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2016
07.23

大人の恋には嘘がある 最終話

司はアイスクリームを買ってくるとスプーンを使って食べさせはじめた。

「これじゃまるで雛に餌やってる親鳥みてぇだな」

二人してソファの上でのんびりとしているのは、司が仕事を早く切り上げて来たからだ。

自らを「くそじじい」と言った投資持株会社の会長との昼食会を終えた司は、社に戻ることなくペントハウスへと帰って来た。
くそじじい、と自らを呼ぶ男性とは今では家族ぐるみの付き合いだ。
とは言っても中西部の田舎町から出て来ることは滅多になく、たまにこの街へと出てきてもやはり田舎の街が一番いいと言って早々に帰って行った。
別れ際の挨拶は、今度会うときはつくしさんも是非ご一緒にと言われ、司は思わずでは今度お会いするときには家族3人でと答えていた。

今朝からつくしが食べ物を受付けなくなったことが気になって仕方がなかった司も昼食会を終えると秘書にスケジュールの変更を頼み、時間を作らせていた。
食べた物をすべて吐いてしまうつくしの背中を優しくさする姿はあの時以来だ。真っ青な顔をして吐く妻が痛々しく感じられ、出来れば今すぐにでも変わってやりたいと思うほどだ。
司はまだ微妙な関係でいましょうと言われていた頃、酔っぱらってしまったつくしを介抱した時のことを思い出していた。
濡らしたタオルで優しく口元を拭ってやる姿も今では堂に入っている。

小柄ながら誰よりも司のことを操るのが上手いと言われる女性は、いまや道明寺家にとっては大切な宝物だ。
何しろつくしのお腹の中には司の子供がいるからだ。
司の両親に至っては生まれて来る孫のため既にニューヨークの名門私立学校への入学許可を取り付けているという話しだ。

「つくし、おまえ本当にこんなもんが食べたいのか?」
そう言って我が妻の口元にスプーンを運ぶ司。

「うん。食べたい」

妊娠すると妙なものが食べたくなるとは聞くが、つくしの場合は何故かアイスクリーム。
それも抹茶アイスが食べたいというのだ。
ニューヨークで抹茶アイス。ひと昔前なら難しかったその存在も今では海外でも普通に買えるようになっていた。抹茶がいいなら総二郎でも呼んで茶でも点てるかと思ったが、あくまでもアイスクリームがいいと言うつくし。
今回は急なことで抹茶アイスは市販の物を用意したが、明日からはニュージャージーの邸にいるコックに作らせたものを食べさせてやるつもりだ。
冷蔵庫が抹茶アイスで一杯になるとしても一向に構わない。

それにしても今まで医者にかかったことがなかったと言う妻。
健康診断以外で病院に行ったことがないと言っても妊娠したかどうかは早々にわかりそうなものだと思ったが、意外にそうでもなかった。
もともと生理不順ではいたが、これだけヤル事をヤッていれば出来るのは時間の問題だったはずだ。だが子供は授かりものだ。司の両親も余計なストレスを与えてはいけないと思ったのだろう。子供のことについての口出しをすることはなかった。
30代半ばの二人にとっての第一子は喜ばしいことではあるが、やはりそこは年齢による考慮も必要になるはずだ。


二人の間には言葉にならない何かがあったはずだ。




妻の妊娠がわかった時点から司の気の使いようは尋常では無くなった。
ただでさえ過保護気味な妻への対応が輪を掛けて酷く?いや大袈裟になる一方だった。

「ねぇ・・つ・・つかさ・・大丈夫だから。おろしてくれない?」

世の中の殆どの女性はお姫様抱っこをされて寝室へ運ばれることを夢に見るはずだ。

「ねえ、大丈夫だから・・」

「どこが大丈夫なんだよっ!食べたモン全部吐き出しておいて、腹ン中なんにも入ってねぇ女が自分で歩いて体力使うんじゃねぇよ!これからは俺が抱きかかえて行くから遠慮すんな」

「でも、あたし重いから・・」

司はつくしの言うことなど全く無視だ。
いったいどこまで抱きかかえていくと言うのだろうか?人ひとり抱きかかえて歩いて腰でも痛められたらつくしの方が困ると言いたかったが、この男にそんなことを言っても聞き入れるはずがない。

「ねぇ・・く・車椅子ならどう?」
代案を提示した。

「おまえは俺に抱かれるのが嫌なんか?」

司にとって妻に拒絶されることがどんなに辛いことなのか。
ただでさえ妊娠初期というこの時期、夫婦としての営みを遠慮している司にしてみれば、まるで自分の存在を否定されたかのようだった。
今の司は毎晩妻の傍にすり寄っては、お互いをわかち合う時間が必要だと体に触れたがる。
ベッドに入る時もつくしの着ているものをそっと脱がしては体の変化を確かめるという念の入れようだ。

「それになんで俺がいるのに車椅子なんかが必要になるんだ!」
「で、でも・・司の腰に負担が・・」
「アホかおまえは!それに余計なお世話だ。おまえの体重抱えてるくれぇで腰なんか痛めてたら、本番の時どうすんだよ?」
「ほ、本番?」
「あっ?わかんだろ。」司は笑った。「今までいつもヤッてたんだから。けど今度はちっとヤリ方変えねぇとまずいだろ?下からとかな?」

つくしは返す言葉が見つからないし、もう今更だった。夫となった男は妻を愛するあまり見境がない。つくしを前にすると自制するという言葉など全く関係のない男になっていた。
最後には世の中の女すべてが憧れる男を独り占めしているのだから、俺の言うことを聞けと諭されてしまいそうだった。
取りあえずはやりたいようにさせておくのが一番だとつくしは考えた。

が、口を開いてしまった。

「あ、あのね・・つかさ・・妊娠は病気じゃないんだからそんなに心配しなくても大丈夫なのよ」
「_なんだよ?なんでそんなことがおまえに分かるんだ?」
「なんでって言われても・・」
「俺に言わせりゃはじめて妊娠したおまえがそんなことが分かる方がおかしいんじゃねえか?それとも昔妊娠したことがあんのかよ?」
司は凄みをきかせた。
「ば、バカ!そんなことあるわけないじゃない!」
だいたいこの男は妻相手に凄んでなにがしたいのか・・

司の言うことが正論なのかそうでないのかはよくわからないが、物事の筋道を立てて話しをすると言う点ではもっともな意見だろう。
はじめての妊娠なのだから知らないことだらけなのは本当だ。

「本当に大丈夫だから、し、仕事に戻って?夜つかさが帰ってくるまでの間にな、治ってると思うから・・ね?それに、つわりなんて・・よくある話しで緊急を要するものじゃないんだし・・」
「アホなこというなっ!俺にとっては緊急事態だっ!おまえの腹ン中にいるのは俺とおまえの愛の結晶だろうがっ!」

ベッドの端が沈んで司が腰を下ろした。
司は大きく息を吸った。

「つくし・・俺に心配かけんな」
「つか・・・」

つくしは口を開こうとしたが、司のあまりにも真剣な表情に言葉を呑んだ。

「クソッ!いいか、聞いてくれ。俺はおまえの事となるとどうにも心配でたまんねぇ。おまえが嫌がってもこの部屋ン中に閉じ込めておきてぇ・・。俺はおまえの為だったら何でもしてやるつもりだ。もちろん、腹ン中の子供に対してもだ。何があってもおまえと子供だけは絶対に守ってやる」

司はつくしを膝の上に乗せ、優しく抱きしめた。

「おまえと子供が元気でいてくれたら俺はそれだけでいい」

今は元気な子供が生まれて来てくれたらそれでいいと言う思いしかなかった。
やがてつくしの顔が司の首に押し付けられると、彼は彼女の髪をゆっくりと撫で始めた。
つくしの頬に感じるのは司の脈だ。早い調子で脈打っていた。

「俺はおまえのいない人生なんて考えれねぇからな」

司の声は真剣すぎて怖いくらいだ。
つくしは両腕を夫の首にからませ、苦しくなるほど抱きついて唇にキスをした。

「大丈夫。あたしはどこにもいかないし、司と一緒に人生を歩んでいくことに決めたんだから心配なんて何もないはずよ?」

そう言って笑うつくしを愛おしそうに抱きしめる司にはこれから先、親子3人で、いや、これから先にも増えるであろう家族との姿が見えたはずだ。

「あたし達、また会えてよかった・・」
「ああ。ちょっと時間がかかっちまったけどな」

司は二人が出会った頃を思い出しながら微笑むと、これからは絶対に嘘なんかつかないと誓った。
「愛してる。俺は全身全霊でおまえを愛してる。もしおまえが俺のことを嫌いになったとしても俺はおまえを愛し続けるからな」

その思いは決して変わることはないはずだ。

「いや。俺はおまえに嫌われるようなことなんか絶対にしねぇからな」

つくしに嫌われたら生きていけないとでもいうのだろうか?

司はつくしの顔を引き寄せ、キスをした。
結婚という絆で結ばれた二人はゆっくりとベッドに横たわった。
ただ抱き合うというだけの時間でも、そこには愛がある。互いの鼓動を感じとり、妻の胎内で我が子が育っているということに思いを馳せながら眠りにつく・・そんな夜でも構わない。
親子の絆は一生切れることのない絆。
いつの日か、そんな絆が増えることが楽しみで仕方がない。

だが、今の司にはとって一番大切なのは愛する女性がそばにいてくれることだけだ。

「俺はおまえを永遠に愛すると誓うからな」

「俺はめちゃくちゃおまえを愛してるからな」

「死んでもおまえを離さねぇからな」

毎日何度も繰り返し聞かされる呪文のような言葉に、つくしはまるで魔法をかけられたような気分でいた。

そして・・・

つくしも心の中で同じ言葉を呟いていた。
 
『 あたしは司を永遠に愛すると誓うわ 』

『 あたしはめちゃくちゃ司を愛しているわ 』

『 死んでもつかさを離さないから 』


「なあつくし。今すぐキスしてくれ。じゃねぇと俺、死にそうだ」

言うことがいちいち大袈裟な男は真面目な顔つきでつくしに訴えていた。
つくしは笑うと、司の口元に向かって囁いた。

「いいわよ?司に死なれたらあたしもお腹の子供も泣いちゃうから」

「愛してる。これから先もずっとつくしだけを愛し続ける」

今の言葉が嘘ではないことを証明することは簡単だった。
司のこれから先の生涯において、ひとりの女性以外必要としなかったことは世界中の誰もが知っていた。



二人の出会いは運命だったはずだ。

再会し、ふたたび恋に落ち、今はつくしのお腹の中には小さな命が育っている。

あと半年もすれば二人の愛の結晶が誕生する。

今すぐキスをしろと言う夫には深く甘いキスをした。

「あたしを世界で一番幸せな女性にしてくれてありがとう」

つくしは顔を離して司を見つめほほ笑んだ。

「わかってる。俺も世界で一番幸せな男だ」

お返しのキスは・・・もっと甘いキスだった。








< 完 >
最後までおつき合いをいただき、ありがとうございました。(低頭)
今後の予定につきましては、また後ほどお知らせ致します。

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コメント
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dot 2016.07.23 06:40 | 編集
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dot 2016.07.23 07:55 | 編集
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dot 2016.07.23 19:06 | 編集
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dot 2016.07.24 00:44 | 編集
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dot 2016.07.24 09:33 | 編集
椿**さん☆様
なんとか終わりました(*^^)v
最後までお読み頂きありがとうございます。
お姉さまの出番が無くて・・(笑)す、すみませんお姉さまm(__)m
どうやらお子様がいるようですが今回は楓さんの会話に上っただけで出てきませんでした。
子育てで忙しいのかもしれませんね(笑)
ちょっと充電して8月からと思っていますので、また覗いてみて下さいませ。
いつもご感想をありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 12:59 | 編集
委員長→ゆ**ち様
べたべたの甘々(笑)最後はそうしたかったんです(笑)中年にさしかかってもいいんですよ!(笑)
あんまり書くと単なるバカップルになりかねない・・そんな恐れもありますね。
司のくせにって、そんなこと言わないでぇ~(笑)甘い男だっていいじゃないですか(´艸`*)
え?キャラが変わってますか?ダメですか?
こんな司に愛されてつくしちゃんが羨ましいですよね~。はぁ・・・(ため息)
過去に味わえなかったものをこの司で補ってます(笑)
コメント有難うございました^^



アカシアdot 2016.07.24 13:10 | 編集
co**y様
終わりました~。やれやれ・・(笑)
坊ちゃんお幸せにです!
いつもご感想を寄せて頂きありがとうございましたm(__)m
最後は甘さダダ漏れ・・アイスクリームを口元運んであげる坊ちゃん。
過保護です・・抹茶アイスが食べたくなって抹茶にしました(笑)
今後の連載ですね?一応8月からの予定です。
またおつき合いよろしくお願いいたします!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 13:16 | 編集
み*ちゃん様
気がつきゃ50話越え・・そうなんです。40話くらいで終わらせる予定だったんですが、ここまで来てしまいました。
司クン、頑張ってつくしちゃんを手に入れました。夫婦になったら甘々夫に成り下がりまして・・(笑)
つ、次はどんな二人・・
え?プレッシャーかけてないだなんて書かれると、逆にプレッシャーじゃないですか(笑)
8月からの予定です。また覗いてみてやって下さいませ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.07.24 13:22 | 編集
*ri**ko*様
労いのお言葉ありがとうございますm(__)m
溺愛っぷり堪りませんか?ありがとうございます。
大人なんですが、デレデレ甘々の司クンをと思いました。
本当に仰るとおり、完結すると力が抜けてしまいました(笑)
こちらこそ、*ri**ko*様の怒涛の更新には頭が下がります。
読みが追いつきませんが・・(笑)楽しいお話が目白押しですね?
極道坊ちゃん、楽しみです( *´艸`)
応援してますので頑張って下さい!
素敵です、ドM精神が・・
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2016.07.24 13:31 | 編集
ま**ん様
ラブラブ甘々熱々・・最後はそうしてあげたかったんです。
幸せな二人にしてあげたかったんです。(ノД`)・゜・。
しかし、ひとつ間違えると単なるバカップルに見えてしまう恐れもありますので
くれぐれもご内密にお願い致します。
つくしちゃんに成り代わって疑似恋愛をして頂けたらと思います。
司クンみたいな人に思われるつくしちゃん、羨ましいですよね。
最後に幸せだなぁと感じて頂けてなによりです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 13:41 | 編集
チビ**ママ様
大人の司クン、いかがでしたでしょうか?
プロポーズはひざまずいてして頂きました。
実際にされるとちょっと恥ずかしですが、そこはアメリカです。男前司クンならOKですよね?
羨ましいぞ、つくしちゃん。
最後は甘くしてみました。が、そんなんで大丈夫か司クン。妻の後をひたすら追いかける夫になりそうな気がします(笑)
それでも幸せな二人ならいいんです。幸せになって下さいとしか言えません。
ラブロマンス物語。また次回作でお待ちしております。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 13:51 | 編集
マ**チ様
なんとか終わりました^^こんな司クンに愛されるつくしちゃんが羨ましいです!
エロ坊ちゃんの妄想劇場!(笑)わっははは~(≧◇≦)大笑いしましたよ~。
面白過ぎです!西田さん!!(≧▽≦)いい味出してます!才能ありますよ?私がひとり読んでいいのでしょうか?
いつも脱兎のごとく走って逃げるつくし・・司、呆然(笑)面白ずぎますよ・・(´艸`*)
マ**チ様ありがとうございます!m(__)mエロ坊ちゃんその後どうしたんでしょうねぇ・・(笑)
ところで、本当に夜更かしなんですよねぇ・・マ**チ様も早くお休みして下さいね。
御曹司は本日はお休みしましたが、また近いうちにと思っています。
いつも色々とお心遣いありがとうございます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 14:08 | 編集
chi***himu様
楽しんで頂けて何よりです。
沢山おつき合いをいただき、ありがとうございましたm(__)m
次回作、また是非遊びに来て下さいませ(*^^)v
無理は禁物・・仰るとおりです!少しゆる~く過ごさせて頂きます。
実生活はゆるくないのですが・・(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.24 14:41 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.07.24 22:29 | 編集
サ*ラ様
こんばんは。
心配性の司ですね。好きな人には一途ですからいいも悪いも関係なしという感じでしょうね(笑)
甘々ラブラブの二人。金持ちの御曹司の坊ちゃんならもっと激しく行くと思います。
彼の場合はかなりの妄想が入っていますが、こちらの坊ちゃんはクールを装いながら心は熱かったと言った感じでしょうか。
とりあえず連載は終了しました。おつき合い頂きありがとうございましたm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2016.07.25 00:45 | 編集
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