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2016
07.19

大人の恋には嘘がある 49

マンハッタンに戻った二人はペントハウスで夕食を済ませると、コーヒーを飲みながらソファでくつろいでいた。ここは司がニューヨークでの拠点としてきた部屋だ。
もちろん、つくしはこのペントハウスに来るのは初めてだ。アッパーイーストサイドと呼ばれセントラルパークの東側に位置するこの地区は高級住宅地として有名だ。
五番街に面した司の部屋からは眼下にセントラルパークが広がっていて、まさに値千金の眺めとはこのことだ。3年前、司はここからつくしと出会ったパークへと足を運んでいた。


「つくし、おまえ大丈夫か?」
「えっ?」
「なんかすげー緊張してたろ?」
「そ、そんなことないわよ?ただ・・ちょっと驚いただけで・・」

確かにお邸では緊張していた。何しろ司の母親だけかと思っていたら父親まで姿を見せたのだから、驚く以外になかった。

「何が驚いたんだよ?」
つくしの口をついて出た言葉に司が反応した。

「え?あの・・お邸の広さとか、バ、バラが綺麗だなぁとか・・こ、この部屋とか・・」
しどろもどろに答えるつくしを司がじっと見つめた。

「なんか隠してるだろ?おまえは隠し事するのが下手だって分かってんのか?」
「べ、別になにか隠しているなんてことないけど?」
「顔に出てんだって言ってんだ。おまえ、本当に下手」
司は笑い出さずにはいられなかった。

「で?なに隠してんだ?」
聞くと司は急に真顔にもどった。

「う、うるさいわね・・あ、あたしは別に隠し事なんかしてません!」
「嘘つけ。なんか隠してるだろ?おまえはすぐ顔に出るんだから俺に隠しごとしようだなんて思うんじゃねぇよ」


つくしとつき合うようになった司は、どうしてもつくしのことが気になるのか、過保護になりがちだ。心配ごとがあれば相談して欲しいし、つくしの目の前に行く手を遮るものがあれば、それを排除してやりたいと思うようになっていた。

黙っていてもどうせしつこく聞かれることは分かっていた。
つくしは口を開くことにした。

「うん・・実は、あんたのお母さんに会うのは今日が初めてじゃないの」
「それどう言うことだよ?まさかおまえになんか文句でも言ってきたんか?」
語気を荒め、眉をひそめてつくしを見た。

「ち、違うのよ・・あ、あのね・・澤田さんとメープルで偶然会って呼び止められたときがあったでしょ?」
「ああ・・・あの日か・・澤田の野郎、今思い出しても腹立つな」

つくしがトイレへ行くと言って暫く戻ってこなかった日のことだ。

「き、聞いて・・あのとき、あたしのことを助けてくれた人がいたの・・」
「助けたって・・おまえ、そんなに切羽詰まった状況だったんか?」

腕を掴まれて跡がついたことだけしか知らなかったが、人が間に入らなければならないほどの状況だとは聞いていない。
思い出したかのように怒りがこみ上げていた。

「澤田、ぶっ殺す!」
「ちょ・・や、止めてつかさ・・」

いきなり立ち上がった司につくしは思わず彼の手を掴んだ。

「聞いて。それでね、そのとき声をかけて助けてくれた人がいたの。凄く気転が効く人だって思ったんだけどね、まさかそれが司のお母さんだなんて知らなかったの・・だから・・今日お会いしたのは2回目なの・・」
「ふん、ババァ・・抜け駆けしやがったか」
「えっ・・?それってどういう意味なの?」
司はつくしが掴んだ手をそっと外すと腰を下ろした。

「つーか、おまえのことを記事で知ってから東京に来たことがあったんだけどな。
おまえの話しをしたら興味を持ったみてぇで、まあ、どっかで接触してくんじゃねぇかとは思ったけど、意外と早かったってことか・・それにしても、メープルでおまえを見てたなんてことは気が付かなかったけどな」

司にしてみれば、よくあの母親が周りに気づかれることなくつくしの傍へ行けたもんだと感心していた。

「だけどな、お袋には気をつけろ?あの女、魔女だからな?」
「ま、魔女?」素っ頓狂な声が出た。
だがつくしも初めて司の母親に出会ったときはそう感じていた。

「親父もそうだが、あの二人は人を操るのが上手すぎる。いいか?あいつらはおまえみてぇなお人よしなんか、簡単にあやつるからな」

自分の母親をつかまえて魔女だという司がおかしかった。
「つ、つかさ・・じゃあ司は・・魔女と・・ま、魔王から生まれたってこと?」
つくしの声はおかしさに震えていた。
「そういうことだな」
父親をつかまえて魔王と言うつくしがおかしかったが、妙に納得していた。

「じゃあ、司は・・なに?悪魔の申し子とか・・」
つくしは声をあげて笑った。
「てめぇ、誰が悪魔の申し子だ!」
「だ、だって・・ちょっと・・ダメ・・くすぐった・・」

つくしに覆い被さるようにするとくすぐり始めた。
司はにやにやした。「俺が悪魔の申し子だって言うなら、おまえはその悪魔に捧げられるってことで、悪魔の生贄か?」

司はつくしが陽気に笑う声が好きだ。もっと笑わせたい。

「やだ、なにそれ・・ダメ・・くすぐるなんて・・」
笑うつくしに司が妖艶にほほ笑んだ。
「つくし・・おまえ生贄なら生贄らしく俺に喰われねえといけねえょな」
笑うつくしも好きだが、司のベッドの上で啼くつくしも好きだ。

司はいきなりつくしを抱き上げた。
するとつくしにキスをし、彼女の香りを嗅いだ。
「いつまでもそうやって笑ってられると思うなよ?」
司に優しく睨まれた。
笑うなと言われてもなぜか笑いが止まらなかった。

「笑うつくしも好きだけどな。今夜はニューヨークで過ごす初めての夜だ」
司は息を吐いた。
「本当なら俺たちは3年前にこうなってたはずだ。俺はここからパークに通ったけどな、おまえがあのコーヒースタンドに来なくなってからも何度も足を運んだ」

その話しは聞いていたがそこから先の話しに驚いた。

「おまけにおまえがどっかにいるんじゃねぇかと思って望遠鏡まで買った」
「え?司、それでパークを覗いてたの?」
司のストーカー的行動が余程おかしいのか、つくしはますます笑いが止まらない。
「わりいかよ?そんくれぇおまえが好きだったってことだ!」

まさか道明寺司ともあろう人間が、ペントハウスのテラスからセントラルパークに来るか来ないかわからないような人間を見るために望遠鏡まで買っていたなんてことがにわかには信じられないが、本人が言うのだから真実なのだろう。


「なあ、明日俺と行ってくんねぇか?」
「え?」
「あのコーヒースタンド。俺たちの出会いの場所だろ?多分まだあるはずだ」
甘く囁く声につくしは頷いた。


そうだ。

あのコーヒースタンドが無ければあたし達は出会っていなかったかもしれない。


「ねえ、つかさ・・うれしい?」
「なにがだ?」
「あたしと・・一緒にいること・・」
「うれしいぜ?」
「じゃあ笑ってよ?もっとうれしそうな顔して?だって3年たって・・またこうして一緒にいれるなんて・・つ、司が来てくれなかったら・・あたし・・多分・・」
つくしは唇を噛んだ。

「これって凄いことでしょ?だって・・もしかしたらあたしよりもっといい人が現れていたかもしれないのに・・」
「フン。・・んなことあるわけねぇだろ?おまえのせいで他の女なんか目に入んなかったってのに」司は言うとつくしの唇にキスをした。
「それに、俺がおまえみてぇないい女を逃がすような男に見えるか?俺にはおまえが必要だし、おまえにも俺が必要なはずだ」

司にはわかっていた。
今の二人には互いが必要で、これから先もずっと二人で過ごすということが。
いますぐ裸になって肌と肌を重ね合わせて愛し合いたいという思いがつくしにもあるはずだ。

「なあ、つくし、今夜を俺とおまえの新たなスタートにしないか?この街で出会ったんだ・・だからこの街から俺たちの新たな関係がスタートすると思いたい。もしそれでよかったら・・・」

つくしは司の首に両腕をまわした。

「つかさ・・いいわ」















「つかさ・・」

囁くように言われた司はつくしの体に優しくキスを繰り返していた。

「つくし・・」

低く魅力的な声が囁くのは愛しい人の名前だけ。

はじめて愛し合った時から変わらぬ愛おしいという思い。


小さいが形のいい胸は、まるで司の手の温もりで溶かされていくように形を変える。
親指で胸の頂きを擦ると固くなった。司はその頂きを口に含んで優しく引っぱりながら舌を使い翻弄した。
つくしの口から漏れるのは、司の名前。


「つ・・つかさ・・」


彼の頭を愛おしそうに胸に抱き寄せた。


「愛してる・・つかさ・・」


「ああ・・俺もつくしを愛してる・・」


長い指をつくしの中に挿し入れたとき、咥え込まれる感じがして思わず呻いていた。
はじめての時は戸惑いもあったが、互いに愛があれば迷いも戸惑いも無くなっていた。
決して後悔はさせないと告げた日から、司の愛はますます深くなっていた。
一生つくしを守り、愛していくと誓った日から死が二人を別つ日まで自分を愛したことを後悔はさせない。

唇を噛んで声を殺そうとしている女。

その唇を指でそっと撫でると開かせた。

「いいんだ・・声を聞かせてくれ・・」

「つかさ・・」

体も心も投げ出して欲しい。

歓喜に打ち震える姿が見たい。

一緒に絶頂に昇りつめて欲しい・・・


「いってくれ、つくし・・」

つくしが息を呑む。

両腕を司の首に巻きつけ、両脚は司の腰にからみつけられている。

「つ、つかさも・・おねがい・・いっしょに・・」

黒い瞳は潤んで司を見上げていた。


「つ、つかさ・・」


抑えられなかった・・・


自分の名前を叫ぶ唇を塞ぎ、舌を絡めながら激しく突き上げることしか出来なかった。






またこの街から二人の新しい明日が始まると思えば、今夜愛し合うことが特別なことのように思えた。


欲しいのは一夜の夜だけではなく、永遠に続く夜。

その夜は、もうそこまで来ている・・


二人はそう確信していた。








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