じゃ洗える状態じゃねぇよな?

司は着ていたスーツを脱ぎ捨てるとシャワーブースの扉を開けた。
触りたくて仕方がない女が目の前にいると思ったら、いてもたってもいられなくなった司は妻の背後に手を伸ばそうとした。
つくしは司に気づくと驚いて悲鳴をあげた。

「つ、つかさ?な、なによ?急にびっくりするじゃない!」
「わりぃ。別に驚かすつもりはなかったんだけどな」
「い、いつ帰ったの?」
「ああ?ついさっきだ」

嘘だ。もう随分と前に帰って妻がシャワーを浴びている様子を見ていた。

「おまえの体、洗ってやるよ」

壁のスペースに置かれていたスポンジを手に取った。

「え?もう洗ったんだけど・・」
「嘘つけ。洗えてねぇところがまだあるだろうが。手が届かねぇところは俺が手伝ってやる」

司はシャワーブースの壁につくしの背中をつけさせると、丸く前に出たお腹へと手を這わせた。

「随分とデカくなったよな?」

大きく丸いボールが入ったような状態のつくしのお腹が愛おしい。
司は床に膝をつくとつくしのお腹にくちづけをした。その瞬間内側からの動きを感じていた。

「チビが暴れてるぞ?」驚いた様子でつくしを見上げた。
「パパがキスしてくれたから嬉しかったんじゃない?」
「そうか?」
「そうよ」

司の目的は妻の体を楽しむことだったが、今はもうそんなことより、お腹の中で暴れまわっている我が子の動きを思うと目を細めていた。





そんな司は妻が自分に背を向けて寝る事が嫌だという。
眠りに落ちる瞬間まで妻の顔を見つめながら眠りにつきたいというほどだ。

「つくし、こっち向いて寝てくれ」

「だ、だってこっちを下にして寝る方が寝やすいんだもの・・」

つくしにしてみれば、大きなお腹に負担がかからないようにと自分にあった寝方だったが、それが司に背中を向けてしまうのだから仕方がない。

「くそっ。なら今日から寝る場所を交換する。そうすりゃあ俺の方を向いて眠るよな?」

司はベッドから出るとつくしが寝ている反対側へと体を横たえた。

「夫に背中を向けて寝るだなんて、おまえは俺のことを愛してないのか?」

「あ、愛してるわよ?ただ、こっちに向いた方が寝やすいからで、つかさのことが嫌いになったとかそんなんじゃないから」

そんな会話など無意味なものだとわかっていても、互いの愛を確かめたいとばかりに交わされる決まり事のようなものだった。
大きなお腹を挟んで見つめ合いながら眠りたい。ただそれだけの思いだ。






二人の愛の結晶は、つくしが産気づいてから間もなく生まれた。

はじめての子どもは男の子で黒い瞳に黒い髪の毛。もちろん癖のある髪の毛だ。
小さな口で一生懸命につくしの乳首をしゃぶる姿はまるで余多ある聖母子像の絵画のようだ。司は授乳している妻の背後に静かに立った。我が子が妻の胸から懸命に乳を飲む姿を見下ろしながら、いろいろな思いが頭を過っていた。

それは生命の神秘。

自分たち二人の命を受け継ぐ子どもがいるという誇らしさだ。

男の子は父親の気配に気づいたのか黒い瞳で父親の姿を探し始めた。
司の姿はつくしに隠れて見えはしないが、いつも香るおなじみの香りが父親の存在がそこにあるということを示していたのだろう。

「坊主は元気か?」

「つ、つかさ、坊主ってなによ?ちゃんと名前で呼んであげてよね?」

「ふん。つくしの胸しゃぶってるうちは坊主じゃねぇか。おい坊主。今はおまえにつくしを貸してるだけだからな!早く大人になってつくしを返せ!」

「もうっ。司。自分の息子にやきもち焼いてどうするのよ?」

そうは言っても二人とも我が子がかわいくて仕方がないと言ったようだ。

「かしてみろ」

司はまだ慣れないとはいえ、息子を抱き上げると肩に預けるようにして背中をトントンと叩いた。その拍子に口から少しだけ白い液体が漏れたようだが気にはしなかった。

「あっ、ごめんね。司の背広に出しちゃったね」

「そんなもん気になんてしてねぇよ」

子どもを抱き背中を優しくさする大きな手。
その大きな手にそっと添えられたのは、いつも司の手を優しく包んでくれる小さな手だ。

「こいつ、あとどれくれぇおまえの胸をしゃぶってるんだろうな?」

「し、知らないわよ。そんなこと」

この子がつくしの胸を司に返す頃には次の子どもがお腹の中にいるはずだ。
それは二人とも望んでいることで互いに口にしなくてもわかっていた。

つくしは司が息子を抱いている姿をしばらく見ていたが、近くのテーブルに置かれていた携帯電話を手に取っていた。

「つかさ、こっち向いて!」

振り向いた瞬間、一枚の写真が写された。

我が子を抱く愛しい人と自分たちの息子を写した一枚の写真。

その写真はこれから先ずっと彼らの寝室の写真たてに飾られることになるはずだ。




道明寺夫妻にとってのはじめての子どもは、父親の腕の中でほほ笑んでいるように見えた。






< 完 >

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コメント
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dot 2016.07.25 06:31 | 編集
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dot 2016.07.25 07:17 | 編集
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dot 2016.07.25 09:21 | 編集
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dot 2016.07.25 13:37 | 編集
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dot 2016.07.26 00:36 | 編集
き**ち様
番外編もお楽しみ頂けてよかったです。
次回作は8月開始予定ですので、またよろしかったら覗いてみて下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 21:52 | 編集
ミ*様
おはようございます。
甘々つかつく大好きですか?そうですよね?なんだか幸せな気分になれる。仰る通りです。
拙宅は若干そうでない司もいるのですが、8月スタート作は甘めを目指したいとは思っています。
その時はまだ覗いてみて下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 21:55 | 編集
co**y様
家族編になりました(笑)
坊ちゃんひたすら過保護に走るという・・(≧▽≦)
え?笑えました?
今週はゆる~くです。(笑)
疲れが溜まりまくってます(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 22:01 | 編集
さと**ん様
番外編を書いたらこんな感じになりまして、司が若干エロ曹司になりかけておりました。
頭の中でエロ曹司が語りかけて来たんでしょうね・・(笑)
眠りにつくまで見つめていたい・・後ろから優しく抱くのもいいかと思いましたが、こっち向いて寝てになりました。
はい。赤ちゃんを肩に乗せる姿も彼なら絵になりそうかと思いました(^^)
慣れないけど、一生懸命子育てに参加してくれそうな気もします。子どもにヤキモチを焼くのは当然ですが(笑)
甘く書けていましたでしょうか?さじ加減が分かりません(笑)また突っ込んでやって下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 22:08 | 編集
マ**チ様
番外編書いてみました。甘いのが苦手なんですがどうでしたでしょうか?
はい、今月はアンダンテで行きたいと思います。
collector!!忘れてはいませんよ(笑)ただ、自分で書き始めたのに、何故か筆が重いんです。
>夜ふかしは~🎵やめられな~い🎵←(≧▽≦)受けました。
御曹司ネタ素敵ですよ、本当。明日は少し長めの御曹司です。最近御曹司も成長して来たような気がします(笑)
早く寝ましょうね~健康と美容のため(笑)はい!来月からまた心機一転頑張ります。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 22:17 | 編集
イ*ン様
甘くていいですか!
良かったです。甘いの苦手なんですが書けるように頑張ってみたいと思います。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.26 22:21 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.07.27 23:43 | 編集
マ**チ様
御曹司、精液で脳みそがヤラレてしまったようです。
そうなんです。冒頭に必ず自画自賛があるんです。どうしてなのか(笑)
またっ!!(≧▽≦)妄想が面白すぎます。
いつも笑わせて頂いてます。本当にどうしてそんなことが思い浮かぶのか・・(≧▽≦)
御曹司のムスコさんも大変です。え?ロンドン編?(笑)
エロ坊ちゃん世界中に寝室をお持ちなので、つくしちゃん連れて放浪するのもいいかもしれません。
モナコではF1の爆音に紛れて致したりしてましたしね。
日にちが変わらないうちにコメント有難うございましす(笑)
早くお休みくださいね。私も早く・・・寝たいですが、ごにょごにょ・・お話書いてます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.28 21:48 | 編集
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